エースコンバット7 FLIGHT REZON   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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STAGE31【Berserk(激情)

 

 

「タブロイドもこれまでだな。逃げは上手いがあんな化け物小隊相手は無理だ。死んだぜ」

「トリガーはどうなる」

「さあな。あいつに至ってはわからん」

 

 正規軍やトリガーたちを見捨てて我先に敵前逃亡せしめたスペア隊の面々は束の間の安息を堪能していた。

 基地に戻れば処罰が待ってるが、我が身大事な彼らに取って死ぬこと以外些事だった。

 

 バンドックからお叱りが来ないということは、逃亡犯にかまけてる暇などないということだろう。

 いまもインシー溪谷でトリガーは戦っている。あの化け物と。

 

「なあカウント」

「………んだよ」

「さっきトリガーが言っていたメイジってなんだったんだ?」

「うるせえ」

「俺が教えてやるよ。カウントは前に」

「フルバンド! それ以上言うならこの場で落とすぞ」

 

 トリガーにメイジ2と言われてからカウントの心はざわついていた。

 思い出したくない過去。自分がこんなとこに来てしまったキッカケを呼び起こしてしまったから。

 

『そうやってまた逃げるのか。メイジ2』

(違う! 俺は逃げてねえ! でまかせ言いやがってあの野郎!)

 

 ………本当にでまかせか? 

 

 そう頭の中で何かが置かれ。それを振り払うように首を振った。

 カウントにとって自分は絶対的なエース。

 戦争になればたちまち英雄になれる存在と信じて疑わなかった。

 

 初めて戦闘に放り込まれても怖いなど思ったことはなかった。

 部隊の誰よりも敵を落とし、名実ともに一番になれた。

 

 まさしく順風満帆だった。

 だが突然潤滑に回っていた歯車が軋んだのだ。

 

 オーレッドのあの日。

 大衆の面前で赤っ恥を食らった。

 あの赤い翼端のF-16C。トリガーと呼ばれた若手の若手に………

 

「くそっ!」

『いいさ。口だけ貴族の恥さらしにはそれがお似合いだ。何処へでも行っちまえ!』

「くそっ………」

 

 軋み続ける胸の痛みに操縦桿を握る手が震えた。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 ばらまかれる機銃。

 かすりもせず、敵ながら見事な機動で回避する敵のSu-30SM。

 

 フラストレーションが溜まる。いやもう満杯だ。

 

 時には感情を乗せた激しい機動を、時には感情とは真逆に機動。相反する動きを上手く絡ませながら軽やかに渓谷を飛び回っていた。

 

『若いか………だがそれ以上にこの飛び方。若さだけではない何かが………』

『ソル1? いったい何を?』

『いや、まだわからない』

 

 だが久しい感覚がある。Su-30SMのパイロットは数十年ぶりに武者震いをした。

 

 いつだったか。遠い昔、また30成り立ての若い頃。ベルカで戦ったラントヴィント*1、フッケバイン、フリューゲルと戦ったあの時を。

 そして数々の戦争で英雄と呼ばれた者たちと飛んだ時を。

 

 久方ぶりに感じた、その時に似た興奮を。目の前のF-15Cに感じている自分にSu-30SMのパイロットは少し驚いていた。

 

「FOX2!」

 

 ロックオンからの即トリガー。

 排気煙を引きながら突き進むミサイルを前に一欠片も乱れることなく旋回。

 そのまま誘導されたミサイルが岩山に突き刺さって消失した。

 

「またかよ! 普通にあんな芸当を出来るなんて。何者なんだこいつは」

 

 ジワりと嫌な汗が出るのを感じて嫌悪感が膨れ上がった。

 

 また恐怖したのか俺は。勝てないと思ったのか俺は。

 そんなんであいつらに顔向け出来るか! 俺はまだ生きている、まだ飛べるんだ! 

 

 岩山の上に急上昇。

 上空から俯瞰して仕切り直しを図り。

 深く深呼吸をし、身体を整え。Su-30SM目掛けてダイブする。

 

 無理に曲がりくねっていたらスタミナ切れになる。だがそれは奴も同じはず。

 今までと同じように速攻で落とせない。焦るのは駄目だ、こういう時こそ状況を見ろ。

 ここは奇襲をかけ、相手の気力を削る! 

 

 スロットルを前に倒して相手の上から機銃をばらまく。

 相手はよけて、よけて、よけて………当たった! 

 

 手応えはある。絶対に勝てない相手じゃない。

 食らいつけ、奴を落とすまで。

 さあ根比べだ、何処までもついていくぞ! 

 

『ワイズマン。あのカラー、そしてこの腕前』

『ああ間違いない。ミスターXだ』

『実験部隊のXプレーン乗りか。こんなところで見るはめになるとはな』

 

 決して表沙汰にされてない部隊。

 ネームドとして世間にアピールされることはなく。ミスターXが飛んだ戦場には。敵の屍のみが残ると言われる。エルジアの死神だった。

 

『ワイズマン! こいつとやりあうのはまずい! 飛び方を見りゃわかる。こいつはあたしじゃ太刀打ち出来ない』

『ああ一番会いたくない相手だ。イェーガー、最悪俺たちが盾になるぞ。部下を逃がすんだ』

『了解した』

「敵機が雲の中に消えた。追うしかない、やれるな?」

「当然! 逃がすものか!」

 

 またもゲテモノ加速で突き放すSu-30SM。

 エンジンからあんなに排気煙が出るって。本当にニトロでも積んでるのか。

 

 だがドッグファイトである以上接近戦になるのは必須。

 雲に隠れて誘ってるのか? 上等だ、お前の企みごと噛み砕いてやる! 

 

 目の前の雲は雷雲ではない、臆せず行け! 

 

 雲に突入、レーダーははっきりしている。

 

「………見えた!」

 

 反転してこっちに来る。

 

 ヘッドオンでロックオン警報。撃ってくる! 

 急旋回でミサイルを雲の中に泳がせ、そのまま回避する。

 

『また避けられた、面白い。白い3本線、何か意味があるのか?』

 

 先程こちらの出方を伺っていた敵がやる気になった。追い回すことは止めて確実に俺を落とす気になった。

 

 しかし奴の飛び方はなんとも予測が出来ない。

 綺麗に飛んだかと思えば馬鹿らしい機動と角度を叩きだし、それでいて攻撃は正確そのもので。こちらの攻撃はどうやったらそんなことが出来るという飛び方で回避する。

 

 今まで相手したなかでこんな当たらない、当てるビジョンが見えない敵は初めてだ。

 パイロ、ベイオネット、ローニンといった腕利きとも違う。間違いなく次元が一つぶっ飛んだ相手だった。

 

「タブロイド! 大丈夫か!」

「なんとかな! しかし逃げるので精一杯だ!」

 

 タブロイドも2機相手に追い回されてなんとか生き残れている。

 だが限界も来る。慌てて落とされては元も子もないが。長引かせればタブロイドの命が。

 そしたら次は俺だ。3機相手に立ち回れるかと聞かれたら間違いなくノーだ! 

 

『あのオレンジ色を相手に、たったの2機か?』

『いや。ミスターXと戦ってるのは、あのイーグル1機だ』

『無理だ。少なくともあたしじゃ1分と持たねえ』

『フーシェン、交戦は禁止。近づいたらとにかく逃げろ』

『了解。初めからそのつもりだ』

 

 Su-30SMがバレルロールからのハイGターン。

 後ろを取らせる訳にはいかないと再びヘッドオンの位置につく。

 

 SASMがない以上。残りは素のミサイル。

 厳しい、だけど。

 

 こいつを放っておけば、いずれまた誰かが死ぬ。

 もしかしたら俺の知ってる奴らが。

 ブレッドやクラウンも死ぬかもしれない、こいつに弄ばれながら。

 

 ギリッと歯と操縦桿を軋ませて追い回す。

 

 まだ俺は折れてない。折れない限り。

 勝つんだ!! 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 自分は凡庸なパイロットだ。

 そして現実をしっかり受け入れてる人間だ。

 

 タブロイドはそう自己判断していた。

 推測でも傲りでもなく、列記とした事実として。

 

 まだ軍属だった頃も特に目立った戦果なんか上げられなかった。

 いや上げられないことは別に珍しいことじゃない。

 

 むしろ何機、何十機も落とせる奴の方が異常だ。

 

 今ほど戦争が日常化していなかった時代では、3機撃墜しただけで英雄だ。

 撃墜ポイントを機体にマーキングして得意気になるのが普通だった。

 

 だがいつの日か、戦闘機中心となったこの世界ではその根底は崩された。

 いつしか英雄と呼ばれるものは総じて化け物揃いか、戦争を終わらせた者。

 

 そんななかタブロイドは特に嫉妬する訳でもなく「あいつは凄いな」だけで済ますことが出来た。

 

 戦闘機なんて。死なない程度に動かせ。生き残ればそれでいいと思っていた。

 

 今まではそれでいいと思っていた。

 だが今に関しては。自分の力のなさをこれ以上痛感したことはなかった。

 

「くっ、ぬぅぅぅ」

『ソル3、回り込め。こんな奴に時間を取ってられん』

『了解』

 

 ミラージュ 2000-5はトリガーのF-15Cと比べて明らかなスペックが差がある。

 それは後ろから追ってくるSu-30M2も同じことだ。

 

 トリガーと比べれば差はあれど。カウントと同じぐらいの腕をもった護衛機から逃げられるのはインシー溪谷の岩山、劣悪な天候を味方にしてるからにすぎない。でなければもう落ちている。

 

 そう思うほどこの2機のコンビネーションは優れていた。

 伊達にあの化け物の直掩についていないというわけか。

 

「フレアフレア!」

 

 五発目のフレアを使った。これで最後。

 あともう一回必中の攻撃が来れば終わる。

 

(ここで終わりか。呆気ない最後だったな)

 

 凡庸な彼にも夢があった。

 

 子供の頃。ベルカで見た航空ショー。

 

 赤、緑、藍、黄、モノクロ、縞々、黒金。

 様々の色を宿した戦闘機が飛んでいて。少年時代の彼はそれはもう釘付けになって見たのだ。

 

 そしてその中でも。空と同じ色をした戦闘機が大好きだった。

 

 いつかああなりたいと。

 

 だがそうなることは叶わず。こんな流刑地に流されて。腐っていくだけだった。

 

 ここから逃げ出すことだって出来たはずだ。

 自分は間違っても勇敢ではない。臆病な人間だ。

 

 みなと一緒に逃げればよかったじゃないか。

 だが出来なかった。

 

 だって、タブロイドは見たから。

 彼の、トリガーの飛び方を初めて見た時。

 迫り来る敵を薙ぎ倒して飛ぶそれが。

 

 あのフリューゲル隊の姿と重なったから。

 

 こんな地獄の中で、高らかに飛ぶ彼に。少年時代の自分を重ねてしまったから。

 そんな彼が底知れぬ怒りを持って化け物と戦っている。

 こんなところでも温厚な彼が我を失う程の怒りを持ちながら。

 

「いや。まだ、死ねない」

 

 トリガーを一人にしてはいけないと。気の迷いを発動してしまった。

 奴がいれば。このクソッタレな戦争がおわるかもしれない。トリガーが終わらせるかもしれない。

 そんなありきたりな希望を。その翼に見出だしてしまったのだ。

 

(腐ることしか出来ない俺が希望なんて持ってしまった。あいつを死なせる訳にはいかない。生き残る、せめてトリガーが奴を落とすまでは!)

 

 追い付いてくる1機を降りきろうとハイGターン。

 敵の射線を振りきろうともがいでみせた。

 

「ぬぅあっ!!」

 

 残酷な現実が雷となってタブロイドを襲った。

 生きる意思とは相反するようにインシー溪谷の気候がタブロイドに牙を向いたのだ。

 

 必死に立て直そうとするがその隙を見逃す敵機ではないとタブロイドの無駄に冷静な頭がそう結論づける。

 

 黙視で背後を確認、翼をオレンジに染めた化け物から色彩だけを抜いた漆黒のSu-30M2が鎌首を上げる。

 フレアが切れた今タブロイドに回避する手段はない。

 

 今度こそ終わるか。挫けかけたその時。

 

『ガッチャ!』

『ソル3、ミサイル、回避!』

『なんだって?』

 

 突如、背後のSu-30M2が離脱。

 その後一拍置いて高速ミサイルが岩山に当たって爆ぜあがった。

 

 いったい何処から? とミサイルが飛んできた方向に顔を動かす。

 

「まあ、当たらねえわな。おいタブロイド、今の俺は救世主だぜ。帰ったらなんか奢れよ」

 

 なんと戦場に現れたのはカウントのSu-33だった。

 いまのは彼が放ったHVAAだったようだ。

 

「カウント!? いや、お前なんで。逃げたはずじゃ」

「勘違いするな、戦略的撤退だ。現にベストタイミングだろうが」

「何でもいい、帰ってきたなら手伝ってくれ、こっちは死にかけだからな」

「ウィルコ」

 

 Su-33がミラージュをカバーリングし下がらせる。

 

 入れ替わりで前に出てきたカウント目掛けて左右から仕掛けるSu-30M2をループからの機銃で散らし。放たれたミサイルも雲に潜って誘導を反らした。

 

『こいつ、出来る奴か』

『油断するな、囲むぞ』

「んん、と。なかなかやるようだが。俺ほどじゃねえな」

「お前ほんと手抜いてたんだな」

 

 避雷から回復したタブロイドも遠方から4AAMをばらまいて撹乱し。乱れたところをカウントのミサイルが襲う。

 

『ぐっ』

『シーモア、大丈夫か!』

『ああ、かすっただけだ!』

 

 カウントが加わったことでようやく攻勢に入ることが出来た。

 これなら負けはしない。少なくともやられっぱなしではなくなった。

 

(トリガー、こっちは大丈夫だ。だから思う存分やれ!)

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 何度ハイGターンを繰り返したか。何度も視界が黒くなりかけながらもSu-30SMを追いかける。

 しかしこちらがループすると同時に奴もループするといういたちごっこ状態で中々攻撃のチャンスが訪れない。

 

 分かってやってるんだろうな。

 

 飛んでみて見えてきたが。相手はやはり相当なベテランだ。

 研ぎ澄まされた刃のように静かでありながら、抜くときは閃光の如き鋭さを兼ね備えている。

 俺の動きを良く見て、そこから対応してくる反射神経と戦略眼を持っている。

 

 だからこそ納得がいかない。

 これ程の腕を持ちながら、何故あんな悪辣な飛び方をするのか。

 どんな理念で戦場に立っているのか。

 いまこの瞬間も俺を品定めしているのだろうか。

 

「………っ」

 

 動いた! ループから脱出しそのまま岩山にパワーダイブする。

 再ループに入りかけるところを急制動をかけてからダイブ。

 遅れかけたが。スピードならF-15Cの方が上、直ぐに追い付ける。

 

「くっ、ぬぅぅぅ」

 

 旋回性能は流石はスホーイの最新型。

 カナード翼のオマケつきのSu-30SMはするすると流れる水のように岩肌を縫うように飛ぶ。

 

 またクルビットで上から? それともオーバーシュートか? 

 開けてビックリ箱じゃないんだぞと思いながら敵の姿を捕らえる。奴は曲がることなく直進して岩の間を飛ぶ。

 

 兵装をミサイルに変えてロック開始。雲と雨でシーカーがブレながらロックするその時を待とうとしたが。

 

 すると信じられない光景が飛び込んできた。

 

 相手は何を考えたのか。こちらに背を向けているにも関わらず、なんとその場で機体をクルビットで半回転してこちらに頭を向けた。

 そして鳴り響くミサイルアラート。奴の翼に懸架されたミサイル2発に火が入った。

 

「馬鹿かこいつ!!?」

 

 なんと最悪のタイミング! 

 思わず操縦桿を横に倒そうとしたが左右に岩山! 

 なにも考えず無我夢中にスロットルを前にぶったたき。フレアをばらまきながら奴の下を滑るように下降し。上下逆さまのまま撃たれたミサイルを、間一髪で避け………きれなかった。

 

「スペア15被弾! 大丈夫か!?」

「うあー! そ、損傷率………30! まだ行ける! まだ飛べる!」

 

 後方ミサイルなんて、なんちゃってゲルプ隊かあいつは! しかもこんな狭い岩山で敵に背を向けた状態で! 

 なんて胆力! ハイローラーを上回る博打打ちだ! 

 

 背後を取られると思った俺は速度を下げず大回りで状況をリセットする。

 奴をレーダーで確認して急旋回。雲に隠れてるが、まだ奴は岩山の中にいる。

 

《Alert System Malfunction》

『つっ………』

 

 気のせいだろうか。最初と比べて幾分かキレが鈍い。

 度重なる対G機動で疲弊しているのか? 

 

 グングン加速し、視界に大きく写るフランカー。

 ミサイルの射線……3000……2500……通った! 

 

「FOX2!」

 

 また岩肌に吸われてはたまらないから慎重に一発。

 行けるか────やった! 

 

「すげぇ、当てたぞ! 雲の隙間から視認した」

「マジかよ………」

 

 ヒット! だが致命傷ではない。もっと近づくんだ! 

 

 しつこく追い回して機銃で相手を威嚇する。逃がすものか! 

 

《Warning Warning》

『うっ、くふ………』

『こちらソル2。ソル1、大丈夫ですか』

『こちらは大丈夫だ、手出し無用』

 

 撃つ! 更にもう一発! 

 開けたところで感覚開けて二発発射。

 

《Alert System Failure》

『ハァハァハァ、フー、ハァー』

 

 回避しようとした敵機だがガクンとキレが消え。直線的な動きになった。

 貰った!! 

 

《Alert! Missile! Missile!》

『っ!! ハァッ』

 

 Su-30SMがミサイルが当たる寸前に息を吹き返し、180度ロールからのダイブ。

 だが下降する敵を追うミサイルはまだ生きている。

 フレアをばらまきバレルロール。だがタイミングの遅れたフレアに吸い寄せられ炸裂した破片がSu-30SMに振りかかった。

 

「スペア15、着弾を確認! だが敵はまだ生きてるぞ!」

「くそっ! ディフェンスが上手すぎる!」

 

 3発! SASMとは違ってちゃんと至近距離で着弾した筈なのに機体を反らして致命傷を避けやがった! 

 

 だけど当てれている。拮抗は崩れてきている。

 

 勝てる! 勝つんだ! そいつを落とせリヒト! 

 

 ブラウニーとチャンプの仇をいまここで! 

 

 飛び続けているが先程とは雲泥の差となった死に体の化け物にトドメを刺すべくF-15Cは雲を切り裂いて飛翔する。

 今度こそ、避けられない位置で確実に。

 

「木っ端微塵になれ! クソ野郎がぁぁっ!!」

 

 ロック………

 

「トリガー、チェックシックス!」

「後ろ!?」

 

 背後からミサイル多数! 

 ハイGターンで回避、HUDには奴の直掩機のSu-30M2が2機。

 

『こちらソル2。ソル1、応答してください』

『手出し無用と言った筈だ』

『ソル1。バイタルが何度もレッドゾーンに入っていました。雷雲も近づいている。タイムアップです』

『………………了解した』

 

 Su-30SMが直掩機を連れて西に舵を切った。

 距離を開く訳ではない。あれは。

 

 逃げる気だ。

 

「ギリッ!!」

 

 奥歯が砕けたと錯覚する程噛み締めた。

 

 アドレナリンが燃え、シナプスが揃って弾けた。

 

「ふざけるなぁぁぁぁ!!!」

 

 スロットルMAX、アフターバーナー全開。

 シートに身体がめり込み、ベルトが身体を締め付ける。

 

 Su-30の編隊がみるみる遠ざかっていく。

 

 速度計がとっくに3000を越えたというのに。あのオレンジ色がどんどん霞んでいく。

 

「逃げるな! 逃げるな卑怯者! 俺はまだ戦えるぞ! まだ飛べるんだぞ! あれだけ他人を弄んでおいて逃げるのか! 卑怯者! 最後まで戦え! 戦えぇぇぇ!!!」

 

 声を張り上げるも奴らはお構いなしに離脱していく。

 

 逃がすものか逃がすものか逃がすものか!! 

 

 やっと出会えたんだ! やっと見つけたんだ! 

 

 ここで落とさなかったら本当にあいつらは犬死にだ! 

 

 まだミサイルは残ってる! 3機相手でも負けるものか! 

 

「スペア15! 追跡をやめろ! お前の任務は正規部隊の救出だ!」

「駄目だ駄目だ駄目だ! ここであいつを落とす! じゃないとまた誰かが死ぬ! 絶対に落とさなきゃ!!」

「戦闘区域外に近づいている! それ以上は脱走と見なす! 戻れトリガー!!」

「うるさい! 俺は!!」

 

 ピーー。

 

「止まれ大馬鹿野郎! 無謀にも程があるだろうが!!」

「っ!?」

 

 オーバーヒート寸前の頭に冷や水をぶっかけたのはミサイルアラート。

 周りには敵機はいない。俺にレーダーを向けたのは海洋迷彩のSu-33。味方機だった。

 

「……カウント?」

「たくっ。速すぎんだよお前は………」

 

 呆れた彼の声に俺はやっとのことスロットルを下げて速度を落とす。

 戦闘区域のレッドラインは直ぐ目の前だった。

 

「なんで、お前。逃げ出した筈だろ」

「逃げてねえ、戦略的撤退だ。って二回も言わすな馬鹿野郎。良いから反転しろ。お前とやりあうなんざごめんなんだよ」

 

 カウントの旋回に合わせて俺もゆっくりと機首を転換した。

 雷雲はインシー溪谷を過ぎ去り、元の雨と風の戦場に戻っていた。

 

 前方から味方機が近づいてくる。

 タブロイドのミラージュ。

 

「トリガー! 無事だったか!」

「あ、ああ………」

「よかった。こっちは気が気でなかったぞ。寿命縮むかと思った」

 

 タブロイドが安堵の息を吐くと。俺の頭と身体から一気に熱が逃げていった。

 冷静になると同時に直近の記憶が鮮明に思い出され、身体が震えに震えた。

 

 俺は何をしていた? 

 

 冷静さを忘れ。憎悪に身を浸し。復讐鬼となって奴を殺そうとしていた。

 敵なのだから容赦などいらない。だけど俺は命令違反してまであいつを地の果てまで追い詰めようとしていた。

 

 本来の任務すら忘れ。

 自分の命すらかなぐり捨てて。

 

「あ、あぁ。あぁぁぁ」

 

 憎しみだけで飛ぶなんて、何をやってるんだ俺は!

 クラウンやノッカーに憎しみだけで飛ぶなとあれ程言われたのに。

 これじゃ灰色の男たちと同じじゃないか………

 

『こちらサイクロプス1。バンドック、我々は無事に戦闘区域を離脱出来た。感謝する。番犬どの、しんがりを勤め抜いたF-15Cのパイロットはどういう奴なんだ?』

「うちで一番の大馬鹿野郎だ」

『成る程な。馬鹿でなければああは飛べん』

「第444航空基地へ誘導する。燃料がもたないだろう」

『感謝する。基地で彼に会えるか』

「関わらないことだ」

 

 バンドックが正規軍と何か話している。

 俺はようやく気持ちの整理をつけることが出来た。

 

「落ち着いたか、スペア15」

「あぁ。すまないバンドック、どうかしていた。処罰は甘んじて受けるよ」

「お前に逃亡の意思はなかった。そして結果的に逃亡してはいない。最後の暴走は追って検討するとしよう」

「随分と甘いじゃないかバンドック」

「当然だ。トリガーがいなかったら全滅だったんだ。本当に凄い奴だよ。カウントもそう思うだろ?」

「さてな………」

 

 二人の会話を耳に流しながら戦闘が終了したことを確認する。

 ドッと疲労感が浮上してきた。だけどまだ終わりではないだろう。

 

「スペア隊。サイクロプス、ストライダー両隊を444基地に誘導する。引き続きしんがりに入れ」

「ウィルコ。トリガー、疲れてるだろうがもうひと踏ん張りだ」

「オーケー。まだ大丈夫だ。スペア15、しんがりに入る」

 

 スロットルをゆっくりと倒し。遠方の正規軍、あのクソッタレな基地に向けて進路を取った。

 

 ──こうして。

 インシー溪谷を舞台とした救出戦は終わりを告げた。

 

 オレンジの翼端のSu-30SM。

 奴はまた現れるだろう。

 もっと腕を磨かなければ。また目の前で誰かが死ぬことのないように………

 

 そして。二度と憎しみに心を奪われないように………

 

 

 

 

 

 

*1
ズィルバー(ケラーマン)のTACネーム

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