エースコンバット7 FLIGHT REZON   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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STAGE27【One Pair(ろくでなし遠足隊)

 

 

【SALTY SAILOR】

 不機嫌な海兵と読む酒場はお爺様率いる実験飛行隊ソルの塩湖基地から少し離れた街にあった。

 

 仕事が終わったソル隊の面々は時々此処を訪れ、お爺様と会話を弾ませる。

 今日は私たち姉妹も連れてってくれた。

 

 薄暗いなか、電灯が淡く室内を照らす。

 今日は私たちの貸し切りで、お爺様と若手の部下。ドクター・シュローデルとその助手のマーサさん。そして私たち姉妹だけだった。

 

「あら、アルマちゃん寝ちゃったの?」

「はい。お爺様たちの話がつまらなかったみたい」

「まだこの子が理解するには早すぎたかもね」

 

 助手のマーサさんは私と比較的歳が近いにも関わらずドクター・シュローデルの助手という重要なポストを担っていた。

 ノースオーシア・グランダーI.Gの人たちは好きになれないけど。私は彼女にだけは心を開いていた。

 

 お爺様、ヴィトさん、シーモアさん、ヘルマンさん、ロアルドさんがフライトジャンパー姿のまま一つのテーブルで酒を交わしていた。

 彼らソル隊にはエルジア王国のワッペンの他に、もう一つ、今はもうどこにも存在しない国の紋章があった。

 シラージ王国。私たちが生まれるよりずっと前、数十年前のエルジア王国が最初の国土拡張を繰り広げてるさなかに飲み込まれて消えた国。

 自分の知らない、忘れられた祖父の故郷の印が。

 

「ヘルマンとロアルドは、国の復興支援団体から軍属になったんだよな?」

「ああ。そのあとユージア防衛隊から実験飛行隊に抜擢されたんだ」

「まさかそこにミハイさんがいるとは思わなかった。つまらない人生だと思っていたが。天は俺を見放さなかった」

「お前ミハイさんに心酔してるもんな」

「悪いかよ」

 

 そっぽを向いて酒を煽るロアルドさんにソル隊の若手たちは笑った。

 お爺様は会話に参加せず、まだ青い彼らをまるで親のように見守っている。

 

「今回の研究成果が大成すれば。我々の故郷シラージ、そして隣国ボスルージの復興は確実なものになる」

「そしてその暁には国の再建。我々祖先が最も求めている亡国が国家。そして国境線をエルジアから取り戻すんです」

 

 エルジアに望まぬ併合を受けた故郷。

 一度飲み込まれたところから抜け出すことは、言葉ほど簡単ではない。

 親オーシア国となって独立したボルゴテレストという国もエルジアの徹底監視のもと、まるで牢獄のように国境線に壁を作ってると聞く。

 

「………お前たちにとって国とはなんだ? 空から国境線というものを見たことがあるのかね?」

 

 沈黙を貫いていた祖父が口を開いた。

 鋭い切り口ながら、決して彼らの想いを否定するのではなく問い掛けるように。

 

 言葉を選ぶことなく、若手のリーダー格であるヴィトさんは即座に答えた。

 

「私の世代はもう故国の言葉を喋れません。エルジアの母国語と共に育った自分は、祖父母が使う言い回しがわからないのです。首をかしげると、祖父母は悲しそうな顔をするんです。それほどまでにユージア大陸にかつてのシラージ王国はないのです。私もそれが悲しい、でもどうすることも出来ないまま。今はなき祖国の空を守るために空軍の道を進みました」

「我々の胸のなかにはまだシラージ王国は生きています。それを拠り所にする人たちの為に、成功させ、復興の足掛かりとしたいのです」

「ユージアという白地図に線を刻む。我々は目に見える形として国境線を残したいのです」

「………………」

 

 祖父は再び沈黙をひいた。

 胸のなかで何を想っているのかは私たちにもわからない。否定することも肯定することもなく。祖父は暗い瞳で虚空を見つめた。

 

 祖父の頬には古い傷跡が深々と走っていた。パイロットとして負った傷ではないそれは、祖父の友人によってつけられた傷だった。

 

 お爺様の名前はミハイ・ア・シラージ。だけど本名は物凄く、物凄く長い。

 

 ミハイ・ドゥミトル・マルガレータ・コルネリウ・レオポルド・ブランカ・カロル・イオン・イグナチウス・ラファエル・マリア・ニケタス・ア・シラージ。

 

 ファンタジー小説の呪文でさえここまで長いものはないだろうそれを覚えるのは苦労した。

 何も見ずに全部言いきるのに3ヶ月もかかった。噛まずに言えたのはもっと先だった。

 

 祖父は王国の王子様だった。祖父の名前が長いのも、祖先の名前を後継者として受け継いで来たからだという。シラージ王国という古い歴史を持つ王家の人間。私とアルマもその末裔の一人。

 もしまだ王族で自分が後継者に選ばれたら、自分の名前のなかに祖父とご先祖の名前が刻まれるのだろうか? 

 

 祖父がまだ若かった頃。国のなかで共和制を求める内乱が起こった。

 祖父の傷はその時。当時もっとも信頼し、半身とも言える親友がクーデターの主犯として。祖父を撃った時に出来た傷。

 頬を抉った銃痕は塞がったが、その時祖父は心も殺されたのだと。他界した祖母は言っていた。

 

 そのあとクーデターは成功したが、直後ユージア最大の大国であるエルジア王国に飲み込まれる。

 自分たちの革命を無益な物とされたクーデター派の幹部は逆賊として国民に捕らえられ、祖父の親友もその時処刑されたのだという。

 

 エルジア王家は祖父と一族を王族に準ずるものとして扱おうとした。

 だけどお爺様はエルジアの一平民として徴兵される道を選んだ。クーデターによって懲り懲りになった、というより。元々王国の王子という肩書きに興味が薄かったらしい。

 

 エルジアの王様はそんな彼に空軍士官学校への編入を命じた。

 シラージ王国を無くし、やがてエルジア王家も倒れ、エルジアが共和制へと変わっても。

 祖父は命じられるまま戦場の空を舞い続けた。

 そして祖父は着実に戦果を上げていき。自他共に認められた最強のパイロット、空の帝王として名を馳せたのだった。

 いまだエルジア内で彼を越えるパイロットはいないのだという。かつてエルジア最強とうたわれた、あの黄色中隊でさえも。

 

 

 

 

 

 

 実験飛行隊基地に来る飛行機と言えば。ソル隊の戦闘機か物資を運んでくる輸送機だった。

 

 だけど今日はいつもと違う飛行機が来た。

 

 磨き上げられた純白の自家用ジェット機。

 ジェット機にはエルジア国旗を元にしたオレンジ色の薔薇の紋章が刻まれていた。

 

「ウォン!」

 

 降り立ったジェット機のタラップが開くと同時に一匹の犬が飛び出し、人懐っこそうに私たちの周りを走り回った

 

「もージュペッグ。落ち着きなさい」

 

 タラップから降り立ったのは、清廉という言葉が良く似合う美少女。

 白のビジネススーツの胸元に白薔薇を差し込み、ブロンドの髪が日の光に反射してキラッと光った。

 

 この人は新生エルジア王国王女、ローザ・コゼット・ド・エルーゼ。

 ユージア大陸の希望であり太陽。エルジアの旗頭でもあり。そして………

 

「久しぶり、イオネラ」

「久しぶり、ロージー」

 

 私の元同級生だ。

 

 元々呉服店の長女だったロージー。

 小さい頃からの幼馴染みでもあった彼女とは唯一無二の親友。

 普通に、平凡に暮らしていたある日突然、彼女に王女としての地位が転がり込んできた。

 

 エルジアが王国に戻ろうとした時、王位継承権を持った一家は別にいて、本来その家族が王族に召し上げられるはずだった。

 だがその一家が纏めて交通事故でこの世を去り。一家の従兄弟である彼女の父親が王位継承権を受け継ぎ。それに連なる形でロージーは王女となった。

 

 私は彼女が王族だなんてこれっぽっちも知らなかったし、彼女から自分は王族だと言われた時はびっくりしたものだ。

 

「久しぶり、ローザお姉ちゃん!」

「アルマちゃんも久しぶり。それ熊さん? 可愛いわね」

「フフッ。遠路遥々お越しいただきありがとうございます。エルーゼ王女殿下」

「もう、やめてよイオネラ。さっきはロージーって言ったのに。久しぶりに羽を伸ばせると思って来たのに萎えちゃうじゃない」

「なに言ってるの。此処に来たのは公務でしょ」

「うっ、言わないで。現実逃避から現実に戻っちゃうから」

「しゃんとしなさい」

 

 はーい。と王族らしからぬ間の抜けた返事にまったく、と思いながらも笑みが溢れた。

 

 平民出身の王女という生まれからか、ロージーは民衆の心を掴むのが上手かった。

 民の上に立つのではなく、民と共に歩いていく王女。

 戦火の前で不安を宿す国民に彼女は自ら国民にスピーチやラジオなどをとうして励まし、鼓舞していった。

 エルジアの希望。前線で戦う兵士の士気が高いのも、彼女の存在があってこそ。

 世間もロージーの演説の影響を受けてか、反オーシアムードに引き込まれた。いまのエルジアにとって彼女の存在は無くてはならないものとなっていた。

 

「やっぱり王女は大変?」

「ええ、やっと一段落と思ったら戦争だから。でも、私の言葉で人々が笑顔になってくれるのは嬉しい。なんの取り柄もなかった私が人の役に立ててる。それが嬉しいから頑張れる、かな」

 

 彼女の言葉は全て本心だ。

 自分の演説が戦争のプロパガンダとして使われてるとわかっていても、彼女は大好きなエルジアのために笑える人だ。

 

 その純心さが、邪なる者に利用されないか、利用されてるのではないかと。私は不安を覚えることもある。

 

「ねえねえローザお姉ちゃん! この前のラジオで歌った歌を聞かせて!」

「ラジオの。ああ、先週の讃美歌?」

「そうなの。アルマったら気に入っちゃったみたいで、それから毎日歌うのよ」

「ね、歌お!」

「んー、じゃあ三人で歌おうか」

「やった!」

 

 塩の湖の基地に。三人の少女の歌が響き渡る。

 

 誰でも知ってるなんてことのない歌。

 昔から存在してるユージアゆかりの歌。

 

 祈りが込められた歌声に。ヴィトさんやエンジニア。ロージーのSPも笑顔で私たちの歌に耳を立てた。

 

 ふと、視線を感じた。

 

 歌を歌いながら横目で見ると。お爺様がこちらに目を向けていた。

 珍しいこともあるものだ。お爺様は暇さえあれば空ばかり眺めているのに。

 

 私は未だにお爺様の真意を見れないでいる。

 

 故国復興を願う若手パイロットは彼を崇拝しているが。

 本人の心の中に、亡き祖国は存在しているのだろうか………

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「まさか基地から離れられるとは思わなかったぜ。賭けときゃよかったな」

 

 楽しげなハイローラーをよそに俺たちはいまエルジアがIUNから奪い取ったロカロハ砂漠の大規模駐留基地に向かっている。

 

 開戦から少しして稼働した444飛行隊の面々だが。基地から離れ、敵基地を強襲するなど夢にも思ってなかったらしい。

 そして今回駆り出されたのが俺含めて10機の中隊規模というのだからさらに驚きだ。

 

 何が驚きかって? そりゃ我が身大事なクソ司令が基地の防衛より強襲を命令したことだ。

 他の奴ら曰く、参謀本部からの指示が来てウッキウキだとか。この前誰もいないところでヘッタクソな鼻歌混じりのスキップをしたのを目撃した奴がいるらしい。

 グロいな。

 

「お出迎えだ。各機散開して攻撃を開始しろ」

「攻撃して良いんだな? 正規部隊が掃討するという話だったが」

「前と同じだぜ。俺たちで全部燃やせばいい」

「頭が切れるじゃないかスペア8。貴様らが敵の基地を叩けば正規部隊の損失が減る。それが出来ない者は囮として射撃の的になれ」

「やる気なくなること言わないで欲しいなぁ」

「ハッハッハー!」

 

 フルバンドが高笑いを決めるなか前方に空軍基地。

 岩に囲まれた滑走路状には4機のF-16C。

 

「離陸準備中のF-16Cを確認。攻撃に移る」

「ヨッシャ! ぶっ潰してやる」

 

 先陣を切ったのは俺とチャンプ。バーナーを吹かしてパワーダイブを敢行し、敵の虚を突く。

 

「スペア8。離陸中の2機と待機中の2機。どっちやりたい?」

「俺は弱いものいじめが大好きなんだ」

「オケ。無力さを思い知らせてやろう」

 

 チャンプのMiG-29Aは直進、俺は45度ロールで今にも飛び立ちそうなF-16Cをロックオン。

 

「FOX2」

「FOX2! ぶちまけろぉ!」

 

 ロックオンアラートが聞こえても加速途中では回避出来まい。

 時既に遅し、いま飛び立とうとしたF-16Cは飛ぶことなく火に巻かれ。地から離れかけたもう1機は背後から強襲した鷲にその身を食らい付くされた。

 

 そのまま軸線上にあるオイルタンクに機銃で火を当て、側にいた対空機銃もろとも吹き飛ばした。

 後方で火の手、何も出来ずに蜂の巣にされたF-16C2機とオイルタンクが基地一番の荒くれ者の手にかかって基地から焼失した。

 

「ナイスキルチャンプ。飛ばしたら厄介だった」

「これぐらい朝飯前だ!」

「随分仲良くなったじゃないか二人とも」

「同室になってやることやったんじゃないか?」

「トリガー、帰ったらフルバンドボコすぞ」

「ケツに鉄パイプ刺してやろう」

「おいやめろ!!」

 

 尻の穴がキュッと閉まったフルバンドを笑いながら基地からやっと反撃が来た。

 

『敵襲! 敵襲! 敵航空機、恐らく1個中隊ほど! 離陸途中のアロンズ小隊全滅!!』

『クソッ! 対空迎撃! 援軍の要請も忘れるな!』

 

 敵は焦ってはいるものの機銃の狙いが正確で油断は出来ない。

 だがそこまで防衛密度は高くなく、得に脅威とは言えないレベルとなった。

 

「敵の拠点は3ヶ所。航空優勢も含めそれぞれ脅威度が異なる。効率よく打撃を与え、敵基地全体の抗戦能力を奪うんだ。ない頭を使え。それにすぐ死なれては射撃の的にすらならないからな」

「だってよ。頑張れカウント、囮任せる」

「てめーがやれハーリング殺し」

「チャンプ、1人追加だ。ハ行とラ行言えない身体にしてやる」

「よしきた!」

「沸点低いなお前!」

 

 いやいやもう怒ってはいない。

 ただ言い付け守れない奴にOSHIOKIをするだけです。

 

 ふと眼下にTu-160が3機離陸体勢。

 どさくさに逃げようと機を加速させる。離陸されたら追うのは面倒だが。離陸してなきゃただのドン亀だ。

 兵装を切り替えて4AAMファイア。追加でミサイルを射って残りは機銃で美味しくたいらげる。

 

 まさに運がなかったというべきだろう。

 スコフィールド基地にいたような大型フラッシュバンを積んでるかと思ったが、そんなことはなくホッとした。

 

「あん? 爆撃機がいつの間にか居なくなってる。誰がやったんだ?」

「ああ今のは俺………」

「撃墜してやったぞ!」

「おいカウント、マジいい加減にしろよタマ潰すぞ!」

 

 弾消費してないくせに口だけ動きやがって! 

 そんなに名声欲しかったらファーバンティまで行って死んでこい!! 

 

「なに言ってるかわからねえな。下々の出身は言い掛かりが多くて困るぜ」

「もしお前が跡取りだったら御家が可哀想だな。こんな出来損ないが詐欺なんてみみっちいことしたせいで泥塗られたんだからな。あー可哀想可哀想」

「てめぇ、ここで落とし前つけてもいいんだぞ」

「おやおや下々の発言で一々プッツンするなんて上流階級も沸点が低い。おや失礼、元、でしたね」

「殺すぞトリガー!」

「スペア2、スペア15。独房に入れられたくなかったら耳障りな口を閉じろ! どちらかが撃墜したなど些末なこと考える暇あったらやることをやれ」

 

 下らない口喧嘩は番犬の叱責で強制的に幕を閉められた。

 我ながららしくないことしてしまったと自己嫌悪しながら敵基地に残った残存戦力を全て掃討した。

 

『駄目だ! 誘爆している! 火のまわりだけでも食い止めろ!』

「目標破壊を視認! またトリガーだ」

「良い暴れっぷりだ、トリガー!」

「カウントよりは働くさ」

「無駄口を叩くな、仕事をしろ」

「了解」

 

 駄目だな。流石に対抗意識剥き出しだ。

 気持ちが先に行き出したら駄目だ。大きく息を吸って頭の血を冷やすことに努めた。

 

「後にくる一般部隊は弾薬や整備が必要になれば帰還ラインを超えて補給に戻る。だがお前たちには許されない。覚悟していけ」

「今のはどう覚悟すればいいんだ?」

「無駄弾を使うなってことじゃないか?」

「バカ言え。なくなったらそのまま死ねって意味さ」

 

 そういえばブリーフィングで東側に補給ラインがあるって言ってたな。

 使わせないんだったら態々言わなきゃ良いのにあの司令官は。

 

 レーダーに反応。基地から西に向けてトラックが4台走っていく。

 自殺行為にも程がある。わざわざ破壊することもないが。もしかしたらMQ-99が隠れてるかもしれない。

 

 トラックの背後に移動。減速して半ホバリング状態から機銃掃射。放たれた弾丸は残酷にトラックの運転手ごと細切れにして爆ぜ上がった。

 

「輸送トラック破壊を確認。その戦域の敵はほぼ壊滅した。よし、敵の多い場所移動しろ。もっと撃たれるためにな」

「ほう? まだチャンスをくれるのか。お優しいねぇ」

「敵の基地は大きく3箇所に分かれている。そのうちの一つ破壊したに過ぎん。それに貴様、いったいどれだけの爆撃を成功させたと言うんだ?」

「ハハッ、 ほとんどがトリガーの戦果だからな」

「お前が自慢することじゃないフルバンド」

 

 先程ああ言ったが、やはりバンドックもカウントの戦果報告をまるっきり信じてないみたいだ。

 他の者も以下同文。こんな四面楚歌の中であいつはどんな気持ちで虚構の栄光を語っているのだろうか。

 

「賭けの倍率がわからねえ」

「自分で考えろスペア7」

「頼むぞ、俺はお前に賭けてるからな」

「ハハー! 俺が死んだらそもそも賭けはおじゃんさ」

 

 そうならないことを祈ろうか。

 道中のAAGUNとレーダー塔を屠りながらネクストターゲット。

 

「ようやく目標を確認できた、いやな位置に陣取ってる」

「任せておけ」

 

 岩山の切れ目、中の空間に基地や防空設備を備えた天然の要塞が鎮座していた。

 しかも北西、南西のほうには同等の物がもう2か所存在している。

 勿論ルーキーの俺にこんな岩山の間を飛ぶ経験などなし、良くてシミュレータぐらいだがアレよりも強固な岩山。マジで自然万歳だな。

 

 戦車にSAM、弾薬庫など。

 多数のターゲット、補給出来ない以上節約したいところだが……… 

 

「スペア15からバンドック。弾薬庫は破壊すべきか?」

「可能な限り全て破壊しろ。例外はない」

「了解」

 

 ならやるしかないね。

 頼むから働けよ怠け者ども。

 

 戦車にミサイル、SAMに機銃を当て。向かう先には弾薬庫。

 機銃を小刻みに数発当てると当たりどころが良かったのか直ぐに爆発炎上した。

 

 ピッチアップピッチアップ! 

 破壊したのも束の間目の前には断崖絶壁。

 岩肌をなめるように上昇、そのままループ機動。

 いま心臓ヒュッとなった………

 

 機首を下にしたまま減速、真上からAAGUNを破壊し。再びループでもう一度同じことを繰り返して地面スレスレの水平飛行。

 ひっきりなしになるプルアップの警告音を無視し、敵が居なくなるまでそれを繰り返した。

 

「トリガーのやつ、なんであんな馬鹿げた動きで死なねえんだ?」

「敵がノーコンなんだよ。スペア3、ミサイル狙ってんぞ!」

「やばっ!」

 

 他の奴らも文句言いつつ敵を破壊してるようだ。

 てか対地目標もいちいち覚えておかなきゃいけないの? ダルぅ。

 ハイローラーからしばらく使える金貰ったからそこまでやる気にならなくても良いんだが。

 

 目の前に橋、その上を戦車とAAGUN車両が渡っていく。橋の真ん中、もっとも比重がかかるであろう部分を機銃で砕いて橋は崩落。

 翼を持たない陸戦軍はそのまま谷底にパワーダイブをしてしまった。

 

 ………きっちり仕事をするのが俺だなぁ。真面目者は馬鹿を見るって頭ではわかっていても。

 

「くそっ、地面が近い。こんなとこ戦闘機でやるなんて無茶だぜ!」

「地面を恐れるな、罪が償えないことを恐れろ」

「ほう、看守から牧師に転職しても食っていけそうな台詞だな」

 

 バンドックが牧師? 冗談。

 俺なら絶対あの強面牧師の前で愛を誓えないな。

 降り立った神を背負い投げしそうな顔してるもんあのAWACS。

 

 岩山の基地を襲撃し半分ほど攻めれた。

 敵が密集してるところは流石に弾幕が厚くて近づきづらいが、このまま押せば楽勝………

 

「弾薬が尽きた。補給に戻る」

「弾がなくちゃ露払いも出来ん、俺も戻る」

 

 ガクッと頭を振りそうになった。

 まったく不真面目組どもは。まだそんな撃ってないでしょ。大半落としたの俺だぞぉ。対地兵装持ってないのに頑張ってるんだぞぉ。

 

 まあそんな二人を見逃さないのが仕事には真面目な番犬様だ。

 

「ダメだ、お前たちのためのものじゃない。それは正規部隊のものだ」

「それは建前だろ。員数外の俺たちに補給物資は使わせられない、だが本音では基地さえ叩けば文句はない 違うか? 捨て駒の俺たちか基地を更地にすりゃ、正規軍様は楽してここに降りるだけで良いんだからよ」

「はぁ………作戦が終わったら覚悟しておけ」

「良いぞ、バンドックの気が変わった」

「よっしゃ。雑魚の始末は任せたぞトリガー」

 

 これで通算何度目かの憎たらしい発言のあと、カウントを初めとした数機は踵を返して東に爆進していった。

 こういう時は速度も心なしか速い444クオリティー。

 

「………まーじで補給に行っちまったよ、あいつら。ここまで来ると凄いね」

「トリガーは行かないのか?」

「そう言うタブロイドはどうなのさ。さっきの聞き逃さなかったぞ」

「ハハ。危なくなったら行くさ」

「独房待ってるぞ」

「命には変えられん」

 

 それはそうだけれども。

 それでも我先にと行く胆力、いやただの馬鹿か? わからんけど行動力は凄いと思う。

 

 だっていま残ってるのタブロイドと数機だもん。実に半分はトンズラした。

 そして肝心の監視役は黙認している。カウントの言う通りぶっ壊せれば問題なしとかそういう? 

 

「トリガーも意地はるなよ、他の奴らより弾薬使ってるんじゃないか?」

「節約してるからまだ大丈夫だし。なくても行かねえよ。あるかもわからない恩赦の為に頑張るさ」

「健気だな」

「あと単純に独房はヤダ。飯食いたいしヒマだし」

「切実だなぁ」

 

 うるせーやい。

 この前のカロリーバーは本当に助かったけど。またも施しが貰えるなんて都合の良いことが早々起こるとは思えないからな。

 

「とりあえず残ったんなら俺の懐事情の為に助けてくれ。目の前にハリアー3機。その間下のは任せた」

「あいよ」

 

 タブロイドを置いてスロットルを押し込みながら右斜め上に機首を向けながらシャンデル。

 ハリアーの真後ろ、4AAMセットして発射と同時に再加速。

 撃ち出した3機のうち2機撃墜、もう1機は躱したものの元々機動力のないハリアー。無防備に晒した腹に機銃をぶちこんで終いだ。

 

「よし お前らの足元には瓦礫と鉄屑しかなくなった。敵の多い場所を探して移動しろ、もっと撃たれるためにな」

「了解。燃料がなくならない程度に頑張りますよ」

「トリガー、あいつらが戻ってきたぞ」

 

 後方から猛スピードで味方編隊が接近中。

 腹一杯食って来たんだろう。スロットルMAX、アフターバーナー焚いてこっちに追い付こうとしてる。

 

「来たかサボり魔ども。もう2個目終わったぞ」

「こっから巻き返すんだよ。ようやく身体が解れてきたからな」

「スロースターターはエースになれんぞ。さっさと来い詐欺師」

「ヘッ、見てろよ。今回もトップは俺は頂くからな」

 

 相も変わらず裸の王様スタイルを貫くカウント。もう何を言う気力もなく溜め息を吐こうとした。

 

「おいお前ら、カウントが勝つ方に賭ける奴いるか? 俺が仕切るぞ」

「「「誰ものらねえよ」」」

「じゃあトリガーが勝つ方に」

「「「勝負にならん、パス」」」

「てめぇら………」

「カウント、ドンマイ………」

「ガチの哀れみ出すんじゃねえよ!?」

 

 溜め息の意味が変わってしまった俺を乗せF-15Cは次の目標に向かって飛ぶ。

 

 444基地初の遠出の任務の終わりはまだまだ先だ。

 

 

 

 

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