エースコンバット7 FLIGHT REZON 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
STAGE44【
場所はユージア大陸の遥か東の最果ての地。
名をフォートグレイス。
開戦当初各地に奇襲をしかけたエルジア。
最東端の基地も例外なく奇襲を受けたが基地在留のゴーレム、メイジ隊が度々迎撃していった。
そんな今のフォートグレイスはというと。
「ふわぁ………」
「おいクラウン。勤務中だぞ」
「わかってますよ。ただあまりにも静かでね」
平和だった。
「最後の出撃っていつでしたっけ」
「10日前だな」
「それからまったく指示がないじゃないですか。前なんかひっきりなしに飛ばされていたのにですよ?」
トリガーがハーリング殺害容疑をかけられて連行された後でもフォートグレイス基地の戦争は続いている。
こっちの心情をお構い無しにフォートグレイス飛行隊は戦場に飛ばされて弾とミサイルをばらまいていた。それも結構な頻度で。
本部は遊ばせていく戦力など一つもない、などと言っていたが。この基地の人員からしたら戦場での口封じだろとしか聞こえなかった。
士気は最悪だったが無論それで死ぬなどまっぴらごめんだ。だからこそクラウンたちは全力で生きた。他人を殺して生き続けた。
「パイロットは生きていたら大勝利」
「トリガーが最後に言った言葉か」
我慢できずに飛び出したクラウンにかけたトリガーの叫び。
最後の最後で笑ってた彼の姿は今でも脳裏に焼き付く。
だからこそクラウンは腐りかけた自分のケツを蹴り飛ばして操縦桿を握り続けた。
情けない姿のままではトリガーに笑われるからと。
「オーシア空軍の大原則でしたね。あいつ今どうしてるかな」
「案外戦場を飛び回ってるかもしれんぞ。知ってるか。最近噂してる3本線の話」
「知ってますよ。イーグルやらラファールやらを乗り回してる凄腕ですよね。まさかそれがトリガーだとでも?」
「さあな。だが俺はこのユージア大陸であいつより強い奴を見たことがないからな」
トリガーが居たときはここまで素直じゃなかったろうにとクラウンはノッカーの心情を察した。
自分たちベテランを置き去りに瞬く間に基地のトップエースとなった童顔の新人。
操縦技術だけでなく戦場を見る目もあった。
彼の損失は間違いなくオーシアの損失。
そんな彼を冤罪に落とし込んだ国のために戦えとは。軍人は損な職業である。
「あいつが頑張ってるなら、俺たちも負けられん」
「ですね」
基地にいる全員がトリガーの生存を信じている。
そしてまた共に飛べる日が来ることも。
そう思ってなきゃやってられない。
こんなクソッタレな戦争など。
『たたた大変です! もう大変でゅべ! いっつー………』
「なんだ?」
基地の通信士が舌を噛んだのだろう。
突如基地内に響いた基地放送が史上最速で切れた。
『んんっ。失礼致しました。ニューアローズ基地から通信です。ゴーレム隊とメイジ隊は直ちに管制室へ………え? ブリーフィング室の方が良い? あ、はいブリーフィング室に集合して下さい。えと………リヒト・パーマー少尉から通信が入っています』
「は?」
「なにぃい!!?」
ある意味ハーリング殺害より衝撃的なニュースがフォートグレイス基地にもたらされた。
集合場所が管制室ではなくブリーフィング室に変更されたのは英断だっただろう。
呼ばれたメイジ隊、ゴーレム隊の他に司令官やAWACSスカイキーパー。そして基地整備士や一般職員、果ては食堂のおばちゃんまでごった返してパンク状態となった。
そしてその場に居た者は今か今かとモニターを凝視するのだった。
「繋ぎます」
通信士の言葉にゴクリと喉が鳴る。
『………あ、繋がってます? えーと、こんにちは』
「こんにちはじゃねえよ!!」
「生きてたかトリガー!!」
「だから言ったろうがよ死ぬたまじゃないってさ!」
「うおおおおおおおおお!!!!」
まさに歓声の嵐。
部屋の天井についていた埃が落ちるほどの音圧に画面の先のトリガーは思わず苦笑い。
『みんな元気そうでなにより。無事で良かった』
「ああ、俺やノッカー。ファウンやボグガードやフットパッドもスカイキーパーも無事だ」
「トリガー、元気そうだな。君の代役を勤めるのは大変だったぞ」
「少し痩せたか? あまり食べる奴ではないから心配していたが」
「トリガー! 俺たちは無事だぜ!」
『良かった。それだけが心残りだったから………あー、駄目だな。色々話したいことあったのに』
トリガーの眼に涙が光った。
泣きたいのはこっちだと思いながらも、これが夢ではなく現実だということを噛み締める。
「トリガー、君がニューアローズ基地に居るということは」
『はい。自分のハーリング元大統領の殺害容疑は晴れました』
途端にまたも大歓声が基地に木霊した。
疑いつつも冤罪だと信じ。それでも望み薄と思っていたが故の反動である。
「よかったなトリガー。本当に」
『はい。ただ、真犯人の特定に至ってはいないので。私はまだ参考人に立場にあります』
「待ってくれ、真犯人と言ったか? ではやはり、あの時メイジ2が撃ったと言っていた奴なのか?」
『恐らくは………すいません。込み入った話は出来ないのです。ただ、犯人はフォートグレイス飛行隊でも、ガーゴイルの部隊ではないと言っておきます』
それだけでも十二分すぎる情報だ。
ことの真相を知っているが故に迂闊に話すことの出来ない重要参考人であるトリガー。彼がそれでも伝えた情報の真意はフォートグレイス基地に裏切り者がいないという安心感を与えるためだった。
それでも我慢が出来なかったスカイキーパーが戸口を開いた。
「トリガー。正直に答えてほしい。ハーリング氏を撃った真犯人。それを私は見逃していたのか」
ビンセント・ハーリングの死にショックを受けた彼はトリガーに対して静かな怒りをぶつけてしまった。
あの時誰よりも戦場を俯瞰して見ていたはずの自分が真犯人を見つけることが出来ず、トリガーに全てを押し付けたのではないかと。
『すいません。お答えできません』
「ハーリング氏が危機に瀕した時から、私は冷静な判断を下すことが出来なかったのかもしれない。必死に抑えていても止められない激情が支配していた。私がもっと冷静にAWACSの責務を遂行していたなら、むざむざ君を」
『スカイキーパー』
重圧に押し潰されそうになったスカイキーパーを静かに諭すトリガー。
彼は笑みを絶やさずに淡々と話し出す。
『自分はあなたの腕を信頼している。アーセナルバードで本部からの情報が不足していた時でもあなたは職務を全うした。ハーリング元大統領救出でも同じです。仮にあなたの落ち度であったとしても、感謝はしても恨みはしません』
「しかし………」
『今回のハーリング元大統領殺害事件は我々が考える戦争の根底を覆しています。仮にスカイキーパーが真犯人を確認できたとしても握りつぶされていたことでしょう』
「握りつぶすって、そこまでの相手なのか!?」
「なんということだ」
想像を越えた巨大な権力が動いてることを察したフォートグレイスの面々は表情を暗くせざる得ない。
またもオーシアが何か企んでいるのではと。
『まあ何が言いたいかって言うと。あの時は誰にもどうすることも出来なかったので。気にしないでください。いやほんとに』
「君はそれで良いのか、トリガー」
『いいんです! そんなことよりも今こうやってみんなと顔合わせ出来たことの方が大事ですからね。幼少期時代に比べりゃ獄中生活など天国でしたよ』
「お前どんな幼少期過ごしたんだよ」
事情知ってるクラウン以外が引いたところで更に押していく。
『はい! 俺の冤罪云々は終わり! そもそも無罪報告を言いたかっただけだから謝罪なんて求めてないですから俺は! そもそも恨んですらいないし』
「ほんと型破りだなお前は」
こんな童顔みたいな顔をしてトリガーはいつだって現実を見ている。
彼の言う過酷な幼少期がそれをさせたのか。或いは
『みんなが無事ならそれでいいですよ、俺は』
「だけど、今回のことでマートンさんが」
基地司令官の顔面に辞表を叩きつけた豪傑が自前の道具片手にフォートグレイスを出ていった時を思い出す。
戦時中の今どこに居るのか。フォートグレイスの面々は密かに心配していたのだ。
『あー。マートン中尉は………』
『ワイズマン! このパーツは本当に明日届くのか?』
『確約は出来ん。いつエルジアが飛び込んでくるかわからんのだからな』
『おいおい頼むぜ! ここまで来たら万全な状態でトリガー坊主に渡してえんだからよ!』
「「………………」」
ものすごく聞き覚えのある声にシンと静まり返った。
豪快を絵に描いたようなよく通る声量を持った豪傑の声が。
「………なあトリガー。今なんか」
『ええ、居ますよ。こっちの基地に。いまは嬉々として俺の機体整備してます、はい』
「「何してんだあのおっさん!!」」
そこからは張り積めた空気がほどけたのか最近起こった話をしていった。
フォートグレイス組でどういう任務があったかとか。
「対空ミサイルが下からわんさか撃たれまくりでな。フットパッドが一発かすめたんだよ」
「あの時ほんとに死んだかと思った。UAVも来たし」
『エグー』
獄中生活はどうだったかとかなど。
『オーレッドはクソだったけど。移送先は快適でしたよ。普通に友人とか出来たし』
「お前って結構コミュ力高めだよな」
「いざこざとかなかったのか?」
『まあーありましたね。何人か本当にしつこい奴が居たんですけど、股間を何回か蹴り潰したら大人しくなりました』
「「「ヒッ」」」
2ヶ月の空白を埋めるように話に話してしまい。あっという間に時間がたってしまった。
「こちとら凄い心配してたけどな。思った以上に元気そうで良かったよ」
『飯は食えてたのでね。クラウンこそ落ち込みすぎて腐ってるかと思ったよ』
「ハハハ、言ってろ! ………なあトリガー」
『はい』
「フォートグレイスには戻らないんだな?」
分かりきった質問。それでいて期待を込めたそれに対し、トリガー間を置くことなく告げる。
『はい。俺はここでやらなければならないことがあります。戦争を止めるために』
「分かった………またどっかの戦場で会おうぜ」
『ですね。全部終わったら改めて誕生日しましょう!』
「それフラグだぜトリガー!?」
「でも全然へし折りそうだよなトリガーなら」
「ジンクスなど信じるな。最後に求められるのは自分の実力だ」
「我らの編隊長は相変わらずお堅いな」
「トリガー。選りすぐりのハーリンググッズがある。渡すまで生きていてくれ」
『了解しました!』
湿っぽい別れなどしない。
今生の別れとなることがあっても。明日を信じて笑ってさよならをするのだ。
トリガーが通話のスイッチを切ろうとした時、クラウンが思い出したかのように待ったをかけた。
「そういえばトリガー。最後に聞きたいことがあるんだが」
『なんでしょう』
「白い3本線をつけた戦闘機って知ってるか?」
ピシッとトリガーが固まった。
「お前が収容されて1ヶ月後に突然現れた奴が居てな。イーグルだったりラファールだったりとマチマチなんだが。数多のネームドを返り討ちにして、最前線で大暴れしまくったそうなんだが………もしかしてお前だったりするのか?」
『………………ニコッ』
………通信が切られた。笑顔で。
「えーっと」
これはどう取るべきか。
3本線=トリガー。
だがその場合トリガーは獄中に居ながら飛んでいたことになる。
本当は1ヶ月前に無罪だった? なら直ぐに連絡を。いややんごとなき事情があったのか。
もしや懲罰兵として最前線に?
「諸君」
「「はい」」
「今後トリガーと3本線をひとくくりにすることを禁ずる」
「「了解」」
詮索しない方が良いこともある。
とりあえず元気なんだからそういうことにしよう。
フォートグレイス基地はいまんところ平和だった。
ーーー◇ーーー
「いやー……今のは駄目だったかな」
「いや駄目だろ今のは」
「うおっ」
いつの間にか元メイジ2先輩のカウントの姿が。
ギリギリ画面に入らない位置取りで腕組みをしている。しかめっ面で。
「びっくりしたー。いつから居たのよ」
「マートンの奴がここ通りがかった時ぐらいだ。てかお前不注意過ぎるだろ。いつタマ狙われても可笑しくねえんだぞお前」
んなこと言ったってねえ。
また話せるなんて思わないじゃない。みんな生きて話せるなんてこと戦時ではこれ以上ない幸福なんだぞ。
一理どころか百理あるけどさ。
「どうしたの。もしかしてお前も話したかったの?」
「逆だ馬鹿。お前がとち狂って俺のこと話さねえか監視だ監視」
「言わないよ。フォートグレイスでお前の話題はアンタッチャブルな空気だったんだからさ」
あれほど綺麗な「あ、察し」はなかなか無かったよ。
「てかお前確信犯だったろさっきの」
「あ、バレた?」
「バレるわ」
「だって懲罰部隊の時のこと言えないじゃない。実際言ってないんだからセーフよセーフ」
「お前の方がよっぽど詐欺師だな」
「それでいいのか本職。まああれよ、戦場で会った時気づきやすいでしょ」
「お前さ………本当にあれ残すのか? 3本線」
「いや残さないよ………原型ママは」
「言葉遊び万歳かお前」
理解できねえって顔でしかめるカウントくん。
カウント気持ちは分かるけどね。君たちと俺ではあの白ペンキは意味合いが違うのですよ。
罪線は罪の証。カウント以下懲罰兵にとって忌まわしきレッテル。
対して俺は3本線のお陰でミッション優先的に選出。いつも心にスカイハイな俺は飛び続けることが出来てウッハウハ。
もし1本線とかだったら補欠扱いだったし。
うーむ。原因を考えると諸手を上げて喜ぶの端から見て異常だな。我ながら。
「それにあのクソオレンジXにも見せ付けてやられねえとだろ」
「お前マジであれ落とす気か?」
「邪魔さえなければ俺が落とせたし。今度はこっちが恐怖を刻み付けてやるわ!」
「恐怖してたのか?」
「してませんー! 絶対してませんからねぇー! 次あったら確実に落とす! なめんじゃねえぞコラァ!」
「子供かよ。決心するのは良いけど程程にしとけよ。また暴走されてお守りなんて二度とごめんだからな」
その節は本当にありがとうございました。
「てかお前こそ結局降りなかったのな。除隊出来てオーシアに戻れたんだろ?」
今さら言うこともないが俺とカウントはワイズマン編隊長率いるサイクロプス・ストライダー隊に組み込まれることとなる。
どっちがどっちに配属されるかわからんが。丁度欠員2名を出した両隊に体よく収まる運びになったのだ。
だがしかし。俺たちには除隊の選択肢もあった。
勿論俺は早々に蹴り飛ばして隊に入ることを了承したのだが。
てっきりもうこりごりだ。後はやりたい奴だけ勝手にやれ………てな風にあっさりいなくなると思ったのだが。
「俺一人だけ尻尾振って帰れるか、カッコ悪いだろ。それにどうせ帰ったところで家も金もねえし」
「なんでさ? お前良いとこの坊っちゃんなんだろ。虚偽発言じゃなけりゃ大金あってしばらく余裕じゃないの?」
「逆だ。良いとこの奴が詐欺して捕まって居場所あると思うか? とっくに愛想つかされた挙げ句資産凍結で閉め出されたわ」
うわー自業自得だけど可哀想に。
俺? なんの問題もないですとも。
それどころかチャンプの獄中資産と今回の賠償金で金がある男でございます。
………そういやハイローラーの賭け。あいつの勝ちになったな。
見事無罪を勝ち取って賠償金もたんまり貰った。
「全部終わったら賭け金やらなきゃな」
「何か言ったか?」
「なーんも」
その後、俺はアンソニーとマルセラさんにも電話した。
俺のこともあるし何かないかと心配したが、二人ともちゃんと出てくれた。
というより。俺のハーリング元大統領殺害容疑については何も干渉を受けなかったらしい。
そもそも俺がハーリング殺しの犯人だと知らなかったぐらいで、俺はいまもフォートグレイス基地で飛んでいるものだと思っていたとか。
オーシアの腐れ議員どもは俺さえ仕留めれば他はどうでも良いと考えたのか。
それとも迂闊に触れて不発弾が爆発しては堪らないのか。或いは俺に対する保険として今は生かしてるのか。
未だ監視対象の二人だ。油断はできない。
ああそれと。ラリーに関しては未だ音沙汰なしだと。この戦争にいるのかすらほんと分からず。
便りがないのは良い便り、ということにしておこう。あの超ひねくれ者がそう簡単にくたばると思わん。
極薄な望みに期待しようかな。
ーーー◇ーーー
俺に無罪判決が下された数日後。
ついに作戦飛行の通達が下された。
真新しい制服に着替えてブリーフィングルームに通された俺とカウント。そして先に待っていた司令官とワイズマンとその部下たちが。
あの時声をかけてくれた女の人と壮年の男の人も居た。こちらに気付くなり笑みを浮かべた彼女に俺は短く礼。
「トリガー、そしてカウント。君たちの処遇について正式な決定が下った。中隊長たっての希望もあり、君たち2名は我が部隊へと正式に配属される」
「「はっ!」」
「過去に例のない抜擢ということで 君たちを特別な目で見る連中がいるかも知れない。だがそれは自身の活躍によってくつがえすものだ。君たちにはその力があると私は信じている」
「ご期待に添えれるよう、全力を尽くします!」
折角掴みとった道だ。
戦争を終わらせる為に飛べば。奴に辿りつけれるかもしれない。
「君たちが配属する部隊だが。カウント、君のコールサインはサイクロプス2だ。サイクロプス隊として編隊長であるワイズマンの指揮下に入ってもらう」
「…了解しました」
ワイズマンの指揮下。ってことに微妙に難色を示しながらカウントは了承した。
見るからに傑物だしおやっさんとのことがあるから苦手だって言ってたなぁ。
さて俺はその次ぐらいかな?
「そしてトリガー。君のコールサインはストライダー1。ストライダー隊の小隊長に任命。並びに一階級昇進し。中尉に任命する」
「はい、えぇっ!?」
「マジで?」
と思ったらなんかぶっこまれたな!?
いま何て言った?
ストライダー1? 昇進して中尉!?
てか小隊長!?
「司令官、何故俺……私が小隊長に?」
「何か問題でも?」
「いえそのようなことは。ですが私は軍属になって3ヶ月、実戦経験は2ヶ月もありません。こんな若輩者が小隊長というのは………」
隊長不在人員不在で繰り上がったウォードック隊じゃないんだぞ。
ここはニューアローズ基地。俺よりベテランなんていくらでも………
口ごもってるとワイズマンがいつもの穏和な笑みのまま答えてくれた。
「トリガー、君にならストライダー隊を任せられると判断した。君はあのミスターXと渡り合い、そして生き残った。それはこの戦争が始まって以来誰にもなし得なかった事だ。それに君は彼に恐れを抱くことなく、次は落とすと言ってのけた。それだけではない。君は戦争が始まってから多くの戦果を叩き出した。そうだろう?」
「それは、そうですが」
確かに俺は戦果を出してきたが。それは俺が一個の戦力としての話だ。
部隊を率いるということは部隊全員の命を背負うということ。
果たしてそんな大役が俺に勤まるだろうか。
「パイロットの技量だけではない。君は前の部隊でも的確な指示を出して状況を打開してきた。戦場を見る目はある筈だ。更にインシー渓谷において君は我々全員をUAVの追手から救い出した。仲間を生き延びさせるのも隊長としての素質だ」
「あ、えと。ありがとうございます」
そんな手放しで褒められるとむず痒い。
444基地では罵倒や理不尽ばっかで褒められるなんてことなかったから。
だけど、悪い気分じゃない。
なんにせよ腕を認められてるのは嬉しいことだ。
「理由はわかりました。ですが他の人員は納得してるのでしょうか?」
「それは今回のミッションの結果次第だ」
ようするに次のミッションで素質を見せろってことのようだ。
そして当たり前ながら逃れる術はなさそうだ。
スパルタにも程がある。とんだ食わせ物だ、この賢人は!
「了解しました。トリガー、中尉と小隊長の任につきます」
「うむ。それでは、ブリーフィングを始める」
司令官の背後にスペア隊の時よりレスポンスが良さそうなブリーフィングソフトが立ち上がった。
「かねてよりエルジア軍の無人機による自動邀撃システムのため、我が軍の反攻は停滞していた。これはIFFに応答しない軍用機が一定エリアに侵入すると自動で無人機が離陸、対象への迎撃行動を開始するというものだ」
「やっぱり………」
これまでスペア隊で当たった押っ取り刀のUAVは予想通り網にかかった物に向けて放たれたもの。
チョピンブルグのレーダー車両もこの範囲を広げるためだったのだろう。
「しかしこの邀撃システムには警戒網の穴が存在することが判明している。これは別の部隊が実際に警戒網に近づき、偵察および戦闘を行うという危険な瀬踏みによって得られた貴重な情報だ。我が隊に配属となったパイロットはその任務を生き残った2人……というわけだ」
「正しく危険極まりない作戦だったぜ。いったい何人死んだろうな。なあトリガー」
「まあ、ね」
俺が入ってしばらくして決行された基地外のミッション。
勿論スペア隊の技量不足は否めないが。それでも常人なら逃げ出す危険なミッションだった。
少なくとも俺以外は。タブロイドが俺を見てまともじゃないと言ったのが昔のように思える。
「我々はこの犠牲に報いなければならない。彼らが掴んだチャンスも、敵に隙を塞ぐ時間を与えてしまっては無駄になってしまう。そこで、我が隊に長距離戦略打撃作戦が発令された」
画面に三つのエンブレムが映された。
LRSSGと書かれた二つの稲妻を貫く槍のエンブレム。
もう二つは翼が生えた一つ目の巨人と馬に股がった槍と盾を持った騎士のエンブレム。
「我々は引き続き、本隊とは切り離された『長距離戦略打撃群』として秘匿作戦を展開する。『サイクロプス隊』『ストライダー隊』の各隊は長距離攻撃に特化した特殊戦略部隊としてエルジア領内へと深く進攻。空中給油を中継し、エルジア領内の重要標的を攻撃しつつ大陸北部から首都ファーバンティへの侵攻ルートを切り開く」
画面にはユージア大陸の北の海にそってぐるりと迂回するルートが示された。
IUN、並びにオーシアはエルジアの奇襲によりほとんどの空母が破壊された。
そして秘匿作戦である以上。空母があったとしても使えばエルジアに察知される。
だからこその空中給油機を使ったリレー戦術。
いつかこのような方法じゃないとオーシア本国からの援軍は望み薄と思っていたが。まさか俺たちがそれをやることになるとは。
「最初の作戦としてユージア大陸北方に集結している敵の主力機動艦隊ニヨルド艦隊への攻撃を行う」
「ニヨルド艦隊といえば。エルジアが保有する数少ない空母所有艦隊の奴ですか?」
「その通り。以前よりスナイダーズトップ周辺海域には敵艦隊の大型補給基地が確認されており、そこに敵艦隊が集結しているらしい。目的はもちろんここニューアローズ基地を含めたオーシア軍ユージア東部基地への攻撃だ」
東部ということはフォートグレイス基地も含まれる。連中は生き残っている部隊に対して大打撃を咥えるということか。
「それを敵が予想しえない長距離侵攻攻撃で破壊することができれば損害以上のダメージを与えられる。だが先行艦隊は装備を整え移動を開始していると予想される、敵艦隊との戦闘は避けられないだろう。また補給基地は洋上に大型のものが一基と、河口近くの渓谷内に中型が一基確認されている」
「大艦隊が相手。それも敵の中核ってなると骨が折れそうだ」
「航空部隊も多数確認されている。情報によれば、敵ネームド機も確認されている」
「こちらも8機編隊ですが。弾薬が心配ですね」
「諸君らの言う通り激戦が予想される。そこで補給のための帰還ラインを設定した。弾薬補給、機体整備が必要になった場合は各自の判断で積極的に使用して欲しい。弾も機体も替えが効く。我々にとって最も重要なのは君たちパイロットの命だ。心に留めておいてくれ」
「おい聞いたかトリガー。俺はあまりの優しさと厚待遇っぷりに罠かと疑い始めたところだ」
「これが普通だよきっと」
小声でちゃかすカウントに俺たちはロカロハ基地奪還のブリーフィングを思い出す。
わざわざ知らせた癖に「お前たちが使うものではない! 使ったら独房だ!」と言われたスペア時代を。
結局カウントたちは使ってレッツ独房されたっけ。
そんな俺たちの内情と内心を察してか司令官は一瞬笑みを浮かべつつ真剣な表情で号令した。
「この戦争を終わらせる反攻の第一歩だ。総員! 気を引き締めてかかれ!!」
「「了解!!」」
ーーー◇ーーー
「おやっさん! このでかい奴なんだい?」
「おーそいつかい」
俺のF-15 S/MTDの格納庫に着くなり目に入ったのは白地に黄色のラインが施されたでかい爆弾だった。
シンプルながらF-16Cに乗せていた
「驚くなよ。こいつはFAEB、気化爆弾様だぜ」
「FAEB!? 嘘、高級品じゃん! 流石ニューアローズ基地。金かかってるな。で、なんでこれ引っ張り出してんの? 誰かにつけんの?」
「おう、トリガー坊主のイーグルにな」
「え、俺のに!? てかつけれるの?」
「つけれるぞ。ペイロード的には問題ないしな。カチカチの空母や前線基地が居るんだろ? いっちょぶちかましたらどうだ?」
そうさせて貰おう。
今回は補給線があるから投下したあとに空戦装備に換装すれば良いし。
それよりも、だ。
「へへっ。どうだい、気に入ったかトリガー坊主」
「うん。最高!」
満面の笑みを浮かべる俺の愛機であるF-15 S/MTDの尾翼。
そこにはかつて懲罰兵として雑に付けられた白ペンキの3本線だったもの。
おやっさんに頼んでアレンジされた罪の証は3本の爪痕として尾翼に刻まれた。
「元々あった狼のエンブレムは主翼に移させて貰ったぜ。尾翼にもあるけど3本線があるから小さくなっちまってな」
「ほんとだ。こじんまりとある」
3本線の下側には小さくスケールダウンした狼のエンブレムが。
主翼にデカデカと書かれたものを比べると凄く可愛らしい。
「ありがとうおやっさん」
「おうよ! でも良かったのか? この3本線、てか罪線だったか。縁起の良いもんじゃなかったんだろ? カウントの野郎なんか一刻も早く消してくれ! ってわめいてた」
「アハハ。まあこの3本線のお陰で俺は飛び続けられた訳だし。飛び続けたからF-15 S/MTDなんて上等な機体を手に入れられたんだ」
「そして次はF-22のラプター狙ってんのか? フリューゲルさんよ」
「いやいやそんな」
ただでさえこんな贅沢品使わせて貰ってるんだからそれ以上は欲張りってもんよ。
そりゃあまあ。亡きお父様のラプターには憧れはあるけども………
「ところでトリガー坊主よぉ。これ見てくれねえか」
「んー?」
おやっさんに促されF-15 S/MTDの内装部分を覗いた。
ペンライトで照らされた場所には。
『Queen's Custom』
『
『
と何かのパーツのようなものにそれは書かれていた。
「このスクラップ・クィーンって誰だ?」
「ああ、444基地の整備士の愛称だよ。これがどうかした?」
「おう。トリガー坊主が渡してくれたパーツ交換のメモなんだがな。これだけは外さないでくれって書いてたのよ。んで、見てみたらこれが書いてたんだよ。なんでも魔法だからって」
「魔法」
「だが魔法って言うのも納得だ。このパーツのお陰で全体の機体性能が僅かだが向上している。代わりに扱いが少しピーキーになっちまうがな」
「………そういえば」
エイブリルが言ってたな。
あたしお手製の魔法を組み込んだって。
マッキンゼイ護衛の時前より動きのキレが増したのはMTD仕様になったからと思ったが。このクィーンズ・カスタムと呼ばれたパーツの恩恵もあったからなのか。
「このパーツはすげぇぜ。一見ジャンクパーツの寄せ集めに見えるが。その実、組み込もうと思えばどの戦闘機にもつけれるっていう奴さ」
「凄いな」
「それだけじゃねえ。パーツを変える前のパーツ群はイーグル由来ではない別物のパーツばかりだ。戦闘機ってのは普通別もんのパーツは付けれねえんだ。なのになんのズレもなくしっかり戦闘機として組上がってる。こいつを仕上げた奴はとんでもねえ化け物メカニックだぜ」
「あー。それは前の基地でエイブリル、整備士がモスボール機をキメラして飛ばしてたんだよ。神業だよね」
「それはたまげたなぁ………あ?」
「ん?」
突然おやっさんが口を開けたまま停止した。
と思ったらなんか凄まじく震えだしたぞ!? 顔面も真っ青だし脂汗が滲み出てる!
「お、おやっさんどうしたの!? 具合悪いのか!?」
「ととととトリガーさんや」
「トリガーさん!?」
「今なんて言った」
「え、今? モスボールでキメラ機作って飛ばしたって」
「それもそうだがその前!」
「その前? えーっと前の基地でエイブリルって整備士がってまた震えだした!」
「そそそそいつ、名字はミードだったりしてねえか? 親がオーシアパイロットで祖父が空軍中将で」
「え? お爺さんは知らないけどお父さんはそうだって聞いた。なんでそれ知ってるのワーーー! 更に震えだしたぁ!!? た、助けてワイズマーン!!」
「呼んだか?」
「ほんとに来たぁ!?」
整備班の親方ポジとなっていたおやっさんの様変わりに整備士一同+αが狼狽えに狼狽える中ワイズマンはいつも通り温厚かつ端正な表情で状況を整理した。
「成る程。これはトラウマがフラッシュバックしたな」
「トラウマ、ですか」
「そのエイブリル・ミードの祖父。コルベット・ミードという男は俺たちがまだ新米の時の整備長であり、ラックの師匠だった」
「エイブリルのお爺さんが」
「元々エースパイロットとして名を馳せたあとに負傷してメカニックに転向。そのあと高官となって空軍中将まで登り詰めた傑物だった。君たちスペア隊に使われたエイブリルくんの技術も、コルベットさんの十八番だったんだ」
つまり。エイブリルはその技術を受け継いで。あの才覚を存分に発揮したという訳か。
何者だエイブリルの爺さんは。
「その人がラックに整備のイロハを叩き込んだまでは良いんだが。なんとも型破りでな。やんちゃ坊主だったラックを出来るやんちゃ坊主に育て上げる時は他人事でも震えたものだ。だが口とは逆に随分気に入ってたみたいでな。期待の裏返しなのか、相当厳しく扱き上げていたもんだ」
「厳しいなんてもんじゃねえよ! あれは正に地獄の沙汰だった! すまねえトリガー坊主、トイレに行ってくる!」
あっ、復活した。そして吐き気を抑えてダッシュでトイレへ。
相当なトラウマだなこれは。
とりあえずこの話題は封印しよう。
心に誓った新米小隊長だった。
ーーー◇ーーー
そのあとなんとか復活したおやっさんを筆頭にF-15 S/MTD並びに部隊のF-15Cの整備が完了。
空中給油機による長距離打撃作戦が始まろうとしていた。
カウントもF-15Cへの慣熟訓練が終わったらしい。
ワイズマンに扱きに扱かれて、部隊変わってくれと言われた。
相当憔悴していたけど、おやっさんみたいにトラウマになるんじゃないかな………
俺は特に慣熟訓練は問題ないが、それよりも問題なのは自分が一兵卒ではなく小隊長だということ。
ワイズマンに隊長としてどう動くべきか。ストライダー小隊の面々と短いながらコミュニケーションを施した。
それでも不安がぬぐえない。こんなことは初めてだ。
「不安か、トリガー」
「イェーガー」
わかりやすく顔に出てしまったのだろう。
そんな俺に声をかけたのはストライダー隊三番機。自分の部下として飛ぶ彼はあの時フーシェンという女性と共に居た壮年の男性だった。
「ええまあ。行きなり昇進するどころか小隊長の役職に戸惑ってます。少し肩書きが増えるだけでこれなんて。自分が情けないです」
「無理もない。まだ3ヶ月の君にとってこの人事は異例だろう」
「自分よりイェーガーの方が向いてると思いますよ」
「ハッハッハ。私はただ長くいるだけのおじさんだからな。その証拠に私も君と同じ中尉階級だ」
「階級なんて戦場じゃ飾りです。戦場に上座も下座も、所属も階級も関係ない。出来るか出来ないか、ただ実力だけが物を言うのが戦場なんですから」
「まるで円卓だな」
心を見抜かれたような気がして言葉が詰まった。
不安になって長々と話す俺にイェーガーはまるで父親のような顔をしていた。
子供の言うことなんてお見通し、そんな顔だ。
「アダムスはワイズマンのTACネームに違わぬ賢さでな。あいつの人を見る目は外れた試しがない。ワイズマンが君を自身の隣に立たせたのは。何か考えがあってのことさ」
「………不安や不満はないんですか? こんなけつの青い若僧が上に立つなんて」
思わず卑屈なことを言う自分に嫌気が射す。
こんなわかりきったことを聞いて、安心したいのか俺は。
「俺はワイズマンとは違うところで大陸戦争に従軍していてな。首都ファーバンティでの決戦にも参加した。その時あのメビウス1と黄色中隊がドッグファイトした瞬間を目にしたんだ」
「当時エルジアのエース部隊」
「そうだ。あの時の彼の、メビウス1の飛び方に思わず魅了されたものだ。感動だったよ。この場に自分が居ることを神に感謝したぐらいにね。エース同士が自分の命を削って戦う空。こんな感動は二度と味わえない、そう思っていた。君と出会うまではね」
父親の顔をしたイェーガーの目は歳を感じさせない光を宿していた。
まるで子供な顔をする彼は嬉々として語り続ける。
「あの時我々もUAVの網を探索していた。欠員を1名出しながらインシー渓谷で君に助けられた後にミスターXと来たものだ。仲間がまた1人落とされた時、私は絶望したよ。そろそろこの老骨が旅立つ時が来た、せめて若いのだけは守らねばとね。
そしたら、君のF-15CがミスターXと渡り合っているじゃないか。信じられない物を見たよ。黄色中隊よりも遥かに強敵であるミスターXとのドッグファイト。切り立った山々、雷鳴轟く嵐の中飛び続けるその姿を。私はファーバンティ以上に感動してしまったんだ。君の飛び方にね」
「………ありがとうございます。ですが、あの時の俺は怒りのまま飛んでいました。そんな称賛されるようなことでは」
「なら次はもっと素晴らしい飛び方が見られるということだな」
トンと肩を置くイェーガーの顔には不安なんて一欠片もなかった。
むしろ楽しくてしょうがないぐらいに。
「メビウス1と君は比べるものでもなく、どちらも素晴らしいパイロットだろう。だが少なくとも、私にとっての一番は君だ」
「イェーガー………」
「君の力を見せつけてやるといい。少なくとも、私は君の下で飛べて光栄だと思ってるよ」
ーーー◇ーーー
「バッテリーオン。各計器類チェック。カナード、エルロン、ラダー、エレベーター、フラップ。正常に稼働確認。HUDの正常機能確認………よし!」
パンと頬を叩いて気を引き締めた。
「トリガー、こちらサイクロプス1。一番槍は譲ってやる」
「力みすぎてドジんなよトリガー」
「了解! ではお先に」
「気張ってこいよー! トリガー坊主!!」
おやっさんを初めとして完璧に整備してくれた整備員たちに敬礼し、滑走路に移動。
空は快晴で風も少ない。絶好のフライト日和だ。
『こちらコントロール。ストライダー隊、滑走路へ移動。タキシングを許可する』
「了解コントロール。誘導感謝」
両肩にかかる責任の重さは変わらない。
だが背負い方が変わったからか。もう俺の意識は空に向かっていた。
そうだ。今までと変わらない。
俺は俺のまま飛び続ける。
いつか。空と一つになれる場所を見るために!
「各システム、オールグリーン! ストライダー1、トリガー発進する!!」
新たに3本の爪痕を携えた狼が。
いま、空に解き放たれた。
毎年ながら夏は嫌いだ。どうも作者のブレイブです。
ついに始まりましたストライダー編!
お待たせいたしました。新たに各区切りにチャプターをつけさせて頂きました。
ようやく書きたかったフォートグレイスのそのあとが書けました。
当初は心折れたクラウンとかを構想していましたが。トリガーの意思をついで負けてたまるか!の精神で頑張ってます。
カッコいいぜクラウン。
フォートグレイスの面々はスペアやストライダーに負けずお気に入りなので気合い入れました。
トリガーは少尉から中尉にランクアップした!
そして小隊長になった!ほんと凄いシンデレラストーリーしてるトリガーくんです。
ここでエイブリルの魔法の種明かしだったり。おやっさんとエイブリル爺ちゃんの意外な接点だったりと。
そして我らが子煩悩イェーガーさんがトリガーのファンになってたりと。これは親経由でエーリッヒはどういう目でトリガーを見るのでしょうね。
いよいよ次はストライダー隊初ミッション!
次回、空母が丸裸!?デュエルスタンバイ!!