エースコンバット7 FLIGHT REZON 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「6機目撃墜! そっちはどうだ伯爵様!」
「俺は7機だ!」
「すまん、嘘ついた。ほんとは8機落としました」
「なら9機だ!」
「やけくそになってない? 100言ったら101って言うつもり? ちなみに俺は今7機目落としたよ」
「うるせえ! 俺はいま8機目落とした! ………ん?」
売り言葉に買い言葉。
トリガーにまんまと乗せられたカウントは周りからの失笑を誘って赤くなった。
「カウント………ごめんなさいね」
「なぁに哀れんでるんだオメェ!!」
「いや、こうも簡単に引っ掛かるとは露しらず……プフッ」
「なに笑ってんだコラァ! てめえから落としてやろうかコラァ!」
「今さらだけど。上品なガワが取れてるぞ、もう良いのか?」
「クソっ、この野郎!」
「ガキの喧嘩するなら後にしろアホ2人!」
馬鹿談義をする2人をバンドックが一括して強制終了。
カウントをからかいながらも敵の攻撃を鮮やかに回避し返す刀で撃墜、急旋回で次のターゲットに向かうトリガー。
負けじと背後の敵をコブラでオーバーシュートさせて背後を取り、ミサイルを叩き込むカウント。
2機を中心に敵の光点が消えていく様を、バンドックは遥か上空から見下ろしていた。
(カウントは今までで一番動いているな、いや今までが動かなすぎたんだ。トリガーと張り合ってるのだろう。フンっ。少し乗せられたぐらいでガキ相手にムキになるところがお前の限界だ)
カウントは腕前
真偽のほどは不明だが、彼は事あるごとに自身が名のある家柄出身だということを誇示している。
が、それを信じるものはこの基地には誰一人いない。
そもそも囚人の時点で家柄などないも同じだという事に奴は気付いていない。それとも気付いていて気付かない振りをしているのか
「スペア15、FOX3!」
対するトリガーは4AAMで瞬く間に敵の爆撃機部隊を刈り取った。
彼が通った場所は次々と敵の反応が消えていく。
攻撃に無駄がなく、的確な空戦機動で敵の喉元に食らいつく。
この基地に来て以来、ここまで突出した戦闘能力は久しく見ていなかったAWACSのチームはこの短時間で上げたトリガーの戦果に眼を丸くし、AWACSの長であるバンドックも眉を潜めた。
「ハーリング元大統領の殺害犯がここに?」
「そうだ、次の輸送と共にこの基地の配属となる」
新しい懲罰兵が来るということで、人望の薄さと態度のでかさだけが取り柄の司令官の部屋に招かれたバンドック。
自身のパーソナルスペースに他人を入れたくない変なところで繊細な司令官に呼ばれることに疑問を覚えたバンドックだったが。寄越された書類を見て半ば合点がいった。
表向きは戦闘に巻き込まれた事故として世間に公表された救国の英雄、ビンセント・ハーリングの死。
世界から哀悼の意を表されたその真相は味方機の誤射。そしてその犯人が軍に入って1ヶ月のルーキーである青年だという。
リヒト・パーマー少尉、TACネーム、トリガー。
青年というには若すぎる少年という風貌の男。
その右の頬にはくっきりと残った1本の線が入っている。
人格や勤務態度も文句無し。
軍に対する志望理由が「命の恩人が戦闘機のパイロットで、自分は恩人が住むオーシア大陸の大地と空を守りたい」という、至極在り来たりなものだった。
一つ問題があるとすれば、彼の戦闘機動は教本のそれとは大きく逸脱し、所謂邪道と言われても仕方ないとんでもない飛び方をすることだ。
だが腕前は本物。
配属して直ぐに戦争に巻き込まれた不運な新米だが。参加した作戦において彼はベテランを置き去りにする程の戦果を上げ続け、早くもエースパイロットの先駆けとなる。
そんな戦果が評価? された彼はハーリング大統領救出作戦の一番槍として軌道エレベーターのレーダー網を突破するという目につく活躍を見せた。
そして最後、ハーリング元大統領を自らの手で撃ち落とした。
殺害容疑をかけられた彼は軍法会議で自分の潔白を証言したが信じてもらえずにこの基地に配属されることに決まったのだという。
そのハーリング殺害の動機はというと。
「ベルカ出身、ですか」
「そうだ。環太平洋戦争でハーリングに邪魔されたことによる民族的復讐。まったく、ベルカというものにはほとほと愛想が尽きる。汚らわしいことこの上ない、吐き気がする」
あからさまな嫌悪感を隠さない司令官の顔など見ずにバンドックは資料に眼を通した。
「だがそんな凶悪犯がうちの所属になった。これは本部が私を評価してくれたことに他ならない、そう思わないかね」
「そうですね」
形だけの同意に気を良くしたマッキンゼイは笑みを浮かべた。
気楽なものだと失笑しながらもバンドックの機嫌は良いとは言えなかった。
(厄ネタだな、これは)
動機も不明瞭。
裁判内容も断片的にしか書かれていない。
唯一国境無き世界線の元幹部と交流を持ってるというが。国境無き世界のクーデターの時、彼はまだ1歳だという。
少なくとも髪の毛が薄くなってきた目の前の司令官よりも感性が鋭いバンドックは強面の顔に一層皺をよせた。
「彼を出撃させるので?」
「そうだ、その為に貴様を呼んだのだ。3本線というレッテルを刻んだハーリング殺し。上手く行けば私は本土に返り咲ける。命令違反をするならば即刻処分すれば良い。裁量は君に任せるぞバンドック。くれぐれも私の評価に傷を付けるな」
「了解しました」
台本通りの台詞を出せた自分を本の少し褒めつつ、バンドックは
「はぁ………」
思わずタメ息が出る。
だが自分は軍人。任された任務を果たすことを誉れとする。
これから来る者がどんな奴だろうとバンドックのすることは変わらない。
いつも通りボンクラの鎖を引き、管理すること。
それがAWACSバンドックの仕事だ。
(どうせ直ぐにいなくなる。少し前に入った若手もここの環境に馴染めず直ぐに死んだ。エースパイロットともてはやされようと所詮は新米、目の前の理不尽に殺されるのが関の山だ)
ーーー◇ーーー
そう高を括り、ハイローラーから持ち掛けられた賭けは何時もより多めにベットした。
敵に反撃することも出来ずに志半ばで落とされる。
「いいぞトリガー! そのまま墜とされるんじゃないぞ。お前が死なない方に俺は賭けてるんだ」
「え、なにそれ。俺の生き死にが賭け事になってんの?」
「おう。ちなみに大多数はお前が死ぬ方に賭けてる」
「ぜっってぇ生き残ってやる! 破産させてやる!」
誰もがそう思っていたテンプレートな思惑は、彼の飛び方をもって見事裏切られることとなる。
「それとな、背中に注意しろ。お前が帰らねえほうに大金かけたやつがいる」
「スペア7、黙れ。引き金を引くのに口を動かす必要はないはずだ」
苛立ちからか、バンドックは少し語気を強めた。
ブリーフィングルームで司令官に空で的となって死ねと言われた時、最後尾に居たトリガーは精悍な笑みを浮かべた。
彼の笑みに気付いたのはバンドックとタブロイドのみ。タブロイドに見られたことに気付いた彼は年相応にはにかみ、ブリーフィングが終わると同時に弾き飛ばされたように部屋を後にし戦闘機が待つハンガーのもとへ走り去った(結局戻ってきたが)
空を飛べると知る前は不貞腐れるように意気消沈していた癖にあのはしゃぎよう。
まるでプレゼントを貰った子供のようだ。彼の目にはそう映った。
はしゃいでヘマをして終わりと思った。
だが蓋を開ければどうか。
自称エースである詐欺師の顔面が青くなるような動きを見せるトリガー。瞬く間にトップスコアを叩き出したその腕前に、周りにいるものは揃って眼をひんむいた。
正規軍に編成されて1ヶ月、そして1ヶ月ものあいだ空から離れていたとは思えないほどの飛行の冴え。
とんだ番狂わせと思いつつバンドックは一人冷静にレーダーの中を飛び回るトリガーの動きを追う。
「すげぇ、機関砲で一気に2機撃墜しやがった!」
「見事だな。ハーリングも機関砲で殺したんじゃないか?」
「フン、人殺しの腕は確かだぞ、こいつ」
「どうかな、足の遅い敵を何機か墜としただけだ。これで調子にのるんじゃねえぞ、ハーリング殺し!」
そんな彼をおちょくるもの。そして予想通り面白くないカウントはトリガーに噛みつく。
だがそんな新人イビりに臆すことなく少し上ずった声でトリガーは応えた。
「調子に乗るのは許してくれ。こちとら久方ぶりに空に戻れたんだからさ………それはそれとしてしつこくハーリング殺しハーリング殺し言いやがって。次言ったらマジで怒るからな」
「お望みなら何度だって言ってやるぞ、3本線のハーリング殺し様よ!!」
「…………警告はしたからなこの野郎」
「あん?」
低音で静かな怒気を含んだトリガーの声にカウントはヒヤリと冷気を感じた。
するとトリガーはわざわざ敵のMiG-21bisの前に躍り出たあとにスロットルを倒す。
トリガーに狙いを定めたMiGはそのままトリガーを追跡するが、推力の違いからか彼を射程圏内に入れることができなかった。
後ろに敵を張り付けたトリガーはそのままカウント機の後ろから追い越した後に旋回した。
するとどうなるか。
「ほら、チェックシックス!」
「なっ、ちょっ! まてマジふざけんなよてめぇ! 殺す気か!?」
「ほらスコアですよ先輩! 後輩に良いとこ見せて下さいよ!」
「後で覚えてろよコンチクショウ!」
トリガーを捉え損ねたMiG-21bisがターゲットをトリガーからカウントに移し、ミサイルを発射。
ミサイルアラートが鳴ったカウントは直ぐにフットペダルを蹴り飛ばし90度ロールからの急旋回とフレアでミサイルを躱した。
一歩間違えばカウントは撃墜されてただろうが、そこは彼の本来の操縦技術により事なきを得た。
そんなカウントを尻目にトリガーは別の爆撃機に向けて飛翔する。
「………はぁ」
ベルカ、ハーリング殺し、そして自身の迂闊さ。
何処からともなくこの基地に飛び込んだ規格外の風来坊。
トリガーの戦果に囚人が盛り上がるなか、バンドックは二重の意味でタメ息を吐いた。
ーーー◇ーーー
「おい伯爵、急に口数少なくなったがどうした?」
「さっきのでチビったんだろ、そっとしといてやれ」
「うるっせえぞハイローラー! フルバンド!!」
「ハッハッハ。そうだ、トリガー、お前に良いことを教えてやる」
「ほう?」
スペア6、自称情報屋のフルバンドが話しかけてきた。
良いことと言うが、どうせハーリング殺しの真相はこうだ! とかさも本物のように言うんだろうな。
ミサイル2発で落としたってあのボンクラどもの情報を鵜呑みにしてるんだし。
まったく期待せずに俺は敵を落としながらその良いこととやらに耳を傾けてみる。
「俺たちの機体に白い線があるだろ」
「ああ尾翼のやつ? ファルクラムの2本線以外はみんな1本だな」
「へえ、よく見てるじゃないか。この部隊に来た者は、例外なく尾翼に爪痕を描かれる。その数が多いほど、犯した罪が重いんだ」
「俺はハーリングを殺したから3本線ってわけ」
「そうだ、3本線なんてこの基地じゃ始めてだ、すげぇ快挙だぜトリガー」
「嬉しくナーイ」
「ハハ、だろうな。ちなみにさっき司令官も言ってたが、線の多い奴ほど戦線に放り投げられる。お前は毎回駆り出されることになるだろうな、御愁傷様」
こいつ………予想とは違ったがやはり有益な情報では………いや待てよ?
それって毎度作戦飛行で飛ぶってことでは?
「フフッ」
「ん、どうした?」
「いや、ありがとう情報屋。これ以上ない有力な情報だった」
「正気か? 今回みたいに毎度敵をぶち殺せる訳じゃねえ。お前が来る前に2本線は6人いたが、今じゃチャンプ1人になっちまった。この意味がわかるだろ」
「それでもさ。もう俺には飛ぶことしかないし、また飛べることが何よりも嬉しいのさ。せっかく拾った命だ、精々お国の為に飛んでやろうじゃないか!」
爆撃機の上方に位置したまま180度ロール、そのまま垂直で落下しながらTu-160の小綺麗な背中に機銃とミサイルを叩き込んだ。
一歩間違えばそのまま突き刺さっていたであろうF-15Cの機動にタブロイドは思わず口笛を鳴らす。
「ヒュー。こいつはクレイジーだな」
「俺には理解できねえよ」
「狂人は直ぐにのたれ死ぬ。俺の家ではそう教えられてる」
「お家アピールするまえに撃墜数伸ばせよカウント」
またも黙り込むカウント。
皮肉言わないと死ぬのか、あの御仁は。
気を取り直し、目の前に飛ぶ残りのTu-95二機、それと背中去らしているSu-33に対して4AAMロック、FOX3!
「スペア15、爆撃機編隊撃墜。トリガー、罪の分だけ仕事しろよ」
冤罪の場合はどうなるのか、という下らないことを考えながら了解の意を出すと。タブロイドから通信が入ってきた。
「どうだいトリガー、見張り付きで飛ぶ気分は?」
「今んとこ悪くないよ、そっちは?」
「あんまりやる気が出ないね。今こうして迎撃してるのだって正規軍の弾除けだし。見せ掛けだけの迎撃をしても、何が報われるとかそういうのがないからな。なんていうか………うーん」
「プライド的な?」
「んー、そんなもんだ。懲罰兵ったって俺たちは戦闘機乗りだ。ここに来て捨てたものだが、俺にも残りカスみたいなプライドがあるのさ」
他の奴もタブロイドを見習ってクソデカなプライド捨てて欲しい。
カウントとか伯爵とか詐欺師とか。
「飛べれば良いって言うお前は違うみたいだけどな」
「やっぱ変かね」
「変だな」
「ズバっと言わないでくれ」
「ハハハ。だがお前のような奴が居るのは嬉しいよ。エルジアのほうは無人機やアーセナルバードなんて物を出してすっかり浮かれてる。行く行くは俺たち人は必要なくなるとか思ってるだろう」
「無人機万歳ってか? アホらしい」
「まったくだな。日に日に戦争や技術は進化していくが、人間はバカになっていくものだ」
確かにそうだ。
アーセナルバードや軌道エレベーターだって。元々は平和利用のため。ユージア大陸の貧困を救うために作られた。
だというのにエルジアは根も葉もない言い掛かりを付けてそれを我が物顔で使っている。
平和ではなく武力として、古き良きエルジアを取り戻すためだと。
そんな馬鹿馬鹿しい大義名分のせいでブラウニーやハーリング元大統領が殺され、俺がこんな場所にぶちこまれてハーリング殺しなんて物を背負わされるハメになっちまった。
結局損をするのは前線の兵士、力なき国民。
ユージアの人間だって、エルジアが戦争を起こしたことを喜んでいるのだろうか………わからないな。
ただ一つ分かるのは。安全なところから高みの見物を決め込む上層部の連中が得を一人占めするということ。
こればかりは、敵味方関係ない。
「複数の敵機が接近中、爆撃機と護衛機だ。数が多い、対処しろ!」
「各機続け! ハーリング殺し、お前もだ!」
「やれやれ、隊長気取りだ」
「そういや隊長って職種はいるのか、ここ」
「居ないよ。統率なんてあったもんじゃないし、番号は文字通り囚人番号だからな。敢えていうなら統括してるのは444基地でただ一人の正規軍のAWACSだ」
じゃあカウントの指示に従う必要はなしってことか。
言葉通りついてってあいつのスコアを奪うのも手だが………流石に全部やれるほど弾ないしな。
北のほうはカウントに任せて俺は南西方面行くとしよう。
スロットルを押し込んで下降しながら直進、速度が乗ったまま敵爆撃機の真正面に立つ。
そのままそのまま………撃つ!
翼から切り離されたミサイルが爆撃機の頭を潰して爆ぜる。
ニアミスするレベルですれ違ってから急制動をかけてインメルマンターン!
浮き足だった護衛機のエンジンをバルカンで撃ち抜いてから急上昇。
残った1機はチャンプがミサイルで落としていた。
『くそっ! 爆撃機が落とされていく! 何しに来たんだ俺たちは!!』
「またトリガーだ!」
「騒ぐな、ただ運が良いだけだ」
「ハハッ もっとトリガーに賭けとけば良かったな」
「チッ!」
もはや負け惜しみにしか聞こえない嫌みを言いながらもカウントは爆撃機を落とそうとする。
だが護衛機に上手いこと邪魔されて思い通りにいかず舌打ちをかます。
(調子が上がらねえ! いや乱されてる。やっぱりあいつはあの時の奴なのか………?)
カウントの脳裏に浮かんだ。赤い翼のF-16C。
自分にとって忌まわしい記憶、屈辱、汚点。
トリガー………同じTACネーム。時期的に考えてトリガーは………
「くそっ、なに考えてんだ俺は」
カウントのSu-33が
鋭く突き刺さるHVAAがTu-160の胴体をねじ曲げて爆ぜ上がる。
(考えるな! 落とし続けろ! ここのエースは俺だ! 俺なんだよ!!)
雑念を振り払うようにカウントが捻りを加えながら次の獲物に狙いを定める。
フランカーの系譜であるSu-33 フランカーDを巧みに操り、目の前の同型機を穴だらけにした。
「爆撃機、残り3機。目標は依然としてアクティブだ。攻撃を続行せよ!」
「まだ終わらんのか。いったい何をやってるんだ貴様らは! 私を………ブツン」
「ウィルコ。マッキンゼイ指令、しばらく黙っていてください」
おいおいバンドックさん。いま司令官の通信切ったのか?
本当に人望ないのか。それとも雑に扱っていいほどのポジションなのかな、あのマッキンゼイという司令官は。
度重なるフォートグレイスとのギャップに思わず苦笑い。
何回目かわからんが、既存の常識なんぞここには何もないな。
「しかしトリガーの化け物じみた動きもそうだが、上々の乗り心地だな。飛行機の整備はよくできてる、しかもスクラップ機からこの状態だもんな。どんな魔法をつかえばできる?」
スクラップ機? どういうことだ?
まさかモスボールからこれ組み上げたとか?
いや流石にないない………だって普通にF-15Cの動きするぞ。ガタも故障もないし。
「だがあの女、あいさつ1つ返さねえ。女王様を気取ってやがる」
「はは、ミス・スクラップ・クィーンってとこだな」
「クィーン? ありゃじゃじゃ馬だぜ」
そんな珍道中の最中でも敵は進軍し続けている。
俺やカウント、ほか何人かは敵を落とそうと動いてはいるが。半数はわざと基地を爆撃させようとしてるのではと周りを飛んでいるようにも見えた。
これだけの数が飛んでるというのにこれでは宝の持ち腐れ。
現にあと数百メートルのとこまで爆撃機がいやがる! 手が回らない!
「マックスパワー!」
最大加速! みるみる速度計が上昇する。
だが上昇してるせいか、速度計が2700から上がらなくなった、むしろ下がってる。
くそっ、高く飛びすぎだ! 4AAMの射程、間に合うか!?
爆撃機が横を向いている。
ギリの距離でも普通の爆撃機なら当てれるが。あれは
4AAMの残数は2発。装備の仕様上、側にいる護衛機に吸い寄せられるから一発しか当てられん。
やらないよりマシってやつだ。ロスになるが、上昇しながら迂回してバックポジションを取る。
俺の周りに誰もいないし援護も期待できない以上、俺がやるしかない。
距離6000、5000、4500。
ロック………オン!
「FOX3!!」
最後の2発を発射。白い排気煙を引きながらTu-160の後部に着弾。護衛機には避けられたが、そこは問題じゃない。
爆撃機を落とさせはしないと護衛のMiG-29Aがこちらに向かってくる。
「邪魔!」
撃ってくる機銃をバレルロールで回避し、ミサイルをフレアで散らす。
こっちもお返しに撃つがキャノピーを擦っただけで撃墜には至らず、構うことなく俺は爆撃機に向かう。
『敵のF-15C! 真後ろに来てます!』
『構うな! 最後にドデカイ花火をぶち下ろせ!!』
「させん!!」
ミサイルシーカーを合わせようとするが敵が雲に紛れた。乱れるシーカーをかなぐって機銃切り替え。
雲に飛び込んで目視で確認、ターゲットインサイト!
「落ちろっ!」
ダラララ! とコクピット越しの振動を感じながら飛んだ鉛玉は白鳥の白い玉肌に醜い弾痕を刻む。
『出火! 出火! 落ちる!!』
『脱出しろ! くそっ! 一矢報いることも出来な………』
爆発が雲を膨らまし、バラバラの残骸が海の上に流れ落ちた。
爆撃は………ギリッギリセーフか。あと一歩遅かったら建物に当たってたな。
束の間の安心を得るも矢継ぎ早にアラート。
さっきのMiG-29Aが弔い合戦とばかりに猛追してきた。
気持ちを入れ直し回避軌道を取ろうとした瞬間、敵のファルクラムが爆散。
爆炎を突き抜けてきたのは基地唯一のデルタ翼機だった。
「ナイスキル、スペア11」
「なーに。奴さん、トリガーのケツ追いかけるのに夢中だったから楽だったよ。しかしお前どれだけ撃墜したんだ? ほとんどの敵はお前が落としてる、この基地以来の最高スコアじゃないか?」
「トリガーがやってくれるから楽で良いぜ」
「伯爵様もハーリング殺しには勝てねえようだな」
「うるせえ! まぐれ当たりだ!!」
「働きすぎだスペア15。他の連中に楽をさせるな」
「ハハハ」
おーう。仕事を上手く出来たのに素直に褒められないこの職場。
わたくし、ナイーブ。
なにかのツボをついたのか隣を飛ぶタブロイドが笑った。
「バンディット、残1。早く始末しろ!」
「ここは早い者勝ちだ!」
ラストキルを譲りたくないのか気合いの入った声を上げるカウント。
F-15Cの推力なら奴より早く撃ち落とせる可能性はあるが………
「んー」
「どうした、行かないのか? ラスト取られるぞ」
「ラストキルボーナスがあるなら行くけど。俺が行かなくても落とすでしょ。口はでかいけど、腕は良いし」
「まあな。それだけが取り柄ってのもあるが。譲ってやるなんて優しいじゃないか」
「いや、わざわざ行くの面倒なだけ」
「よぉし! 最後の爆撃機はこのカウント様が頂いた!!」
派手にぶちかましたカウントは俺より先にラストキルを奪えたのが相当嬉しいのかバレルロールしながらパワーダイブという曲芸飛行を披露した。
俺はというと、久々の空戦機動に満足して半分燃え尽き気味。速度を落として基地上空をフライパス。
「全てのターゲット、敵機の撃墜を確認」
「ヒャッハー!」
「ざまあみやがれエルジアめっ!」
「イヤッホー! ハーリング殺し! 生きてるな! 今晩の俺の奢りだ!!」
「黙れスペア隊、私語をやめろ。ミッションコンプリート RTB」
フイー。生き残った。
とりあえず飛べるならなんとかやれそうだ。
F-15C イーグル。とても良い機体だ。
これからはこいつが相棒か。
俺もラリーのように飛べるだろうか………
「トリガーは生き残ったか、悪運の強い野郎だ。スペア7、賭け対象が着陸で死んだ場合はどうなる?」
「あんたの勝ちだ。なんだ、まだ諦めてないのか?」
「………確認しただけだ」
………んん?
なんか引っ掛かるぞ………あっ。
「スペア15からバンドック。スペア7が言ってた大金賭けた奴ってもしかして」
「スペア15、さっさと着陸しろ」
「ちょっと待ってくれ! そこハッキリして欲しいのですが! バンドック!?」
「さっさと着陸しろ。精々クラッシュしないようにな」
あ、こいつ。それでもAWACSか!
囚人ならまだしろあんた正規軍人だろ!? そうだよな? そうだよな!?
ほかの奴らが先に降りて何かされたらたまったもんじゃない。
俺は一足先に帰らせて貰うぞ!
………なんか死亡フラグみたいなこと考えたが気のせいだよね!
「スペア15、こちら管制塔。機体の着陸チェックをしろ。墜落されて滑走路を塞がれてはたまらんからな」
「機体チェックよし………車輪降りてるよな」
「降りてる降りてる。整備はしっかりやってるとこだから安心しろって」
信じるぞ、タブロイド。
あんたそんな優しい声して俺のデスに賭けてることはないよな?
信じるぞぉ。
コース適性、風はなし。
慎重に慎重に………
いるかわからん神様に願いながら、滑走路にスライディング。
キュキュ! という心地よいゴムの音に安堵し、ゆっくりと減速………着陸完了。
「よし、次の出撃に備えて待機しろ。因みに俺は生き残る方に賭けてた。礼を言うぞ」
「こちらこそ、ありがとうコントロール」
よーし生きてる! 陸サイコー!!
「………トリガー、貴様のせいで大損だ。覚えておけ」
通信越しに響く低音ボイスに俺はガクッと項垂れた。
やっぱりあんたそっちに賭けてたな番犬AWACS!
この人でなしぃ!!
バンドックの財布が死んだ!
この人でなしぃ!!