エースコンバット7 FLIGHT REZON   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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STAGE32【Wiseman(食えない男)

 

 

 

 戦闘機を組み立てていると、遠くから聞きなれたジェット音が聞こえてきた。

 

 エイブリルはハンガーの外に出て空を見上げる。

 F-16CとF/A-18Fの編隊。警報が鳴ってないということは444の機体だ。

 

「ん?」

 

 1本線の面々が次々と滑走路を滑っていく。

 その中に政治犯のミラージュ、詐欺師のSu-33。暴力犯のMiG-29A、そしてハーリング殺しのF-15Cの姿がない。

 前者3人ならまだしも、あのトリガーがやられたのか。

 

「おい、これだけか? 詐欺師やハーリング殺しは?」

「知らねえよ、まだドンパチやってんだろ」

「なんだ、逃げたのかお前ら」

「アホ言え! あんな化け物と一緒のとこにいられるかよ、たくっ!!」

 

 悪態をつきながら兵舎に戻る犯罪者どもに舌をうちつつ、エイブリルは通りすぎようとするガリガリの男、フルバンドを捕まえた。

 

「おい、何があった」

「これはこれはスクラップ・クィーン。いつも無関心で無愛想なあんたが珍しいじゃねえか」

「御託はいい、何があった」

「敵にすげぇのが現れたんだよ。チャンプが真っ先に喰われて、続けざま2機と正規軍1機がやられたのさ」

「それでお前らはおめおめ逃げ帰ったんだな。んで、ハーリング殺しはどうした」

「タダでは教えてやらないね、情報には対価が」

「じゃあいい」

「あっ、おい」

 

 呼び止めようとするフルバンドを袖にしてハンガーの中に戻った。

 

 ギーコギーコ。

 

 戦闘機を組み立てる。

 いま作り出してるのはここじゃなかなか見れないものだ。

 誰が乗るかなど知ったことではないが。半端な作業はエイブリルのプライドに関わる。

 彼女は決して空飛ぶ棺桶を作ってるつもりはないからだ。

 彼女は常に今出来る最高のものを作り上げる。

 一つ一つパズルのように、モスボール同士をキメラしながら。

 

 それから十数分後、爆音が聞こえた。

 

 エイブリルは再び顔を上げる。

 聞いたような音、だが妙だ。

 同じ音が幾重にも重なっている。

 

「………あ?」

 

 遠目に見えたのはF-15C。

 トリガーが戻ってきたのかと思ったが、1機ではなく6機のF-15Cが見えてきたではないか。

 

 444のF-15Cではない。誘導員が出てきているということはあれは友軍なのだろう。

 よその機体がここに降りてくるなど少なくともエイブリルは見たことがなかった。

 

 滑走路を滑るイーグルは、やはり444所属ではない。オーシアのエンブレムはあるが、罪線が引かれてなかったから。

 ハンガーに滑り込み、見てわかる良い物のパイロットスーツに身を包んだパイロットも見たことがない。

 

「あっ、デブ司令? なんでいんだ」

 

 普段外に絶対に出ない444基地司令官マッキンゼイが黒人の隊長らしい人に気色悪い笑み(本人は精一杯の笑み)をしながらすり寄っていく。

 

 スリスリと胡麻をすりながら来た胡散臭い奴の相手をされるとは可哀想に。

 わざわざ見るものではないとエイブリルは顔を背けた。

 

 正規軍の面々がマッキンゼイに連れられて2分か3分。

 

 三度目。音は4………いや3種類。

 

 Su-33、ミラージュ 2000-5、そしてF-15C。

 

 ランディングギアを下げてSu-33が真っ先に着陸する。

 

(真っ先に逃げそうな男が殿とは、どんな心変わりだ?)

 

 政治犯のミラージュ 2000-5が着陸、そしてF-15Cがいささか乱暴に着陸した。

 いつもお手本のように綺麗に着陸する奴が珍しい。

 タブロイドがしきりに後ろのトリガーを伺いながら誘導路に入っていく。

 

「こいつぁ」

 

 トリガーの機体は損傷していた。

 この基地で一番の腕を持つ彼のイーグルの主翼が焼け焦げている。

 逃げてきた奴らの言葉は嘘ではないことがわかった。正規軍もそれにやられてここに緊急着陸したのだろう。

 

 ………トリガーがいつまでたっても降りてこない。

 そんなに疲れてるのか? といぶかしんでいると、タブロイドが慌ててF-15Cのキャノピーに張り付き、彼らしからぬ大声を上げた。

 

「誰か! 誰か手を貸してくれ! 担架もだ担架! 早く! トリガーが!!」

 

 これはただ事ではない。

 彼の必死な形相に流石のエイブリルも見て見ぬふりは出来ず駆け寄った。

 

「手伝うか」

「ありがたい、今からトリガーを下ろすから受け止めてくれ」

 

 キャノピーを開くとぐったりしたトリガーが。

 ヘルメットを脱がし、二人で外に連れ出して座らせた。

 

「トリガー、大丈夫か?」

「タブ、ロイド? あ……すまん。世話かけ………」

 

 ガクッ、と最後の力が抜けたトリガーがタブロイドに倒れかかる。

 ピクリとも動かなくなったトリガーを見下ろしてエイブリルは一言。

 

「死んだか?」

「おい滅多なこと言うなよ!?」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「………ん」

 

 快適とはお世辞にも言えない目覚め。

 

 見渡すとパイプベッドが等間隔でズラリと並んでいる。医務室のようだ。

 外を見るともう夜になっていて。

 

「いてててて」

 

 身体中に鈍い痛みが疼く中なんとか起き上がる。

 

 えーと、確かオレンジ野郎と戦って。正規軍の殿に入ってなんとか基地に戻ってでも力入らなくてタブロイドに。

 

「落ちたのか俺………いてー」

 

 ていうかほんとに痛いな。

 胸あたりをさすり、何気なしにシャツのめくり上げてぎょっとした。

 

 シートベルトの痕だろうか。両肩から腹にかけて帯状に紫のラインが出来上がっていた。

 目に見える形で出てきた内出血に思わずウゲっとなる。それだけ奴とのドッグファイトの激しさを物語っていた。

 

「過去一最悪のフライトだったなぁ」

 

 嵐のなか風に揉まれ。何回も何回も落雷による音と光の応酬。

 正規軍救出という重圧の中、たった一人で全てのUAVを撃ち落とし。

 クソ野郎に次々と仲間を落とされて………

 

「チャンプ………」

 

 また親しい奴を失った。

 今回は、いや今回も仕方なかった。俺では助けられなかった。どうあがいても遠かった。手の届かないところで死んでしまった。

 

 恐怖のどん底に落とされて殺されてないだけブラウニーよりマシだったのだろうか。

 

「あークソ」

 

 ブラウニーの悲鳴思い出しちまった。

 忘れては行けないとわかっても思い出して気持ちいいものではない。

 ブラウニーのこと思い出そうとすると先にソレが出て全部塗りつぶしてしまう。

 

 ベッドの横に置いてあるミネラルウォーターのペットボトルを乱暴に開けて一気に半分まで飲み干す。

 

 ガチャ。

 

「おっ」

「ふぉ?」

 

 医務室にお客様。

 ペットボトルを咥えたままの俺はなんともアホい声を上げてしまった。

 

 444で見たことない下ろし立ての真新しく綺麗なオーシアのフライトジャケットを着た、スキンヘッドの割には温厚そうな黒人の男性………

 

「どちら様で?」

「他人に名前を聞くときは、まず自分から名乗るべきではないかな?」

「す、すいません! 自分は」

「ハハハ。冗談だよ、驚かせてすまない、隣座っても?」

「どうぞ」

 

 失礼する、と男はベッドに座る。

 なんかさっきから値踏みするように見られてるような、てか444にこんな人いたっけ? 

 

「では改めて。俺はアダムス・ハルベルト中佐、TACネーム、ワイズマン。第122戦術戦闘飛行隊サイクロプス隊隊長サイクロプス1だ」

「リヒト・パーマー………少尉。第444航空基地飛行隊スペア隊所属スペア15、TACネームはトリガーです。あなたがサイクロプス1?」

「ああ、君に助けられた部隊の編隊長だ。今日はありがとう、パーマーくん」

 

 なんと正規軍の編隊長だった。

 

 差し出された手に伸ばそうとした手が途中で止まった。

 不思議そうな顔をする彼の前で手を引っ込め、代わりに頭を下げた。

 

「申し訳ございません」

「何故謝る」

「部隊の1人を戦死させてしまいました。我々の不手際です。本当に、申し訳ございませんでした!」

 

 謝って済む問題じゃない。こんなことしても死んだ人は戻ってこない。

 だけど俺たちはしくじった。任務を果たせなかった。444が腰抜けばかりだとしても彼らにそれは関係ないのだから。

 

「頭を上げてくれ。あの状況では誰も手出し出来なかった。いや手出し出来ていたとしても結果は変わらなかっただろう。それに君が謝るのは筋違いだ。君は我々の救世主なのだからね」

「そんな、自分は」

「おいおい。あの空域で我々全員君に助けられたんだぞ。嵐に揉まれ、落雷が降りそそぎ、弾薬もフレアもない絶望的な状況。誰もが死を覚悟した戦場から救いだしてくれたのは他ならぬ君だ。しかもあのミスターXを追い払ったのだから」

「ミスターX?」

「誰も素性の知らない、何もないところから行きなり現れた実験部隊の凄腕Xプレーン乗り。君が戦った翼端がオレンジのSu-30ことだよ」

 

 オレンジ野郎。ミスターX。

 それが奴のコードネームというわけか。

 ふざけた名前だ………

 

「自分は奴を逃がしました。仕留めることが出来なかった。あそこで落とせればこれ以上あいつの餌食になる味方が減ったはずなのに。千載一遇のチャンスだったのに、俺はそれを逃してしまったんです」

「君はあの時、ミスターXを撃墜できると思っていたのかい?」

「奴の動きが途中から鈍くなっていました。何があったかは知りませんが、次で落とせると思いました。あの時奴の僚機の横槍がなければ………落とせたかもしれません」

 

 タラレバの理論だとしても、あそこで落とせるという確信があった。

 ミサイルの破片がエンジンを巻き込み、爆散するビジョンは確かにそこにあったのだ。

 

「奴を前にして、恐ろしくなかったのか」

「恐れなんて、感じてやるものですか。あいつは敵を弄んで殺すクズだ。わざわざ恐怖を植え付けてから殺すファイターパイロットの恥さらし。だから俺は恐怖なんかしない、絶対に! 次は必ず落として見せます。落とさないと、また誰かが死ぬ………」

 

 頭を抱えて長々と喋り続ける俺を前にしてもハルベルト中佐、ワイズマンは黙って聞き続けた。

 

「いつも目の前で死んでいくんです。昔からいたライバルも、俺の為に博打をしてくれた奴も。乱暴そうに見えて実は気の良い奴も。自分はいつだって間に合わない! 大統領だって、俺がもっと上手くやれていたら」

「…パーマー少尉、君は大統領暗殺の件でここに拘留されたと聞いたが」

「俺は殺してない!」

「………」

「あっ。すいません。あなたに言っても仕方ないのに」

「いや、吐き出す時に吐き出すものだ。こういうのはな」

 

 顔を上げると、ワイズマンはとても優しい目で見ていた。

 親が子供を見守るような眼差しを直視できず顔を背けたが。彼に甘えて吐き出すことにした。

 

「自分は、ハーリング大統領のことが好きでした。環太平洋戦争で監禁され、国を滅茶苦茶にされたのにも関わらず。人々がベルカを一緒くたにして差別したなか、ハーリング大統領はベルカ強硬派とベルカ市民をちゃんと区別してくれて。自分も一応オーシアに国籍置いてますけど、ベルカ人でもあるので」

「そして君はオーシア軍人となり、ハーリング元大統領の救出に向かった」

「先遣隊として選抜された時は嬉しかったんです。ベルカ人でも認められることがあるんだって。だけどそれは間違いだった。多分、自分はあの時マークされた。ベルカ人というスケープゴートとして」

 

 あの時馬鹿みたいに浮かれていた自分を殴りたい。

 結局お上の奴らは反ベルカという古臭い考えを一掃出来ずにいたんだ。

 

「軌道エレベーターで初めてハーリング大統領と話した時。自分は感銘を受けました。救出困難な状況になった時、彼は自分たちを置いて逃げろと言ったんです。本物の英雄だと思いました。他人のために自分を投げ打つ、崇高な目的と思想を実現できた人だと」

 

 ユリシーズで苦しんだユージア大陸を救うためにあんな大きいものを作り上げて。なのにあの人は死んでしまった。俺の目の前で………

 

「教えてください。何故あの人は死ななければならなかったんです? なんでみんな恩を仇で返すようなマネをするんですか。少数の野心の為にあの人は死んだ。エルジアが馬鹿みたいな理由で戦争を起こさなければ、あの人は死ななかったのに。自分の国の人間にさえ陥れられて、そんなの………あまりにもむごすぎる」

 

 頭にこびりついて離れない。審問会の役員のにやけた顔。

 自国の英雄を追悼する心など欠片も感じられない低俗な空気が………

 

「自分の国、オーシアのことか? どういうことだ?」

 

 ワイズマンの問いかけに俺は裁判での1ヶ月を全て話した。

 箝口令なんかしかれてないんだ。言っても仕方ないし変わらないと思っていたからもう赤裸々に。

 

「………………」

 

 ワイズマンは口元をおさえ、中盤は頭をおさえ、最後には目元をおさえてしまった。

 うん、そうなりますよね。自分で喋ってもそうですもの。

 

 会って十分ほどとは言え、彼の人となりを理解してきた。

 この人は立派な軍人だ。あくまで表面しか見てないが、彼は全うに自分の仕事に誇りを持っている。

 444に慣れてきた俺には眩しささえある。

 

 そんな彼の祖国が自国の英雄を謀殺した可能性が出てきた。

 まだ憶測の域を出ないとしてもショックを受けるのは無理もなかった。

 

「君の言葉が全て真実だとしたら」

「はい」

「茶番もいいとこだな」

「わかって下さいますか」

 

 数少ない理解者が増えたことに俺は柄にもなく受かれた。

 よかった、やっぱりあれっておかしかったんだ! 

 

「供述には祖国ベルカの敵討ちと書かれていたが」

「犯行の動機すら捏造されるとは………」

「君としてはどう思う。灰色の男やそういう人たちは」

「一人残らずこの世から消えれば良いと思いますね」

「お、おう」

 

 食い気味に答えた俺から圧が出たのかワイズマンは一瞬怯んだ。

 

「見てくださいこの頬の傷、中学の頃強硬派ベルカに父親殺された娘が『お父さんの仇!』って言ってナイフで斬ってきたんです。自分全然関係ないのに! たまたま近くにいたベルカ人ってだけでこの扱いですよ! あんまりじゃないですか!」

「そうだな。パーマー少尉、もっと吐き出すといい」

 

 え、ありがとうございます。

 ではお言葉に甘えて。

 

「あと自分がベルカ人じゃなかったらハーリング殺しの犯人に仕立てられなかったんじゃないかって思うんですよ。いやそんなことないなきっと俺が戦果を上げまくったから邪魔になったんですね。オーシアってエースパイロット謀殺するのが趣味ですしね、ガルムとかウォードックとか。これだからオーシア上層部は!」

「耳が痛いな」

 

 苦笑いしながらワイズマンは相槌をうってくれた。

 ごめんなさい。吐き出せと言われたから心がスッとなってしまって。

 

「君は国境無き世界の幹部と親密な仲だったと聞くが、本当か?」

「ええ。ラリー・フォルク、マルセラ・バスケス、アンソニー・パーマー。彼らと出会ったおかげで自分は生きながらえることが出来ました………彼らは皆、自分の行いを悔いていました。自分たちのようになるなと何度も言われました」

「つまり報告書に書かれていた国境無き世界の思想については」

「心底下らないと思います。確かに当時のオーシア政府は人でなしの極地で、ぞんざいに扱われた兵士の気持ちは濡れ衣で罪人となった今となっては共感するものはあります。ですが核を使って世直しなんてはっきり言って飛躍しすぎですし、そもそも国境線なくしたぐらいで戦争なくなるならとっくに戦争なんてなくなってますよ! なのに小耳の良い言葉でみんなをそそのかして。マルセラさんは恋人と死に別れ、アンソニーは重要共犯者としていまも監視されながら生きて。ラリーは、ラリーは生涯の相棒になるはずだった人と殺しあいに………おのれ、ジョシュア・ブリストーー!!」

 

 くそったれジョシュアへの怒りが爆発し、布団に拳を叩きつけた。

 あまりの剣幕にワイズマンも一歩引いて汗をタラリとたれてしまった。

 

「フー、フー、フー………ハーーー」

 

 と胸の内を吐き出しまくった俺は何処かスッキリとした顔をしていたそうな。

 

「お耳汚し失礼致しました………とにかくいま言った通り。自分はその二組織の思想とは相容れません、むしろこの手で叩き潰したいぐらいなんです。ほんといい迷惑で」

「よく今まで自暴自棄にならずに、いやなってもおかしくなかっただろうに」

「あーそれは……。また会おうって約束した人がいましたし。空を飛べたからだと思いますね。永遠に牢獄に箱詰めされたままだったら、間違いなく気が狂っていたことでしょう」

 

 オーレッドの審問の間も暇さえあれば格子の外の空を眺め続けたものだ。

 うん、ほんと良く発狂してなかったと思う。反骨芯って凄い。

 

「空、か。君は何故飛び続ける。オーシア大陸を守りたいと言っていたそうだが」

「え、何故それを」

「ウェザール基地のハンス・ガーデルマンは知っているな?」

「元オメガ11」

「彼は同じ隊の先輩でね。彼から君のことをよく聞いていたんだ。ウェザール基地の【大馬鹿野郎】ってね。君のAWACSが言った時はもしやと思ったよ」

「え、もしかして中佐も元メビウス中隊の?」

「いや、私はメビウス中隊には入らなかった。だが彼、メビウス1と戦場を飛んだことはある」

 

 大陸戦争でメビウス1と飛び、オメガ11と同じオメガ隊で旧知の仲。

 世界って狭いな。

 

「あの、さっきシャウトした癖にこんなこと改めて言うのもあれですけど。笑わないで下さいね?」

「笑わないとも」

「………探してるんです。父が見たという、空と一つになれる場所を」

「お父上。アレクセイ・フォン・フリューゲルか」

「はい。父とは面識も記憶もないですが、父さんがそれを見たと当時の2番機の人に聞いたんです。それを聞いた時、これだって思って」

「それは見つけられたのか?」

「いいえ。ですが自分が目指す空は戦場の空にはないのだと思います。だから飛び続けるんです。こんな馬鹿らしい戦争を終わらせて、目指す空を見つけるために。それが自分が飛ぶ理由です」

 

 色んな空を飛んだ。

 だけどまだ見つけれてないから、死ぬわけには行かないし、死ぬつもりはないし。

 督戦隊とか来ない限りは大丈夫と思ってるけどさ。

 

「君は正規軍に戻りたいかい」

「勿論です。自分は冤罪なのだから、ここに何時までも居たい訳ないじゃないですか」

 

 といってもほぼ諦めかけてるけどね。

 戦争終わったら俺本格的に獄中生活になるのかな………

 

「そうか。トリガー、一つ提案なのだが」

「はい?」

「君がよければ、私の………」

「ここにいましたか」

 

 ワイズマンを遮ったのは我らが強面AWACSバンドック、なんか眉ピクピクしてる、ピクピクしてる。怖い、怖いよミスターバンドック。

 

「ハルベルト中佐、指定した場所以外には立ち入らないよう伝えた筈ですが?」

「おっとこれは失礼、部屋を間違えてしまってな」

「部屋を間違うだけならそこに座る必要はないと思われますが」

「それを言うなら君にも非があるぞ大尉。件の大馬鹿野郎は重傷で面会できないと言ったがどうだ、ピンピンしてるじゃないか」

 

 いやあの、もう少し寝たいぐらい身体痛いです。

 

 ギロッと俺を見るバンドックだから怖いってば! 

 

「何を話していた」

「いやその………」

「彼がここに来るきっかけさ。なかなか身のある話だったよ」

「………」

「えっと……ハーリング殺しだってことを黙ってろって言われてませんし。言っても仕方ないですし。彼、俺のこと知ってましたし………」

「………………」

 

 無言やめて。

 いやわかりますよ? 通信も分けてたんだから正規部隊と囚人が話してるんじゃねえよカスがって話でしょ? 

 ………なんか言ってよ。

 

「中佐、部屋にご案内致します」

「ああ。手間をかけてすまない」

「トリガー、今日1日ここに居ろ。食事は後で持ってこさせる」

「了解です。あのトイレは………」

「………出て右だ、行きたければさっさと行けそして直ぐにここに戻れ。勝手に出歩けば処罰する」

 

 あ、はい。

 

 常に平常運転の番犬様にはほんとに頭が上がりません。

 退出間際にワイズマンが意味深に手を振った。

 彼は何を言いかけていたのだろうか? 皆目検討がつかない。

 

「………あっ」

 

 世間で俺どうなってんのか聞くの忘れてたわ………

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「関わらないことだ、と言ったはずですが」

「偶然さ。まさかあそこに彼がいるなんて思いもしなかったよ」

(どの口が言うのか………)

 

 目の前の賢人は魔術師マーリン顔負けの食わせ物だ。

 基地に到着して基地司令の気持ち悪い笑顔と共に出迎えられたワイズマンはいの一番にトリガーへの面会を切り出した。

 その時のマッキンゼイの顔はたまたま近くにいた整備士曰く福笑いもかくやという顔面崩壊をしながらなんとか笑顔を保てていたという。

 

 彼らを迎え入れたあと直ぐにバンドックは司令官の部屋に呼び出されてこう言ってきた。

 

「生き残ったパイロットは出来るだけ丁重に扱い、食事も充分に取らせろ。懲罰兵は全員独房だ、決して彼らと接触させるな。彼らの報告が好意的になるように丸め込まなくてはな………」

 

 基地最大の犯罪者と正規軍を面会させるとあればこの444基地がなんのための基地なのかが彼らに知られてしまう。

 犯罪者を懲罰部隊として欺瞞邀撃という動く的にし、生還率の低い作戦に投入し続ける。人道も何もない実行部隊を運用し、自分は特になにもせずふんぞり返ってるだけだということを。

 

「私自身うんざりなのだよ、懲罰部隊指揮官などという立場にはな。私はこんなところで縮こまるような器ではない、君もそう思うだろう」

 

 知ったことか、とバンドックは危うく口に出しそうになった。

 命令通り医務室で休むトリガー以外は出撃の有無関係なく全員独房に入れた。

 守るべき正規軍を守れなかった、建前としての体勢は保てていた。騒ぎになって正規軍に気づかれないよう厨房に根回しをして餌を与えて大人しくさせる。

 

 これは余談だが、トリガーも独房に入れろと司令官が言った時。皆が渋々独房に連れてかれる中、MPを振り払ってタブロイドが珍しく指揮官に詰め寄ったのだ。

 

「正規軍が全滅しなかったのはトリガーのお陰だ! 確かに1人死なせてしまった、だがあいつはその分残りの奴らを守ったんだ! 他の奴らが臆病風に吹かれて身動き取れず逃げ出した時にあいつは襲い掛かる敵を全て叩き落とした。身体に鞭を打ちながらたった一人でだ! そんな死に体の功労者すら独房に入れるなんて、あんたには人の心がないのか!?」

 

 普段は大人しい彼の怒りようにマッキンゼイは完全に圧倒され、パクパクと声にならない声を上げながらバンドックに救いを求めた。

 このままでは殺される、なんて馬鹿げたことを考えたのだろう。

 

 バンドックは詰め寄るタブロイドを遠ざけ「彼はこの部隊の最大戦力です。いま潰すには惜しいですし、この先も活躍できれば貴方の評価もまた上がる。トリガーは医務室に軟禁すればいいでしょう。あいつは早々命令違反などするような玉ではない」とこの上ない最適解を提示。

 司令官が黙って何度も頷いた姿はなんとも滑稽だった。

 

 結果的にそんな数々の目論見も水泡に帰したのは言わずもがな。

 サイクロプス隊隊長はこの基地の実態を把握し、トリガーのハーリング殺害の件にも精通してると来た。

 トリガーの情報を知ってると言うことは、ワイズマンは軍の上層部とのパイプを持ってることに他ならないことは明白。

 

 勿論。マッキンゼイの面の薄さなどとうに看破している。

 それに気付けず叶わぬ夢を見続ける彼には哀れみさえ感じられた。

 

「それで、奴に何を吹き込んだのです。廊下に響き渡るぐらい叫んでいましたが」

「何も言ってない、本当さ。ただ彼は鬱屈していたからガス抜きをしただけだ………彼は素直で実直で嘘がない。バンドック、本当に彼がハーリングをやったと思うか?」

「私はそう聞いています」

「フッ、まさかあんな中身の詰まってない報告書を鵜呑みにしてるとは言わないよな?」

 

 試すように口角を上げるワイズマンにバンドックは表情を変えず歩みを止めない。

 無論、彼もトリガーがやったことに関しては懐疑的だ。だとしても彼には関係のないこと。AWACSバンドックの仕事は彼らを使い、任務を全うすることのみ。ただそれ一点なのだから。

 

「案内はここで結構だ」

「では、私はこれで」

「バンドック」

「はい」

「彼を我々の部隊にくれないか」

「…今なんと?」

 

 鉄面皮を貫いたバンドックの顔が僅かに綻ぶ。

 ワイズマンの突然の申し出は彼の思考を止めるには十二分の威力を持っていた。

 

「彼を、リヒト・パーマー少尉を我が隊に加えたい。こちらも欠員が出てしまったのでな。腕の良い奴が欲しいところなんだ」

「腕だけなら本土から寄越してもらえば良いでしょう」

「いや、彼でなければ駄目だ。あの翼端がオレンジのSu-30。ミスターXに恐怖せず、互角の戦いを繰り広げた彼でなければならない。この戦争に置いて一番の壁はUAVでもアーセナルバードでもなくミスターXなのだから」

「あなたでは果たせないと」

「ああ。腕前だけなら彼、トリガーは俺の遥か上を行っている」

「買い被りですよ」

 

 彼は近年稀に見ることのない卓越したパイロットなのだろう。

 だが仮にもこんな僻地まで飛んでこれる部隊を率いる編隊長が自分より腕が上だと言うのは余りにもリップサービスが過ぎると思ったバンドックだった。

 

「とにかく、彼をそちらに渡すのは不可能です。彼は罪人です。その真偽はどうであれ、彼はハーリング元大統領を殺害したことでこの基地に異動になった。例え基地司令に掛け合っても無駄です。あのお飾り男に大層な権限など持ち合わせていない」

「だから君に頼んだのだ。君だってオーシア本土から特別な命をもって派遣されたのだろう?」

「私の任務はこの部隊の統括ですので」

「ハハッ。番犬どのはその名の通り職務に忠実なのだな」

「あなた程ではない、賢人どの」

 

 しばしにらみ合いのあと、彼らは互いに背を向けて歩き出す。

 ワイズマンとバンドック。道は違えど同じ命を受けた者同士。

 そんな2人は何処か予感した。

 

 ワイズマンの言の葉が、いつか現実になることを。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「ハーー」

 

 緊張が抜けたと思ったら途端に尿意が。

 しかしトイレ使えて良かった。

 尿瓶でやれと言われたらどうしようかと思ったぞ、言いかねないからなあの強面AWACSは。

 

 ていうかなんで医務室から出るなって言ったんだろ。いつものバンドックなら動けるならさっさと部屋に戻れ、ぐらいは言うと思ったのに。

 

 正規軍に会わせたくないとか。

 あり得る。思わず胡麻を擦って気色悪い笑顔ですりよるファッキンゼイの顔が浮かんだ。

 

 グロ画像だ………

 

「………あれ?」

 

 ぼんやり歩いていたらさっきとは違う道が。

 こっち医務室じゃないな………ヤバッ道間違えたか!? 

 

 しかもここ食堂から近い場所じゃん。

 不味い、早く戻らないと。

 もしここで正規軍の面々と鉢合わせしたら大変なことに。

 

「おっ?」

「ヴァっ!」

 

 鉢合ったぁ! 

 

 曲がり角から東洋系の女性と、少し歳の行った初老の男性。服装からして間違いなくワイズマンの部下だ! 

 

「あ、どうも」

「おう」

「………失礼しますっ」

「おい待て!」

 

 うわぁ! 腕捕まれた! 

 

 女の人は俺の顔をジーーっと穴が空く程見つめてきた。

 

「あ、あのー」

「左の頬に傷の童顔の男」

「え?」

「やっぱり、あんたあの時助けてくれたF-15Cのパイロットだろ! 整備の人に特徴だけ聞けたんだ」

「え!?」

「良かった会えて! あんたに会いたいと言ったんだがあの胡散臭いオッサンがキモい笑い方しながらソレハデキマセン、なーんて言ってよ! いやー良かった良かった!」

 

 凄いグイグイ来る。

 

 というかこの声どっかで聞いたな………女の人の声。

 

「あっ。借りは忘れないって言った人………」

「お、聞こえてたのか!」

 

 あー! しまったぁ! 思わず呟いちゃった! 

 

「あの時凄かったなお前。雷に打たれながら強引に飛んだだろ。他の奴らはとんだ腰抜けだったがあんたは違った。あっ、私はフーシェン! こいつはイェーガーだ! あんたの名前は? なあ、どうやったらあんな風に飛べるんだ? 私も結構イーグルドライバーやってるがあそこまで飛べたことがねえ! しかもあのオレンジと対等にやりあうなんざ、大したもんだぜ!」

「あ、え、あう」

 

 すっかり興奮の渦中のフーシェンという狐顔の女性。

 まるで子供のように目がキラッキラでもう、どうしたら良いかわからず唯々呆然としてしまった。

 

「フーシェン。そんな矢継ぎ早に喋ったら彼が話せないだろう」

「わ、悪い。でもイェーガーも見ただろ! こいつの飛び方! あんなの見たことねえ」

「確かにF-15Cでクルビットをやってのけたのは凄かったがな」

「だろだろ!」

「おいどうしたーフーシェン」

「なんだなんだ」

 

 ま、まずい! 他の人も来た! 

 これ以上はガチでヤバい!! 

 

「失礼致しましたぁぁぁ!!」

「あ、おい!」

 

 戦略的撤退! 当機は戦線を離脱する!! 

 彼女の手を強引に振りほどいて元来た道を頼りに全力で逃げた。

 

「逃げられた」

「フーシェンが悪いな」

「私か!?」

 

 

 

 

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