エースコンバット7 FLIGHT REZON   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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STAGE39【Meaningful(異端聴取)

 

 

 ワイアポロのミッションから数日。

 カウント、というよりバンドックによる味方殺しというショッキングな事件が起きた444飛行隊だったが。ザップランド基地の雰囲気は日常そのものだ。

 

 コゼット王女のラジオに湧く囚人とそれを叱りつける看守。

 耳を澄ませば聞こえる罵詈雑言、喧嘩の応酬。

 もはや聞きなれた喧騒を他所に飯を食い、本を読み、戦闘機を眺めたり運動したり。

 

 一つ違うとしたら『バンドックに関わると死ぬ』なーんて噂が立って囚人が彼に対して物理的に距離を置くようになったぐらいか。

 

 あとカウントとの関係が少し変わったか? すれ違うと「おう」とか「よう」て感じで挨拶するようになった。それだけと思うかもしれないけどカウントにしては凄いことよ。

 

「トリガー、めでたいニュースだ。イーグル修復の目処が立った」

「マジで!?」

 

 まあそんなことはぶっちゃけどうでもいい。

 長らく倉に眠っていたイーグルが直るらしい。

 

 今朝基地にやってきた輸送艦にお望みのパーツがやっと届き、直ぐにでも修復を開始するという。

 

「いつ頃直りそう?」

「次のミッションまでには直してえが、そこは参謀本部の機嫌次第と言ったところだな」

「なんにせよ良かった。ラファールは上等な機体だが、格闘戦だとイーグルに分があるからな」

「遅れた詫びだ。ちょっとした魔法も仕組んでやるさ」

「それは楽しみだ。あっ、俺が乗ってたラファールはタブロイドにやるつもりだから。そこら辺宜しく」

「となると、大幅にデチューンしないとな。限界カリカリにチューンしたからタブロイドだと持て余す」

 

 そうだったのか。俺的にはそこまで違和感も癖もなかったけどな。

 と言ったらまたそんなこと言えるからお前はおかしいんだよと冷めた目で見られかねない。

 

 と思ったらここで聞くことのないような声が背後から

 

「ミード」

「いっ」

「おっ、誰かと思ったらバンドック空中管制官どのじゃないか」

 

 444基地の死神ことバンドックさんじゃあございやせんか。

 てか背後やめい、ビックリするわ。

 

「あんたが航空機のガレージに来るなんて珍しいじゃないか。なんかようか」

「頼まれていた資材だ」

「………驚いた、申請通ったのか」

「必要なことなのだろう。チェックを頼む」

 

 渡された書類にサインするエイブリル。

 横目で見ようと思ったら手で静止された。

 

「あ、ごめん。見ちゃ駄目な奴か」

「お前には特にな」

「俺に?」

「これからガレージに籠る。トリガー、お前は入室禁止だ」

「えー、なんでー?」

「いいから。わかったな?」

「…かしこまりました、我らがスクラップ・クィーン」

「やめろ、その呼び名は」

 

 と邪険にする癖に満更でもないのか、それとも諦めているのか分からない笑みを浮かべた。

 サインしたや否やガレージに直行したエイブリル。

 

 さて、俺も戻ろうか。

 

「待てトリガー」

「はい?」

「お前には別件だ。ついてこい」

「何処に?」

「ついてこい」

 

 いつも通り有無を言わさないバンドック。

 正直行きたくないが行かなかったらそれはそれでだし諦めてついていくことにした。

 

 基地に入り、あまり見慣れない廊下を歩くと一つの部屋の前。扉横のプレートには【リアン・フォスター大尉】と書かれていた。

 

「入れ」

「ここは?」

「自室だ」

 

 バンドックの? こんな名前だったのか。しかも大尉か。

 

 入ってみると、なんというか想像通りというか。質素で機能的な部屋。デスクにベット代わりのソファがある。

 

「わざわざこんなとこに呼んでなんのつもりだ? 言っとくけど俺にそっちのけはないからな」

「相変わらず口の減らない奴だ」

「エセ情報屋よりはマシなつもりだが」

「そうだな」

 

 壁にかけていたパイプ椅子を渡されて座り、バンドックはデスクの椅子に座った。

 え、なにこれ。尋問? 俺なんかやったっけ? 

 

「これから聴取を行う。俺が言う内容に正直に答えろ」

「聴取? なんの?」

「オペレーション・ライトハウス・キーパー。過去にお前が参加した作戦についてだ」

 

 ライトハウス・キーパー。灯台守。

 それは軌道エレベーターで行われたハーリング元大統領救出作戦。俺がここにいる原因である作戦。

 

「なんでそんなことを聞く、しかもこんな個室に呼び出して」

「聴取と言っただろう。食堂でやるわけにもいかん」

「基地司令はいなくて良いのかい?」

「アレが役に立つと思うか?」

「アレって………」

 

 仮にも正規軍所属の人が上官に向かってそんなことを。

 誰からも信用されてないんだなぁ。哀れだなぁファッキンゼイ、可哀想に。

 

「いちAWACSが情報分析官みたいなことしてなんになるのさ。誰かに言われたのか。マッキンゼイじゃないみたいだけど」

「お前が知る必要はないが、許可は得ているから話そう。オーシア上層部、俺の直属の上官がオーレッドで行われた聴取に不可解な点があると見た。そこで改めてお前から詳細を聴取せよという命令が出た」

「へー。過去の戦争から何も学ばずに安全な後方で惰眠を貪るオーシア上層部に節穴じゃない奴が居たとは驚きだ」

「今のは聞かなかったことにしてやる」

「そうかい。で、誰だよそれ」

「お前が知ることではない」

 

 成る程、そこは線引きしてるのね。

 なんにせよ上層部の一部が今回の件を疑ってるという訳か。

 明日も分からない身だ、こんなことでオーシアのクソチキンどもに一矢報いれるなら協力しようじゃないか。

 

「では始める。リヒト・パーマー元少尉。出生はベルカ地方。元の名はリヒト・フォン・フリューゲル。現在は元国境無き世界幹部、アンソニー・パーマーの養子であり。その過程で同じく幹部であるラリー・フォルク、マルセラ・バスケスと交流があるが。これに間違いはないな?」

「間違いないよ。ベルカに居た頃親戚に虐待され、逃げ延びたところをラリー・フォルクに救われた。そのあとマルセラ・バスケスが働くバーで数年過ごして、アンソニー・パーマーの養子になった」

 

 考えてみれば本当に数奇な運命だ。

 かつて世界を混乱に陥れた3人が俺という個人を救うために行動してくれた。

 アンソニーに至っては罪滅ぼしと言っていたけれど。

 

「ハーリング元大統領殺害の動機が灰色の男たちの野望を阻止された逆恨み、ベルカの地を辱しめられたオーシアへの復讐と聴取には書かれているが。国境無き世界の思想、そして灰色の男たちとの繋がりは?」

「ないよ。むしろその思想には吐き気がする。核弾頭なんて使ってる時点で、そこに正義や思想もない。あるのは暴力に酔いしれた革命家気取りどもだ。先ほどの3人も俺が知る限りでは国境無き世界の活動に後悔し、俺に同じ道を行くなって何度も言われたよ」

 

 そもそもベルカの地を穢したのは他ならぬベルカ自身、逆恨みもいいとこだ。戦端のきっかけはオーシアの謀略だけど。

 

 まあそんな発言はことごとく潰されたけどね。

 仕舞いには国境無き世界の再興を目指してるとか下らないこと言われたっけ。

 

「ビンセント・ハーリング氏についてはどう思っている」

「自ら道を切り開いて、最後まで世界の平和を胸に進んだ。自分が知るなかで一番尊敬できる人だ、ああいう人こそ英雄って言うんだろうなって思った。あとは、ベルカ人とベルカ強硬派をちゃんと分けてくれたことは嬉しかった………こんなんで良かったのだろうか?」

「問題ない。彼に向けて憎悪がないという供述と取るが」

「それはもう………少なくとも、彼はあそこで死んではならなかった。軌道エレベーターでユージアが豊かになるのを目にせず逝ってしまったから」

 

 自分よりも他人を案じるその姿は正しく英雄だった。

 救いたかった。救えたらきっと戦争も………

 

「2019年5月15日、IUNフォートグレイス基地に配属。同時にエルジアが宣戦布告し、お前は戦闘に参加。そのあとも目覚ましい戦果を上げ、フォートグレイス基地飛行隊の中でトップの撃墜数を上げている」

「運が良かったんだ」

「だろうな。お前の腕は分かっているが、それでも配属から1日も立たず戦争に巻き込まれた。そのプレッシャーは計り知れない。間違ってもハーリング救出作戦の一番槍が勤まるとは思えぬ程にな。だがお前は、救出作戦の一番槍に抜擢された。それも参謀本部直々の命令としてだ。その時疑問に思わなかったのか?」

「勿論思った。皆からも無理に受ける必要はないとも言われた。けど、あの時はベルカ人である自分が上層部に認められたんだって思った。いま思えば浮かれてたと思うよ」

 

 そのあとミッションの始めから最後までこと細かく説明した。

 

 最初のレーダー網を抜け、対空火器を無力化。

 UAV、そしてネームドのローニンと戦い。

 オスプレイでハーリング元大統領の脱出

 アーセナルバードのUAVと戦闘。オスプレイの被弾。オスプレイが旋回し、それを守る為に飛んだこと。

 

 そして最後。目の前でハーリング元大統領が爆散したことを。

 

 俺が供述したことを一字一句逃さず書き記すバンドック。

 なんかこんなに素直に聞いてくれるバンドック違和感あるな。色々あるが、基地で一番マシな軍人はバンドックなのだろう………いやそこまでマシじゃねえな。こいつもこいつだわ。

 

「メイジ2が撃った。誰かがそう言ったのは間違いないな?」

「ああ、俺以外も聞いている。聞き間違いじゃなければ。フォートグレイスのメンバーではなかった。だからガーゴイル隊の誰かが言ったのだと思ったのだが。結局分からないで終わった。そこんとこ調べたのかわからんがな」

「当時参加していたガーゴイル隊パイロットにも聴取をしたが。そのような発言をした者はいなかったそうだ」

「………は?」

 

 サラッと出た言葉を俺は聞き逃さなかった。

 ガーゴイル隊にもいない? だがあの時聞こえたのはオープン回線ではない。いや待ってどういうこと? 

 

「虚偽の発言をした可能性もあるが。メイジ、ゴーレム、ガーゴイル。そのいずれもトリガーがハーリング元大統領を撃ったと供述した者がいないということになる」

「その時のデータは全て回収したんだろ。そこから調べられなかったのか?」

「………」

「まさか。全部破損してたとか言うんじゃないだろうな」

「いや、厳密には手が出せなかった。最重要機密案件として。ライトハウスキーパーの情報は厳重なロックがかかっていた」

「なんだよそれ………」

「だからこそ。当事者であるお前から聴取を聞くことにしたのだ。お前からの見解で良い。なにか妙なこと、思い当たることはあるか」

 

 思い当たることは幾らでもある。

 だがその前に。

 

「これは作戦の後の話だ。オーレッドでの聴取の時の話だが」

「それは後程聞こうと思っていたが。作戦事態に関連性があるとでも」

「ああ。正直、陰謀論めいた憶測だが」

「話せ。どんな些細なことでもだ。お前の勘の良さは理解してるつもりだ」

「………」

「なんだ」

「やっぱり素直なバンドック気持ち悪い」

「口に出すな、そういうことは」

 

 すいません。

 

 オーレッドでの聴取の全容を話した。

 初っぱなから的外れな事を言われ。聴取した上官の態度があからさまに侮蔑的だったこと。

 あの時発射できるミサイルが無くて、ブラックボックスを調べてくれと言った時に俺のF-16Cのブラックボックスだけ破損していたということ。

 聴取どころか強引にサインを書かせようとしたこと。

 

 そしてミッション中の違和感。

 何故オスプレイにキーがついていて、エンジンもかかっていたのか。

 操縦席のガラスが粉々になり。とても素人が、いや素人じゃなくても操縦が困難なこと。そして飛び方が異様に真っ直ぐなこと。

 オスプレイが反転した時。それは無人機操縦だったのではないかということ。

 

「オーシア上層部もハーリング元大統領殺害に対するグルだったと………確かに憶測だ」

「わかってるよ、そんなことは」

「だがそうなると色々納得が行くのも確かだ」

「おいおい、あんたがそれ言って良いのか」

「聞く限り、その軍事裁判は茶番も良いところだ。それにシェパード中将と言ったな。その男は軍内部でも後ろ暗い噂が立つとして有名だ」

「そいつはなんとも………」

 

 ハーリング元大統領が大規模な組織改革と切り捨てを行ったというのに。何処まで膿が残ってるんだか。

 

「無人機のシステムを組み込んだオスプレイを進路上に配置して誘導したのち、味方に撃墜させる。なんとも回りくどいやり方だが。この方法なら世論がエルジアを非難する確率は減るだろう」

「小耳に挟んだ程度しか聞いてないが。ハーリングは事故だと報道されたって」

「事実だ。作戦の流れ弾に当たり死亡した。そこで報道は途切れている」

「オーシアもこれ以上イメージダウンになることを恐れてたということかな………そうだとしたらオーシアがグルってことに信憑性がなくなるか。リスクがでかすぎる。それだけハーリング元大統領の影響力を疎んでいたと言えなくもないけど」

「そこは本当に憶測の域を出ない。ここで議論しても仕方のないことだ」

 

 確かに。討論会じゃなくて聴取だからな此処は。

 

 だがエルジアにしろオーシアにしろ。このままナアナアになることは願ったり叶ったりと言ったところだろう。

 戦争死者に口なし。はぁ、世の中クソッタレ。

 

「調べによると、ハーリング氏を撃墜したのは間違いなく味方のミサイルではあった。だが一番近くに居た、そして撃墜可能だった味方機はお前だけであり。付近に攻撃可能な敵機もいなかった」

「………エルジアがIFFを擬装出来たら可能だ」

「ワイアポロのF/A-18Fか」

「ああ。あの機体、恐らく無人機だった。動きがUAVのそれに似ていた。機動力は劣るけど」

「根拠はそれだけか?」

「たまたまニアミス距離で確認したが。コクピットの両脇に赤く光る蛍光灯型のライトがあった。光量もそれなりにあって。あれじゃサイドの視界は遮られる。とても有人を想定した作りじゃない」

「成る程。無人機であれば、ヘリオスの無差別爆撃も理由が付くな」

 

 仮に巻き込まれたとしても人的被害なし。敵だけを一方的に釘付けにし、殲滅する

 呆れる程合理的なやり方だ。

 合理的過ぎて、人の道を外れる程に。

 

「オーシアも無人機を利用していなければ。あのホーネットはエルジアの改造無人機だろうさ。問題はどうやってIFFを擬装したかだが」

「少なくとも、オーシア、IUN共にワイアポロに出撃したのは我々だけだ」

「偽造された情報でなければな」

「それこそ此処で議論することではない」

 

 確かに。しかしIFF擬装が現実味を帯びた。

 もしそれが実現されてるものなら。戦争の前提が根底から覆される。

 

「聴取はこれで終わりだ」

「これで俺の冤罪も晴れるのか?」

「さあな。それは俺の知るところではない」

「兆しにはなりそうだと期待しておくよ。オーレッドと比べてとても有意義な時間だった」

 

 ほんとあそこは此処以上に糞の掃き溜めだったからな。それに負けない幼少期奴隷生活ってなんだよ。444基地がナンバー3ってどんな悪夢だ本当に。

 奴隷時代の俺。よくあそこから逃げ出した褒めてつかわす。

 

「一応今回って任意聴取って形になるのかしら」

「建前としてはそうなるな。断った場合は命令として追って連絡が行っただろうが」

「成る程。じゃあ素直に応じた礼として聞きたいことがあるんだが」

「なんだ」

「もしフルバンドが【事故】で死ななかったら。あいつはどうなっていた?」

 

 ワイアポロの事故。

 あからさまに事故ではないあれを触れたにも関わらずバンドックは眉一つ動かさなかった。

 あらかじめ聞かれると思っていたのだろう。

 

「何を考えてるのか知らんがあれは事故だ、それ以上でもそれ以下でもない」

「それは理解してるし、あいつの死が事故だろうが故意だろうが俺にはどっちでもいい。あいつは死ぬべくして勝手に自滅した。むしろあそこであいつが死んで感謝してるんだ。巻き添えで死にたくないからな。カウントには悪いけど」

「口だけの無能は仲間ではないと言っていたな」

「むしろあいつはそれ以下だ。戦争において一番の敵はミスターXのような化け物ではなく、無能で害を撒き散らすだけの味方だ。あんたもそう思うだろ」

「………」

 

 俺の問い掛けに答えないが今回はあからさまに眉を潜める。

 戦闘に出る度に余計なことしか言わないフルバンド、なまじ腕があるだけ厄介極まりないあいつを何度もいさめてきたバンドックは俺以上に扱いにくい奴だっただろう。

 

「フルバンドが事故死しなかった場合。司令にフルバンドの処置を提案しただろう」

「権限はあるからな。穏便に済ませるならあそこで事故死しない方が良かった。あれでは禍根が残るだろうさ」

「結果的に任務に殉ずることになるだろう。今までがヌル過ぎたんだ」

「それはまあ。よくやってると思うよあんたは」

 

 もし俺が配属されてなかったら、正直ここまでミッションが上手く進むことはなかっただろう。

 文句だけ口だけの奴ら。腕があるのに怠ける奴らと。こんなのでミッションをしろなんて。

 正規軍の消耗を抑えるために危険なミッションを遂行するという名目で作られた懲罰部隊だが………

 

「そういえば。どれくらい絞れたんだ? エルジアのレーダー網は」

「何の話だ」

「あ、それも話しちゃいけない感じか? なんとなく俺たちが敵地に突貫するのはソレを見極めるためじゃないかって思ったけど」

「……話すことはない」

「了解。なにも考えずに飛ぶとするよ」

 

 それが一番安全だしね。

 口は災いのもと。よく言ったものだよ本当に。

 

「んじゃ俺はお暇するよ。変な話して悪いな」

「それぐらい構わん」

 

 おっ、なかなか寛容じゃないか。

 

 ドアを開けてチラッと振り返る。

 

「ああそうそう。俺を使わなかったのはなかなか英断だったな。俺だと気付いてた可能性あったし、カウントはラストワンに拘る傾向があるからね。なかなか俺たちを見てるんじゃないか?」

「………」

「これからも宜しく。我らがAWACS」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 笑顔でドアを閉めるトリガー。

 彼が視界から消えると同時にバンドックは背もたれに身を預けて溜め息を吐いた。

 

 AWACSが情報分析官の真似事をする。全くもってその通りだ。

 直属の上官から達せられた任務に思わず毒づきたくなる。態々本国から分析官を呼ぶわけにもいかず、自分以外に適任はいないと知っていても溜め息を吐かざるを得なかった。

 

 マッキンゼイに命じられると同時に、本国の上官からトリガーを注意するよう言われていたバンドック。

 冷静に、冷徹にトリガーを観察した。

 

 結果、バンドックから見てトリガーは白だ。

 確たる物はない。だがトリガーは他の囚人と纏ってる物が違う。

 今回の聴取の後でもその印象は変わらない。

 

 変わらないこと事態おかしいのだ。

 

 そもそも冤罪で1ヶ月拷問じみた聴取を受けた身。あの不屈のメンタルは何処から来るのか。

 訓練生出たてのルーキーが殺しの空へ順応させたのは何か。

 

(決まっている、空だ)

 

 忘れもしない。欺瞞邀撃として的になって飛べと言われた時のトリガーの顔を。

 入室してきた時は死んだ顔をしていた彼が空に飛べると理解した途端豹変した。

 

 貪欲なまでの空への欲求。

 それを乗せた類いまれなる操縦術。

 

 普通ではない、狂気だ。

 こんな人としての最低地とも言えるザップランドで腐ることなく確かなコミュニティを築き上げる。

 トリガーは言うほど此処を苦と思っていないだろう。

 

 それを支えるのは空。

 

 大海の空、そこに君臨し続ける異端児。

 

 彼という人間を化け物と呼ぶのだろう。

 そしてそれを他人に悟らせず、人として飛び続けるなどなんと滑稽なものか。

 

「やはり厄ネタだったか」

 

 フルバンドの件だって、ルーキーからしてみればカウントと同様殴りかかるものだ。

 だというのにこちらを肯定し、挙げ句の果て礼まで言う始末。

 444基地に染まったと言えば簡単だが。染まりつつも根底はブレていない。精神的未熟はあれど、概ね許容範囲に収まっている。

 

 ただの犯罪者であるならどれ程良かったか。

 マッキンゼイは気楽で幸運だった。もし彼がトリガーの本質に触れれば腰を抜かし、支離滅裂なことをわめき散らすだろう。

 

 仮に、だ。

 

 仮に彼が国境無き世界や灰色の男のような組織の一員であったならば。

 地上一切、いや陸海空全てが焦土と化す。

 

 誰にも止められない飛行する厄災となる。そんな予感がした。

 

 彼の出自、そして歩んだ人生。一歩踏み外せば十二分にあり得る可能性にたどり着いたバンドックは軽く身震いした。

 

「………馬鹿馬鹿しいな」

 

 もし彼が危険分子になり得る可能性があるなら………と考え付いた後に直ぐに捨てた。

 

 現にトリガーは過程は違えど世界のために、オーシアのために飛んでいる。

 

 彼の言葉に嘘がないように。

 彼の飛び方はブレることなく空を駆けるのだ。

 

 なまじ働いた頭をコーヒーの苦味で流し込む。

 

 バンドックの仕事は終わらない。

 今回の聴取をまとめ上げ、上官に送らなければならない。

 

 トリガーがどうであろうと知ったことではない。

 

 バンドックの仕事はただ一つ。

 AWACSとして囚人の首輪を握ることだ。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「あー疲れた」

「お疲れさん。で、なにしてたんだ?」

 

 通りすがりのタブロイドを捕まえ屋上の日陰でキンキンのジュースを口に含む。

 なんつーか誰かと話したかったのよね。

 

「事情聴取ー」

「ハーリング殺しのか?」

「そっ。なんかバンドックの上官が調べ直し? とかしてるんだって」

「おめでとう。これで冤罪は晴れるんじゃないか?」

「どうだかなぁ………言うてオーシアの高官だし」

 

 ハーリングがいない今好き勝手やってるクソッタレ高官だし。

 

「フルバンドのことは聞けたのか?」

「んーー、どうだろ。まあ周知の事実って感じぐらいかなぁ」

「そうかい」

「でさ、やっぱり俺以外はみんなレッドマーカーだったのか?」

「そうだな。残り1機っていうバンドックの言葉をみんな信じてたよ」

 

 そう。あの時バンドックは俺の識別だけ正常にしていたのだ。

 そして手柄をたてたいカウントを焚き付けて早々に落とす。タブロイドの提案はバンドックにとって僥倖だったことだろう。

 

「もしタブロイドがフルバンド落としてたらどうしてた」

「そうだな。俺が落とされなくて良かったって感じだな」

「あら意外。もっと感傷にふけると思ってたけど」

「フルバンドは、飽きない奴だったさ。でもまぁ自分の命には代えられないよ」

「たまーにドライだよねタブロイド」

「そうかい? まあ元々そういう人間なんだろうな俺は。その場の流れに任せてあとは野となれ山となれってね」

「そういうのも良いんじゃない。フルスロットルで谷底にランナウェイする奴よりは」

 

 インシー渓谷の山もびっくりな急角度で落ちていったからなぁ。

 てかあいつ死ぬ間際でさえもなーんも分からずに死んでったな。

 

「………ふぅ」

「どうした」

「いやさ。今まで何人死んだのかなって」

「さあな。だがうち以上に死んでる基地だってあるかもしれないぞ」

「そうかねぇ」

 

 ハイローラー、チャンプ、ついでにフルバンド。

 あと名前も特に覚えてないその他大勢。

 

 こんな箱庭の牢獄の中だと、どれぐらい攻めてるのか、それとも負けてるのか分からないのが現状だ。

 

 だが………

 

「タブロイド」

「なんだい」

「もう終わるかもしれないよ」

「は?」

 

 ヒューと強い海風が身体を叩いてくる。

 

「戦争がって話かい?」

「いーや。444の懲罰部隊としての話だ」

「根拠は」

「あるようでない、でも。もうすぐ終わる、そして………こっから始まるんじゃないかな」

 

 大攻勢が。

 

 なんも考えなしに言った言葉が風に乗った。

 

 そして俺たちはその嘘から出た真が真実になるのを知らない。

 

 それどころか、自分がその中核になることなど。

 

 

 






 皆様、明けましておめでとうございます
 何年かぶりに風邪を引いた作者です

 コロナでもインフルでもないですが、まあ本調子ではなかったですね。今は大分治ってますが、一週間立っても全快ではなく少し喉が変。年齢を感じましたね、今年で三十路ですが。

 今回はトリガー聴取回。
 ミッション10でファッキンゼイが参謀本部に心証やら何やら言ってたのでこういうこともあったのかなと。
 いったいバンドックの直属の上官って誰なんでしょうね。

 次はミッション10…の直前あたりかな?スペア編も終わりが見えてきました
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