エースコンバット7 FLIGHT REZON   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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STAGE33【Scrap Queen(エイブリル・ミード)

 

 

 444基地に正規軍が着陸した翌日。

 正規軍のF-15Cの修理が完了し、彼らはこの基地を発つことになった。

 

「世話になったな、マッキンゼイ司令」

「いえいえ! 我々としてもあなた方を救出できたことはこの上ない名誉でございます。ところで待遇に不満はなかったでしょうか。うちのものが粗相をしなかったでしょうか。なにせうちには癖の強い奴らがいますからな。彼らが何かホラをふいたとしてもくれぐれも信じないように」

「わかりました」

「ありがとーうございます! あなた方の任務はとても険しいものだと聞いております。なにぶん我々もとても困難な任務をこなしておりまして。ええ、ええ。それは隊員も相当なじゃじゃ馬ばかりで。ですがこのわたくしの敏腕にかかれば大したことではないのですがな、ハッハッハッハッハ」

「それはそれは。では我々はこれにて」

「はい! ご武運をお祈りしております。あ、これは飽くまで些事というか出来ればなのですが。基地にお帰りの際は是非とも444基地司令官、ジャスティン・マッキンゼイ大佐の名前をお伝え下さい。ええ、それはもうほんと過酷な中貴重な成果を出してきたので………」

「ええ、ええ。そうですか、はい。ええ、ええ」

 

 で、帰り際にマッキンゼイ司令官に見送り、というより捕まってしまった。

 マッキンゼイのねぎらいの皮を被った売り込みを表情を崩すことなく、その都度を相槌を打ち続けるのはワイズマンの強靭な精神力の賜物である。

 

 マッキンゼイはそんなワイズマンに気をよくしたのか聞きたくもない自慢話を続ける。

 相手に恩を売りたい。本人はあたかも巧妙に本心を隠しているつもりなのだろうが。まったく隠せてないどころか全面に出している。

 

 全くの逆効果だと気づかぬまま。長い話が続く。

 職務に真面目で温厚なワイズマンの表情筋が引きつる音が聞こえてきた。

 

「わーお。ワイズマンの顔ピクピクしてるぜ。あんな隊長見たことねえ。フェンサー、変わってこいよ」

「悪いが遠慮する。俺じゃ平静を保てそうにない」

「てかあいつあのなりでジャスティンって名前なのか」

「ジャ、スティ、ン………クフッ」

「おいフーシェン笑うなよ。俺も耐えてるんだから」

 

 ワイズマンの部下である彼らもげんなりとしつつもマッキンゼイの似合わなすぎる名前に腹筋をやられるものが多数出てしまった。

 

 しかしこのままではワイズマンのメンタルが危うい。

 多分、おそらくだが。ワイズマンが部下にSOSの視線をよこしたような………気がした。

 

「よし、これより編隊長の救出に向かう。行くぞスカルド」

「俺なのか。ウィルコ………」

 

 部隊のいぶし銀のイェーガーは部隊1寡黙な男であるスカルドを連れて隊長の元に馳せ参じる。

 

「俺じゃなくて良かった」

「スカルドは圧があるからなぁ。あのビビリ指揮官には効果ありだろ」

「なあ、ちょっと良いか」

「ん?」

 

 エイブリルがフーシェンたちに声をかけた。

 

「おーあんたか。俺たちのF-15C直してくれてありがとな」

「礼はいらない、仕事だからな。それより聞きたいことがある。お前たちはどうやって助かった」

「どうって、他の奴らから聞いてないのか? 同じ部隊だろ?」

「生憎うちは報連相というのが全然出来なくてな。で、どうなんだ」

「おたくのF-15Cが助けてくれたのさ。他の奴らが逃げ出すなかたった1人で化け物と戦ったのさ」

(やっぱトリガーか………)

 

 予想的中。半分わかっていたつもりであったが。エイブリルとしては自分の耳で聞いたことしか信じなかった。

 

「残ったのはミラージュとF-15Cさ。でも途中からSu-33が戻ってきてよ。逃げた癖に戻ってきてミラージュを助けた」

「AWACSは使える機体だけ残すって言ってたみたいだがな」

「助けてもらって疑いたくねえが。嘘だろあれは」

「おーいお前ら! そろそろ準備しろよー!」

「おっ、救出できたみてえだな」

「それじゃな。そっちのF-15Cのパイロットに宜しく」

 

 エイブリルに別れをつげ、彼らは自分たちの機体に乗り込んでいった。

 もっと深く聞きたかったが、彼らも多忙の身。自分の我が儘で迷惑をかけるわけにはいかないとエイブリルは次々飛んでいくイーグルを見送った。

 

 確認は出来た。

 あの時トリガーと殿を勤めたのは政治犯と詐欺師。

 トリガーはまだ医務室。詐欺師には聞いても答えてくれる気がしない。

 とすれば………

 

「綺麗に飛んでくもんだねぇ。流石正規軍、キッチリしてるよな」

 

 いつの間に隣に居たのかタブロイド。

 相変わらず犯罪者とは思えない人懐っこい笑顔の男も。臭いものには蓋をしたいマッキンゼイの手で独房送りになっていた。

 そんな優男がそのマッキンゼイに詰めよったという。基地について直ぐに意識を失ったトリガーも独房に放り込む司令官にぶちギレたとか。

 

「おい政治犯」

「ん?」

「酒、好きか?」

 

 こいつなら何か知ってるかもしれない。

 そんな期待を込めてエイブリルは人生で初めて酒に誘った。

 

 

 

 

 

「ここの図書館って案外立派でな。特に冒険小説は有名どころ抑えててさ、トム・ソーヤーなんか全部揃ってるんだぜ。あんたはなんか好きな奴ある?」

「そうだなぁ………15人の少年が無人島に遭難してサバイバルする奴。小さい頃読んだわ」

「あれかぁ。あれも良いよなぁ。時にはいがみ合いながらも国や人種の垣根を超えて生きぬいていく。あんな風に世界も協力しあえたら戦争も起こらないのにな。あ、そうだ。あれ読んだことあるか? 魔法学校が舞台の」

 

 格納庫の門。木箱の上にランタンと安い酒にツマミ。

 質素でありながら444にしては幾分豪華な酒盛りにタブロイドもテンションが上がったのか先程から本の話ばかり。

 すっかり聞き手になってしまったが、エイブリルも冒険小説は割りと好んでいた方だったから普通に楽しめている。

 

 それを感じたのか彼も次々と話を広げていく。

 タブロイドは話上手だ。有名どころからマニアな本まで。エイブリルが知らない本はネタバレをしない程度に何処が魅力的なのかを語り。エイブリルは思わず今度借りてこようかと思ってしまった。

 

 まるで映画の予告のような話をする。

 

 このまま話続けても良いが生憎本命はそこではない。

 エイブリルは強引に話題を切り出す。あの悪夢のインシー渓谷の出来事を。

 

「………ああ、そんときのことか。剣山がそのまま地形になったような山を飛び回って、しかも風がしっちゃかめっちゃかの中。避難してくる正規軍のために敵施設を破壊せよって命令だった」

 

 やっと本題に入ることが出来た。

 急な話題転換にタブロイドは嫌な顔一つせず、それでいて遠くを眺めるように、あの日を思い出しながら語り始めた。

 

「敵施設じたいは楽勝だったさ。問題はその後、正規軍の後ろにはUAV。しかも後ろには豪雨落雷の嵐のオマケ付きだ」

「お前らなんか悪いこと、しまくってたな」

 

 444は程度はあれど罪人のみの部隊。

 しかもそこにハーリング殺しという極悪人が来ればお天道様もヘソを曲げる。

 

「これ以上ない悪天候の中で助けにいけと来た。俺たちは『そんなの出来るわけねえ!』って言って散り散りさ。だが1人だけ、雷雲に突っ込んで助けに行った奴がいたのさ。444が役立たずの中、そいつは雷に打たれまくられながら1人で戦域に散らばったUAVを全部撃ち落とした。正規軍全員助けてな」

「それがハーリング殺しだってのか? 冗談だろ?」

「俺も目を疑ったさ。少なくとも奴は3回も雷に打たれてた。それでもあいつは折れずに助け続けた。愚直に、振り返ることなく助けたのさ」

「大馬鹿野郎だな」

「そう思ったね」

 

 だが同時に大馬鹿野郎だからこそ飛べた。

 後先考えずに、ただ助けたいが為に。

 

「その後さ。見たことも無いような腕前の敵機が現れて、そいつらを端から食いだした。先ずチャンプが落とされ、一瞬で他の444が2機、正規軍が1機落とされた。誰しも恐怖のどん底さ、俺とトリガー以外みんな正規軍を置いてトンズラ。俺も逃げようか逃げまいかと流されてる間………トリガーから聞いたことのねえ声が聞こえたんだ。見つけた、ってな」

「なんだそれ」

「わからねえ。だがあの時のトリガーはおかしかった。理性が焼ききれたというか。怒りを剥き出しにしてそいつを追い回したんだ。あんなトリガー見たことねえ、まさにバーサーカーだったよ」

「そいつはどんな奴だった」

「オレンジの翼端のSu-30、カナード付きのSM仕様だった。チャンプの時は酷くてな。わざと追いかけさせて油断させたあとにクルビットでボカンさ。完全に遊ばれてたよ」

「オレンジの翼端、ねぇ」

 

 エイブリルには一つ心当たりがあった。

 

 祖父が現役を引退する間際でオレンジの翼端のエルジアの飛行機が現れたという。

 そいつはあっという間に味方を薙ぎ倒したという。祖父も一歩間違えれば鏖殺されていたと。

 

 だがそれは大昔の話。それとまったく同一人物ならそいつは間違いなく高齢。とても戦闘機を操れるものではない。

 わざわざ話の腰を折る程でもないとエイブリルはあえて話題に出さなかった。

 

「トリガーは被弾しながらもその化け物を追い返した。それでもトリガーは追撃をやめようとしなくてな。もう狂ったように追いかけて、戦闘区域外ギリギリでなんとか踏みとどまったのさ」

「その結果が、あれか」

 

 何度も雷に当たったのも精神的に来たのだろう。心の燃料を燃やしまくって燃え尽きて気絶するとは。

 そこまでの相手だったのか。因縁のある相手だったのか。

 

「んで、お前は遠巻きから眺めてただけか?」

「いや。俺はその化け物の僚機を相手にしてた。ていっても逃げ回って時間稼ぎさ。途中でカウントが戻ってなかったら死んでたがな」

「なんで詐欺師は戻ってきたんだ? まさか良心が芽生えたか?」

「んーー、そういえば。奴が逃げ出す直前。トリガーがカウントのことをメイジ2って呼んでたな」

「コールサイン? 伯爵様のか?」

「多分な。それが理由かはわからないが。ま、理由はどうでもいいさ。お陰で命拾いしたしね」

 

 悪運の強い奴。エイブリルが呟くと彼は困った顔をしてコップの酒を一気に飲み干した。

 

「プハァー。まったく俺らしくなかった。他人のために命賭けるなんて」

「そんな玉には見えねえ」

「まったくだ、だがトリガーの飛ぶ姿を見て、なんか火がついてしまったのさ。肝は冷えたけど、過去一良い気分になれた気がする」

「お前も大馬鹿野郎だな」

「よしてくれ。それはトリガーにこそ相応しい」

「違いない。あいつはマジの大馬鹿野郎だ」

 

 求めてた答えを見つけたエイブリルも酒を一気に飲む。

 琥珀色の酒は喉を焼き、身体中に熱を送りまくった。

 

 

 

 

 

「………」

 

 翌日、朝早くエイブリルはトリガーのF-15Cの元へ。

 エンジンからケロシンが焦げた臭いが漂う。それもかなり強い臭いだった。

 

「どうやったらここまでブン回せる」

 

 エイブリルは444のメカニックだが。軍配属になってから日が浅い。

 今まで444基地でここまで酷い臭いはなかった。

 

 その焦げた臭いが、トリガーが経験した戦闘の激しさを物語っていた。

 それから機体をよく観察していくと。内部機構の一部にボロが出ていた。

 モスボールをキメラした機体でも、安全性は誰よりもトリガー自身が保証している。生半可な整備で戦闘機は飛べないことを知っている。それほどデリケートなのだ、戦闘機というものは。

 

 雷に打たれ続けたというのは本当らしい。ボディのあちこちに細かい火傷痕。

 よく帰ってこられたと思う。だが同時に。

 

「これは次飛べないな」

「えっ?」

 

 独り言に誰か反応した。いやその誰かはエイブリルはよく知っている。

 

「あ、おはようございます」

「よう。もう動いて良いのかよ」

「お陰様で。メカニックって早いんですね」

 

 F-15Cのボディを撫でるトリガー。

 慈しむように、悲しそうにF-15Cを見上げる。

 

「ありがとうございます」

「ん?」

「ミードさんのお陰で生き残ることが出来ました。本当にありがとうございます」

「よせよせ。あたしは当たり前の仕事をしただけだ。それと、あたしのことミードって呼ぶなよ。蜂蜜酒なんて甘ったるい名字は好きじゃないんだ。お前、歳は?」

「25です」

「あたしとタメじゃねえか。エイブリルで良いぞ。敬語もなしでな。慣れてねえんだ」

「わかりました。じゃない、わかったよエイブリル」

「ん」

 

 口ではああ言ってたが。存外悪い気分ではないとエイブリルはむず痒そうに頭をかいた。

 ぶっきらぼうで愛想がないことは自覚していても、他人の善意を受け止められない程捻じくれてはいなかった。

 

「それでこいつ。もう駄目なの?」

「次は飛べないだけだ。直せば飛べるが、丁度こいつに使えそうな部品がなくてな。修理には時間がかかる。お前どんだけ無茶苦茶な飛び方したんだ? エンジンまわり本当にひでーぞ」

「嵐に揉まれ、雷に打たれ、UAVを死に物狂いで追い回した後に化け物と壮絶なドッグファイトをしました」

「だからってなぁ」

 

 ここまで機体が痛め付けられるのはエイブリルとしても想定外。

 単純にマシンの負荷がたたったか。それとも。

 

(F-15Cがトリガーの動きについてこれなかったか………)

「こいつ、いつ直る?」

「あん? そうだなぁ。早くても2週間」

「えっ、そんなかかるの?」

「普通のF-15Cならそうでもないがな。いわばこいつはF-15Cに似せるように作ったパッチワーク戦闘機だ。それにエンジンパーツも取っ替えなきゃならんから。こればかりはどうしようもねえ」

「うわー、まあ仕方ないよな。変わりの機体なんてあるのかな………」

「ククッ」

「?」

「お前ほんとラッキーだな。ついてきな」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 エイブリルにつれられ隣の格納庫へ。

 格納庫の照明がつき、一瞬目映さに目をつむる。

 

「丁度組上がったんだ。ほれ」

「これは………」

 

 俺を待っていたそいつは、オーシアではなかなか見れない代物だった。

 

 F-15やF/A-18などとは全くフォルムの違う身体の半分をしめるデルタ翼にコクピットの真横に取り付けられたカナード翼によるクロースカップルドデルタ翼。

 

 かつてサピンでは名うての傭兵。マルセラ・バスケスが使っていた愛機。

 

「ラファールM………」

 

 昔から様々な場所で愛用されているマルチロールの傑作機がそこにいた。

 

「凄い。実物初めて見たよ」

「たまたまこいつが流れてきてな。まあいつものキメラ機だし、F-15Cとは勝手も違うかもしれんが」

「いや充分だよ。ハハッ」

 

 ラリーに続いてマルセラさん機体か。

 これも運命という奴なのだろうか。

 

 なら後はアンソニーの。

 

「MTDが来ればなぁ」

「あん?」

「あ、いやなんでもない」

 

 流石にF-15 S/MTDは高級品過ぎるよな。

 いまのオーシアでも生産数低いし、こんな貧乏基地に来るわけないよね。

 

「なあ、聞いて良いか?」

「どうぞ」

「なんでお前は逃げなかったんだ。他の奴らが逃げ出した癖に」

「任務だから………って言えたら良かったんだけどさ。正直言うと、正規軍よりも敵に固執しちゃって」

「例の化け物か」

「うん。翼端がオレンジのSu-30SM」

「Su-30。珍しいものが出てきたな」

「そいつは。分かりやすく言うと仇なんだ。ここに来る前に俺の同僚がそいつに弄ばれて殺された」

「弄ばれた? なんだそれ」

 

 俺はエイブリルにミスターXのことを話した。

 

 相手を執拗に追い回し、ロックオンしていても一向に撃ってこない。

 相手の恐怖心を煽り、弱りきったところを逃さず殺す。

 そして彼女の最後の叫びを………

 

「いつも気丈な彼女が発狂したまま俺の目の前で死んでいった。今でもそいつの泣き叫ぶ声が頭から離れなくて。そして今度はチャンプを殺した」

「タブロイドに聞いたよ、遊ばれてたってな」

「俺は許せなかった。戦場では悲惨な死なんて幾らでもある。でもあれは違うだろう。何が正解かなんて言える程飛んでないけど。あの飛び方だけは許せない。あんなの戦闘機パイロットの恥さらしだ………結局逃げられたけどね」

「そうかい。だが結果的に助けられた命もあった。実に英雄的じゃないか」

「よしてくれ。結局俺は任務を果たせなかった。ワイズマン、正規軍の編隊長も気にするな、ありがとうって言ってくれたけど………わかってるんだけどね。何時までも引きずるなって」

 

 それでも目の前で仲間が死ぬのは辛い。

 仲の良い奴が死んでしまうのはより辛い。

 

 甘いと言われようと仕方ない。

 だけど俺だってそれ以上の命をうばっている。

 

 自分ばかり悲しむなんて、そんな虫の良い話があるのかと。

 

「あたしはさ、あんたのこと好きになれない」

「え?」

 

 いきなり何を? 

 俺嫌われるようなことしたっけ? 

 あっ、機体壊したからか? うん、言い逃れ出来ねえや。

 

「ごめんなさい」

「………なに考えたか大体わかるがそれじゃねえからな。話聞けよ」

 

 あれ、違う。てか俺そんなわかりやすい? 

 

「あたしの父さんはオーシア軍のパイロットだったんだ」

「だった?」

「死んだのさ。敵に囲まれた味方を助けるために殿軍を志願したんだ。結果味方は助かったが父さんは盾になって死んじまった。丁度ウォードック隊が敵性スパイだって噂が流れ初めて戦場が混沌とした時だった」

 

 当時オーシア最大のエース部隊ウォードックの敵性スパイ報道は俺も見たから覚えている。

 

 当時の市民の反応は正しく批判の嵐。誰もがオーシア政府の陰謀だの、副大統領アップルルースの仕業。姿を見せないハーリング大統領は何処だ! 彼を出せ! と大規模反戦デモが起きる勢いだった。

 軍内部でもその波紋は凄まじかったと当時参加していたクラウンとノッカーも言っていた。中にはボイコットを決め込む奴らも居たという。

 

 結果、英雄ウォードックを欠いたオーシアは度重なる敗走を繰り返し。完全な拮抗状態、犠牲者だけが増え続ける泥沼の戦いに転がり落ちた。

 いつまでも戦争を続けたい、灰色の男たちとそれにそそのかされた両国副大統領とその配下によって。

 

「あたしはこの話が大嫌いだ。周りは父さんを英雄的だの立派な最後だったと持て囃してる中で、あたしはなんて惨めな死に方をしたんだろうって思った。結局死んだら何もかも終わりだ。残ったのは置いてかれた者だけさ………だから、父さんが出来なかったことをやり遂げたあんたは好きになれないって訳さ」

 

 そういうことだったのか。

 

 エイブリルのお父さんは殿軍に志願できる程の腕はあったのだろう。

 それなのに軍に配属されてまだ半年にも満たない俺がそれをやり遂げ、なおかつミスターXという埒外の敵をも退けた。

 

 何故トリガーに出来て父は生きて帰ってこれなかったのか、と。思うのは仕方なかった。

 

「八つ当たりさ。だがあんたには少し感謝もしてる。あんたがハーリング大統領をぶっ殺したと聞いた時は。ほんの少し、本当に少しスカッとしたのさ」

「環太平洋戦争はハーリングのせいじゃないだろう」

「だが部下を制御出来ず、戦争を止められなかったのもハーリングだ。ノコノコ敵に捕まって無政府状態になったのもハーリングだ」

「………」

「だけどな。結局あたしが一番許せないのは、何時までもグジグジ考えて凝り固まってる自分自身だ。それでも私はあり方を変えられない、変えるつもりもない。オーシアが嫌いだ、軍が嫌いだ、ハーリングが嫌いだ………お前も嫌いだ、トリガー」

 

 そんな考えがあるなど、思ってもいなかった。

 それは責任の押し付け。だが自分が同じ立場ならどうか。失った人の立場ならどう思うか。

 

 エルジアの中で戦争を望まない者がいて、そいつを目の前にしたら? 

 言ってしまうだろう。何故お前たちはそいつらを止められなかったのだ? と。

 

「エイブリルはさ………ベルカは嫌い?」

「ん?」

「環太平洋戦争を起こした、ベルカは憎んでる?」

「そりゃ、大嫌いさ。ベルカは陰謀が得意だ。今まで色んなことをしでかした。父さんが死んだそもそもの原因なんだからな。なんでそんなこと聞くんだよ」

「いや………なんとなくね」

 

 普通はこんな反応なんだ。

 ベルカに殺された奴らなんてこの世界幾らでも居るんだ。勝手に落ち込んだらそれこそエイブリルに失礼だ。

 

 しばらく黙っているとエイブリルはラファールの整備を始めた。

 なにを話すわけでもなく俺は後ろからジッと整備しているところを見ていた。

 

「あのさ」

「ん?」

「お前はハーリングの最後、見たんだろ?」

「殺してないよ」

「今さらそんな風に思ってねえよ」

「え?」

「その顔で殺してたらマジでサイコパス疑うからな」

 

 褒められてるのか謎なんだが。

 とりあえずありがとう。

 

「あたしが聞いた話だと、ハーリングは軌道エレベーターを守って死んだ英雄だって報道されてるみたいなんだが。実際どうなんだよ」

「………わからない」

「わかんないって」

「あの時元大統領が操縦してたかどうかなんてわからなかった」

 

 俺たちが元大統領が乗ったオスプレイを護衛して戦域外に逃げようとした。だがその時一緒に戦っていたIUN直属部隊が軌道エレベーターを攻撃した。

 

 その後ハーリングのキャノピーにミサイルが当たった。もう駄目かと思っても守り続けたら。

 

「オスプレイは反転して軌道エレベーターに向かった。その時の操縦者は恐らく死んでいて、残ったハーリング元大統領が操縦したんだと思うけど………キャノピーが完全に破損してるなか操縦してると思えないぐらい。飛び方がしっかりしていた」

「何が言いてえんだ?」

「………あの時元大統領は操縦してなかったのかもしれない」

「はぁ? 人が操縦してないで飛べる訳ねえだろ」

「無人機なら、できるだろ」

「なっ、あっ………」

 

 エイブリルも気付いたみたいだ。

 無人機。人の意志が介在せず、AIで飛ぶことが出来る画期的兵器。

 

 オスプレイに軌道エレベーターにとんぼ返りするためのプログラムが組み込まれていたら? 

 ろくな回避軌道もせず、それでいてまったくブレずに飛ぶことが出来るのも説明がつく。

 

「オーレッドに閉じ込められてる間、ずっと考えてた。なんであそこでオスプレイは反転したのか。自ら敵のど真ん中に行ってまで軌道エレベーターに向かったのか」

「その直属部隊が攻撃したからじゃないか?」

「そうかもしれない。ハーリングがそうまでして守らなければならない理由は幾らでも考え付く。だけど、そうは思えないんだ」

「なんで」

「大統領は、自分の命より俺たちの心配をしてくれた。救出不可の状況に陥った時、誰よりも先に自分を置いて逃げろとハーリングは言ったんだ」

 

 それを裏付ける要因は他にもある。

 

 そう、偶々(・・)そこにあったオスプレイだ。

 

「オスプレイのエンジンは既にかかっていて。そんなものが無人で都合よくそんなとこにあることがおかしかったんだ」

「誘導されてたって?」

「そうだとしたら辻褄が合うんだ。オスプレイが反転した時、オスプレイから一切通信がなかった。壊れてたか、意図的にシャットアウトされてたか。或いはあの時点で元大統領も死んでいたか………」

「お前が嘘を言ってたり当てずっぽうを言ってないのは分かるが。流石に出来すぎじゃないか?」

「かもね。全部憶測でしかないよ」

 

 ………ただ。

 

「その仮説が本当だった場合。彼を殺したのは間違いなく俺だってことになる」

「なんでだよ」

「元大統領にオスプレイで脱出するよう提案したのは俺だから」

 

 そう言う俺の顔は悲壮感というのはそんななかった。

 飽くまで結果論だし、そんなこと言っても仕方なすぎる。

 タラレバ理論、バタフライエフェクト。

 何を言っても過去は変えることなんて出来ないのだから。

 

「ハーリング元大統領の死にはほぼ間違いなくオーシアも関わってる。もしくは主犯格だったりしてね。そいつらは俺をここに送れば直ぐに死ぬとでも思ったんだろうさ」

「結果、お前はこんなとこに流されてもエースパイロットやってますと」

「何処ぞの化け物メカニックがスクラップビルドしたモスボール機でね」

 

 どんなフィクションストーリーなんだか。

 自分でも笑えてくる。

 

 あー、なんか久々にスッキリした気分になれた気がする。

 ワイズマンや彼女にあらかたぶちまけたからだろうか? 

 

「今思ったけどさ。それあたし聞いて良かった情報だったか?」

「共犯だね、俺たち」

「うわっ! たち悪い! お前実は性格悪いだろ!」

「聞いてきたのエイブリルじゃないか。俺答えただけだし」

「最後がどうだって聞いただけでそこまで詳しく言えなんて言ってねえよ!」

「君だって聞き入ってたじゃないか!」

 

 しばらくやいのやいの朝方から騒いで他の整備士連中が入ってきた。

 意外と時間は過ぎていたらしく。俺も通常業務の為に戻ることにした。

 

 あ、ついでに世間だとハーリング死亡はどう報道されてたかと言うと。

 

「事故死?」

「そっ。さっき言ったみたいに軌道エレベーターを守ろうとして流れ弾に当たって御陀仏だとよ。ソースは情報屋じゃなくてこの基地の正規軍だから間違いないと思うぜ。つまり世間的にはお前はハーリング殺してねえんだとよ」

「そっか………」

 

 だからといって現状が変わる訳ではないが………だけどベルカ人が殺したって報道されなくて良かったかな。

 それこそハーリング大統領の人生を否定することになるだろうし。

 

「それじゃ。俺のイーグルを宜しく。エイブリル整備士」

「初っぱな壊して死ぬんじゃねえぞ。ハーリング殺し様よ」

「ハハっ」

 

 ハーリング殺しって言われても笑って返せるようになった自分に驚きつつラファールMのハンガーを後にした。

 イーグルとは系統が違うからな。早く飛んで慣れとかないと。

 

「………MTD、ねぇ」

「あ、どうしたエイブリル」

「なんでもねえよ」

 

 

 

 

 






ハーリング殺害論は色々説ありますよね

実は生きてる説………はないと思います。もし生きてたら戦争終結まで身を隠してる訳ないです。あの益荒男が。
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