エースコンバット7 FLIGHT REZON   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

39 / 60
STAGE38【Crime and Punishment(自業自得)

 

 

 戦争でもっとも恐ろしいことは。

 味方から撃たれることだ。

 

 ホーネット12機。その味方であるはずの戦闘機から警告なしにミサイルと機銃が襲ってくる様は。

 まさしく地獄に相応しいだろう。

 

 既に欠員2名を出したスペア隊8機と12機の味方機、総勢20機が入り乱れたそれは正にカオスの極みと言える。

 

 混沌極めたその場において、もっとも良いニュースが一つだけ。

 

「こいつらは味方機じゃない!」

 

 バンドックがホーネットたちを敵機と判断したことだけだろう。

 

「まさかIFFを偽装しているのか!?」

「現世代のIFFは衛星経由で統合戦略システムにつながっている。解析は不可能だ!」

「つまり用済みだからってあんたが督戦隊が呼んだって訳じゃないんだな!?」

「それなら既にFCSをロックしている!」

「納得だ!」

 

 とはいえとんでもない事態だ。

 

 IFFの擬装。これがもしエルジアの策だとしたら戦時法違反どころの騒ぎじゃない。

 これまでのクリーンな戦争というイメージをちゃぶ台返し、末代まで語り継がれるような蛮行だ。

 

 ………或いは口封じするためにオーシアのクソッタレ上層部が懲罰部隊ごと俺を消しに来たか。

 とにかく今は後者じゃないことを祈るばかりだ。

 

「誰か俺の後ろを飛んでるか!? こいつ、敵なのか!?」

「なんであいつらは同士討ちしないんだ!? 正確に俺たちを狙ってやがる!」

「マークや機種で見分けられないか!?」

「そんな余裕ねぇ!」

「トリガー! お前の目なら追えるんじゃないか!? いつも敵のネームドを判別してるお前なら」

「やってるけど!」

 

 俺ら懲罰部隊と擬装敵機の明確な違い。それは罪線だ。

 敵には罪の証である白線が刻まれていない。それを見破ればギリギリ行けるだろうが………

 

 敵は懲罰部隊と同じグレーカラー。更に下は白色。そして快晴の太陽が放つ光で白飛びしている。

 更に悪いことに。

 

「敵はホーネットだけだけど、あっちもオーシアが使う灰色迷彩だ! 仮に見分けられたとしても、こっちに同じ色のホーネットが居る以上誤射しかねない!」

「トリガーでも駄目か」

「そもそもこれまでのネームドはカラフルだらけだろ。いやそれでもおかしいがよ!」

「このままでは全滅だ。全機、いったん雲に逃げ込め! 相手の目をくらます」

「だがその後はどうする!?」

「………」

 

 バンドックからの返答は、ない。

 正しく前代未聞の事態に案が浮かばないのも無理はないだろう。

 

「とにかく今はしのぐしかない。この状況で撤退しても後ろから刺される!」

「万事休すだな」

「雲に入れ、雲に!」

 

 速度を殺さずに雲にダイブする。

 これである程度散らせれば良いが、ミッション始めより雲が散らばってしまっている。

 つまり敵から俺たちの姿が見える! 

 

「駄目だ、被弾した!」

「格闘戦になっちまった! どいつが敵だか見分けがつかねえ!」

「スペア1! チェックシックス! ミサイルだ!」

「スペア1、ロスト。くそっ、このままでは」

 

 正に嬲り殺しだ。敵は寸分違わずこちらを追い込んでくる。ほんと一体どんなカラクリだ!? 

 

 塗装も一緒、IFFも一緒。

 こっちはホーネット以外殺せば良いのならまだしも。先ほど落ちたスペア1はホーネットに乗っていた。

 味方に誤射せず、正確に的確にこっちを落とした。

 

 打つ手がなかった。

 今までこれ程追い込まれた状況はあったか。

 これならインシー渓谷のミスターXの方がまだ戦いようがあったように思える。

 

 一か八か切り込むか。だがもし味方を殺したら………

 

 軌道エレベーターでオスプレイが、ハーリング元大統領が落ちたあの瞬間が頭に過った。

 

 震える操縦桿、思わず諦めが見え隠れし始めた………

 

「全機! 俺、いやトリガーの周りに集まれ!」

「なんだって!?」

 

 タブロイド? いったい何を。

 

「バンドック! トリガーとその周囲の輝点を味方として識別登録できるか?」

「タブロイドは何を言ってる!」

「無駄だ、そんなことして何になる!」

「何もしなければ全滅だ!」

 

 俺を輝点

 そうか、そういうことか!! 

 

「………可能だ」

「よし、全機トリガーの周りに集まれ! 編隊飛行だ!」

「だがトリガーは何処に居る!?」

「こちらスペア15! 今からマップ中央の上空でフレアを焚く。俺が空に出たらみんな雲から出てくれ!」

「無茶言うなよ! 敵に狙われる!」

「だがやるしかねえ!」

「俺は乗ったぜ。このまま終わるなんてごめんだ!」

「頼むぞトリガー!」

「了解! マックスパワー、ピッチアップ!!」

 

 雲から躍り出て、そのままワイアポロ上空に躍り出る。

 幸いホーネットはついてこれず、まだ雲の中。

 それを置き去りに次々とスペア隊が飛び出していく。

 

「5秒後にフレア発射! 2、1、フレアフレア!!」

 

 ダン! と横のフレアボタンをぶっ叩く。

 パパパとマグネシウムの燃焼弾が空中に巻かれる。

 

「いた! トリガーのラファール確認!」

「デルタ翼だ、デルタ翼の機体に集まれ」

「いいぞいいぞ! こいこいこい!!」

 

 もう一度フレアを焚き、その場を旋回する。

 

「みんな来てるか!?」

「待たせたな」

「後ろを見ろよトリガー」

 

 タブロイドとカウントの声に振り向くと下から上がってくる数々の機体。

 左翼にミラージュ 2000-5、Su-33がつき。次々と機体が集まっていく。

 

 規則も統率もへったくれもない囚人部隊。

 

 そんな彼らがワイアポロの空で航空ショー顔負けのデルタ編隊飛行を成し遂げたのだった。

 

 畜生。柄にもなく燃えるじゃないか! 

 

「全機ついたな。よしバンドック、頼む!」

「フルバンド、お前は何処にいる?」

「最後尾だ!」

「了解した………フッ」

「?」

 

 バンドックいま笑った? 

 

「新たな識別情報を送った。これで敵は敵と表示される」

「本当だ、レーダーの表示が更新された」

 

 いま編隊をとっているスペア隊周辺のブルーマーカーが全て敵性機体である白に変わり、そして赤いターゲットマーカーに変わった。

 

 ヨシヨシヨシ! これなら行ける! 

 

「やれ! 全機撃墜しろ!」

「よっしゃあ!」

「やるぞ! ぶっ潰せ!」

「こんなところで死ねるかよ」

「ここは懲罰部隊だ。貴様(・・)がいつ死ぬかは俺が決める」

「くそ!」

 

 バンドックが地獄の底から聞こえるような低い声でフルバンドをいさめる。

 先程よりいっそう風当たりが強くなった気がするが。

 

 引っ掛かりがあるけど、今は!! 

 

「FOX2! 行けぇ!!」

 

 今までの鬱憤を全部のせてトリガーを引く

 前を横切る敵のホーネットを追い回しミサイルが猛追。敵は大した回避機動も取らずに雪山の上で爆炎の華を咲かせた。

 

「ミサイルさえ撃てればこんな奴ら!」

「おらイケェェ!!」

 

 何時もは頼りなさげな奴らも頭に火がついたようだ。敵機を追い回して機銃やらミサイルをバチクソにぶっぱなす。

 

 ヨシヨシ! これなら行けるぞ。敵は思ったほど腕はない。

 まるで決められた動きをしてるかのように単純な………

 

「ん?」

 

 なんか引っ掛かった。

 違和感というか。このホーネットたちの単調な動き、何処かで見たような。

 

 余裕が出来た故に割り込んできた疑念。

 だがそれはバンドックの警告によって遮られた。

 

「なんだ? レーダーに新たな反応! 飛翔体の接近を確認!」

「飛翔体! またUAVか!?」

「何が起きてる! 情報をくれ!」

「くそ、この忙しい時に」

「賭けてもいい。良いニュースじゃないぜコイツは」

 

 同感だ。この状況で刺される横槍なんてろくなものだった試しがない。

 

「飛翔体が高速で接近中! この速度は航空機じゃない」

「航空機じゃないとしたら何なんだ!?」

「どうすりゃいい!」

「いったい何が起きてる!?」

 

 飛翔体じゃない。だとしたらミサイルか? 

 

 ミサイル………………………!! 

 

「バンドック! 飛翔体の数は! アーセナルバードは近くにいるのか!?」

「どうしたトリガー?」

「飛翔体の数は5。アーセナルバードはまだこの宙域の外に居る」

 

 5個。アーセナルバードのミサイルなら少なすぎるし射程が長い。だとすればやはり!! 

 

「スペア15から全機! 今すぐ下に向かって飛べ! 出来るだけ地面スレスレにだ!!」

「行きなり何を言ってるんだトリガー!?」

「おい、情報は正確にだな」

「説明は後だ! つべこべ言わずダイブしろ! 死にたくなかったら今すぐ地面スレスレまで飛ぶんだ!! 早く!!」

 

 俺の必死の叫びにただ事ではないと思ったのだろう。

 いの一番に下降した俺に続きタブロイドとカウントが、そして遅れて他の奴らも全開でパワーダイブする。

 

「5 4 3 2 1──まもなく到達!」

 

 バンドックのカウントが終わると同時に、ワイアポロに太陽が生まれた。

 

「うっぬくぅ!」

「ぐっ、衝撃が!」

「機体が分解するぞ!」

 

 この衝撃、そして青白い光球。

 俺はこれを知ってる。二回も経験している! 

 

「トリガーが警告してなかったら死んでいた! もしかしてあれ、アルティーリョでトリガーとカウントが巻き込まれかけた奴か!?」

「司令部より入電 攻撃の正体はコードネーム、ヘリオス! アーセナルバードに搭載された長距離ミサイルだ!」

「アーセナルバード!」

「なんでそんな奴に狙われなきゃならねえんだ!」

「ここが勢力圏だからだろ! あのクソ鳥の!」

 

 やはりか! 

 しかもヘリオス、太陽の神様とは。言い得て妙じゃないか! 

 

「全機! 着弾予測位置をデータリンクで送った! すぐ来るぞ!」

 

 レーダーに赤い円が複数現れる。

 この赤い円の中にとどまれば。イカロスの蝋の翼みたいに焼け落ちるって訳か!! 

 

「くそ、今日は仕事が速いなバンドック!」

「無駄口を叩いてると死ぬぞ!」

「レーダーミサイルよりマシだとはいえ、コイツはキツいな!」

「だがやるしかねえ! 敵ホーネットをぶっ潰す!」

「ヘリオスの飛来を確認! 死にたくなければさっさと落とせ!」

 

 我ながら鬼畜過ぎる。

 そして無慈悲にカウントダウンが進む。

 

「5 4 3 2 1──インパクト!」

「なんで俺がこんな目に!」

「このまま飛んでても全滅だ!  あんなものに飲み込まれたらどうしようもねえ!」

「次のヘリオスが来る! レーダー円から待避しろ!」

「無理だ!」

「助けてくれ! 助けてくれぇ!」

 

 ボンと1機が太陽に飲まれた。

 

「スペア3ロスト!」

「こなくそぉぉ!!」

 

 前方の2機にミサイルとHCAAをばらまく。1機落としたがもう1機は躱された。

 

 速度を出しすぎた。敵を追い越し。背中合わせの状態で、俺は敵のパイロットを怨めしげに睨み付けた………

 

「は?」

 

 思わず疑問符が漏れた

 敵パイロットの姿はよく見えなかったが、それよりも気になる物があった。

 敵ホーネットのコクピットには。普通のコクピットにはない物があったのだ。

 

 直ぐに追い抜き、後ろを取られない為にハイGターン。敵ホーネットは俺を追うことなく別方向に飛んでいった。

 

「ヘリオスの接近を確認! 巻き込まれるぞ、回避しろ!」

「仲間がいる空域に平気で撃ち込んできやがる! パイロットの命はどうでもいいってのか!?」

「いや………そもそもパイロットはいないのかもしれない」

「え? それってどういう」

「まもなく到達! 5 4 3 2 1、着弾今!」

 

 ズシンと来る振動。

 インシーの雷より恐ろしい死の光は勇んでいたスペア隊の荒くれどもの心を確実に折りにきていた。

 

「距離をとったのにくそっ!」

「弾着点からこれだけ離れてこの衝撃か! なんて兵器なんだ」

「こっちが届かねえ場所から攻撃しやがって! 返り討ちにしてやる! 生きて返さねえぞ!!」

 

 咆哮と共にカウントのミサイルが蜂を噛み殺す。

 何十分かと錯覚するほど酷く窮屈な空だが、着々と敵の数は減っていた。

 

「ターゲット残りわずかだ。集中しろ! 残りの敵を墜とせ!」

 

 敵機、あと2機か! 

 

「ヘリオスがまた来たぞ!」

「敵のホーネットがまったく巻き込まれない。爆発位置をわかってるのか!?」

「まもなく着弾!」

「しくった! うわぁー!」

 

 また1機太陽に食われた。

 これ以上やらせるかよ!! 

 

「死にさらせ! FOX3!!」

 

 装弾数に物を言わせたHCAAの物量にホーネットはなす術もなくオーバーキルされた。

 あと1機か!? 

 

「こちらスペア13! 敵機撃墜!!」

 

 最後はジャイロが破壊したか! 

 よし、俺たちの勝ちだ! 

 

「カウント、残り1機だ。確実に撃墜しろ」

「え?」

「残り1機!? どこにいる!?」

 

 あと1機だと? さっきのが最後じゃない? 

 

 レーダーには味方機を表す青いマーカーしかない。

 ステルス機? だがホーネットにステルス機能はないはずだが。

 

「カウント! はやく落とせ」

「わかってる! もう少しだ!」

 

 カウントには見えている? 

 

 俺はカウントのSu-33を探す。

 海洋迷彩は高高度の濃い空には目だって見えた。

 

 カウントが追っている先にはホーネットが居た。

 だが以前としてレーダーに敵機は移らない。

 

「敵は何処だ? 何処なんだよ!」

 

 フルバンドの焦る声が聞こえる。フルバンドにも見えていない………まさか! 

 

 スロットルMAX、カウントのSu-33に向けて直進する。

 

「カウント!」

「はいよ! これで終わりだ、偽物野郎!」

 

 やはりあれは。駄目だ!! 

 

「FOX──」

「待てカウント! 撃つな!!」

「あん?」

 

 叫びはカウントに届いた。だが彼の引き金を止めるには遅すぎた。

 Su-33から2本のミサイルが飛び出す。

 

 排気煙を吐きながら戦闘機以上の速度を出すミサイルは寸分の狂いなくホーネットにヒットした───罪線付き(・・・・)のホーネットに。

 

「畜生! 畜生! どうして俺がこんな………」

 

 聞こえたのは聞こえるはずのないフルバンドの断末魔。

 最後まで自分のあり方もわからずに死んだ男の末路だった。

 

「なんだと!? フルバンド!?」

 

 撃った本人は目の前で起こったことが現実かを確認し、敵だと思った奴が味方だった事実に脳が拒否反応を起こす。

 

「どういうことだ? フルバンドが墜ちた!」

「同士討ちか? 敵を撃墜したはずだ」

 

 周りの僚機も訳がわからず感じた情報を吐き出していく。

 その中で冷静に事の結果を述べる者が一人。

 

「………フルバンドの識別情報が敵機扱いになっていたんだ」

「なんだと!?」

「………わざとだな、バンドック」

 

 静かな怒りを込め、カウントは空の彼方にいるAWACSを通信越しに睨み付ける。

 

「なんのことだ?」

「とぼけるんじゃねえ! フルバンドだ!」

「事故だ、あの状況では起こりうる」

「この野郎……!」

「ミッションコンプリート。RTB」

 

 淡々と。悪びれもせずに。それどころか隠す気すらない声色にカウントは憤慨する。

 

 そこから帰りは444らしからぬ静けさだった。

 時折カウントが唸るぐらいで、今までこんなことあり得なかった。

 

 それは何故か。彼らはようやく理解したからだ。

 

 ここが懲罰部隊であることを。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「おかえり。今日も無事に生きて帰れたみてえだな」

「まあ、な………」

「んだよ。湿気た面して。親しい奴でもやられたか?」

「そういうんじゃないけど」

「いたトリガー!」

 

 顔に出てた俺にエイブリルが怪訝な顔をするのもつかの間、ハンガーの入り口に大慌てでタブロイドが飛び込んできた。

 

「どした」

「来てくれ、カウントが!」

 

 その言葉で全てを察した俺はエイブリルに一声かけてその場を後にする。

 

「バンドック! てめぇ!!」

「まてカウント落ち着け!」

「正規軍の連中に手を上げるのは流石にやべぇって!」

「離しやがれ! くそー!!」

 

 案内された場所、連絡通路には複数人に羽交い締めされてるカウントと。こんな状況でも澄ました顔をするバンドックがいた。

 

「何があったのか理解したけど。一応聞く。なんでこうなってる」

「カウントがバンドックの顔を見るなり飛びかかろうとしたのさ」

「バンドックはバンドックで通路を塞がれてるから通れないと。それでなんで俺が呼ばれたのさ」

「悪い。藁にもすがる気持ちで」

 

 溜め息が出た。他人の尻拭いなんてガラじゃないんだけどなぁ。

 ただ頼まれたからには任を果たすさ。

 

「ハイハイハイハーイ!! 静まれ静まれーい! ハーリング殺しの3本線様のお通りだよー。冤罪だけどー」

「トリガー………」

「おーカウント。いつもの二枚目顔が台無しだぞ。って冗談を言えるほど図太くはないけどな」

「どの口が言うんだ」

 

 確かに。

 最近自分でハーリング殺しをネタにしてるしね。

 

「カウント。ここでバンドックを殴ったってコイツはなんも喋らないよ。むしろ返り討ちにされて独房だよ」

「てめえは引っ込んでろ」

「今回お前は悪くないし、過失もない。そうだろバンドック」

「そうだ。今回は我々AWACS、いや俺の責任だ。今回の事に関しては記録にも残さないでやる。お前に傷はつかない」

「そういう問題じゃねえ! てめえ俺に仲間殺しなんてさせやがって!」

「何度も言わせるな。あれは事故だ」

 

 梃子でも動かん。そう言ってるのがありありだ。

 

「気持ちはわかるよカウント。お前の中でどうしようもない怒りと失意が煮え繰り返ってるのもな」

「てめえに何が分かる!!」

「おいおい、俺はハーリング殺しの容疑でぶちこまれたんだぜ。俺が分からないで誰が分かるんだよ」

「てめえは! ………クソッ」

 

 やっと鞘に納めたカウントを尻目にバンドックは空いたスペースを通って去っていった。

 

 残されたのは気まずい沈黙。当初の任務は果たせたものの。あの時のアクシデントは納得できない者が多い。ここが正規組織ならそれ相応の処罰もあり得るだろうが………

 

 重苦しい沈黙がこもる中、タブロイドが促す。

 

「とりあえずデブリーフィング行かないか? 遅れたら司令官に独房! って言われるぞ」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「任務は成功。ほかに特にいうべきこともない。解散」

 

 短けえ………

 相変わらず短い。

 今回の作戦で10機のうちフルバンドへの誤射を含めて5人がKIA、戦死扱いとなった。

 

 戦死人数もただの数字。

 俺たちはスペア隊。替えのきく不揃い品の集まり。目の前のファッキンゼイは俺たちを人とは見てないのだろう。

 

 しかしこのデブリーフィングの短さはありがたい。基地不人気NO.1と一緒の空間なんて息がつまる。我先にと部屋を退出していく。

 

「待て、カウント」

「ああ? なんだよ」

「記録によれば、お前の撃墜数は日に日に増している。だが同時に虚偽の報告をしている疑いもある。貴様、戦績を誤魔化しているのではないだろうな」

 

 カウント含めた数人が司令官の言葉に振り替える。

 珍しいこともあるもんだ、司令官がこっちの事情に干渉してくるとは。てっきり入ってくる情報を鵜呑みにしてると思っていたが。

 

 さて、ついに戦績詐欺を指摘されたカウントだが。本人は至って涼しい顔をしていた。

 

「ないね。俺は全うに撃墜数を稼いでる。それに、撃墜数はAWACSと本部で照らし合わせてるんじゃないのか?」

「………まあよい、他の連中も少しは見習え。貴様たちが撃墜数を稼げば、私は軍中央に返り咲ける………こんなゴミ溜めから逃れてやる。私はこんなところで腐る人材ではないのだ………そうだ私はこの戦争で栄光を………」

 

 ブツブツと一人の世界に入った司令官を尻目に今度こそ退出する。

 お前のために撃墜数を数えてるんじゃないなんて思う奴なんか一人もいなかった。

 願わくばさっさといなくなってくれとしか思ってないのだから。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 チャンプが居なくなってから個室となった部屋で目を瞑るが一向に眠気が来ない。

 気が立ってるのかな。それよりも、味方殺しを見てしまったからだろうか。

 

「食堂行こう。確かココア売ってたよな」

 

 少しの金を握りしめて食堂に向かいながら。俺は頭の中でハーリングのオスプレイと今日のフルバンドを重ねた。

 

 味方を殺してしまったという事実は思いの外精神に来る。あのカウントが声を荒げるのも無理はないだろう。

 家柄家柄とプライドの高いあいつのことだ。味方殺しなど汚名以外何物でも………

 

 とカウントのことを考えていたのがいけなかったのだろうか。

 食堂の片隅に見覚えのある後ろ姿の男が安酒を片手にカパカパと飲み干していた。

 

 関わらない方がいいと思いながら自販機に金を入れてココアを買う。

 ガココン! と派手な音に酒を飲む手を止めてこっちを見るカウント。だが直ぐに酒をつぎなおす。

 

 このまま立ち去るのがベストなんだろう。

 でも………なんかなぁ、はぁ。

 

「よいしょ」

「おい。相席お断りだこのやろう。お子様はココア飲んでさっさと寝な」

「そういうお前はいくら飲んでも寝れないように見えるけど? 話し相手ぐらいにはなってやるぞ、詐欺師どの」

「ケッ」

 

 コップ一杯に注がれた琥珀色の液体をグイッと飲み干し熱い息を吐く。

 俺もココアのプルタブを開けて口をつける。甘くて濃いめの熱い液体は喉と胃に熱を送り込み、生暖かい息をホッと吐き出した。

 

「てめえと話すことなんかねえよ」

「そうは見えなかったけど、なんかキレが悪いな伯爵。いつものお前なら詐欺師って言ったあとハーリング殺しって言うだろうに」

「………………」

「そういや最近お前からハーリング殺しって聞かねえな。アルティーリョやワイアポロでは随分真面目に飛んでたんじゃないか? 戦績詐称の目立ちたがり屋がどういう心境の変化だ?」

「喧嘩売ってるのかお前」

「言われても仕方ねえだろ。むしろ褒めてるんだ。お前がちゃんと動いてくれてるから、俺もだいぶ動きやすくなった」

 

 元々腕のない口だけ部隊にまた一人出来る奴が出てきたとなれぼ、それだけで各々の負担が格段に減る。

 主に俺の負担が。

 

 一体何がこの男を変えたのか。というよりいつ変わったか。

 相変わらず黙って酒をかっ喰らうカウントに、俺は当然ながら心当たりがあった。

 

「そんなに応えたのか。メイジ2って言われたの」

「ッ!!」

 

 カタッ、と小さくコップがテーブルを擦った。

 

「わかりやすい。お前そんなんで良く詐欺師やれたもんだな。いややれてないから此処にぶちこまれたのか。オーレッドの模擬戦から俺が配属されるまでそんな日経ってねえもんな」

「うるせえよ。マジで」

「………勝手に調べさせたのは悪かったよ。しかしお前も俺だって気付いてたんだろ。だからあんなに絡んできた」

 

 タブロイドに聞いたが、ここまで個人に絡むカウントは珍しいとのことだった。

 スコアを抜かれて悔しかったんだろと皆口を揃えて言っては居たが。

 

 カウントはテーブルに目線を落としたまま動かなくなった。依然だんまりを決め込むつもりだろう。

 からかってやったら口を開くかと思ったが。俺の想像以上にやられてるらしい。

 

「本題だけどよ。フルバンドの件はお前に非はない。これは本当だ。あいつは死んでも仕方ない奴だった。間抜け野郎さ。バンドックの再三の警告も無視して自分の悦に浸ってさ。あいつ、出撃前に俺に情報持ちかけて来やがったんだ。情報やるからボディーガードしろって。断ったら情報喋ろうとしたから先に答えて潰してやった。そん時言ってやったのさ『お前は何もかも軽い。もっと考えて情報出さないと死ぬぜ』ってな」

 

 結局忠告も聞かぬまま自ら断頭台に向かって首をおいて、最後の最後まで処刑されることを理解できず、いや処刑される瞬間さえ何もわからずに死んでいった。

 常日頃から情報を握らないと死ぬと言っていた奴が情報を握ったせいで死ぬとは。全くもって、エセ情報屋に相応しい末路ではないか。

 

「基地に戻っても只じゃすまなかっただろうさ。掴んじゃいけない情報まで掴んだんだろう。むしろ俺たちはバンドックに感謝するべきだ。情報漏洩に巻き込まれて全員処分されずにすんだ。言うなれば処刑人役にさせられたお前にも言える………ってのは流石にあんまりだよな。損な役回り押し付けられたなお前」

「………………」

「お前は俺とは違うよ。元大統領と小悪党なんて比べるべくもない。今回の原因は情報管理を疎かにした基地の奴らと、フルバンドの手綱を握れなかったバンドックさ」

 

 ココアを飲み干して席を立つ。

 依然としてカウントは黙り込んだまま。

 ここまで大人しい伯爵は調子狂うな。てかもう寝てるんじゃないか? 

 

「カウント。初めてお前とエンカウントした時、なんだこいつキザで偉っそうだなと思ったのよ。しかも戦闘は教本通りではないんだよって言いながら自分はお手本のように綺麗で精錬されて飛び方してやがるんだよ。あの時雲がなかったらどうなってたかって思った時もあった」

「………」

「俺さ、フォートグレイス基地に行くって決まった時。お前に会えるかもしれねえって少しだけ思ったのよ。どんだけ鍛練重ねたらあんな飛び方出来るのか。邪道な俺とは真逆の王道な飛び方をする奴がどんな顔してんのかってな。オーレッドじゃ会えなかったし。結局、俺はお前のナンバー引き継いでクラウンの横飛んだけど………言いたいことはこれだけだ、忘れていいよ。俺は戻る、あんたもこんなとこで寝るなよ。身ぐるみ剥がされるぞ」

 

 空き缶をゴミ箱に投げ入れると、丁度眠気が来たのか欠伸が出掛けた。

 

「なあトリガー」

「ん」

 

 そのまま立ち去ろうとしたが、カウントから呼び止められた。

 奴はこっちを見ずに続けた。

 

「お前は本当にハーリングを殺してねえのか?」

「ああ、殺してないよ」

「そうかよ」

 

 俺が居なくなった後、カウントは温くなった琥珀の液体を再び流し込んだ。

 かつての家柄など意味もなく、痩せっぽちのプライドも新参者に吹き飛ばれた。

 それでも食らいついた、しまいには真面目に飛んでる自分が居ることに気付く。

 そのきっかけはこの男が此処にぶちこまれる遠因であるハーリング殺し、いやあの時のフェアリー2が原因と来た。

 

「らしくねえ………」

 

 このまま腐るしかねえと思っていた男はボソッと呟いた。

 燻りの中に確かな熱。男の目に宿す炎は………

 

 






 最近寒くなって防寒具諸々の出費がエグい作者ブレイブです。

 ミッション9終了。フルバンドはまあ死ぬ定めでした。是非もないよね。
 訓練生編からのながーい伏線回収が出来ました。これがやりたいためにやったまである。
 スペア編終了まであとワンミッション。あと3話で終わらせたい(フラグ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。