エースコンバット7 FLIGHT REZON   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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CHAPTER2【SPARE】
STAGE23【444(流刑地)


 

 

 ウーーーー ウーーーー

 

「やべぇ、また来たぞ」

「シェルターに避難だ!」

「おいミード! さっさと行くぞ!」

「………………」

 

 男の声に耳を貸さず、作業服を着た女は戦闘機のネジをレンチで回し続ける。

 けたたましいサイレンもガン無視。

 

 ただただひたすらに、彼女は戦闘機を組み上げていく。

 

「なにしてんだ! そんな奴に構うな!」

「あー、クソッ!」

 

 暫くして、爆発音が立て続けに響いてきた。

 

 爆撃、エルジアの爆撃機がこの基地に爆弾を落としまくっているのだ。

 だというのに整備士の女は絶えずレンチを回し続ける。

 

 爆撃機は彼女がいるハンガーの隣の滑走路と、そこに置かれているモスボールを爆撃していた。

 

「ここで死ぬなら、それまでってことさ」

 

 ギーコギーコと、彼女は作り続ける。

 ガラクタの山から、鋼の鳥を。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「スーーー、んん」

「こいつ、寝てやがるぞ」

「こんな可愛い顔した奴が本当にハーリング殺しなのかぁ?」

「影武者だったりしてなぁ! ギャハハハハ!」

「黙れ囚人ども! 静かにしろ!」

「んだよやるってのか?」

「上等じゃねえか、かかってこいよ衛兵さんよぉ」

「貴様ら」

「うるっさいなぁ………いざこざなら陸に降りてからにしてくれないか。五月蝿い」

 

 ピーヒャカピーヒャカと、せっかく寝てたのに。

 

 目を覚ますと貨物船の一角。

 粗暴そうな男2人と、銃を持った兵士が3人。

 ジャラっと、腕に違和感が。手元を覗くと鉄色の手錠がしっかりと俺の両腕を封じていた。

 

 あー、そうだ。いま俺は444っていう懲罰基地に移送中だった。

 暇で暇で仕方なかったからいつの間にか寝ちまったらしい。

 

 運ばされるとこも部屋の一室とかでなく。倉庫そのまま。

 目の前にはホーネットやらファルコンやらのモスボールがこれでもかと積み込まれてた。

 なんでこんなものまで運ぶのかと思って聞いてみたが、結果はお察しである。

 

「あん? なにナマ言ってんだ。ハーリング殺しだからっていきがってんじゃねえぞ坊主」

「俺は殺してない」

「口ではなんとも言えるよなぁ、ハーリング殺しくん」

「良くできたってママに褒められまちたかー?」

「あぁっ?」

「うっ………」

 

 寝起きも相まって相当目付きが悪くなっていたのだろう。

 いちゃもんをつけてきた男2人は揃って引いた。

 

「おい囚人ども! 黙って座っていろ!」

「チッ」

「フゥ………」

 

 そいや乗るときも五月蝿かったこいつら。

 こんなのが沢山いるとこに行くのか。気が滅入るなぁ。せいぜいなめられないようにしないと

 

「ついたぞ、早く降りろ」

「うわ、あっつーー」

 

 そういえばもうユージアは夏かぁ。

 

 目の前には鉄条網、サーチライトに対人機銃。

 まさに牢獄。フォートグレイス基地と比べるまでもない無機質で刺々しい。そんな第一印象を浮かばされる。

 

 基地と思わしき建物からは俺たちを笑いに来たのかズラーっと窓から囚人だろう男たちがニヤニヤ笑いながらこっちを見物していた。

 

 中指突き立ててやろうかこの野郎。

 

「あん? なんだあれ」

 

 なんだか基地の中で作業員がなにかを膨らませていた。

 それが膨らみきると、なんと戦車の形をしたバルーンの出来上がりだ。

 そんな出来たバルーンを作業員が四人掛かりで運ぶ姿はなんともシュールだった。

 

 周りを見渡してみると、そこらかしこにバルーンで作られたタンクローリーやら戦車がちらほらと見えた。

 

 ダミーバルーンだらけだなこの基地。

 

 ふと、空を見上げると。この基地とは対照的な、なんとも気持ちのいい青空が広がっていた。

 久しぶりに見た、満天の青空。

 

「はぁ………」

「おいハーリング殺し! なにつったってやがる! 早く歩け」

「あいてっ」

 

 いつの間にかボーッとしてたところを最後尾の衛兵にライフルで小突かれた。

 

 これは素直に反省。口には出さんが。

 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 俺たちにとっては、あーやっぱ来たかぁって感じで。毎日毎日爆撃の雨霰。

 だが奴らは少し小綺麗にしたモスボールがズラーっと並べられているダミー基地を爆撃しまくっている。

 

 規模だけ見れば、オーシア軍にとっての反撃の要に見えたんだろうが。残念、大外れだ。

 

 ここを叩いて出るとすればバンカーや偽の滑走路に並べられたハリボテ。

 員数外の爪弾き、そして同じく爪弾きされた正規軍。

 オーシアからしたらここに損害と呼べる物など一つもない。

 

 俺たちは動かせる戦闘機に火を入れて、敵の爆撃機が来たらハンガーに隠すを繰り返していた。

 最初は司令官どのが「わざわざ隠す必要はない、むしろ当たれば罪を償ったことになるだろう」と言って、そのあとあのお堅いAWACSが「火を入れれる戦闘機がなくなれば囮作戦は出来なくなりますが宜しいので?」と言われて、司令官は鮮やかなまでに手の平を返した。

 

 普通なら俺たちを気づかって進言してくれたと思うだろうが、このAWACSも例に漏れず俺たちを替えの利く囚人として接していた。

 とことん合理的な人間だ、と思うが。博打打ちのハイローラーの賭けに金を出して賭けに参加したりと。

 よくわからんところで人間臭い。

 

 みんなは、あいつも脛に傷を持ってるのだと言ってるが。

 俺は違うと何処かで思っている。

 彼は俺たち囚人とは何処か違う空気を纏っている。誰も信頼せず、なおかつ誰にも見せていない何かを持っている。

 彼を敵に回してはいけないと、俺は勝手に彼を一歩引いたところで見ている。

 

 そんな彼が「少しは反撃しなければ基地らしくない」とマッキンゼイに提言したらしい。

 新入りの女性整備士がモスボールから飛べる機体を見繕い、俺たちは久方ぶりに空を飛んだ。

 

 罪の重さと操縦の腕は関係なく。みんな揃って空に飛び出した。

 

 だがまあ、そこで余計なことをするのがうちの司令官。

 

「員数外のお前らに弾は勿体ない。私の許可があるかぎり攻撃は許さん。敵の的になり、自分の罪を見直すのだ」

 

 これは指令本部の命令である。と言ってるが、本当かどうかわからず。早速博打打ちがそれで賭け事を始めた。

 

 そんなもんで敵の護衛機に撃たれても俺たちは逃げるばかりで一方的に攻撃された。

 敵の爆撃機の腹が空っぽになるまで延々と、延々と。

 

 そんなもんだから囚人パイロットで戦死者が続出した。

 俺たち囚人の機体にはベイルアウト機能が廃されている。これは万が一敵地で生き残って情報を漏らされたら困るという理由だ。

 未だ基地の外に出たことがないのだからその詭弁は説得力がないわけだが。

 

 誰かが落ちてもそれを嘆く奴はなく、AWACSは「それが任務だ」と言って欺瞞遊撃を継続させる。

 作戦中に逃げ出そうとする奴はいたが、そもそも戦闘機一つで脱走しようとするのは無理がある。

 ある日逃げ出したそいつはあっさりと敵に撃ち抜かれてあの世に逝っちまった。

 

 それでもたまに発砲許可が出され迎撃戦闘をすることがある。

 そういうのは決まってダミーではなく本物の基地に爆弾が落とされ、基地司令がやかましく騒ぐときだ。

 

 まあ、その戦闘も自称エースの詐欺師様が他人の戦果を自分の物のように嘘ぶいて、皆から冷めた目で見られるという茶番劇となる。

 詐欺師の戦果報告をろくに調べもせず、そのまま受理する上も上だがな。

 

 そんな俺たちの隊の名前は『スペア隊』

 死んでも死んでも代わりの罪人が補填される。文字通りの替えがある価値なき命。

 

 仕舞いには今回誰が死ぬか毎日毎日賭け事が発生してる始末だ。

 

 仲間の死を悲しむことなく賭け事の贄とする。我ながらとんだ人格破綻者だな、俺らは。

 

 そんなことをして1ヶ月ほど。

 またも新しいスペアがこの基地にやってきた。

 こいつは一体何をしでかしたんだろうなぁ。

 

「おーいタブロイド」

 

 自由時間にうろちょろしていたら自称情報屋フルバンドが歩いてきた。

 

「ハイローラーがまた賭けをやろうってよ」

「次のか? オッズはどんな感じだ?」

「ハイローラー以外は今護送されてくる新入りの一人に賭けてる。名前はトリガーだってよ」

「新入り? そいつが出撃するとは限らないだろ?」

「いや絶対駆り出されるぜ。なんせそいつはウチに来て以来の、3本線様だ」

「3本線だって?」

 

 この基地には機体の尾翼に罪線と言う白い線が書かれる。

 罪の重さで線の数が決まり1本線、2本線と呼ばれる。

 だが3本線は俺も見たことがない。

 今ではたった一人になった2本線でさえ上官を半殺しにして軍規違反という形で2本の線を塗られている。

 

「聞いて驚くなよ。なんとそいつはあのビンセント・ハーリングを殺したのさ」

「なんだって? そいつはとんだ大罪人だな」

「なんでも救出任務の途中でミサイルを2発ぶち当てたんだとよ。しかもそいつは正規軍に入ってから1ヶ月のルーキーだと。おっかねえよなぁ」

 

 成る程、読めてきた。

 ここの出撃の順は罪の多いもの、それこそ線の多いものから駆り出される。

 3本線とくれば直ぐに欺瞞遊撃に突っ込まれ。敵の攻撃を受けて真っ先に堕とされる。

 戦争を経験して運良く生き残れたんだろうが。こんなとこに放り込まれて死地に飛び立つ。

 

 そんな絶好のカモ以外に賭ける奴など逆にいないだろう。

 

「もう一つ。一番トリガーとやらにつぎ込んだのはあのバンドックだ」

「番犬が? それはまたキナ臭いな」

「だろ? おっ、噂をすれば来たぜ」

 

 彼方から輸送船が来航する。新しい囚人とモスボール品を連れて。

 中から出てきたのは警備兵に連れられた囚人が3人。あとはモスボール。

 

 どいつがトリガーだ? と聞いたがフルバンドは顔写真までは掴めなかったと至極残念そうにぼやいていた。

 だが1人。少年と見紛うほどの童顔の囚人が1人いた。ルーキーというから恐らく彼だろう。

 

 その彼が空を見上げ、少しばかり空を眺めたのち兵士に小突かれて転びそうになった。

 そんな彼を見て至るところから笑い声が響いた。

 俺も周りほどじゃないが笑ってしまった。

 

「あんなどんくさいのが本当にハーリング殺しなのかねぇ」

「おいおい、情報屋が自分の情報を信じられなくなったら終わりだぞ?」

「そんなんじゃねえよ。俺の情報は絶対だ」

「そうかねぇ」

 

 絶対的な情報なんて、本当にあるかもわからん。

 

 囚人が入ってくるのを見届け、さあ何しようかと踵を返そうとした時。基地にいつもの警報が鳴り響いた。

 

 敵の爆撃機が近くを飛んできたことを告げる警報が。

 

 

 

 囚人パイロットはブリーフィングルームに集められた。

 といってもやはり末端の施設。ブリーフィングソフトも旧式で立ち上がりが遅い。しかも作戦を説明する司令官が三流なのだから救えない。

 ここの基地はユージアの中でも再底辺のクオリティなのは確実だった。

 

「来たぜ、ハーリング殺しが」

 

 最後に警備兵に連れられて入ってきたのは童顔のルーキーだった。

 青黒い髪と瞳。間違ってもこんなとこにいるとは思えない幼い風貌だったが、彼の右の頬には1本の傷痕がくっきりと刻み込まれていた。

 

 皆が口々に意地の悪い笑みを浮かべるなか、1人だけ冷めた目で見てる奴がいた。

 

 スペア2、TACネーム、カウント。

 基地の自称エースパイロットにして、詐欺の罪で投獄された金髪碧眼の髭伯爵だった。

 

「どうしたカウント。面白くない顔して」

「んあ? そんな顔してねえよ。むしろ愉快で天にも昇りそうなぐらいさ」

「それはそれは。ところで彼と面識はあるのかい?」

「あるわけねえだろ」

「そこ、静かにしろ!」

 

 マッキンゼイが思わせ振りに咳払いをし、ブリーフィングが始まった。

 

「諸君らに自覚を促すために特に伝える。本日当隊に移送されてきた新入りは。国際停戦監視軍の軍事法廷による有罪者。その罪は重大、なんと『ハーリング殺し』だ」

「ヒュー」

「こいつはすげぇ」

「………やってねえっての」

 

 周りの冷やかしにルーキー、トリガーはさぞ面白くない顔で小さく呟いた。

 だが目は完全に無気力で諦めの色を持っていた。

 こうしてみると本当に学生みたいだな。

 しかしやってないと言っていたな。どういうことだ? 

 

 ブリーフィングソフトが一つのエンブレムを移した。

 リボルバーを加えた狼、首元にはTRIGGERと書かれたリボンが。

 白黒のせいかとても凶悪で狂暴そうなエンブレムに見えた。

 

「名前はリヒト・パーマー、TACネームはトリガー。我がオーシア軍第444航空基地飛行隊に本日付で所属となった彼だが。その存在は一個のシンボルたるに過ぎない。『ハーリング殺し』たるか否かの違いはそれほど大きくはない、諸君らもまた何らかの罪により服役中の身である。諸君らには自らが犯した罪の償いをする義務がある、それを忘れないことだ」

 

 今回の司令官はやけに理知的だ。普段は下心なり保身丸出しなのに。

 大方ハーリング殺しというビッグネームを任されたと浮かれてるのか? 

 厄介払いされただけに見えるがな。

 

「当隊には搭乗員資格者が複数いる。このため司令部は不足する戦力に充当するため、諸君らを用いてワイアポロ山脈への偵察飛行を行わせることを提案してきた。だが、小官はこれを拒んだ。諸君らの罪はこの基地にあって償わなくてはならない」

「嘘つけ」

「伯爵ばりの虚言癖だな」

「おい今言ったの誰だコラ」

 

 もっともらしいことを言う司令官に皆が口々に陰口を叩いた。

 誰一人マッキンゼイの言葉を信じていないことに失笑する俺もまったく同意だった。

 

 そもそも、こんな辺境の基地に所属し、なにより自分自身の保身と手柄しか考えてない司令官が本国司令部の命令を拒否するとは思えない。

 

 考られるパターンは2つ。

 

 一つ目は真相は逆で。そのワイアポロとやらに偵察させるという案をマッキンゼイが出したが門前払いされたこと。

 

 二つ目は本当に断ったパターン。

 もし仮に俺たちがワイアポロに向かったとして偵察が失敗すれば、それは司令官の責任となる。

 今すぐにでもこんな最果ての地から脱却したい司令官にとってこれ以上の痛手はないからだ。

 

 まあ真相はわからない。後で情報屋に掛け合ってみるか。

 

「トリガー、ここは敵の攻撃を吸引するための囮基地だ。諸君らがここで囮となり敵の攻撃を引き受けることで。我が軍の反撃主力は無傷のまま準備を整えることができる。つまりお前たちのような底辺の犠牲になるだけで我々オーシアは戦争に勝利する可能性を高めることが出来るのだ。国の礎になれることを幸福に思いながら任務に望むように」

「体のいい捨て駒じゃねえか」

「こんな若いのに、可愛そうになぁ?」

「慰めてやろうかルーキー?」

「静かにせんか! 貴様らは黙って話も聞けないのか!」

 

 聞く奴などいるはずもない。そんな行儀のいい奴なんかここにはいないさ。

 それでもマッキンゼイのダミ声なんか聞きたくないからさっさと終わらせようと囚人どもは黙るフリをした。

 

 新入りはふてぶてしい顔で口だけ「ウィルコ」と言ってるように見えた。

 

 さっきの奴らではないが、若いのにこんなところに入れられて可哀想に。

 どんな間違いでハーリング殺しなんて壮絶な人生を送ってしまったのやら。

 

 マッキンゼイが何かを言おうとしたのを遮るように、警報が鳴り響いた。

 赤色灯が光り、部屋が赤く染まった。

 

「爆撃です!」

「警報をとめろ! いつものやつだ」

「いつもの?」

「ここはほぼ毎日敵の爆撃にさらされるのさ」

「うわー、よく生きてるなここ」

 

 おっと、思わず受け答えしてしまった。

 トリガーは引きつりながら信じられないと顔で訴えてきた。

 

「この僻地ザップランドまで、暇な奴らだ。さて、何機かスクランブルしてもらわなくてはならない。諸君、仕事の時間だ」

「またかよ! 今回は何機墜ちるんだか」

「動ける機体は何機ある?」

「今回もエースは頂きだ」

「最高のギャンブルになりそうだ」

「全部俺がぶっ殺してやる!」

「ダミー滑走路の上空に航空機、Tu-95を数機確認、Tu-160もいる模様」

 

 おいおい、白鳥までいるのか。そろそろ本気で潰しに来たのか? エルジアのやっこさんは。

 

「形だけ迎撃機があがれば十分。廃機寸前だがまだ離陸できる機体を何機か用意した。今回も重罪のものからこの任務に当たってもらう。まずは『ハーリング殺し』のお前からだ。精々大罪人としてより多くの敵に狙われるよう飛び回ることだな」

「えっ?」

 

 トリガーから声が漏れた。

 半開きだった目が見開かれ、UMAでも見たかのように驚きをこれでもかと現していた。

 

「なんだ」

「飛ぶ、のですか? 自分が?」

「そうだと言った。なんだ、怖じ気づいたのか? 残念だがそんな甘えはここでは許さん。ルーキーだろうとベテランだろうと関係ない。空で死ぬのも生きるのも貴様の行動次第だ。だが安心しろ、貴様が死んでも替わりはいる。貴様は飽くまでスペアだ、それを胸に刻んでおけ」

「司令官のスペアはいるのかねぇ」

「黙れカウント。独房に入れられたいのか」

「勘弁してくれ」

 

 ブリーフィング・ルーム内で笑い声が響いた。

 現在進行形で爆撃を受けているというのにこの現状。揃いも揃って肝が座ってるのか、それとも諦めの末の自暴自棄なのか。

 

 しかしあんなこと言われたら綺麗所の新入りはブルって使えなくなるんじゃないか? 

 ハイローラーの賭けは撃墜される方に賭けておこうか………

 

 そんな哀れみを込めてトリガーを横目で見た。その時だった。

 

 ゾクッ! 彼を見た瞬間、背筋に得体の知れない何かを感じた。

 先ほどのトリガーと同じく、信じられない物を見たように目を見開き。汗がタラリと流れた。

 

「飛べる………また………」

 

 笑っていたのだ。彼は。

 

 貴様は重罪人なのだから飛んで死ね、代わりは幾らでもいる。

 そんな暴論を言われたというのにトリガーの目は爛々と輝き。口許に満面の笑みを浮かべ、口からは歓喜の息が漏れていた。

 

 先ほどまで何もかもどうでもいいと思わせる死んだような目だったのに。今では水を得た魚、いや檻から放たれた鳥のような目をしている。

 

 気づいたのは司令官も含めて自分だけだった。

 視線に気づいたトリガーはバツの悪い顔をしながらはにかんだ。

 

「オホン、敵爆撃機の撃墜までは期待しない、この基地から戦闘機が飛び立った事実だけを敵に見せつければ良い。わかったらさっさと飛んでこい、害虫ども!」

「どっちが害虫なんだか」

「金食い虫の間違いじゃねえか?」

「ちげぇねえ」

「てかトリガーどこ行ったよ」

「さっき一目散に出てったぞ」

「ハンガーの居場所わかんのか?」

「すいません! 俺の機体って何処に置いてありますでしょうか!?」

 

 あっ、戻ってきた。

 

「誰か教えて………ってあれ。みんな素通り? 司令官、失礼ながらハンガーの場所は何処でしょうか?」

「おいバンドック、こいつの機体は何処にある」

「…………3番ハンガーです」

 

 司令官ならそれぐらい覚えておけよ。とでも言いたげな顔で我らがAWACSは律儀に答えた。

 

「スペア11、貴様は2番ハンガーだったな。そいつを案内してやれ。ここに居ても邪魔だからな」

「了解。行くぞトリガー」

「了解」

 

 司令官ではなく、命令してくれたAWACSに形だけの敬礼をしたあと、他の奴らがいなくなったブリーフィングルームを出て第3ハンガー近くまで走った。

 

「案内ありがとう。あんたTACネームは?」

「タブロイドだ」

「タブロイド、新聞紙? なんとも風変わりなTACネームだな」

「引き金なんて物騒な名前をつける奴が言うことか?」

「違いない。まあいいや、じゃあまた空で」

 

 手を振ってハンガーの中に入るトリガーは何処か小躍りしてるように見えた。

 まだまだ現実が見えてないのか。

 それとも空を飛ぶことに頭が埋め尽くされてるのか。

 

 お気楽なものだとタブロイドはほくそ笑みながら自身の愛機が待つハンガーに入った。

 

「ハイローラー」

「おっ、タブロイド。もうお前だけだぜ、ベットしてないの」

「今するところだよ」

「おっ、やっぱ落ちる方か?」

「生き残る方だ」

「おっ! お前いっつも安全牌ばっか取るのに珍しいな! お前もようやく博打の良さに気づいたか?」

「いや。そんなんじゃないさ。あいつは他の奴らとは違う何かを感じたんだ」

「初の3本線でハーリング殺しだもんな。そりゃスペシャルだろうさ」

「お前ら! さっさと上がれ! 敵がまた来るんだぞ!」

「おっと、じゃあなタブロイド。先ずは生き残らねえとな」

 

 ハイローラーがキャノピーを閉じて格納庫から出た。

 幸い敵は今回もダミー基地を爆撃してるようだが、今回も荒事になるやもしれん。

 

「………ある意味大博打かもな」

 

 そう呟いて俺は自身の愛機、ミラージュ 2000-5のキャノピーを閉じた。

 

 これから起こる理不尽な空気。

 そんな空気を吸って腐らなかった奴はこの基地にはいない。

 

 空を取り戻した彼は、この先も変わらずにいられるのだろうか。

 

 もし彼が本物であるならば。

 

 と、タブロイドは柄にもなく期待した。

 

 リヒト・パーマーという若きパイロットに。

 

 

 

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