エースコンバット7 FLIGHT REZON 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
海洋プラットフォームをハンバーガーにした俺たちは揃って補給線に後退。機体の確認と弾薬補給を終えて再び戦域へ蜻蛉返り。
考えてみると作戦中の補給は始めてだな。ロカロハ砂漠で結構切り詰めて飛んだ日が今では遠く見える。
「そういやよ。新入りの教育係は誰がやるんだ? いつも通りイェーガーか?」
「おい、あんまり舐めるなよ。やるならトリガーにしてくれ」
「だそうだが、隊長」
「ああ是非とも頼みたい。俺はまだまだ飛び立てだからな」
「それだけの腕があるのにか? こっちは早くも自信喪失しそうだよ」
「腕はあってもハートは未熟なんだ。小隊長という肩書を得た以上。学ぶことに限りはない」
戦争の裏側を含めるなら一般のパイロットより知っている方ではあるかもしれない。
それでも俺は腕に反比例して他が育ちきってない。育つ暇もなく戦場に放り込まれたというのもあるが。それは決して言い訳にはならない。
「トリガーの言う通りだ。学んだ経験は明日を生きる糧になる。編隊長である俺も含めて、学ぶということに際限はないぞ。カウント」
「はぁ。優等生しかいねえのか此処は………」
おうどうしたカウント。不良生徒同士なかよくしようぜぇ。
「こちらロングキャスター。敵戦闘機群は渓谷のプラットフォームに固まっている。我々を迎え撃つつもりのようだ」
「戦力差がひでぇな。レーダーが真っ白だ」
「だがやるしかないだろう。さあ、どうするストライダー1」
ここで俺に振るのかよワイズマン。試されてるなぁ。
んーー………
「全機で一斉に4AAMを撃ちはなって敵を撹乱。相手が浮足立ったところを一斉に刺して乱戦に持ち込みます。敵は海洋プラットフォームとネームドを落とされて士気が下がってるはず。混乱を助長させれば隙はあるかと」
「おいおい。こっちは2個小隊しかいないんだぞ?」
「ただの2個小隊じゃない。腕のある2個小隊だ。どちらにしろ花火の中に飛び込むんだ。躊躇いは迷いを生む。やるなら全力で一気にやろう。なに、円卓よりは楽なはずだぜ」
「ワーオ。全機、新入りに此処まで言われたんだ。今こそ腕を見せる時だぞ」
「同感だ。ワイズマンだけじゃないってとこを見せてやる」
「あたしだって負けてられねえ!」
「カウント、お前は?」
「なんでこんなやる気満々な奴らしかいねえんだよ………あーわかったよ! 俺も腹くくる!」
「決まりだな。ではトリガーの案で行こう。全機、突入後ブレイク。互いの位置を確認し、フォローしながら戦え! 行くぞ!!」
「「ウィルコ!!」」
雪が降り積もった山を突っ切り、そのまま渓谷のプラットフォームに。
おうおう居る居る!
F-14D、F-15J、Su-33、ハリヤー、MIG-31、F-2AにSu-37 ターミネーターまでいやがる!
だが俺たちは速度を緩めない。
編隊を組んだまま直進。兵装スイッチを切り替えて今か今かとHUDをにらみつける。
「射程内入った! FOX3!」
「「FOX3!」」
「FOX3! いけぇぇー!!」
俺を除くF-15Cから一斉に4AAMが放たれる。
こっちも負けじと隙だらけの敵機にHVAAを叩き込み、通りすがったF-2Aに機銃をお見舞いした。
『敵機確に、うわっ!!』
『モラル4がやられた! 奴ら真っ直ぐ突っ込んで来やがる!』
『撃ち落とせ! この基地に攻めてきたことを後悔させてやれ!!』
予想通り敵は大混乱。こっちを攻撃しようとする奴らがどれだけ居るかは知らんが目に見えて火線が分散している。
『落ち着けお前ら! 数は俺たちが上回っているんだ! 包囲して押しつぶすんだ!』
『船は動かせないのか! 海洋プラットフォームを崩した奴らが来ているんだぞ!』
『ダグボード分離、全速前進で出ます!』
「プラットフォーム下層に停泊してた艦船が出港しようとしてるぜ」
「襲撃に敵さんも大慌てみたいだな」
プラットフォームに繋がれていた艦船がその影から這い出して来ようとしている。
見るからに固そうで痛そうな武装を積んでやがる。
「ワイズマン! 船の火器が出たら厄介だ!」
「プラットフォーム近くの奴から叩く! トリガー、俺とお前でやるぞ!」
「ラジャー!」
「トリガー。渓谷のプラットフォームはさっきより狭い。外側から着実に叩くんだ」
「………了解!!」
「おいお前一瞬行けそうだなって思っただろ」
「ソンナコトナイヨ」
「嘘つけ」
ホントダヨ。ふりゅーげるハ嘘ツカナイ。
その証拠に俺は素直にプラットフォームと高度を保ち狙いを定め始めた。
一瞬入れるか探しかけちゃったけど一瞬なので許して下さい。
ロングキャスターの言う通り渓谷の方は海洋のと比べて隙間が狭い。確実に直撃コースに入らなければ中核の柱には当たらない。
かといって狙いを定めすぎると上から敵機に狙われる。ただでさえF-15 S/MTDなんて目立つ機体に乗ってるんだからさもありなん。
なら速さ出しながら通り魔ミサイルを叩き込むしか無いわけだよな。できらぁ!!
「「FOX2!」」
針の穴に糸を差し込むようにミサイルが中に吸い込まれ爆音と破砕音がプラットフォームを揺らす。
「プラットフォーム内の命中を確認」
『なんてことだ! パルシファルとヘイズルが下敷きに!?』
「ハハッ、こいつは良い! 下にいた船が真っ二つだ!」
剛芯を砕かれたプラットフォームはそのまま崩落し、艦船をその重みでへし折った。これぞ一石二鳥!
もろとも海の藻屑となった敵艦船を横目に目の前に陣取る駆逐艦にミサイルと機銃をお見舞いし。そのまま急上昇。上空でたむろっている敵戦闘機群の真ん中を突き刺し。再び空戦に突入していく。
「敵戦闘機、消耗60%」
「敵の動きが鈍ってきた。連係してドッグファイトを仕掛けるぞ!」
『仲間の戦闘機がもう4割しか残ってない! ほとんどがあの2機に堕とされてる!』
『くそっ! 例の実験飛行隊は! アイビスを何をやっている!!』
『他人を当てにするな! それでは神頼みと同じだ! 自分で敵を撃ち堕とす努力をしろ!』
『だったらお前が落としてみせろよ! 口だけなら誰でも』
「後ろいただき!」
真っ直ぐ飛んでいるMIG-31の背後にありったけの弾丸を浴びせた。
よしよし順調に数が減ってきてる。士気の差もあるが。それ以上にこっちはやはり凄腕揃いだ。
「うおっと。この野郎!」
「サイクロプス2! フラフラするな。俺のケツに向かって飛ぶんだ」
「ヒヨッコ扱いはやめろ。これまで何機撃墜したと思ってんだ」
「そうやってさえずるからヒヨッコなんだ。ヒヨッコは親鳥について飛べ、生きて帰るんだ」
「わーってるよ!」
文句を言いつつもカウントはワイズマンとエレメントを組み敵のF-14DとSu-37を撃ち落とした。なんだかんだ言って働いて、いや働かざるを得ないカウントは自機のエンジンに鞭を打ってぶんまわしている。
「ストライダー隊! 空に余裕が出来てきた。二手に分かれてあちこちに居る駆逐艦を叩いてこう。フリゲートは後回しで良い。とことん士気を挫いてやれ! ランツァ、ついてきてくれ!」
「ストライダー2、ウィルコ」
「ストライダー3了解!」
「ストライダー4、了解」
ーーー◇ーーー
『アイビス! 何をウロチョロしている! さっさと敵を迎撃しにいけ!』
『無理に決まってるだろ! ニョルズ艦隊もシャスールもあっという間に落とされて海洋プラットフォームまで全部崩れて! しかも敵には3本線まで居るっていうじゃないか!! そんな化け物に勝てるわけない!!』
『スナイダーズトップ防衛はお前の任務だ! 泣き言を言っている暇があったらミサイルの一発でも撃ち込め! 貴様もネームドならやってみせろ!』
『くっっ、そっ!』
灰色のSu-33。TACネーム、アイビスのネームドであるマシュー・ベルティンはまともな戦闘機動を出来る精神状態ではなかった。
エルジアの民意高揚の為にネームドに選ばれた。
今まで特に目立たなかった自分がネームドに選ばれて祝福されたことは今でも覚えている。
模擬戦の戦績も悪くない。戦争が始まってからもスナイダーズトップで敵を返り討ちにしたことは何度もある。
今回の敵はたったの2個小隊。シャスールも既に現着しているのだから今回も問題ない。
今日は非番だったアイビスは自分が来る頃にはほぼ片付いていると確信していた。直ぐに終わらせてビデオの続きを観ようと考えながら戦闘区域に入った。
だが見慣れた海洋プラットフォームがマジックでもかけられたように跡形もなく姿を消えていた。代わりに灰色の瓦礫が所々浮かんでいるだけ。
待機命令を近々解かれ、残った東のオーシア共を叩くためのニョルズ艦隊とシャスール隊も姿はなく。残る渓谷プラットフォームも崩壊間近。
それでもなけなしの意地がアイビスを飛ばしていく。そうしなければならないというある種の脅迫概念がSu-33を飛ばしているのだ。
『僚機がやられた! HQ、至急増援を!』
『なんだこいつ弾が当たらねえ! なっ、後ろ…ザーーー』
『助けてくれ! 誰か助けてくれぇぇ!!』
『早く避難しろ! プラットフォームが崩れるぞ!』
『来るな! 来るなぁ!!』
迎えてきたのはひっきりなしに聞こえてくる味方の悲鳴。アイビスの心にヒビを入った。
今までの敵とは比べ物にならない強敵。
あのアルカンジュでも倒せなかった3本線が目の前を飛んでいる。
「ネームド発見! 灰色のSu-33……主翼に朱鷺のエンブレム!」
「こっちでも確認。おい待てトリガー、いまエンブレムって言ったのか? 見えたのかエンブレムが」
「変態なんだよこいつは」
『っ!? こっちに気づいた!?』
例の3本線を刻んだF-15 S/MTDがこちらに鎌首を上げた。
滝汗が吹き上げ身体が一気に冷え上がった。
ロックオンの音が鳴ると同時に慌ててミサイルとHVAAを撃つ。緩急をつけたヘッドオンの直撃コースだ。避けれる筈はない。
だというのに3本線はなんのことないようにヒラリヒラリと避ける。フレアも使わずに全て避け、返す刀でミサイルを撃った。
回避動作はもはや本能だった。
直撃は避けれたが近くで破裂したそれは激しく機体を揺さぶり。追い撃ちとばかりに機銃が自機の装甲を削っていく。
『ハァッハァッハァッハァッ………』
手が震えてカチカチと操縦桿が鳴る。ひっきりなしになるアラートとダメージ表記の音が鼓膜を揺らす。
なんとか逃げなければと操縦桿を縦に横に振るうが背後についた3本線は離れることはなく機銃とミサイルを撃ってくる。
必死のコブラ機動でも相手は合わせてコブラ機動をして後ろから離れない。
視野が狭くなる。ブラックアウトしてないのに視界が黒く染まる。
『嫌だ、死にたくない。死にたくない………』
マシュー・ベルティンという男は平凡な男だった。
普通に従軍し、普通に戦闘をこなす。
ネームドとして国の為に戦うことは誇りだった。
だからエルジアが戦争を選んだ時も彼は迷わず戦闘機を駆った。
だがそれは誤りだった。エルジアは戦争などしては行けなかった。
何故ならこんな化け物を呼び寄せてしまった。リボンの死神であるメビウス1とは違う。エルシアの新たな死神が。
アルカンジュなんか目じゃない、本物の死神が!
彼の精神の糸が切れた。
ツンとした刺激臭を感じる暇もなく、声にならない叫びを上げながら戦線を離脱するためにスロットルを目一杯倒した。
だがそれは断崖絶壁の崖に飛び込むことと同じだった。
直線軌道になった彼のSu-33を3本線が逃がす訳もなく。
戦闘機より遥かに早いHVAAが彼の灰色の機体のエンジンを砕く。
制御不能に陥る愛機はもはやこちらの操作を受け付けることはなく。
時間が遅くなる感覚を覚えながら最後に尾翼の3本線と、主翼に描かれた銃を咥えたオレンジ色の狼のエンブレム。そして目の前に広がる炎を見た。
『死神め………』
ーーー◇ーーー
「こちらストライダー1。敵ネームド撃墜!」
「さっきの奴と比べて手応えがなかったな。Su-33ならもっと上手く飛べただろうに」
なんか飛び方もフラフラしてたし。広告塔向けだったのかな。
それとも怖気づいたのか。最後の最後。まるっきり逃げの加速だったぞ。
「驚いた、戦果が上がっている。新しい仲間の活躍も大きい」
「へへっ。実際飛んでみねえと実力はわからんものさ」
「サイクロプス2。油断するなと言っただろう。一瞬の油断が命取りになることを忘れるな」
「ふー。前の編隊長を思い出すぜ。ていうか今回の俺のスコア結構行ってるぜワイズマン。それこそトリガーに負けねえぐらいにな」
「誰の戦果かはあとで詳細に調べよう。さあ敵にとどめを刺すぞ!」
あー、そっか。ここではちゃんとスコア数えてくれるのか。戦果の掠め取りは不可能と言っていい。
換金所に自己申告してた日々が懐かしいねぇ。
「よし! プラットフォーム破壊! あと何個だ!」
「あの細いとこに良く当てれるよな。ワイズマンもそうだが、すげーぜ俺らの隊長どのは」
「ついでに次々と戦闘機を落としている。なのに喋る余裕があるというのは」
「俺たちの想像以上の腕前だな、トリガー」
「ストライダー1から各機へ。あまり小隊長をおだてないように。恥ずかしいから」
メイジスペア時代でこんな褒めちぎられることはなかったから。そんな大したことは………してるっちゃしてるけど職務全うしてるだけだし。
頬を熱くしてる間にワイズマンが残り少ないプラットフォームを砕いてくれたようだ。
綺麗に並んでいたプラットフォームはもう見るも無残という言葉が相応しい。
敵から見たら俺たち2個小隊はかつてのメビウス小隊と同じぐらい恐ろしい存在に見えたことだろう。
まあ容赦しないけどな。これで最後だ!
プラットフォームの隙間、何度目か分からないシュートを決め。最後のプラットフォームが海に埋没した。
これにはロングキャスターもハイテンションだ。
「プラットフォームの完全破壊に成功した! ここまでうまくいくとはな! よくやってくれた!!」
「あまり調子にのせないでくれ。こいつらが増長する」
「スパルタというか堅物というか。お前らこんな中隊長の下で長いことやってるのか。同情するぜ」
「カウント。お前は長生きさせてやるから、覚悟をしておけ」
「あぁ………うんざりだぜ」
「と言いつつ、満更でもないカウントなのであった」
「変なナレーションいれんじゃねぇ!」
ええ? 本当にござるかぁ?
少なくとも444飛行隊にいた頃より遥かに活き活きしてるぜカウント。
「フッ。すまないなワイズマン。余りにも見事な戦果を出してくれて思わず舞い上がってしまったよ。なにはともあれ、これで両方のプラットフォームを破壊したことになる。なにより素晴らしいのは損失ゼロという点だ。このまま全員生き残れよ。基地の近くにいいビストロを見つけてな、人数分の飯を予約してある」
「それは楽しみだ」
「ロングキャスターのオススメは外れがねえからな。期待しとけよ新入り」
「ならなおさら生き残らねえとな!!」
プラットフォームを潰したが、まだ戦闘機や艦船が居るみたいだ。
北の方からも増援がちらほら居るみたいだ。
「よし、艦船を徹底的に潰すぞ! ここを潰せば、東の奴らが楽をできる!」
「まだまだやる気満タンだなトリガー」
「東の方には前に配属していた基地があるんです。危険は排除しておきたい」
「ならもうひと頑張りするとしよう」
「ああ、ぶっつぶしてやる!」
これまで夥しい破壊と炎を上げたロングレンジ部隊は未だ疲れを知らず。まばらとなった航空部隊の合間を縫って駆逐艦やフリゲートを次々とスクラップにする。
そこからは蹂躙劇と言われても遜色ない有様だった。
何倍もある航空戦力をたった8機でひっくり返され。プラットフォームはおろか頼みのネームドも全滅した。
スナイダーズトップ防衛部隊はまさに混乱のるつぼ。押っ取り刀で駆けつけた援軍も標的にされ。援軍の戦闘機も8割叩き落される。
エルジア側の通信は混乱が混乱を呼び、我先にと逃げ出すものが溢れてきた。
『撤退だ! これ以上被害を増やすことはない!』
『例の部隊を呼んでくれと騒ぐ者がいます! はい。もちろんそう言ってありますが……』
『ダメです! 防空兵器、すべて無力化されました!』
『避難しろ! この船は沈む! 早く退避するんだ!!』
『スナイダーズトップが壊滅? 悪夢かこれは………』
『まさか艦隊が全滅だと。やはりあの3本線のマークは危険だ。そう本部に連絡せねば………』
エルジアにとって短くも長い悪夢は終わり、作戦時間終了の報が入った。
もうどれだけミサイルと弾丸を撃ったかわからない。わかることは紛れもない大戦果を叩き出したこと。
一度のミッションのキルレコードを大幅に更新したということを理解するには充分だった。
戦闘区域には残骸がそこらかしこに浮かび上がり。まさに今回の作戦名に相応しい静寂に包まれることになった。
「全機、作戦終了。敵に回復不可能な打撃を与えた。よくやった! 今夜はとっておきのワインを開けるとしよう!」
「ふー、終わったぁ」
どんだけ飛んだ、てかどんだけ落としたんだろ………
時間を見たら30分かそこらだった。
こんな短い時間でこれだけの惨状。毎度のことながら、戦闘機の戦闘はあっという間だ。
「新しい隊長のやり方、分かった気がするぜ」
「振り回したみたいで申し訳ない。なるべく周りを見たつもりだったんだが」
「初めてでこれなら上々だろう。これからの活躍に期待って訳だ」
「イェーガーの言うとおりだな。これから宜しく頼むぜ、小隊長」
とりあえず小隊長としては合格点を貰えたみたいだ。
孤児同然から牢屋入りして今や小隊長。
ここ数ヶ月でとんでもないとこまで来たもんだ。
「もう一人の新入りも、ある意味特別なやつだとわかったな」
「ヘラヘラしてるとこが気に食わねえけどな。腕だけは、あるみたいだが」
「はぁぁー。前の部隊もひどかったが、ここでも仲良くやれそうにねえな。安心して背中を任せられる仲間がいりゃあ、俺も実力を発揮できるんだが」
「お前の背中は俺が見ている。安心して力を出すんだな」
「ベルカ戦争からの大ベテランが見てくれるなんて最高じゃないか。羨ましいぜカウント」
「勘弁してくれ!」
通信内で笑い声が上がったのは言うまでもないことだった。
ーーー◇ーーー
「今回の作戦成功、新入り2人の歓迎。そして戦争の終結を祈って、乾杯!」
「「カンパーイ!!」」
恰幅のいいロングキャスターの声掛けのもと、ワイングラスを高く上げた後に一口飲み込む。
「おぉー……飲んだことないワインだぁ。素人の舌でも深い感じする」
「ウメェな。かなり熟してる」
「そうだろうそうだろう! ここで一番の年代物だからな!」
ロングキャスターの前評判に偽りなく。
店の雰囲気は凄く良いし、料理も美味い!
しかも貸し切りと来た! うーん贅沢!!
特にこの鴨のローストがボキャブラリーの無さを恨むぐらいに美味いのなんの!
最高の火入れで肉と脂の旨味が五臓六腑に染み渡る!!
ちらっと値段見たけどこれだけで5000円もするという。恐ろしい!!
生まれは古来騎士貴族でも育ちは平民だから。こんなの誕生日にアンソニーがたまに連れて来る程度だ。
「あぁ、幸せ。これなんだ、肉っぽいけど……和牛のタルタルにガレット? なんだよ肉のタルタルって! この海鮮のブイヤベースも美味い。ああ、全部美味い!!」
「トリガー、はしたねえぞ………ガキじゃねえんだから騒ぐなよ」
「良いじゃないか。今回は貸し切りで他の客もいない。そんな全面で喜んでくれて俺も嬉しいぞトリガー」
「なんか犬っころみたいだよな。これがあのトリガーだったんだから驚きだ」
「スカーフェイスでも童顔だよな。学生って言っても騙せるぜ」
はいそこのランツァくんとスカルドくん。
傷ありでも威厳ないの気にしてるんだから指摘するのやめなさーい。
「良いことじゃないか、若く見られるというのは。俺なんかこの前年上の奴に敬語使われたぞ」
即座にフォローを入れてくれた好漢はサイクロプス隊3番機のフェンサー。
ニューアローズ基地で若手ながら卓越した操縦技術を持つ実力者の1人。言葉の端々にプレイボーイな色気を持つが、オーレッドに婚約者が居るという一途な男である。
たまに某運び屋ステイサムに似てると言われてるらしく、強面なのが密かな悩みだとか。
「フェンサーの場合はその顔面に坊主頭だから迫力あるんじゃないか? 私も角で鉢合わせしたら驚く」
「ああ。この前驚いてファイティングポーズしてたよなフーシェン」
「血の気多いなぁ」
「なんか言ったかカウント」
おまけに地獄耳だとぼやくカウントを更に睨みつけるのは部隊の紅一点であるフーシェン。
ノースポイント出身の東洋人で部隊一の努力家である男勝りな女性パイロット。
短絡的に見えるが状況判断と自分の力量を理解している、今後に期待が出来るとワイズマンは太鼓判を押している。
「フーシェン。あの時は失礼な態度を取ってしまって申し訳ない」
「あの時? ああザップランド基地のことか。おおかたあのデブオヤジに接触するなとか言われてたんだろ?」
「わかる?」
「わかるさ。言動行動の節々にクズが滲み出てやがった。護衛してた奴を役立たず呼ばわりしてた奴だぞ? 間接的に無人機落とせなかった私らも馬鹿にされてたんだから気に食わねえったらなかった。で、あいつどうなったんだ? 後方勤務でぬくぬくしてんのか?」
「と思うじゃん。なんと最前線勤務! しかも傭兵を集めた特殊戦線さ。今頃ダイエットに勤しんでるんじゃないか?」
「ハッハッハ、ざまあない」
その前に過労で倒れないかしんぱいですねぇ!
傭兵さんに迷惑かけてないかだけが心配だよ。
バンドッグはなんとかしてるでしょきっと。
「………トリガーには感謝してる。トリガーはあの嵐と雷の中で私たち全員を助けてくれた。実験飛行隊のとんでもない化け物とも渡り合って時間を稼いでくれた。味方の護衛機がみんな逃げ出す中たった1人でそれを成し遂げてな」
「やるべき事をやっただけだよ。それに欠員を1人出してしまった。任務としては失敗だ、褒められることじゃない」
「シーフは残念だった。だが戦場に居る以上避けられないことだ。まあ何が言いたいかって言うと、トリガーがいなかったら私たちは生きてないし、こうして美味いビストロを口にすることもなかったんだ。つまりそういうことだ」
フーシェンの言葉に促されると。ワイズマンやイェーガーは勿論のこと。スカルド、ランツァ、フェンサー、ロングキャスターも揃って笑いかけてくれた。
実際、俺はワイズマンに肯定されていても彼らに負い目を持っていた。
仲間を守る任務だというのに死なせてしまった罪悪感。そんな奴が小隊長なんてやっていいのかと。
だけどみんなはそんな事気にしてなかった。こうして同じ釜の飯を食う仲間として俺を迎えてくれたのだ。だったら応えなければならない。
彼らの期待を胸に飛び続ける。
ストライダー隊の隊長として。
「ありがとうフーシェン。気持ちが軽くなったよ」
「命の恩人にそう言って頂けるなら光栄だな」
「良かったなぁトリガー。必死こいて暴走止めた俺に感謝しろよ?」
「カウント。もしお前があの時逃げてった護衛機なら、背中に気をつけるんだな?」
「おい。そんなマジで撃つみたいな目するなよ。俺だってあの時そこにいたし戦ったんだ」
「最初からいたミラージュか? それとも途中から来たSu-33か?」
「まあまあまあまあ。とりあえずみんな、これから宜しく」
なんとか話題を逸らした後は俺がどんなとこを飛んだのかという話になった。
大統領救出と懲罰部隊の詳細を抜きに出てくるミッションの話にみんな興味津々だった。
途中でカウントが合いの手を入れてくれたおかげでスムーズに話、最後はあのオレンジ色の話になった。
「ミスターX。敵を徹底的に弄んだあとに殺すクソ野郎。ファイターパイロットの恥さらし。絶対殺す標的No.1」
「お、おう。殺意マシマシだな」
「そっちの方でもミスターXなんて大仰な名前で呼ばれてるぐらいだから、正体は掴んでない感じか?」
「ああ、いきなり出てきたSu-30SMってぐらいしかわからない。初めて確認されたのが、丁度トリガーがアーセナルバードと出くわした時なんだ」
ブラウニーは肩慣らしで殺されたってのかよ。
ますますいけ好かねえ野郎だ。
「出自も不明、何処の基地に居るのかも不明。といっても上もそこまで詳しく調べる余裕がないのが現状だ」
「あるとすれば昔話ぐらいだ」
「昔話?」
「かつてエルジアの王政が崩壊し共和制になった後の話だ。その空に【天界の王】と呼ばれた撃墜王が居た。訓練で彼と戦ったパイロットは口を揃えてこう言った、『怖かった』と」
「怖かった?」
「動物が捕食者に対し感じる本能的な恐怖だったのだろう。まさに狩人に睨まれた獲物と言う感じだ。彼と訓練した者の中にはPTSDを発症した者すら居たらしい」
「訓練? 実戦で戦った奴はなんて言ってるんだ?」
「彼と戦って生き残ったパイロットはいないのさ」
「話が出来すぎだぜ」
「とにかく情報がない。だからこそミスターXなのさ。大陸戦争で活躍した黄色中隊の直々の教官という噂さえあるぐらいの強者だ」
「益々話が出来すぎだ」
カウントの言う通り。話が出来すぎている。
それに、もしその話が本当で。今のミスターXと同一人物だとしたらアイツは相当な老人のはず。
そんな老人があんな戦闘機動に耐えられるのか? ズィルバーのケラーマンじゃあるまいし。
「ま、たとえそれがミスターXだとしても。奴と戦って生き残った奴はいない、なんて不敗神話は嘘っぱちだぜ」
「どういうことだ?」
「此処にそいつとドッグファイトして生き残った大馬鹿野郎が居るからさ」
そういってカウントは面白そうに俺に鴨肉を刺したフォークを向けた。
確かに、俺はあいつと戦って生き残った。ブラウニーやチャンプですら遊ばれたアイツをあと一歩で追い詰めたのは紛れもなく俺だ。
「カウントの言う通りだ。トリガーはミスターXの恐怖に屈することなくあわよくば喉元を食い千切ろうとした化け物だ。奴が化け物ならこっちも化け物をぶつけてやるまでさ」
「ワイズマンが手放しに褒めるなんて珍しいこともあるもんだ」
「苦労してヘッドハンティングしたんだ。それに見合った働きはしてもらうぞ、トリガー」
「任せてくれ編隊長。今度は絶対に逃さない」
そうとも。今度こそ憎しみに呑まれることなく確実に撃墜する。
何が天界の王だ。その大仰な名声。この大馬鹿野郎が叩き落としてやる!
「だがその前に落とさなければならない奴もいる」
「アイゼンハワー司令がデブリーフィングで言ってたよな。なあ、本当にやる気なのか?」
「当然だ。この作戦の成否がこの戦争の行く末を決める。近い内に作戦を伝える。各自しっかり身体を休めろよ」
そう。次のミッションはある意味ミスターX以上の大敵。
首都ファーバンティを落とす為に必要な最奥の一手。
【アーセナルバード撃墜作戦】だ。
気づけばもうすぐ雪が降りそう。作者のブレイブです。
ミッション11終了!キリよく終われました。
ビストロなんて言ったことないから調べたけど美味そうでほんと飯テロ食らいました。鴨のロースト美味しそう。トリガーも言ってたけど肉のタルタルってなんやねん。美味そう。
今回は色々書き方変えたりしました。
ネームド視点でトリガーを表したりとか。ミスターXみたいにならないように気を付けましたが。書いてて怖いなコイツってなりましたわ。
あとはフーシェンとイェーガーの台詞をビストロの会話に持ち込んだりとか。
次回は怨敵の一つアーセナルバードの攻略!!
なんとか2話に収めたいぜ!お楽しみに!!
【FLIGHT REZON アサルトレコードNo.12】
ネームド:アイビス
機種:Su-33
カラー:灰色に黒のノーズ
派閥:急進派
パイロット:マシュー・ベルティン
シャスールと並んでスナイダーズトップに配属されたネームドの一人。
本来ならSu-33とHVAAでの一撃離脱の奇襲戦を披露するはずだったが、スナイダーズトップの壊滅とシャスールの全滅。通信越しの阿鼻叫喚に冷静さを失い、最後は半ば発狂して戦線離脱したところをトリガーに刺された。
これでも腕前はあるほうのネームドだったが。新たな死神の鎌は彼を死に誘ったのだった。
コーラルあればワンチャンあったかね?(アイビス違いや)