エースコンバット7 FLIGHT REZON   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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 SPミッション前の幕間でございます


STAGE52【Duel(決着)

 

 

 

 エルジアのIRBMによるオーシア将官抹殺阻止作戦、オペーレーション・マジックスピアによりIRBM攻撃は無事阻止された。

 

 オーシア将官が攻撃されなくて良かったねで終われば平和なのだが。

 こうも極上な餌をまかれては文屋たちは黙っていられない。

 

 あれからメディアと世論、加えてオーシア政府はエルジアを猛批判。

 

 徹頭徹尾クリーンな戦争ですと民衆と世界にアピールしたのにアーセナルバードを落とされて追い詰められた途端民間人巻き添え上等の弾道ミサイル攻撃を強行したのだ。

 もはやちゃんちゃらおかしい薄氷の建前を維持し続けることすら難しくなっている。

 

 当然というかエルジアはオーシアのフェイクだと公言している。ご丁寧に昔のあれやこれやを引っ張り出してオーシアを信じてはいけません! 騙されないで下さい! なーんて言ってるが。世論の皆々様はそこまで馬鹿ではない。

 天秤は微々たる勢いではあるがオーシア側に傾きつつある。

 

 アイドル王女のコゼットさん? 

 なんかエルジアの太陽であるコゼット王女に言わせるのはイメージに悪いからか直接的なことは言わず遠回しな感じ。

 イメージ戦略もこうもなれば役に立たないものよね。

 

 かわりにオーシアの2つ頭の片翼、3本線の評価は鰻登り。ますますオーシアの英雄として注目を浴びている。

 そして件の3本線こと俺はというと。正直びみょい。

 

 有名になるのは悪い気はしないが。オーシアで有名になるとろくなことがない。潔白が証明されたとはいえ、ベルカ生まれの俺がのさばるってるのを見てお上が良い顔するとは思えない。

 何度も何度も言うがガルムやウォードッグは大国の八つ当たりを投げつけられた。

 

 だけど、有名になった。なれるほど腕の立つパイロットになれた。

 やっぱり、それは嬉しいことだと思う。

 

『世界に名を馳せでもしたら。また会いに来てやるよ』

 

 あの日のラリーの言葉は今でも耳に残っている。

 戦争が終わったらいの一番に会いに行ってやろう。

 話したいことなんか、幾らでもあるのだから。

 

 

 

 そんな英雄評価が上がった作戦から数日。

 俺たちはまたも暇を持て余していた。

 

 本来ならエルジア首都ファーバンティ攻略の前準備まで出番がないと思った矢先に来たのがこの前だ。

 逆にこのあいだレベルに緊急性の高い奴じゃないと俺たちに手番が回らないということになる。

 なかなか重宝されてると取るべきか。はたまた厄介者扱いされてるのか。

 

 まあ頼りがないのが良い頼りという言葉もある。

 しばらくは束の間の平穏を存分に満喫せよというご命令が下った。

 

 しかしとにかく暇なのである。

 暇だからじっとしてるのも嫌だしかといって他にやることもないので。

 

「というわけでフェンサーのお見舞いに行こうと思うんだけど一人じゃ寂しいからカウント一緒に行かない? 答えは聞いてない!」

「横暴すぎるだろ。なんの権限あんだお前に」

「隊長権限だ。従え2番機よ。もし従わない場合は恐ろしいことになる」

「何が起こんだよ」

「今日からお前のあだ名が人類種の天敵か死を告げる黒い鳥になるZE★」

「それどっちかって言うとお前のあだ名じゃね?」

 

 誰がベルカ強硬派だ。

 バリバリ穏健派だわ。

 

「お見舞いなんてガラじゃねえよ」

「同じ隊の先輩だろ? 行っても罰当たらねえって」

「今はストライダー隊じゃねえのかよ。わーった、行ってもいい。丁度ワイズマンにせっつかれたからな、遠回しに」

 

 流石我らが編隊長。手回しが早い。

 んじゃあ何かお土産持ってかないとな、何がいいかなぁ。

 

 

 

「ああ少し足がな。大丈夫だそこまで酷くない、医者が絶対安静って聞かなくてな……わかってる。無茶はしないし、そもそも主義じゃないからな」

「おーす、フェンサ……おっと電話中」

「相手誰だろ」

 

 病室に入ろうと思ったら取り込み中だったようだ。

 

「ん? あーすまん来客だ。また電話かけるよ。ああ、俺も愛してる。じゃあな──よっ、久しぶりだな2人とも」

「ごめんなフェンサー。お相手はオーレッドの?」

「ああ、俺のフィアンセだ」

「俺たち出直そうか?」

「構わないよ。あっちもあっちで忙しかったみたいだからな。フィアンセの写真あるけど見るか?」

「是非見せてくれ」

「遠慮ねえなお前」

 

 だってフェンサーも見せたがってるっぽいんだもの。

 スマホ片手に笑うフェンサーから例の婚約者さんの写真を見せてくれた。

 覗き込むと…………んん? 

 

「なんか若くない? この人歳幾つよ」

「背もなんか小さそうだし。まさか……」

「童顔で背も小さいけどちゃんと成人してるよ。昔からの幼馴染なんだ。親同士仲良くて、気づいたらこんな関係になってたのさ」

「そうなんだ。邪推してすまないな」

「美女と野獣ならぬ童女と野獣だな。色々大変そうだ」

 

 お前も大概デリカシーないな伯爵よ。

 

「しかしお相手さんよくOKしたね。戦闘機パイロットってなかなかハードル高いだろ?」

「ああ、一時期それで揉めたこともあったが。今はお互い納得してるよ。まあご覧の有様だけどな」

 

 そういって固定されている足をコンと小突いて苦笑いした。

 

 MQ-101ひしめくあんな戦場で命があるだけ超ラッキーだ。

 フェンサーを婚約者のもとに送り届ける為に、俺もより一層頑張らねばなるまい。

 

「そんなフェンサーにお土産。ここ最近出た雑誌数冊だ」

「ありがとうトリガー。それで、いま後ろ手に隠したのはなんだ?」

「ギクッ……えーと、からかいの種になるかなと持ってきたグラビア誌でございます。思ったよりハートフルな話題出て出せなくなった」

「ハハハ、トリガーもそんなシャレを思いつくんだな。いや、発案者はカウントか?」

「ノーコメントでございます」

 

 実際に発案者はカウントだが俺も結構ノリノリでした。

 末永くお幸せに。でもこれどうしようかな、俺の趣味でもないし。

 

「とりあえず隣のカウントに押し付けようそうしよう」

「いやいらねえよ、それならもう持ってるし」

「いらないならランツァかスカルドあたりに放り投げとけ。フーシェンには見つからないようにな、あいつ結構ウブだから。それよりワイズマンに聞いたぞカウント。この前のIRBM阻止の時にストライダーに入ったんだって?」

「誰かさんともう一人が乗れなくなったから仕方なくな」

 

 よく言う。ワイズマンから解放されたーって有頂天だったくせに。

 フェンサーもワイズマンから聞いたのかニヤッとしている。

 

「小隊長からみた2番機はどうだったんだ? 同じ部隊というだけで印象というのは変わるものだが」

「なんも変わんないよ。変わらず腕に見合った動きをしてくれてますとも。この前のMVPでもあるし。悪くない」

「逆にこっちが世話してる感じだぜ。いつ突拍子もないことするか気が気じゃねえ」

「ハッハッハ、まあいい距離感はもってるんじゃないか?」

 

 否定はしないけど肯定するのも気恥ずかしいな。

 カウントも同じらしくなんともいえん顔をしている。

 

「実際2人の相性はどうなんだ? 前の部隊から一緒だったんだろ?」

「いまは普通かなぁ。前の部隊では結構ギクシャクしてたから」

「右に同じく」

「そうなのか? 俺から見ても仲が良いとは思ったんだが。相性ピッタリなんじゃないか、相棒みたいな」

「「いやそんなことないだろ」」

「ほらピッタリだ」

 

 互いに顔を見合わせる。

 おい嫌な顔するなよ馬鹿野郎この野郎。

 

「俺たちはチームだが、それでも1番機と2番機ってのは特殊な繋がりがあると思っている。ベルカ戦争のガルムしかり、エメリア・エストバキア戦争のガルーダしかりな」

「こいつが?」

「相棒?」

 

 んーー、どうなんだろうな。

 まあ最近はギクシャクしてないし軽口を叩いてる中ではあるが……相棒……ラリーにとってのサイファー。カウントがそれ? 

 

 揃って小首をかしげる俺とカウントを見てフェンサーは大層面白いものを見てるような顔だ。

 

「まあそんな難しく考えなくてもいいさ。俺たちパイロットは人の生き死にを賭けるヤクザな商売だ。でもな、信頼できる奴が居るってのは必ず力になると思うぜ」

「フェンサーにとっては誰?」

「俺は勿論、こいつさ」

 

 スマホの写真を満足気にヒラヒラしてる幸せそうな男。

 聞くのも無粋だったわね。

 

 

 

「本人はピンピンしてるのに医者からはドクターストップか」

「俺もインシーの時はまあまあ休んだからなぁ。あそこに優秀な医師が居たかどうかはわからんけど」

 

 俺の場合ドクターストップというよりバンドッグストップだったからなぁ。あとマッキンゼイもか、あのおっさん生きてんのかなぁ。

 

「なあトリガー、今日か明日か?」

「なあに、デートのお誘いか?」

「まあそんなとこだな」

「へぇ?」

 

 ちゃかしたつもりが予想外の返答に固まる俺の目を真っ直ぐ見るカウントの顔はこれ以上ないぐらい真剣そのものだった。

 

「トリガー、俺と勝負しろ」

 

 勝負……内容を言わなくてもなんの勝負かは理解できた。

 なにせ俺達はファイターパイロットだ。

 

「穏やかじゃないな。どういう腹づもりだ」

「前から、いやずっと考えて居たんだ。俺とお前、どっちが強いのかってな……」

「唐突だな。何企んでる?」

「言葉通りで裏はねえ、今回に限ってはな。それとも元詐欺師の言葉は信用できねえか?」

 

 口元に笑みを浮かべながらも目はまったく笑っていない。

 鋭い光を宿した目だ。スペア時代から今の今まで、ここまで真剣なカウントは見たことない。

 

「今後お前の下で飛ぶことが増えるだろ。ワイズマンがそう仕向けてるってのは理解してる。だが俺は俺より弱いやつの下で飛ぶのはごめんなんでな」

「俺では強さが足りないか」

「いやそうじゃねえ。お前の強さはロングレンジ隊の中で一番知っている。ただ納得がいってねえだけさ。ここらで一度白黒はっきりしてえんだ……それに」

「それに?」

「リベンジしてえんだ。あの忌まわしいオーレッドでの模擬戦のな。しみったれた過去と決別してえのさ」

 

 カウントからオーレッドのことを引き合いに出されたのは初めてだ。

 何故ならあれはカウントの黒歴史。カウントが落ちぶれた切っ掛け、その遠因である筈。

 それ程の決意なのだろう。ならば……

 

「勝負の内容は」

「1対1の模擬戦。使用機体はこの基地に置いてるF-16Cだ。話しつけるのはこれからだが。もし断られたらF-15Cでいい」

「俺のMTDは他のとスペック違うからな」

「F-15Cがだめならそいつでもいいぜ。戦場で機体スペックの文句なんかつけれねえからな」

 

 カウントはこう言いつつも、機体性能関係ない実力のみの勝負をしたいのだろう。

 とにかく白黒はっきりさせたい。今までのカウントとは違う。気迫というものを感じていた

 

「良いよ、受けて立つ」

「ありがとよトリガー。まあ俺が頼んで通るかどうかだが」

「俺も一緒に頼んでやるよ。これでも小隊長でアーセナルバードを落とした英雄様の一人だ」

「自分で言うのかよ」

 

 言うともさ。

 謙遜するには俺は結果を残しすぎた。

 

「早速頼みに行こう。次のミッションがいつ来るかも分からないんだし」

「まあな。頼むわ」

「おう」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 カウントという男は昔からなんでも出来る男だった。

 

 容量がよく、大抵のことは短時間で会得出来。会得が難しいものも時間をかけて確実にものに出来た。

 勿論挫折も多かった、だがその挫折は損失するものではなく得るもののほうが多かった。ポジティブに物事を見て、腐らずに目標に向かって歩き、掴み取る。

 金と女にも困らず、それでいて能力もある。カウントは統合的に見れば成功の人生だった。

 

 それは戦闘機パイロットとしても現れた。

 きっかけは親のコネだった。世は正に戦闘機の時代。由緒ある血族であるカウントは国に最も貢献する職業として戦闘機のパイロット、そしてやがては将官として国を背負う人生を歩もうとした。

 正直政府なんて堅っ苦しいのは真っ平ごめんであったが。ファイターパイロットというものはカウントの中の男心をくすぐった。

 

 柄にもなく英雄なんてものに憧れて。

 

 そんなカウントは与えられたコネなど必要のないぐらい優秀な成績を残し、瞬く間に訓練校のトップに躍り出た。

 配属先がオーシアではなくユージアの端の端であるフォートグレイス基地というのは気に食わなかったが、そこでも彼はエースとなった。

 口うるさい真面目な上司に説教されながらも自身の隊長と共にユージアの海の上を飛び続けた。

 

 まさに薔薇色、この先に輝かしい英雄の道があると疑わなかった。

 

 だが突如としてそれは狂った。

 久々に里帰りしたオーレッド、そこで行なわれた模擬戦でカウントは同部隊のなかで最初の撃墜判定を喰らった。

 上司であるクラウンやノッカー以外では負け無しだったカウントが、まだ卒業もしていないひよっこに良いようにされて負けたのだ。

 

『悪いけど。あんたがエースだとか正直どうでもいい。それに、俺は自分がエースだと自惚れているつもりもない』

 

 当時フェアリー2として飛んでいたトリガーのクソ生意気な言葉が深々と突き刺さった。

 痛みと共に湧き上がったのは怒りだった。どうしようもないのどの怒りだった。

 

(どうでもいいだと!? クラウンのお気に入りだからって調子に乗りやがって!!)

 

 だが怒りとは裏腹にカウントの身体は動かなかった。

 とてつもない喪失感、とてつもない怒り。2つの相反する感情がぐちゃぐちゃになって身体の中で絶えず破裂していた。

 ただただ、F/A-18Fに混ざる赤い翼端のF-16Cを睨み続けるだけ。それだけしか出来なかった。

 

 そこからカウントはただひたすら転げ落ちる。

 

 オーレッドに戻る時に予め申請していた長期休暇を手に酒をかっくらい続けた。

 飲んでも飲んでも酔えないクソッタレの状態のなか、ただひたすらに気分が悪くなるだけ。

 挙句の果て帰り道でサイフを擦られて無一文状態になってしまった。

 

 たまたま通りすがった旧友に拾われ、またそこで酒を食らいながらこれまでのことを赤裸々に話し続けた。

 無一文になったカウントを気の毒だと思ったのか、はたまた利用できると考えたのか。旧友がカウントに詐欺の誘いをかけた。彼は詐欺の常習犯だったのだ。

 

 軍人であり、由緒ある血統の持ち主と豪語するカウントにとって詐欺なんて小悪党なことをすれば良くて勘当、悪くて軍事裁判の末にどうなるか。

 だがカウントはやさぐれていた。正常な判断がつかないほどに。それほど新米も新米であるトリガーに負けたショックが大きかった。

 ついに詐欺に手を出したカウント。1回目が成功し、手軽に大金を得る快楽に魅了された。

 だが2回目であっさり尻尾を掴まれお縄となった。

 

 呆気ない最後だった。

 もはや笑いすら出るほどに。

 

 カウントは流されるままフォートグレイス基地や実家にも顔を出すことなくサップランド基地、444懲罰部隊に島流しされた。

 

 ショックはあったがそれほどでもなかった。

 もはやどうでもいい、もうなるようになれ。

 輝かしいエースだった彼は他人の戦果をかすみとる無気力な虚飾のエースに成り下がった。

 

 それからエルジアが戦争をおっぱじめてしばらくした後、カウントの前にここに来るはずのない男。自身の失墜の遠因であるトリガーが現れた。

 しかもハーリング元大統領暗殺の容疑を被され、極悪人の証である3本線を刻み込まれて。

 

 正直驚いたが、次に来たのはざまあみろだった。

 ルーキーであるこいつがこんなとこで生きられる訳がない。精々腐り落ちていくのを近くで見届けてやると高をくくっていた。

 トリガーが自分のことを覚えてないと分かった時はそれはそれでムカッ腹が立ったが。

 

 結果はご覧のありさま。

 トリガーは腐ることなく、オーレッドで見せた動きを遥かに超越した動きで空を舞った。

 

 囚人だということを感じさせない雄々しい翼。3本線という烙印をまるで勲章のように誇るメンタルの強さ。

 豪快な羽ばたき。冴え渡る戦術眼。迫りくる壁に怯むことのない反骨心。

 自身と違って詐称せず、100%自分の実力でスコアを積み上げていった。

 

 なにもかもカウントがオーレッドで捨てたものを、いやそれ以上の物を持ってトリガーは飛び続けた。

 

 眩しかった、輝いていた。

 認めたくなかった。だが認めざるを得ない事実に気付かされる。

 

 あの時、オーレッドで負けたのは偶然じゃない。

 確かな力の差で敗北したのだと思い知らされた。

 嵐と雷鳴が降りしきるインシー渓谷でミスターXとドッグファイトを繰り広げるトリガーを見て、そう感じた。感じてしまった。

 

 メイジ2。久しく言われなかったコールサインが耳に入った時。冷え切った魂が一気に熱を生んだ。

 苦しいぐらい煮えたぎる何かが暴れまわった。気付いたら踵を返して戦場に戻った。

 なんで戻ろうとしたのか、そんなこと自分でもわからなかった。

 

 バンドッグの策略で処刑人に仕立てられあげた。トリガーは直前で気づいたそれを自分は気づけなかった。気付かないまま味方を誤射した。

 

 またヤケ酒をかっくらった。

 酔えない安酒を飲み続けていたらトリガーが向かいに座りやがった。

 そして諭された。まだ軍人になって半年もたっていないルーキーに。

 

 皮肉にも視界が拓けた気がした。

 淀んでいた水底から水面に顔を出して、陸に這い上がったかのような。不思議な感覚だった。

 

 胸に灯った火は懲罰部隊に入る前より燃え盛った気がした。

 

 その胸に込められたのは。正義のためでも、戦争を終わらせるという使命感でも責任感でもなく。

 

 ただ負けたくねえ。それだけが道標だった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「どういう風の吹き回しだろうなぁ、あの詐欺野郎」

「元詐欺師だよ」

「詐欺したってのは変わらねえよ。オーレッドで休み取ってると思ったらいきなり憲兵が来て貴族様が詐欺で捕まったと来たぜ。あの時のクラウンの顔を思い出すと、今でも腹が立つ」

 

 恨み節を叩きつつもおやっさんは手を止めずにF-16Cを整備している。

 あれから2人で司令官とワイズマンに詳細を伝えたら直ぐに要望が通った。本当に良いのかと聞いたのは間違いではないだろう。

 なにせF-16Cは他部隊も使うものだ、しかも戦時中にも関わらずそれがあっさり認められるとは思わなかった。

 

 必要なことなのだろう? と言うワイズマンは変わらない笑みを浮かべていた。

 一体何処まであなたのシナリオ通りなのかと言いそうになったが既でこらえた。

 

「それでも変わろうとしてると思うよ。少なくとも、舐めてかかったら負けるぐらいに」

「トリガー坊主があいつに負けるなんて想像つかねえがな。ほれ、出来るだけチューンした。こんなんでいいのか?」

「ああ。あまり弄くると元に戻す時大変でしょ。それにオーレッドの時はそこまで機体を弄れなかったから。ああ、翼端塗ってくれてありがとね」

「練習用の仮塗装塗料だ。直ぐ落ちるから問題ねえよ。さあっ! 行って来いトリガー坊主! 貴族野郎の鼻を明かしてやれ!」

「オーライ」

 

 さて、久々のF-16Cだ。

 おお、レバーが横についてる。これが他とは違うところだよなぁ。

 

 バッテリーオン。各計器類チェック。

 エルロン、ラダー、エレベーター、フラップ。正常に稼働確認。HUDの正常機能、確認。

 システムオールグリーン。

 

「よし行くか。頼むぜファルコン」

 

 キャノピーが閉じる。整備士たちが日々ピカピカに磨き上げられるガラス窓は一点の曇りもない。

 なんだろうなこの感覚。まるで処女飛行の時みたいに身体が楽しさを享受している気がする。

 

 格納庫から出ると、隣から自身と同じF-16Cに乗ったカウントが。こちらを見るや怪訝な顔をするのが可笑しくて思わず笑っちまった。

 

「笑うなよトリガー。てかその色やめろよ、トラウマ掘り起こされそうだぜ」

「あの時の再現なんだろ? 見惚れて落ちるなよエース様」

「言ってろルーキー」

「管制室からフェアリー2、メイジ2。滑走路クリア、風はない。発進を許可する」

「了解コントロール。トリガー、フェアリー2、出撃する!」

「カウント、メイジ2、出るぜ」

 

 2機のファルコンが離陸。

 やはり肌で感じる、F-15Cより低い加速。

 だが俺は物足りなさどころか湧き上がる感情を抑制するのに必死だった。

 

 いいねぇ、思い出すなぁ。ウェザール基地での訓練を。

 ブレッドたちは今頃どうしてるだろうか。

 

 マッハ3にも満たない速度のまま青空に向かって上昇。

 並んで飛ぶ先には先客が居た。

 

「おっ、上がってきたぞ」

「翼端が赤いな。トリガーか?」

 

 空にはフェンサーを抜いたロングレンジ隊の面々。

 そして更に上空にはロングキャスターのAWACS機の姿が見えた。

 

「ロングキャスターからフェアリー2、メイジ2。こちらで貴機の信号を確認した。感度良好」

「了解ロングキャスター。AWACSまで担ぎ出すなんて大盤振る舞いだな」

「みんな上がってるのに俺だけ地上なんて味気ないだろう?」

「揃って馬鹿ばっかだな、うちの部隊は」

 

 俺とカウントがタイマンをすると聞いて1小隊編成の訓練という名目でみんなこぞって空の観覧席に座ってきたのだ。

 しかも集めたのはワイズマンだという。後から聞いた話だが「トリガーとカウントの本気を見たくないか?」と誘ったのだとか。

 

「一つ聞いていいか? なんでトリガーはフェアリー2でカウントはメイジ2なんだ? メイジ2はトリガーのコールサインじゃなかったか?」

「ああ、それは………」

 

 フーシェンからの問いかけに思わず口ごもった。

 このコールサインで行くのはカウントの提案なのだが。

 みだりに話す内容でもない。どう誤魔化そうか。

 

 と思っていたらまさかのカウントがぶっちゃけた。

 

「フェアリー2はこいつがまだ訓練生時代の時のコールサインだ。オーレッドで正規軍との模擬戦があってな。そのときこいつとタイマンしたのさ。結果は俺の負けだけどな」

「おいカウント」

「なんだよ。事実なんだから良いだろ。まあ要するにリベンジマッチって訳さ。こいつがフォートグレイスに来た時に俺は異動してたんだ。ただそれだけのことさ、フーシェン」

 

 なんてことないように言ってのけるカウントに驚きを隠せなかった。

 やっぱり今までのカウントとは違う。

 これは益々気を抜けない模擬戦になりそうだ。

 

「2機の所定位置到達を確認した。これより模擬戦を開始する。どちらかがロックオンされた方の敗北とする。焦ってぶつかるなよ2人とも」

「「ウィルコ」」

「では、始め!」

 

 お互い同時にスロットルMAX。

 相対距離一万で互いにヘッドオン。

 

「行くぜトリガー! 今日こそ俺がお前の上を行く!」

「やってみろ、2番機!」

 

 ロックオン距離直前で右旋回。カウントが左旋回。

 先に後ろを取ったのは、カウントだ。

 

「速攻で終わらせてくれるなよ!」

「ならやってみなぁ!」

 

 機体反転急降下、からの姿勢安定、からの急上昇からの右旋回で振り切る。

 だがカウントは読んでいたのか後ろを離れない。

 

 左にハイGターン。

 キャノピー越しにカウントのF-16CがハイGターンしているのが見えた。

 

 やるっ。だがまだまだ! 

 

 今度は右にハイGターン、そのまま右斜め上にスライスバック。だがカウントはそれでもピッタリと張り付いてくる。

 これでも振り抜けないか。なかなかやる。

 

 普段から誇張してるから分かりづらいが、カウントという男は間違いなくエース級だ。エルジアの腕ありネームドとも遜色ないだろう。

 インシー渓谷でミスターXの僚機2機、ストーンヘンジに出てきた黄色の生き残りを足止め出来るぐらいの腕前は持っているからな。

 

 カウントが俺の後ろからズレたのを見逃さずスロットルMAX。

 カウントのF-16Cから一気に離れてあるポイントに向かった

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

(逃げた? あれは仕切り直しの加速じゃねえ。俺とタイマンの状況でいったい何処に……っ!)

 

 数瞬思考しながらも相手を目で追って理解した。

 トリガーが向かう先。そこには分厚く大きい灰色の雲があった。

 

「野郎……」

 

 思わず苦笑いしてしまうものだ。

 

 オーレッドで行なわれたトリガーとのドッグファイト。その敗因は雲に撒かれた上の目標消失による不意打ちだ。

 カウントにとって黒歴史の塊。誘っているのは明白だった。

 

 だがカウントは恐れずに、いや恐れながらもスロットルをぶっ叩き後を追った。

 手が小刻みに震えるのをもう片方の手で押さえ込む。武者震いなんて嘘でも言えないそれは本物の震えだ。

 思わずスロットルを戻そうとする手を歯を食いしばって耐える。

 

(情けねえ。これがかつて家柄をたからかに語ったエースの姿か!)

 

 生粋の自信家である彼が恐れを抱いて進むのを拒んでいる。

 自分が思った以上にトラウマを抱えてることに驚きつつも、燃え盛る闘志の炎は未だカウントの目に宿っていた。

 

 トリガーもわかってやっているのか。それともちょうどよく紛れる雲があったからなのか。

 少なくともトリガーもあの日のことを思い出していることだろう

 

「上等だ!」

 

 恐れもある、引け目もある。だが売られた喧嘩を買い叩かなけりゃ男が、ファイターパイロットの名が廃る! 

 

 震えが収まり、限界までスロットルを吹かす。

 相対距離はそこまで開いていない。

 トリガーが雲に侵入した後にカウントも追って雲に突入する。

 

 突入後すぐに上昇、からの180度ロール。レーダーを確認しつつトリガーを探す。

 レーダー光点が思ったより移動していない、ということはトリガーも直進せずに上昇したと推測する。

 

(本当にそうか?)

 

 あの自分に負けず劣らず捻くれ者筆頭のトリガーが自分の予測通りに動くのかとカウントは訝しむ。

 あの日の再現をしようとしている可能性は大いにある。だが人間びっくり箱の名を欲しいままにする彼が知っている手を使うのかと疑問を浮かべる。

 現にトリガーの姿は未だ見えず、だがレーダーの光点は重なっている。

 

 まさか、と思考した瞬間にカウントは操縦桿を手繰り寄せ上昇から下降に切り替えた。

 機首を下に向けた直後、雲を突き進む赤い翼端のF-16Cが現れた。

 

「やっぱ下かトリガー!」

「うわっ、読まれてたし!」

 

 トリガーは雲に突入後に上昇ではなく下降を行った。そしてカウントが上昇したのを確認してから上昇し、後ろを狙い撃つ作戦だった。

 カウントの判断が遅ければロックオンされて負けだった。トリガーを一番近くで見続け、彼の馬鹿さ加減を理解したからこそ判断に踏み切れたと言えるだろう。

 

 再びバックポジションにつくカウントにトリガーは毒づいた。

 

「くそーう。こうまで後ろ取れねえとはやるじゃないかカウント」

F-16C(こいつ)に関してはお前より先輩だ。機体特性の癖なんか知り尽くしてんだよ」

「ああそうかい。じゃあこいつはどう!」

「ちょ、お前マジ!」

 

 両機が直線になったタイミングでトリガーエアブレーキ。相対距離を近づきカウント機、急いで急上昇。

 このままオーバーシュートさせて後ろを取ろうと画策したがカウントはそのまま縦ローリングで追従する。

 

「あっぶねえな! 俺を潰す気か!」

「そんなヘマ俺とお前がするかよ。もっかい仕切り直しだ!」

「にゃろう逃がすか!」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 まだ時間にして3分も経っていない。

 だというのに言いようのない緊迫感のなか、彼らは固唾を飲んで見守っている

 

 ロングレンジ隊の5機のF-15Cが彼ら邪魔をしない為に距離を取っている。

 それでも一挙一投足を見逃さないよう目をこらす。本当なら近くで見たい衝動をぐっとこらえてだ。

 

「F-16Cであの動きが出来るのか。ほんと無茶苦茶だな俺らの小隊長は」

「それに食らいつくカウントもな」 

「ああ。カウントの奴、開始から1回もトリガーに後ろを取られてねえ」

 

 トリガーが繰り出す埒外な戦闘機動は常人に真似できる物ではない。というより真似しようと思わない。

 戦闘機乗りの飛び方は基本的な教導から自分なりに手を加えるもののそれを逸脱することはない。事実熟練のパイロットは臨機応変に対応することはあれど基本的な軸を残すもので。カウントの飛び方はその筆頭だ。

 基本に何処までも忠実。それを磨きに磨き上げている。

 

 だがトリガーにはその基本も軸も存在しない。

 飛びたいように飛ぶ。思考と飛び方が直結している自由な飛び方はまるでフライトシューティングゲームをプレイしてるかのようだ。

 

 それを実現しているのがトリガーのステータス。

 恵まれたG耐性、視力、動体視力。型にはまらない思考、技術、戦略眼。

 数多のネームドを屠り、ミスターXを撤退に追いやり、アーセナルバードの片翼をも落とす。

 だが真に恐ろしいのは、今の段階でまだ発展途上ということ。

 

 まさに世界が生んだイレギュラーにして特異点と呼ぶにふさわしい存在と言える

 

 だがそんなトリガーをしてカウントを即時撃破出来ないでいた。

 トリガーが手を抜いてる訳では決してない。むしろ最初から速攻でキルすることすら勘定に入れていた。

 これについてはカウントがトリガーの癖をある程度理解し。保守よりな戦闘を心がけていることに尽きる。

 

 トリガーは敵を誘い込んで罠にはめる戦い方を使う。

 相手が得意とする土俵に立つと見せかけていつの間にか土俵から引きずり下ろしてキルする。

 そうしてトリガーは数多の変わり者ネームドをキルしてきたのだ。

 

 カウントは自分の力量がトリガーに届かないことは百も承知。

 だからこそ踏み込まない。ここぞという時にロックオン出来ればカウントの勝ちだ。

 どんな形でもいい、トリガーに勝ったという真実が欲しい。

 堅実さとは懸け離れたカウントが彼なりに考えた対トリガー戦術だ。

 

「だが長くは続かないだろう」

 

 カウントは何処までも攻撃的なプレイヤーだ。

 そんな彼が慣れない防御型の飛び方をし、なおかつトリガーに背後を取らせまいと彼の滅茶苦茶な戦闘機動に食いついている。

 

 肉体と精神どちらにも負担がかかっている。

 恐らく勝負をつけに行く筈だ。

 

「どっちが勝つか分かんねえ」

 

 ポツリと呟いたフーシェンの言葉はその場に居る者の総意に等しかった。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「やるなカウント、まさかここまでとは」

「侮ったか、このカウント様をよ!」

「まさか。だけど身体は大丈夫か? 俺はまだピンピンしてるぞ」

「言ってろ! まだまだやれるぜ俺は!」

 

 模擬戦開始から5分。

 俺は未だにカウントの背中を見れていない。

 深追いせず、判断が早い。ストーンヘンジのバッフルみたいに飛ぶカウントに舌を巻いている。

 

 だが疲労が溜まっていると見た。奴のF-16Cのの動きがかろうじてわかるレベルで鈍くなっている。

 このまま連れ回してふらついたところをキルしてもいいが。それじゃ面白くない。

 

 だがそれはそれとして何処まで耐えてくるのかも興味がある。

 ガッツとは無縁のこの男が何処まで男を見せてくれるのかを。

 

「そろそろケリつけようぜトリガー」

「いいね、俺もそう思っていた」

「言ったな。じゃあついてきな!」

 

 真横についていたカウントが急速下降。

 それに合わせて俺も下降する。

 

「ヒュー!」

 

 思わず声が出た。興奮で。

 

 俺とカウントはバレルロール状態のまま垂直落下機動チキンレースに入った。

 互いに上を向き、お互いの位置を探り。相手がエアブレーキを踏めばこちらも踏んで後ろにつかせない。

 

「どうだトリガー! ハッピーかぁ!?」

「最高だぜカウントっ!! 何処まで行くんだ!?」

「何処までもだ! てめえがビビって抜け出すまでな!」

「クソ度胸勝負を挑むのか!? お前が俺に!?」

「意地があんだよ、男にはなぁ!!」

 

 ぐるぐる渦を巻くように下降する。

 高度計が物凄い速度で下がっていくのを尻目に操縦桿とフットペダルを巧みに動かしていく。

 

「もうすぐ地面だぞ! 抜けろよカウント!」

「てめえが抜けろこの大馬鹿野郎!」

「どっちがだよこの大馬鹿野郎!」

 

 マイナスGに晒されながら高度計が2000を切った。

 機体から早く上がれ! 早く上がれ! と警告が鳴る。

 

「こちらロングキャスター! 地面が近すぎる! 上がれ2人とも!!」

「ぐっ!」

「うぅあっ!」

 

 ロングキャスターの声と共に高度計が1000を切った。

 操縦桿を思いっきり引き込み機体を起こす。

 翼にヴァイパートレイルを引きながら立て直し、俺の高度はわずか200。カウントは300。

 

 背後を取ったのは……カウントだ! 

 

「もらうぜぇぇ! トリガァァーー!!」

 

 臆することなく更に高度を下げ、キルを取りに行くカウント。

 誰もが認めるクソ度胸にして大馬鹿野郎に引導を渡す。カウントの頭にあるのはそれだけだ。

 

「まだまだぁ!!」

 

 超低高度のまま機体を90度左ロールからの旋回。

 少しでも狂えば翼が地面に引っかかり、間違いなく機体が転がり即死だ。

 

「その高度で旋回だと!?」

 

 見誤った。トリガーの馬鹿さ加減に。

 模擬戦だというのに文字通り命懸けの行動にカウントは思わず操縦桿を引いてしまった。

 

「やべぇ!」

「ふんぬぁぁぁ!!」

 

 そのままハイGターンで浮いたカウント背後につく。

 カウントが咄嗟に引いた操縦桿を戻そうとする隙を見逃さず。ロックオンカーソルがカウントのケツを捕らえた!! 

 

「っ!?」

「トリガー、カウントをロックオン! トリガーの勝ちだ! お前たち早く上昇しろ!!」

 

 怒声にも等しいロングキャスターの声に俺たちは即高度を上げた。

 

 高度5000に行ったところでようやくカウントは大きく息を吐いた。

 全身の力が抜け、汗が一気に噴き出す。

 正しく極限状態だ。

 

「……負けちまった、か……」

 

 文字通り全力を出した。大馬鹿野郎にもなった。

 だがトリガーには届かなかった。トリガーは更に上を行く大馬鹿野郎だった。

 完膚なきまでの敗北。だが不思議と気分が高揚していた。

 

 ふと影が出来る。上を向くと、翼端を赤く塗ったトリガーのF-16Cが居た。

 

「……たくっ。あいつはいつも俺の頭上を飛びやがる」

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 カウントと俺は格納庫前で正座していた。

 目の前には珍しく目を鋭くしているワイズマンが居た。逆光で目元は見えないが確かに眼光が鋭いのだ。

 

「熱くなるなとは言わん。競い合うなとも言わん。だがあまりにも逸脱した危険な飛行を黙認する訳にはいかないな」

「だ、だってよ。最低飛行高度なんか設定してなかったし」

「俺、私が馬鹿な戦闘機動をするなんて今に始まったことではないですし」

「説明が必要か?」

「「いいえ! 大変申し訳ございません!!」」

 

 ワイズマンのプレッシャーを前に即時謝罪&土下座に移行した。

 

 静かだ。静かに怒っている。

 当たり前だ。高度200で高度維持旋回なんて一歩かすりでもしたらマジで死んでたし。

 垂直落下ツートップバレルロールなんて普通誰もやられねえし。機体接触でもしたらそれこそアウトだし。

 

 十数秒頭を下げ続けているとワイズマンが息をつく。

 

「お前たちはうちの貴重な戦力だ。ファーバンティ攻略が目前に迫る中、模擬戦で命を落とすなど以ての外だ。もっと自分の命を大事にしろ。これがどれだけ当たり前で説明するのも馬鹿らしいことだと言うことは、わかるな?」

「「イエッサー!」」

「よし、頭を上げろ」

 

 恐る恐る頭を上げるとぉ…………やれやれ仕方ないなコイツらは的な顔をしたいつものワイズマンが居た。

 

「トリガーはまだしも。お前が同類だとは見抜けなかったなカウント」

「ちょっと待ってくれ、今回は特別だぞワイズマン。正攻法で勝てる相手じゃなかったし、明日からはお行儀のいい飛び方に戻っているからな?」

「だが楽しかっただろう?」

 

 カウントが目を逸らしてこっちを見た。

 コッチミンナ。俺に助けを乞うても何も出てこないぞ。

 

「よし、2人とも立て。危険飛行の罰則として今から基地内のトイレ掃除を命ずる」

「今から!? もしかして全部でしょうか」

「俺たち2人だけで?」

「異論があれば言ってくれ」

「「……ありません」」

「よし、ではかかれ! 駆け足!」

「「イエッサー!!」」

「頑張れよお前らー」

「ほら走れ走れー!」

 

 編隊長の命令のもと疲労困憊の身体でトイレにダダダーシュ。

 仲間の冷やかしを背中に受けながら走った。全力で。

 

 

 

「身体がいてぇ……骨が軋んでる気がする」

「ほら、喋るだけじゃなく手も動かせぇ」

「へいへーい」

 

 慣れない馬鹿機動にすっかり身体をやられたカウントは痛む身体にムチを打ってトイレ清掃。

 基地内に何個男性トイレがあるのかは考えたくもない。

 救いなのはザップランド基地と比べて大変清潔に使ってもらってるとこだろうな。

 

「それで、満足したのか?」

「ああ? そうだな。まあ悔いはねえさ。全力出してきっちり負けたんだ。少なくともオーレッドの時と比べたら気分は晴れやかだ」

 

 その言葉に偽りなしなのか、カウントの表情は明るい。

 

「お前は強いよ。今回のことでより再認識した」

「メビウス1の再来様にお褒め頂けるとはに光栄だな」

「やめろやめろ。あだ名で一番苦手なんだよそれ。俺には荷が重すぎる」

「メビウス1もお前みたいに馬鹿な飛び方してたんだかなぁ」

 

 さあどうでしょうねぇ。

 少なくともストーンヘンジ7台の砲撃をかいくぐってぶっ飛ばした逸話があるからなぁ

 

「しかしさっきのワイズマン怖かったな。変に声荒げないあたりマッキンゼイなんか目じゃないぜ」

「ていうかアイツ怖いとこあった?」

「ねえな。バンドッグの方がやばかった」

「逆になんでバンドッグ先に出なかったんだよ」

 

 バンドッグはマジで地獄の番犬だったな。

 マッキンゼイは指揮官というよりコメディアンだったな。怖いというよりただ五月蝿い。

 

「……ありがとよトリガー。おかげで踏ん切りがついた」

「それはなによりだ。部下の悩みを解消するのは隊長の役目だからな」

「ひよっこ隊長がなんか言ってらぁ」

「おお言うじゃないか。不敬罪でしょっぴくぞぉ」

 

 なんとなくだけど。

 俺とカウントを隔てる最後の壁がなくなった気がする。

 それが何を意味するかはわからないが、少なくとも悪いことではないだろう。

 

 …………あ、そうだ。

 

「なあカウント」

「んー?」

「俺が乗ってたF-15 S/MTD。今度からお前の機体になるから」

「ほーん……は? はぁ!?」

 

 カウント、驚きのあまりブラシを便器に落としかけた。

 間一髪掴んだブラシを手に持ったまま俺に詰め寄ってきた。

 

「おいどういうことだトリガー! 聞いてねえぞそんなの!」

「いま初めて言った。とりあえずカウント。ブラシを置いてくれ、ばっちぃ」

「お、おう。てかそんなサラッと言うなよ。びっくりしたぞマジで」

 

 ごめんごめん。ふと思い出してつい口走っちまった。

 

「とりあえず説明してくれ。1から10まで」

「はいはい。なんか俺がこの戦争で大活躍してアーセナルバードも落としたから、報酬としてこの基地に新しい戦闘機が来るんだよ。で、それに俺が乗る予定になったのよ」

「マジかよ。流石大国オーシア太っ腹だな」

「冤罪の謝罪品な気もするけどね」

「だとしてもよ。それで、何が来るんだ?」

「F-22A」

「ラプターかよ。すっげ」

 

【F-22A ラプター】

 ロッキード・マーティンとボーイング社が開発した最強と称されたステルス戦闘機にして、父の部隊、フリューゲル隊が運用していた機体だ。

 

 対地、対空、対エース戦闘をこなし。性能はF-15Cを凌駕する傑作機。

 かつてメビウス1はこれを駆り、エルジアを恐怖のどん底に叩き落した。

 

 選んだ理由は対地対応のマルチロールというのが建前。

 本音を言えば、ずっと前からラプターに乗ってみたいというのが正直根底にあったのだ。

 

 父と同じ機体であるラプター。

 こいつなら、かつて父親が見た『空と一つになれる場所』にたどり着けるかもしれないと思った。

 

「話はわかった。けど俺で良いのかよ。ワイズマンは?」

「ワイズマンはいらないって言ってた。それにワイズマンよりお前が適任だと思ったんだ。フェンサーの見舞いの帰りに言おうと思ったのに、あんなこと吹っ掛けるんだもん」

 

 でも良かった。

 今回の模擬戦を経てカウントのことをより深く知れた。

 その上で俺のF-15 S/MTDを任せるという確固たる決心がついた。

 みんなにはこれから話すが。今日の模擬戦を見たら誰も文句は言うまい。

 

「言っとくけどF-15Cなんか目じゃないぐらいじゃじゃ馬だぞ。乗りこなせるかなぁカウントくん」

「はっ、上等だ。3本線様の愛機。ぜってぇ乗りこなしてみせるぜ」

 

 自然と俺たちは拳を合わせていた。

 拳越しに熱が伝わり、言葉ではなく心で通じ合えた気がする。

 まだ戦争は終わらない。だけど柄にもなく俺は次の飛行を楽しみにしていた。

 だが先ずは立ちはだかるトイレ掃除を撃墜するとしよう。

 

「んじゃあこれからも活躍に期待させてもらうぜカウント。キビキビ働けよ?」

「了解だ小隊長。カウント様の活躍に乞うご期待だ」

 

 得意顔で言うカウントがなんかおかしくて笑った。

 何笑ってんだよって呆れながら掃除に戻るカウントの顔も笑っていた。

 

 フェンサーが言ったような関係かどうかは開拓しづらいが。

 こいつとなら相棒という関係も悪くないかもしれん。ふとそんな考えがお互い浮かんだことを俺たちは知らないでいた。

 

 

 

 





 どうも。落とし物が無事に戻ってきて日本の善性を感じました。作者のブレイブです。

 トリガーとカウントの因縁に決着ぅ!な回となりました。
 訓練生時代からの2人の話もようやく着地点を見せる運びとなりました。
 カウントの詐欺の経緯。作中では詐欺の常習犯的な雰囲気でしたが作中時系列的にはこんなもんかな?と。悩みました。カウントの詐欺は本当に。

 そしてトリガーの新しい愛機も判明。F-22A ラプターです。
 意外とコメント欄でラプたん出なかったけど。わかる人にはわかってたな?
 F-15 S/MTDはカウントへ。まさかカウントの乗機が変わるとは最初の頃は思わなかったことでしょう。2人の活躍にこうご期待でございます。

 そして次回。ついにSPミッション編突入でございます。
 クイズ名人に許してクレメンス、ベルクト姉弟、そして海のブルートゥという濃いキャラがぞくぞくと。
 お楽しみに。私も書くのが楽しみです。
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