エースコンバット7 FLIGHT REZON 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
軍人の墓場、444基地からおはようございます。
どうもハーリング殺しの汚名を着せられた男。リヒト・パーマー元少尉です。
基地所属初めての任務である欺瞞邀撃→爆撃機撃退任務は大戦果という上々の滑り出し。
F-15C、良い機体で御座いました。ラリーやサイファーが惚れるのも無理はないと思います。
さて、そんな大戦果を上げたわたくしですが。いま何処にいるかというと。
「おい、早く入れ!」
「あいたっ」
バタン!カチッ。
独房です………何故ぇ?
ことの発端は数分前のデブリーフィングに遡ります。
「誰が撃墜しろと言ったか」
「へ?」
「命令違反は独房だ、連れていけ」
「へ?」
司令官にいきなり独房宣言。
あれよあれよという間にMPが入ってきて俺たちパイロットをまとめて連れ出そうとした。
「すいませんマッキンゼイ司令!」
「なんだ」
「撃墜命令はAWACSバンドックから出されたのですが」
「そんなことは知らん。私は欺瞞邀撃をしろとだけ言った。命令の更新はしていない」
「いやでも」
「以上だ、連れていけ!」
ガシッと両脇を抱えられズルズルと引きずられていった。
何がなんだか分からなかったが。とりあえず司令官より先にバンドックを「これが仕返しか?」という呪を込めて睨み付けた。
とうの本人は笑うも汗をかくわけでなくただ淡々と連れていかれる俺を見送ったのだった。
独房までの道のり、終わり。
「じゃねーよ!おかしいねぇこれはぁ!何が起きたかわからない誰か解説して解説!バンドックの一文無し!正規軍の面汚しぃぃ!!」
「うるせえぞハーリング殺し!」
「あーまた言いやがったなカウント!俺はハーリング殺しじゃねえって言ってるだろ!この撃墜スコア2位!!」
「なっ、言いやがったなこのクソルーキー!あとスコアトップは俺だ!嘘を言うな!」
「そのまま返すわ!俺は事実言っただけですぅ!俺はどっかの詐欺師と違って嘘つきませんー!」
「んだとコラぁ!」
「やんのかコラぁ!」
「静かにしろ囚人ども!!」
看守の一喝に俺とカウントは静まったがそれに感化された囚人が騒ぎ立てて看守がこっちに出張ってきて静めにかかった。
当人はムカムカした息を吐き部屋、じゃない独房を見渡す。
あるのは簡易ベッド、トイレ、あと洗面台。
超絶必要最低限で狭い。これぞ独房といった感じだ。
オーレッドの時より狭いとは驚きだ。
蛇口をひねって洗面台のコップに水を溜めて一息に飲み干す。
飛行後のカラカラに乾いた身体一つ一つに染み渡る水分を感じ、ほんの少しイライラも収ま………収まってねえや。
ドカッとベッドに腰掛け、そのままゴロンと寝転がった。
久々の全力戦闘で思ったより疲弊したのだろう。騒音レベルの独房棟の中であっという間に眠りについた。
とくに夢を見ることなく目覚めた。
独房の中だと言うのにところどころからガヤガヤと声がする。
格子で仕切られた小窓から覗く空はまだ明るかった。
「いま何時だ?」
「16時24分だ」
「ぬっ?」
回りに時計がないから何気なしに呟いた独り言にまさかの返答が帰ってきた。
「タブロイドか?」
「ああ、調度お前の隣だったんだ」
「壁薄いなぁ。てかそっち時計あるのか?」
「いや腕時計」
「そんなもん持ってるのか」
「売店に売ってる」
「売店なんかあるんだ」
「飛行基地と牢屋しかないとこだと思ってたか?」
そりゃあねえ。
普通に過ごしてたらこんなとこになんか来ないから知識なんか持ってないですよ。
「囚人にも息抜きが必要だからな。金も働き次第で貰えるからそれで本とか酒とかを買える。図書室とかレクリエーションとかもあるのさ。息抜きがないと不満が爆発して、暴動とか起きたら面倒だからな」
「確かにそうだな。オーレッドで尋問されてる時は食うか寝るか筋トレするか、あとは監視役と駄弁るしかなかったから」
「それはまた随分と暇してたんだな」
「ここは賑やかで退屈しなそうだよ」
「それは保証しよう」
保証しないで欲しい………明るい未来は見えそうにないや。ここに来た時点でお察し?知ってる。
戦闘機乗れるから贅沢言うなって話だけどさ。
「しかし今は筋トレも出来ないからあそこ以上に暇だわ。出来れば話し相手になってくれると嬉しい」
「喜んで。色々聞きたいことあるんだろ」
「まあね。先ずはいつまで入れられるんだって話」
「1日入れられるから明日の朝には出れるぞ」
「あら優しい」
「飯は出ないけどな」
1日絶食ぐらいならなんとかなる。
「結局なんで独房なんかに入れられたのかな。俺は命令通り基地守ったのに」
「バンドックのな。基地司令は命令してないから」
「『これ以上近づけるな! 私を殺す気か!』ってわめいてなかった?」
「あれは文句であって命令じゃないのさ」
納得いかねーー!!
あのまま放置してたらそれこそ基地更地だったぞ!?そこんとこどうなんだよシェルターありゃ良い訳ねえだろがい!
「あの司令官はそんなこと関係なしに独房って言い出すからな。あだ名の1つがミスター独房だ」
「どっちみちバッドルートじゃねえか。俺頑張ったのになぁ。今日17機も落としたのになぁ」
「今日の戦闘凄かったな。俺は結構飛んでるが、あんな凄まじい飛び方してる奴は初めて見た」
「ついたあだ名は大馬鹿野郎だからな」
「ハハハ。確かにあれは大馬鹿野郎だな。ずっとあんな感じか?」
「ずーっとあんな感じ」
「化け物だな」
まあ失礼しちゃう。
「もしかして敵撃墜する度に全員独房か?」
「いつもは司令官が命令するのさ、今回は相当慌ててて命令なしに逃亡。命令してないのに敵を撃墜したら自分が追求される。と思ったんじゃないかな。バンドックもボロ負けしたからか、なんも言わなかったし」
「自業自得じゃねえか。あの強面AWACSめぇぇ………」
「まあまあ。今回は司令官の機嫌がピカイチで悪かった」
「あいつもトリガー落ちる方に賭けてたんじゃねえか?」
「ないって言えねえのが此処ザップランドだな」
クソ組織めが!
今さら?うるさーい!
「他になんかあるか?」
「いやいいわ。なんかドッと疲れが押し寄せてきた。あんだけ寝たのに」
「ハハハ。しかし意外だよ」
「何が」
「ここに来たら誰だって滅入っちまうのに。お前は空を飛ぶってだけであんなイキイキしてさ。ブリーフィングでお前の笑顔見た時は、胆が冷えた」
「そんな酷い顔してた、俺?」
「ああ。こいつ間違いなくハーリング殺したって感じの」
「えーー」
そんな酷い顔してたの。最後尾でよかった。
てか司令官やバンドックに見られてたりしない。ウヘー。
「俺は殺してねえからな」
「作戦中も逐一否定してたよな。じゃあ冤罪か?」
「そうだよ。だが裁判では………はぁ」
「思わず溜め息が出る程か」
「あぁ。暇潰しついでに聞いてくれるか」
「願ったり叶ったりだが。そんな重要なこと俺が聞いて良いのか?」
「口止めはされてない。朝ハンガーに案内してくれた礼だと思ってくれ」
「そういうことなら」
「そいつはまあ。災難だったな」
「そんなんで片付けないでくれ」
「そう言われてもな。俺にはどうしようも出来ない。だが聞いてて思わず笑いそうになったよ。とんだ茶番劇だとな」
「俺じゃねえって信じてくれたか?」
「それはこれからのお前を見てからだな」
「手厳しい………」
「いやいや、俺はこれ以上なく優しいぞ」
「今の台詞なかったら信じてたかもしれん」
これはやっちまったな、とタブロイドはケラケラと笑った。
全然やっちまったなんて思ってねえな。
「これからどうなるのかなぁ、俺」
「ここで余生を過ごすしかないんじゃないか?」
「うぜぇぇぇ………」
「とにかく今は自分の命の心配をしなくちゃな。戦争が終わるまでは」
「終わったら終わったで飛べなくなるんじゃねえかな」
「終わんない方が良いか」
「終わった方がいい。戦争なんて百害あって一利なしだ。少なくともなんの関係もない民間人にとっては」
儲かる奴は儲かるがな………
「お前が模範的で任務を忠実にこなせば恩赦が貰えるかも知れないぞ」
「今まで貰ったやついんの?」
「忠実にこなそうとする奴がいないからいないな」
「あの自称情報屋の方が役立つ情報持ってくるぞ」
ボスッとまたベッドに身を投げ出した。
たっぷり寝たせいか眠気のねの字も出てきやしない。
でもやることないから寝てやり過ごすしかない。
「話し相手ありがとう、俺はまた寝るわ。腹がなる前に寝るとする」
「そうかい。じゃあ俺も暇潰しのお礼をしなきゃな」
「お礼?」
「こっちこっち」
「どっちよ」
「角のほう」
声のする方へ壁づたいに触ってみると、角の方に3センチ大の穴が開いていた。
覗いてみると、薄水色の瞳とこんにちは。
「うおっ」
「おっと悪い悪い」
「なんだこれ」
「どっかの誰かが開けた穴だ」
「塞がねえのかよ」
「労力の無駄だ」
納得。こんなとこに開いてても脱獄なんか出来そうにないしな。
と思ったら穴の奥から袋に入った何かが飛び出した。取れということだろうか。
グリグリと引っ張り出してみると、その正体は。
「カロリーバー?」
「やるよ。腹の足しになるだろ」
「ありがたいが、何処でこんな」
「此処に入るとき身体検査受けたか?」
隠し持ってたと。ということは他の奴らも。
「いいのか?貴重じゃないのか?」
「売店で買えるからいいよ。それに臨時収入も手に入ったしな」
「臨時収入?」
「俺はお前に賭けたうちの一人だ。ありがとよトリガー」
俺に賭けて勝ちを取れた。
それはつまり、そういうことなのだろう。
こんな場所だから気を良くしたとか迂闊に考えないほうがいいと思うが。
少なくともタブロイドは他より良識があると信じてみたいと思った。
ーーー◇ーーー
翌日独房から出され、俺は看守に連れられて自分の部屋に案内されることとなった。
昨日は紹介される前に爆撃が来たからな。こんなこと少し前にもあったな。
せめて汚いとこじゃないのを願おう。
「あの、部屋って個室ですか?相部屋ですか?」
「相部屋だ。囚人が個室を与えられると思ったのか?身の程を知れ罪人」
「いえ、そういうわけでは」
看守の例に漏れず、目の前の金髪オールバックの看守さんもトゲが凄い。
ハーリングのシンパ、にも見えんしな。人は外見によらないとは言うけども。
「しかしお前も運が悪いなぁ、ハーリング殺し」
「ハーリング殺しじゃ………なんでですか?」
「お前の相方はこの基地で一番の乱暴者だ。上官を半殺しにしてこの基地にぶちこまれた。おまけに」
「おまけに?」
「そいつは酷い男色家だ。今日中に掘られるの確定だなお前」
「掘られ!?」
はっ、そんな奴が相部屋!?無理無理無理!
俺後ろは未来永劫処女でありたい!!
「部屋換えを希望します!」
「もう申請済みだ。手遅れだ、諦めろ」
「じゃあ廊下で寝ます!」
「おい暴れるな!」
暴れるわ!独房のほうがマシだ!
やめろー!死にたくなーい!死にたくなーい!
ニヤケ面のクソ看守との格闘の末、応援の看守に両腕を固められズルズルと部屋にご到着。
「チャンプ、おいチャンプ!同居人だ」
「あぁん?いらねえって言っただろうがよ」
「お前の意見なぞ関係ない。ほら入れ」
「いたぁ!!」
蹴った!いま足蹴ったな!あ、やめて置いてかないで。
バタン!
無情にもドアは閉められた。
鍵はかかってないから逃げれるだろうが蹴られた足が痛くて身動きが取れない。
すると二段ベットの上から大柄な男がドスンと地面に飛び降りた。
「んだよ。誰かと思ったらハーリング殺しか」
「………」
「お前がなんだろうと俺は知ったことじゃねえが。殺されたくなければ俺様の機嫌を損ねるな」
「………」
「おい、わかったら返事ぐらいしたらどうだ、後輩」
「お願いします掘らないで下さい!性的サービス以外なら何でもしますのでせめてケツの処女だけはご勘弁下さぁぁぁぁい!!」
これぞ東洋の国に伝わる最上級の謝罪姿勢。
THE DOGEZA!
これの最大の欠点と言えばこの状態で組み伏せられたら一巻の終わりということ。
だがこちらも誠意を見せねば無作法というもの。
えっ?囚人相手にそんなもの意味あるのかって?
うるせえ!こっちも突然の貞操の危機にいっぱいいっぱいなんだよ!
目の前の大男はしばらく俺のDOGEZA姿を見下ろし。
「………はぁ?」
すっとんきょうな声を上げたのであった。
「で?お前はアホみたいな戯言を真に受けてお前は掘られたくなくて土下座したと」
「はい」
「ふざけんじゃねえぞ?」
「申し訳ありません!!」
結果。まったくの誤情報でした。
しかし結果的に怒られてしまいました。掘られるよりマシだが彼には本当に申し訳ないことをしてしまった。
俺が逆の立場だったら普通に怒るわ。
「で、その看守誰だよ」
「えっと、金髪のオールバックで。ニヤケ面が凄いムカつく男」
「ルーウィッグの野郎か。あいつ今度あったら半殺しにしてやる!」
殺してやるより現実味がありますねぇ。
絶対に止めないしむしろ加勢してやる。
「ふぅ。しかしよかったですわ。俺も最終手段を使わずに済みました」
「んだよ最終手段って」
「えーと。エレクチオンしたあなたのバッドを噛み千切って」
「わかったやめろ。聞いてるだけで痛え」
すいません。
「俺はチャンプ。スペア8だ。ここでは結構な古株だが、敬語はいらねえ、むずむずするからな!だが敬意を込めてチャンプ様と呼んでもいいぞ」
「わかった。宜しくチャンプ」
「……おめぇ中々良い性格してるな」
「此処に上下関係なんてないってタブロイドに教わったから」
「さっき土下座してた奴の台詞とは思えねえな」
ほんとそれね。
俺も必死だったの。本当に。
「ん?チャンプって………あっ、離陸前に俺の前を横切った2本線のファルクラム!」
「そいつは俺だな」
「危うく轢かれそうになったから今後やめて欲しいんだけど」
「知らん。俺が先だと言ったら俺が先なんだよ」
唯我独尊を地で行く人だ。
作戦中もしょっちゅう雄叫び上げてたし。この基地で一番血の気多そう。
「改めまして。昨日配属となったトリガーです。ハーリング殺しじゃないのにハーリング殺しとして此処にぶちこまれました。以後宜しく」
「そのスタンス崩さねえなおめぇ」
「たとえ払拭出来なくても認めたら本当にハーリング殺害犯になる。屁理屈でも意地っ張りと言われても構わんが、死んでも認めてやらないつもりだ」
「そうかよ。まっ、そういうガッツがある奴は嫌いじゃねえ。此処に居んのは腑抜けばっかだ。お前が何時までその生意気な面続けられるか見物だな」
そういうもんなのか。
いや目の前の大男から見たらみんな腑抜けに見えるのではないだろうか。
その中でも腑抜けじゃない認定は素直に嬉しいかもしれん。
「それはそれとしてあのカウントを負かすたぁ。ハッハッハ!これほど愉快なこたぁねえ!あいつの苦虫を噛み潰した顔だけで飯が食える!これからも負けんじゃねえぞ?」
「ああ。あいつにだけは負けてやらん。気取った鼻をへし折りまくってやる」
「おおっ!存分に折ってやりな。ハッハッハ!」
バシバシと背中を叩かれて俺はつんのめりそうになった。
いや本気で痛い凹む凹む!!
「それはさておき、だハーリング殺し………あーわかったそんな睨むんじゃねえ。からかわれるのは俺も好きじゃねえ。トリガー、俺のTACネームはChampだが、
「基地で一番の乱暴者と言われてるのもそれ?」
「それとは関係なしに喧嘩する。次はおめえかもな」
「勘弁して欲しい。わかった、その代わりハーリング殺しと言うのはやめてくれ。せめて3本線って言って欲しい。そこんとこ頼むよ、チャンピオン」
「おう、わかってんじゃねえかよ」
チャンピオンと言われたのが嬉しいのかニッと笑うチャンプ。
よしよし、掴みはバッチリだぞ。
おだてるつもりはないが。馬鹿にする必要もないしね。
「ベッドは下使え、上は俺の縄張りだ」
「ベッドの底抜けたら俺圧死だな」
「神様に祈っとけ」
「この世に神なんかいるかね」
「無神論者か?」
「いんや。でも神様いるなら聞いてみたいね。『こんな戦争だらけの世界作って何がしたかったんですか?』ってな」
「そんな難しいこと考えるだけ無駄だぜ。この世で生き残れるのは力だ。御大層な弁舌を高らかに叫んだって力がなきゃ踏み潰される」
「そうだな」
だが力だけでも破滅しちまうのが世の常だけども。
って、そんなこと言う奴から死んでくんだろうな。
「後は金だ。金さえありゃなんだって出来る」
「偉大だねぇ」
「そいやお前換金所行ったのか?」
「なにそれ」
「戦闘終わったら換金所行かねえと金貰えねえぞ、もう閉まるんじゃねえか?」
「マジ!?」
こうしちゃ居られねえ!
俺は急いで扉を開けて外に出た。
「あっ、そうだ一つ聞きたいんだけど」
「なんだよ」
「お前俺が死ぬのと生き残るのどっち賭けた」
「勿論死ぬ方だ」
コノヤロー………
ーーー◇ーーー
「報酬だ、さっさと受け取れ」
「………これだけですか?」
途中で出くわしたこの基地の良心タブロイド大明神様のお言葉によると。出撃+戦果に応じて臨時報酬が与えられることになってるらしい。
換金所にて自身の戦果を報告し、それに応じて金が貰えるらしい。
「文句あるのか」
「いえ。その」
さっきカウントとすれ違った時、俺と同じぐらい持ってたんだけどな。
「自分前回の戦闘で17機落としたんですけど。カウントと同じぐらいっておかしくないです?」
「奴は22機落としたそうだ」
「そんな馬鹿な。他のパイロットもある程度落としてましたし、それを差し引いたらあの日そんないませんでしたよ。AWACSから戦果結果来なかったんですか?」
「そんなものはない」
「はい?」
「そんなものはないと言った。ほら終わりだ、さっさと失せな」
「あのちょっと」
ガララララ。
無情にも換金所のシャッターは閉められた。
呆然とする俺を周りの野郎共は含み笑いで俺を嘲笑った。
俺頑張ったよな?慣れない機体で最高の戦果を叩き出したと思うんだけど。
「よーう!ハーリング殺し!景気はどうだ!」
うおっ!びっくりした!行きなり後ろから何かが!
首に腕を回してきたのはこの基地一のギャンブル・ジャンキーことハイローラー。
ハイローラーの名に違えず賭けには常に大金をベッドし、444での賭け事を一手に引き受けている。
「なんだなんだ、しけた金だな。それしか貰えなかったのか」
「俺が聞きてえよ。カウントは22機撃墜したからお前はそんだけだとよ。それ差し引いても少ないと思うのは俺の見解が間違ってるのか」
「まあ貰えてる方なんじゃないか?」
そうなのかなぁ。
当たり前なのかなぁこれ。
「そうだ。この前奢ってやるって言ったろ。丁度良い酒手に入れたんだけどこの後どうよ?」
「止めとく。酔った隙突かれて酷い目に会いたくないし」
「んだよ面白くねえ奴だなぁ。じゃあたけぇ飯奢ってやる。それでどうだい」
「じゃあそれで」
「うしっ!じゃあ飯行くぞ飯!」
「わかった、わかったから引き摺るな引き摺るな!」
半ば連行される形で食堂に連れてかれ、窓側の席に座らされた。
ハイローラーはちょっと待ってろと言って言ってしまった。
こんなとこで一人にさせないでくれ。
………やはりハーリング殺しという肩書きが目立つのか、囚人仲間は遠巻きで俺の様子を伺っていた。
動物園のパンダ、水族館のウーパールーパー状態だ。
絡まれる前に戻ってきて欲しいもんだが。
「待たせたな」
「ああ待った凄い待ったとんでもなく待った。体感時間三時間だったよ」
「機嫌悪いなぁ。これでも食って元気出せ」
トンと置かれたのはジュージューと音を立てる、リブロースステーキ(薄め)だった。
「質素で知られる444食堂の数少ない贅沢品だ。これと発泡酒の組み合わせは飛ぶぞ」
「はぁ………」
「ほれ、早く食わねえと冷めるぞ」
「頂きます」
ステーキにナイフを入れるとスッと切れた。薄いからってのもあるけど。
ソースは無く味付けは塩コショウのみ。
特にためらくことなくパクりと。
「………………………」
「どうだ」
「飛ぶわ、これ」
「だろぉ?」
五臓六腑に染み渡るたんぱく質の旨味。強めにかけられた塩の塩味と胡椒の辛さが刺激となって味覚に襲いかかってきた。
ここ1ヶ月まともな食事を取れなかった俺にとってこれは間違いなくご馳走。酒飲みたいと思わずに居られない珠玉の一皿。
「美味い………」
「おいおい泣く程かぁ?」
「オーレッドでの尋問中は固いパンばっかだったから。うめぇ………」
思わず目尻に涙が。
これは男の涙だ。恥ずべきものではない。
「御馳走様でした」
「美味かったろ」
「正直侮ってた」
「まあ街と比べると遥かに安もんだがな」
このさい美味けりゃ何でも良い。だがこのビフテキは別だ。濃い味付け、ジャンクな刺激。最高。
久々のエネルギー補給に疲労感も幾分楽になり。イライラも収まってきた。
「カウントさぁ」
「おう」
「俺より5機多く落としてたのよ。そんな落としてた?てかそんないた敵機」
「いねえな」
「じゃあなんで」
「簡単だ。世の中あるものを渡せば大抵まかり通る」
「………金?」
「ビンゴ」
それじゃ何か?
あいつは自分の戦果を金で買ってるのか?
報酬は戦果に応じて貰えるのに。それをわざわざ買う?なにそれ?
「普通個人の戦果って上が厳密に精査するものじゃないのか?許されんのそんなこと」
「此処にはルールなんてあって無いもんだ。お上も正確に数えてねえ。そもそも撃墜数を自分で言うこと事態おかしいと思わなかったのか?」
そう言われてハッと我に返った。
フォートグレイスでは個人個人の撃墜数をスカイキーパーが確認し、それを基地に反映させていた。
ここはそもそもその機能すら麻痺してるということなのか?
「戦果も金で買える。それがここだ。カウント以外やらねえけどな」
「なんのメリットがあんだよ。他の奴も黙ってねえだろ。チャンプとか特に」
「かすめる奴も選んでるし、そいつにも賄賂を渡すことだってある」
「ますますメリット感じねえんだけど。なに、富より名声を欲しがってるとか?」
「その通り。だが今回は流石に露骨すぎる。それもこれもお前が昨日活躍しまくったせいだ」
俺にとっては特だがな、と残ったビフテキに食らい付くハイローラー。
そこまでして撃墜数、エースパイロットの称号が欲しいのか?
流刑地でそんなこと拘ってどうするんだ。俺にはまったく理解出来ない。
「まああれだ、お前もカウントに詰め寄ってみろ。金貰えるかもしれんぞ」
「あいつから賄賂なんか貰ってやるものか」
「ここで意地張っても良いことねえぞ」
「張らなきゃいけない意地は捨てない。俺がハーリング殺しではないことも含めてな」
ビフテキを食い終わったハイローラー。
皿を脇にやって頬杖をついた。
その時ラジオがエルジア放送を拾い、あの王女様の演説が始まり食堂は喝采の渦に飲まれた。
小煩さを感じながらも、ハイローラーはラジオに見向きもせずに聞いてきた。
「本当にやってねえのか?フルバンドはミサイル2発当てたって言ってたが」
「ああ。俺は無実だ。ミサイル2発は査問委員会がでっち上げた出鱈目だ。あの時俺はミサイルを一発しか持ってないし、そいつもUAVに当てたのを確かに見た。俺ははめられたんだ」
「だが此処に送られちまったんだ。もう証明出来ねえだろ」
「それでも、諦める理由にはならない。まだ飛べる、まだ生き残れる。なら進むしかないだろ」
たとえ出口がなくても。
明かりなどない暗闇であっても。
進むしかない。俺が俺であるために。
いつか空と一つになれる場所を探すために。
どん底だろうが這い上がってやる。それがただ一つ俺に残された、生きる道だ。
「………いいね。ノッたぜ」
「は?」
何を。と言おうとしたらテーブルに札束がドン!と置かれた。
先程のみみっちい報酬とは雲泥の差の。文字通りの大金だ。
「なんのつもり?」
「お前が無実だという方にベットする。俺は自他共に認められた大穴狙いの賭け狂いだ。お前が途中でくたばるか本当にハーリング殺しなら俺の負け。お前が無実を勝ち取れば俺の勝ちだ」
「それ、負け濃厚だぞ」
「じゃあ認めるのか?ハーリングを殺しましたってよ」
「なわけねえだろ」
「なら問題ねえ。俺はお前に文字通り賭けた。そしてお前が無実を勝ち取ったら口止めに大金が転がるだろ。そん時俺が生き残ってたら倍にして返しな」
「狂ってんな」
「ああ、なんたって俺はハイローラーだからな」
一世一代の大博打。
人生すら賭けた盛大なゲームが幕を開けた。