エースコンバット7 FLIGHT REZON   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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STAGE42【UNKNOWN(王の鏡)

 

 

 純白。

 

 それは汚れを知らないような真っ白の身体をしていた。

 戦闘機にしては小型で、それでいて無機質。

 キャノピーと思われる場所には身体と同じ白い装甲が覆われている。

 

 雲の上を飛び、直立したまま佇む姿。

 

 物言わぬ相手。だが俺には、奴がこう言ってるように見えたのだ。

 

 ここは私の空だ、と。

 

 

 

 

「不明機は敵機と判断する。状況に対応しろ! ローパー1を守れ!」

「ウィルコ」

「了解」

 

 アンノウンはそのまま下に反転、くるっと回転したのちエンジンに火を入れた。

 

「スペア15、エンゲージ!」

 

 同じ高度に下がって再上昇したアンノウンを追うためにこちらも直立上昇。

 HUDに表示されたUNKNOWNの表示に目掛けて目一杯飛ばす。

 

「スペア15、バンディッドを撃墜せよ! ローパー1はスペア2が護衛しつつ安全な場所まで移動する」

「ウィルコ。俺もそう上申しようと思ってたところだ。トリガー、そいつをこっちに来させるなよ!」

「あいよ! 近づいたら守れよ伯爵様!」

「そうならないように祈るぜ。お荷物抱えたままやりたくねえよ」

 

 同感だな。

 とにかくコイツ、得体がしれない。

 

 アンノウンは大きく迂回しつつこちらにヘッドオンしてきた。

 

 来るか!? 

 だが向かってくるなら好都合だ! 

 

 兵装選択。距離2000、ロック! 

 

「FOX2!」

 

 F-15 S/MTDからミサイルが2発切り離され、排気煙を出しながら直進。

 敵の速度はなかなか、減速しない。それどころか回避機動さえ取らない。

 

 何かおかしい。そう思った俺は機体を倒して左にそれた。

 ミサイルと奴の彼我距離が近くなる。直撃コース。

 

 そのまま木っ端微塵、と思ったら。

 

「はぁ!?」

 

 信じられないことに。アンノウンはこちらのミサイルを正面に捕らえつつ。機銃で残らず2発のミサイルを撃ち落としたのだ! 

 アンノウンはそのまま爆煙を突っ切り、返す刀でこちらに機銃を浴びせる。

 それた状態の機を更に傾け回避。数発かすったのち奴とすれ違う。

 

「おいマジか!」

「なんだ、何が起こった! 状況を伝えろ!」

「あのアンノウン! トリガーが撃ったミサイルを機銃で撃ち落としやがった!」

「なんだと!?」

 

 ミサイルは戦闘機より早く、そして小さいため一度撃たれたミサイルを撃ち落とすのは困難である。

 地対空兵器や海上からの迎撃などはその例から漏れるが。高速で移動する戦闘機がそれを落とすなど普通ではない。

 

 しかも驚くことに、奴はミサイルを撃ち落とすことを確信していた。

 もし失敗して撃ち漏らした場合、正面衝突するところを奴は減速や曲がることもせずに撃ち落とした。

 まるで一騎討ちを仕掛けるかのように。

 

「なんだあの不気味な機体は。この機に接近させるな!!」

 

 言われなくても接近させないさ。

 しかし司令官の言葉を借りる訳じゃないが、確かに不気味だ。

 

 俺の頭の中ではアイツは無人機確定。

 そもそも有視界戦闘が必須の戦闘機においてキャノピーが無いなんて無人機以外あり得ない。

 

 だがただの無人機ではない。

 

 奴は攻勢に出るかと思いきや遠くから旋回しつつ様子を伺ってるように見えた。

 何かを待っているのか、それとも隙を待っているのか。

 

 MQ-99やMQ-101はどちらも積極的に外敵を排除する動きをしてきた。

 なのにあいつの動きは何処か人間らしく、だが人間にしては無機質な冷たさを感じる。

 

 静かだ。

 

 戦場に敵機が居るなかで、ここまで静寂なことはなかった。

 無機質な間から覗く本当に微かな人間臭さ。

 

 不気味、それ以外あらわすものはない。

 

 恐らくこいつは輸送機が目当てではないと思う。

 あれほどの俊敏性ならばこちらを無視して輸送機を叩いても良いはず。

 現に不意を突かれて俺とカウントの間を通った時も輸送機には目もくれなかった。

 

 なら狙いは? 

 こちらを攻撃、或いは迎撃してきたのだから味方ではないと思うが………

 

 敵ならば落とす。だというのに真意が知れず、明確な敵としてあやふやなのには理由がある。

 

『国籍不明機に告ぐ! 貴機はボルゴテレスト領空を侵犯している! ただちに退去せよ!』

「警告を無視してやがる 何者なんだこいつは!?」

「バンドック」

「IFF応答なし。無人機ならエルジアなのだろうが………」

 

 この通り奴はIFFを出していない。

 オーシアなのかエルジアなのか、はたまたベルカなのさえ分からない。

 どっかにノースオーシア・グランダーI.Gのロゴないのか? 流石にわからんか。

 

「来た!」

 

 敵機反転。様子見は済んだのかこちらに迫る。

 やはり速い! さっきのMiG-31に迫るレベルの速度。身体が軽いからか? とにかく速い! 

 

「またヘッドオンか!」

 

 素のミサイルでは駄目だ。

 だが通用する確証がない。試しに一発、超高速弾で! 

 

「FOX3! ………ああ! 駄目かオイ!」

 

 素のミサイルの倍以上の速度のHVAAもお構いなしに撃墜。

 なんなんだその狂ったような迎撃システムは!! 

 

 もうどうあがいても真正面からは勝てない。

 無理にやろうものならミサイルが当たらないまま蜂の巣は必須だ。

 

 ならひたすら真後ろからぶち落とす! 

 

 ハイGターンによる急旋回で敵の後ろに付く。

 敵も後ろを取られたくないのか、鏡合わせのように急旋回。

 

「おい。この機の燃料は大丈夫なのか。スペア2、お前は絶対離れるなよ」

「はぁ………」

 

 未だ鈍い輸送機のパイロットとカウントの心中を察しつつ。こっちはこっちで機敏に頭を回している。

 

 ストールしないよう速度を微調整し、段々と敵との距離を縮めていく。

 

 寒気がする。

 得体の知れない奴からではない。

 

 何処か、アンノウンの奥から覗く何かがある。

 そして………この飛び方に見覚えがある。

 

 似ているようで何処か違う。だがこの動きは………ミスターX………奴に似ている。

 

 言葉に出すことなく腹の中で睨み付ける。

 

 いつかマートンのおやっさんが言っていた。

 ミスターX、実験部隊のXプレーン乗りが無人機開発に関わってるという噂を。

 

 MQシリーズが奴の動きのデッドコピーだとしたら。こいつは………奴にもっとも近い動きをインストールされてるのではないか。

 

 ピーー

 

「っ!」

 

 F-15 S/MTDの旋回が奴に追い付いた。

 真後ろドンピシャ! 

 

「FOX2! 行け!」

 

 切り離されたミサイル。

 アンノウンの背後から迫るそれが奴の近くで破裂した。

 ヒット!! 

 

「敵機被弾! 未だアクティブだ」

「防御性能も奴譲りか!」

「奴だって? おいまさか」

 

 カウントが気付いた。

 ていっても俺が奴って言ったら1人しかいねえか。

 

「乗ってはいない。あいつから奴のような苛烈さは感じない。何より………魂がない動きだ」

「やっぱ無人機か。ならこいつ何が目的なんだ? 空戦機動をとっちゃいるが、何かおかしい」

「俺たちを、いや俺を見てるんだ」

「データを取ってるってか?」

「だろうけど………」

 

 とにかく真意がわからん。

 無人機に何を問うてんだって話ではあるが。

 

「スペア2油断するな、そっちに行ったらお前が相手をしろ」

「ネガティブ!」

「返事早いな!」

「当たり前だろ! そんな気色悪い奴との相手なんかごめんだ! だから必ずお前が落とせよトリガー!」

「ヘイヘイ!」

 

 期待の裏返しってことで頑張りますよ! 

 

 それにしても………

 

「あー! 後ろ取れねえ!! あいつ以上に逃げやがる!!」

 

 こっちがグイグイ旋回して後ろ取ろうとしても対角線上に移動。

 ならば逆方向かと思えば奴はこちらを真似るように旋回して後ろを取らせない。

 

 そして接近するのは必ずヘッドオン。

 しかも機銃の威力はこちらのより高そうだ。

 救いなのは奴にミサイルが搭載されてないことぐらいか。

 

 奴の機体は小型ながら高性能。

 無人機だからGの心配はなく、思う存分動けることだろう。

 そしてミスターXの因子を色濃く受け継いでいる。

 

 だがこっちだってスクラップ・クィーンの魔法と執念があるんだ! 

 木偶如きに遅れを取るF-15 S/MTDじゃねえ! 

 

 急減速、からのクルビット! 

 機体を宙返り、そして右方向に方向転換。90度ターン、加速! 

 

 偏差距離予測、相対距離合わせ! 

 ロックオン解除! 

 

「ファイア!」

 

 ミサイル射出。ロックオンなしで撃たれたミサイルは直線軌道で増速。

 その軸線上にアンノウンが重なり、近接信管が作動した。

 

「ブルズアーイ!!」

「おい今何したトリガー!? どういう頭したらミサイルで偏差射撃しようと思うんだ!? 馬鹿だなお前!!」

「馬鹿なのは今さらだろう。バンディッドの被弾を確認。動きが鈍ったか、いけるぞ!」

 

 ノーロック近接信管。上手く行かないと思ってて自棄っぱちだったが案外なんとかなったなぁ! 

 といっても相手がロジック思考だったから出来たことだ。そしてやはり奴の頭は良いらしい。

 ループ軌道をやめて遠方からこちらを突き刺すように突っ込んできた。

 

「こなくそがぁ!」

 

 突っ込んでくるアンノウンを躱し、スロットルをぶっ叩く。

 アフターバーナー全開のMTDイーグルは一気に加速し奴の背後に張り付く。

 

 少しずれても感知される。

 近くで、そして真後ろ真っ正面! 

 

 身体にかかるGを半ば無視して飛び回り、加減速を繰り返しながらタイミングを合わせる。

 

 まだ、まだ………もっと近く………………ここ! 

 

 敵のエンジンとこちらの機首が直線で繋がった。

 距離2500、兵装3選択! 

 

 ここが必殺の間合い!! 

 

「FOX3!」

 

 切り離された最後のHVAA。

 この距離この速度ドンピシャのタイミング! 避けられる訳が──

 

「うひぇ!?」

 

 思わず奇声が出た。

 着弾まであと500といった所でアンノウンが180ロールから急降下、からのスプリットS飛行で超高速ミサイルをやり過ごしやがった! 

 

「バンディッドがミサイルを回避! 今のを避けるのか!?」

「トリガーの野郎の動きも尋常じゃねえが、奴も奴でイカれてる!」

 

 振り向くとこちらに突っ込む奴が。

 機銃掃射を回避しつつ、パルスエンジン特有の音がコクピットに響いてくる。

 まるで怪物の鳴き声だ。

 

「………これまで諸君に与えられた任務に不満があったのはわかる。だがそれも軍としての戦略のためなのだ。個人的な考えに浸ることなく全力で護衛に当たることを切に願う………」

「おいトリガー。司令官が柄にもなく命乞い始めやがったぞ。そろそろケリつけねえとヤバそうだ」

「ほっとけっ!! そんな奴っ!!!」

「………お前も大概ヒデェよな」

 

 恐慌状態に陥った護衛対象に対するあまりにもな物言いに軽く引いたカウントを無視し。

 俺は今一度アンノウンを睨み付ける

 

 今までの無人機を凌駕する運動性能。高度な状況把握能力。そしてどんな攻撃にも対処出来る。

 もしこんな奴が量産なんかされちまったら………

 

「させるかよ」

 

 ゾクリと冷えた身体を震い立たせる。

 一刻も早くこいつを落とす。

 これ以上コイツがこの世に生きていちゃ行けない! 

 

「見せてやるよ。人間の底力!」

 

 アンノウンを追い続けることを止め、此方も大きく旋回。

 充分距離を離したところで直進、増速。

 

 こっちに気付いたアンノウンがヘッドオンで迎え撃とうと直進。

 

「トリガーの奴、真正面から迎え撃つ気か!?」

「スペア15、正面からは有効打はない! 回避せよ!」

 

 耳には入る通信もカット。

 スロットルも倒しっぱなし。

 揺れるコクピットの中で全神経を前方に集中する。

 

 敵との距離。あと5000………4000………3000。

 その速度は回避する気がないと見られる程まっすぐだった。

 

「無茶だトリガー!」

 

 2500………2000! 

 奴が機銃を撃つ。逸る気持ちを抑え、そのままバレルロール! 

 

「く、うっ!」

 

 Gに耐えながら目を離さない。

 機銃の何発かが機体に弾痕を残す。

 スローモーションになるような感覚を覚えながら、絶えずその生意気な白い躯体を睨む。

 

 1500、1000………今! 

 

「行けよやぁっ!!」

 

 距離500。

 敵とぶつかる距離で、最後のミサイル2本を発射。

 遮二無二に離脱機動! 

 

 即座に迎撃しようとしたアンノウン。

 1発は迎撃に成功したが、爆炎の中でミサイルと正面衝突。

 

 その純白の身体を黒く焦がしながら空中で爆発四散した。

 

「バンディットロスト! 撃墜だ、状況オールグリーン。スペア15、良くやった」

「ハハッ! ざっとこんなもんだーい!」

「ざっとこんなもんだーい! じゃねえぞトリガー! あんな無茶してホント大馬鹿野郎だなお前は!」

「いやー照れますなぁ!」

「褒めてねえ!!」

 

 マジで見ていて落ち着かなかったのと俺が落ちた後の状況を思い浮かべてというダブルパンチにマッキンゼイと同じぐらい戦々恐々していたカウント。

 

 生死ギリギリのフライトをしたせいでアドレナリンがドバドバ出てテンションが高い俺。

 

 そしてもう終わったから良いやと半ば投げ槍なバンドックとどうでもいいマッキンゼイが残された。

 

「………待て、今度はなんだ………4フレンドリー・アプローチ」

「味方機、であれば良いがな」

「昨今IFFは当てにならないからな。ほんと世紀末」

 

 接近してくるのはF-15Cみたいだ。

 オーシアで広く使われてる機体だが果たして………

 

「こちらは第444航空基地飛行隊。そちらの所属を明らかにせよ」

「なるほど番犬どのか。こちらはサイクロプス1」

「え、ワイズマン!?」

「久しいな、パーマー君。そのF-15 S/MTDは君だな?」

「え、ええ」

 

 向かってくるのはインシー渓谷で救出したサイクロプス隊だった。ストライダー隊はいないみたいだが。

 

「サイクロプス隊! なぜこんなところにいる!」

「敵のプロトタイプ機を追っていた。堕としたのが君のところの大馬鹿野郎だとすると納得が行く」

 

 大馬鹿野郎がもうはっきりと褒め言葉になったなぁ。

 訓練生時代の渾名がこうもなるとは。人生わからんものだなぁ。

 

 だが。こっちの真の大馬鹿野郎はその意味を理解せずに居た。

 

「こちらは基地司令のマッキンゼイだ。うちの馬鹿が迷惑をかけた。私の制止命令を効かなかったんだ」

「は?」

「所属不明機を撃墜した彼は処分を受けるだろう」

「はぁーー!!?」

「勘弁してくれ………」

 

 こいつほんとなに言ってる訳!? 

 制止命令だぁ!? そんなの一言も言ってねえだろうが!! 

 

「こちらスペア15! マッキンゼイ司令! 私は命令通りアンノウンを撃墜しただけです! 処分される謂れはありません!」

「私は近寄らせるなと言っただけだ。そんな命令は下していない。会議のやり直しもなしだな。まことに気の毒だよ、スペア15」

「あんたという人は!!」

 

 最後の最後まで性根が腐った奴! 

 お望み通り撃墜せしめてやろうか! 

 

「司令官殿。状況を説明しますので、我が基地までご同行願います」

「むしろありがたい。護衛機が頼りなかったからな」

「あんた言うに事欠いてそれか!」

「黙れスペア15! これ以上の私語を禁ずる!」

「マッキンゼイ司令!」

「司令官。彼らは見所がありますよ。今後の戦争を左右するほどにね」

「なに?」

 

 ワイズマンの落ち着いた声色が司令官を黙らせた。

 だが俺の憤りは収まる気配はない。

 

 ムカムカした心を必死に落ち着かせようと。輸送機が視界に入らない前方についた。

 

 真正面を向いたままの俺は気付かなかった。

 いつの間にか隣についていたワイズマンの笑みに。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 俺たちが降り立ったのはユージア大陸東に位置するニューアローズ航空基地だった。

 長らくザップランドに居た俺たちから見て。いや、フォートグレイス基地を見ていたとしても此処は他よりもなかなか立派な基地に見えた。

 

 金がかかってるというのはカウントの言だ。

 

 滑走路を降り、揃って格納庫に機体を納めた俺とカウントは一度待合室で待機を命じられた。

 

 ワイズマンと会うなり胡麻をすり始めたマッキンゼイの記憶が新しい中、俺はソファにダランと寝転がっていた。

 

「胃が痛い………」

「なんでだよ」

「これからどんな仕打ちが来るのかと思うと………」

「タイラー島に行った奴らに比べたらこっちは天国だろうがよ」

「更に胃が痛くなってきた………しかし甘いなカウントよ」

「何が」

「俺とお前以外がタイラー島送りなんてのをやられたのに。それと同じぐらい444の内情知ってる俺らが始末されないという保証はあるのか?」

「だが恩赦貰ったろうがよ」

「その相手オーシアぞ?」

「あーーー」

 

 安心安定のオーシア評価。

 武器兵器関連で暗いのがベルカなら政治的に真っ黒なのがオーシア。

 

 ぶっちゃけこの待合室にライフル構えた軍勢が大勢来てもおかしくない。

 

「しかしお前の査問委員会のやり直しってどうなるんだろうな」

「なに、心配してくれんの?」

「バーカ。お前が査問会で白ってならねえと俺の身の安全に響くだろうが」

「基地で一番ハーリング殺しって言った癖に」

「てめえの初陣で敵機擦り付けられたの忘れてねえからな」

「忠告聞かねえ気取りや一人称僕が悪い」

「可愛くねえ奴」

 

 どうせ可愛いのはベイビーフェイスだけですぅ。

 

 ブー垂れているとノックが。

 どうぞと言ってやるとワイズマンが入ってきた。

 

「二人とも来てくれ。うちの司令官殿がお呼びだ」

「了解です」

「まともな奴だといいな」

「うちのよりまともじゃないの居るか? 居るか、いくらでも」

 

 無能な上官なんかそこら辺に吐いて捨てるほど居る。フォートグレイスでは運が良かったな。

 

 そんなことを考えながら小綺麗な廊下を歩いていく。

 あちこちから視線が向けられる中、ワイズマンに案内されたのは司令官室。

 

「ハルベルトです」

「どうぞ」

「失礼いたします!」

「失礼しまぁす」

 

 紹介された司令官どのは壮年の男性で、マッキンゼイほどじゃないが恰幅が良い。

 温和そうな見た目と笑顔は何処か安心感を覚える。

 

「二人とも、予想外のアクシデントがあった中ご苦労だった。我がニューアローズ基地にようこそ。私はこの基地の司令官である、ジョージ・アイゼンハワー少将だ。これから宜しくと言いたいところだが。君たちの場合、事情が大変複雑だ」

「はい」

 

 俺たちは札付き。それも俺はハーリング元大統領殺害の容疑者だ。

 お上が処理したがってる懲罰部隊の2人の処遇というのはなかなか収まりが悪いだろう。

 

「君たちが遭遇した無人機は敵軍の最新の試験機でな。新型ということもあって性能データの収集を予定していたが………とんでもないことをしてくれたな」

「「っ!」」

 

 やっぱり落としたら不味いタイプだったのか? 

 ファッキンゼイの戯言が現実となるとは! 

 

 どう答えたものかと二人揃って冷や汗をかくなか。しばらく黙っていた司令官が破顔した。

 

「あー、誤解させてしまったならすまない。君を咎めてる訳ではないんだ少尉。突如として遭遇した新型をハルベルト中佐率いるサイクロプス隊が迎撃しようとしたところを逃がしてしまってね。誰の手にも撃墜出来ないと思った矢先に君が見事撃墜してくれた。基地司令としてお礼を言わせて欲しい。ありがとう、パーマー少尉」

「い、いえ! 光栄です!」

 

 良かったぁー! 

 杞憂で良かったぁー! 

 

 カウントなんかさっきからやべぇよやべぇよって顔しててこっちに助け求めてたもん。

 おい擁護しろよトリガー! って顔が言ってたもん。

 

 すまん。俺だって撃墜したのは俺です! って言いたかったけど口が動かなかったんだ! 

 

 揃って安堵した表情を浮かべる俺たちにアイゼンハワー司令官とワイズマンがさぞ面白そうに笑みを浮かべている

 

「司令官。あの無人機はなんなのでしょうか。IFFも発してなかったのが不可解で。あれでは味方からも狙われてしまうでしょうに」

「ふむ。我々もそれに関しては疑問がある。予測できるのは、ノースオーシア・グランダーI.Gが独自に動かしていた可能性だ。といってもこれも憶測であるがな」

 

 ベルカ、か。

 またよからぬ事を考えているのだろうか。

 狂った火は今も燻っているのか。

 

 オーシアとエルジアを使って兵器実験をしている。なんてのは考えたくない。

 

「ああ。諸君らが護衛していた司令官についてだが」

 

 マッキンゼイ。これから後方勤務になる阿呆野郎。

 発言力なんかないだろうし。無能な置き物が迷惑を撒き散らすよりかは良いかなぁ。

 

 だけどなぁ。少しは痛い目にあってもなぁ、と思ったら。

 

「極東支部勤務という話だったが。彼の異動先が変更となった」

「は?」

「はい?」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「フフ、フフフ、フフフフフフフ」

 

 基地の職員に案内されるなか。気持ち悪い笑みを浮かべ、すれ違う女性職員に引かれながら歩く男が一人。

 

 ニューアローズ基地に護送された444空軍基地司令、ジャスティン・マッキンゼイ大佐は上機嫌だった。

 

 お世辞にもノリに乗らない人生を歩み、流刑地と名高いザップランドに流されて幾星霜。

 エルジアが戦争を起こしたお陰で彼の胸にはこれまで付くことはなかった勲章が光ることとなった。

 

 罪人を利用し戦果を得た。

 誰にも出来ない偉業を成し遂げた。それが自分の戦果と栄誉であることを欠片も疑わないマッキンゼイ。

 

 気分は有頂天も有頂天。

 極東支部に栄転となり、これから輝く人生を見るという期待と自信で胸が一杯だった。

 

「マッキンゼイ大佐、改めてお礼を。君たちのお陰でエルジアに対して有効打を打つことが出来た」

「ありがとうございます。それで、私の配属先については」

「うむ。では君の異動先についてだが」

 

 思わずニヤリと笑みが深くなる。

 キラキラとその顔面に似合わない眼をしたマッキンゼイは今か今かと少将の言葉を拾い上げようと勤めた。

 

「ジャスティン・マッキンゼイ大佐。君の働きに敬意を表し、ユージア大陸最前線の司令官に任命することとなった。これは国防軍参謀本部の決定である」

「…………………へ?」

 

 その時。マッキンゼイから魂が抜けた。

 

 なんのジョークだろうと思った。

 だが普段基地でも温和で知られるアイゼンハワー少将の顔は真面目そのもので、冗談のジの字もなかった。

 

「わ、私は………極東の配属では?」

「その筈だったのだが。前線の特別部隊の司令官が殉職してしまってな。空席が空いたところに君が来たというわけだ」

「とく、べつ、ぶたい?」

「各国から要請された傭兵部隊だ」

「よー、へー?」

 

 オーシアはユージア地方に在中しているIUN国際停戦監視軍の戦線崩壊に端を発し。各地から傭兵を起用した。

 エルジアによる先制攻撃でズタズタにされながらも今の今まで戦線を維持出来たのはその傭兵の働きによるものも大きい。

 

「な、何故私にその任を?」

「君は一癖も二癖もある懲罰兵たちを律し、類いまれなる戦果を出した。傭兵の場合も同じく癖があり、それを統括するのも並大抵のことではない。懲罰兵を見事活用した君ならば、傭兵部隊を指揮することも可能だと判断した」

「あ、がが………」

 

 開いた口が塞がらなかった。

 

 懲罰兵を見事制御した? 

 それは誤りだ。彼らを制御出来たのは歯向かう懲罰兵は直ぐ様独房に叩き込める環境があったからだ。

 罪人は看守に逆らえない、逆らうことは出来ないというシステムがあったからこそ、なんの才覚もないマッキンゼイはザップランドで独裁を敷くことが出来た。

 

 だが前線の傭兵部隊は違うだろう。

 メッキにすらならないハリボテの指揮をするとなればたちまち歴戦の傭兵からの反感を貰うことだろう。

 傭兵は確かに金の為に戦うが。傭兵には傭兵なりのプライドと信念がある。

 片羽の妖精やエスパーダといった傭兵を筆頭にした国境無き世界での事件は、その傭兵の在り方を問うものでもあり。現在その待遇も大分改善されている。

 

「し、司令官、私は」

「君の評判はハルベルト中佐からも聞いている。その実力に嘘偽りがなければ、必ずこなせる筈だ」

「あ、いえ、ええ………」

 

 身から出た錆が滲み出てきた。

 こんなことになるならワイズマンにあんなこと言わなければよかったと後悔するが。時既に遅しである。

 

 だがなんとか食い下がろうと無い頭を振り絞ってみたが、それは許されることはなかった。

 

「ところでマッキンゼイ大佐。少し耳に入ったのだが。君がザップランドにて懲罰兵に対して不当な扱いをした、という噂が入ってきてね」

「ヒッ!」

「オーシアの正規軍人ともあろう者が、そのような愚かなことはしていないと考えているのだが。もしそれが本当ならば君の処遇を考えなければならない」

「そ、そのような事実は御座いません!!」

 

 まるで自分が罪人となった気分だ。

 ここは正に司令官室という皮を被った法廷なのではないか? 

 自身は裁かれる為にここに居るのではないかと錯覚するほどだった。

 

 マッキンゼイの返答に我が意を得たりという顔をしたアイゼンハワー少将は人の良い笑顔で判決を下した。

 

「それを聞いて安心した。ではマッキンゼイ大佐、君の武勲を期待する」

「は、はひ」

「では別命あるまで待機したまえ。君、彼を部屋まで案内してあげなさい」

「ハッ! 大佐、こちらへ」

「………………」

 

 魂が完全に抜けきったマッキンゼイは茫然自失したまま無心で歩いた。

 その姿は気色悪い笑みを浮かべた哀れな独裁者のそれではなく。牢屋に連れていかれる罪人のそれであったという。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「傭兵を中心とした特殊部隊の指揮官として最前線への赴任となった。厳しい環境だろうが、ご自分の戦績を強調されていたからな。まあ、その通りなるだろう」

「最前線………」

「勤務………」

 

 心なしか司令官の反応がドライだ。

 こんな人の良さそうな司令官がこの反応。

 

 どうやらマッキンゼイの悪評はここにも届いていたらしい。

 呆気に取られる俺とカウントに司令官は先程と同じ温和な笑みを浮かべる。

 

「コホン。諸君らの身柄については現在調整中だ。パーマー少尉、トリガーには略式ながら査問委員会のやり直しが行われる。先ずは身体を休めて欲しい。指示があるまで待機せよ」

「「了解」」

 

 敬礼を返し、俺とカウントは揃って退出した。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 トリガーとカウントが退出したあと、アイゼンハワー司令官とワイズマンはコーヒー片手に今後の部隊方針を見ていた。

 

「彼らは予定どおり我が隊に加えるという流れになるのでしょうか。上の許可は取ってるのですよね?」

「ああ。打診しようとした矢先にエドワード参謀本部副議長も何故か乗り気だったからな。スムーズに事が進んだよ」

「相変わらずあの人は話がわかる」

「して、彼らの腕前は確かかな?」

「無論です。二人ともミスターXの部隊と交戦して生き残っている。腕は確かです。特にトリガーは別格でしょう。彼は間違いなくこの戦争の鍵となる」

「賢人の感という訳だな?」

「煽ててもなにも出ませんよ?」

 

 ニューアローズ基地の古株二人は意味深に笑い合う。

 まるで宝物を見つけた子供のように。

 

「しかし、フリューゲルか………これも運命なのかもしれんなぁ………」

「ですね」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「………………」

「………………」

「………トリガー」

「駄目っ、我慢しろ」

 

 職員に連れられるなか。俺とカウントは何かを我慢するようにプルプル奮えていた。

 

「では今日はこの部屋でお泊まり下さい。必要なものがあれば内線にお掛けください」

「ありがとうございます」

「では」

 

 パタンとドアが閉まり部屋には静寂が訪れる。

 

 カウントとアイコンタクトし、小さく頷き合う。

 

「「プッ」」

 

 もう我慢しなくていいよね、と。

 

「「アハハハハハハハハハハハ!!!!!」」

 

 スペア15、スペア2。

 

 抱腹絶倒。

 

「左遷! 左遷されたぞあのマヌケ! アハハハ!!」

「最前線! 最前線だぞ何それウケるって! アハハハ!! しかも傭兵部隊って! 古強者の巣窟じゃねえか!!」

「死んだ! あの馬鹿死んだぞ!」

「その前に俺たちが死ぬ、笑い死ぬっ! ヒー! ヒー、ヒー!!」

 

 ベッドにのたうちながら大爆笑。

 息も絶え絶えになりながら笑い続けて数分。

 

 若干笑いが残るなかようやく落ち着いた。

 

「はー、はー、はー。あー苦しい。水、水」

「俺にもくれ………あーー死ぬかと思った」

「俺人生で一番笑ったかも………しかし当然の報いだな」

 

 因果応報。

 ぬるま湯だった懲罰基地とは何もかも訳が違う環境で果たしてマッキンゼイは生き残れるだろうか。

 精々傭兵諸君に迷惑をかけないことを祈ろう。

 

「あの能無しおたんこなすの生死はどうなろうが知ったことじゃないとして。現状俺たちの命は保証されたと思いたい………空も飛べると良いなぁ」

「好きだねぇお前も。まあ査問委員会はやるみたいだし、よかったじゃねえかよ」

「え、なに? カウントが優しいの気持ち悪いんだけど」

「お前ほんとナチュラルにひでぇよな」

 

 日頃の行いだ、因果応報パート2だ。

 

「とりあえず、クソッタレなスペア隊任務は終了。お疲れさまでした」

「この後更なる地獄があることを俺たちはまだ知らなかったのであった」

「不穏なモノローグやめーや」

 

 ハハハと乾いた笑いを上げる元囚人たち。

 

 まさかこの後。カウントの言った通り、これまでの任務が可愛く見えるような展開が待ち受けてるとは。

 

 想像も付かなかったのであった。

 

 

 






 どうも。久々の文字数1万前後で安心感を覚える男。ブレイブです。

 マッキンゼイ!最前線に突入!笑顔の絶えないアットホームな傭兵部隊です!やったね大佐ぁ!
 ここ書きたかったんですよね。原作だとサラッと流された場面だったので。書くのほんと楽しかったです。
 マッキンゼイの出番は恐らくここまででしょう。マッキンゼイ、お前のことは忘れよう。

 UNKNOWN、ことプロトレーベンの戦闘シーン。正直厚み持たせるの大変でしたがなんとかなりました。人間の意地の勝利です。
 原作でF-15 S/MTDのロールプレイをしたのですが。背後からHVAAをぶちこんだらサクッとやれました。MTDつおい。

 さてさて、これにてスペア編は終了。
 前々から告知してましたが、いよいよストライダー編に突入です!お楽しみに!!
 

 
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