エースコンバット7 FLIGHT REZON   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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STAGE7【Trigger(TACネーム)

 

 オーシアのアピート空港からベルカ公国への直行便。

 環太平洋戦争=ベルカ事変が起きてからベルカへの便も以前と比べて少なくなった。

 

 単純にベルカに行こうとする人が少ないから減便されたとか。

 ベルカ人はあまりオーシアに来ない。その逆もしかりというわけで。

 この便も人が少なくて空きが多かった。

 

「………」

「ずっと外を見てるな」

「好きだからね」

 

 飛行機に乗るのも数えるほどしかない。

 少ない時間でも、この景色を目に焼き付けておきたい。

 

「リヒトくんは防衛大学に入るそうだな。何か不安なことがあるならおじさんが聞いてやるぞ」

「ベルカ人でもオーシア軍に入れますか」

 

 初めて窓から視線を反らし、クラウンの顔を正面に見据えた。

 この頬の傷をこさえる前から薄々思っていたことだ。

 

 オーシアは明確にベルカを嫌っている。

 政府が差別を禁止すると厳しく言っても。下の者にはそれが行き届いていない。

 

 ましてや戦争で被害を受けるのはいつも最前線で戦う兵士と、なんの罪のない民間人。

 

 祖国に忠誠を誓っても、上層部に忠誠を誓ってるのは、果たしてどれだけいるのか。いない人も少なくないだろう。

 その最たる例が、国境無き世界の蜂起だ。

 

「現実問題、オーシア軍の中に居るベルカ人に対する当たりは強い。今のオーシア軍はベルカに手酷くやられた奴らの生き残りばかりだからな。上層部からは差別行為は厳罰行為として取り締まられているが。正直建前的なもので、元から基地にいるベルカ人ですらやっかんでいる。スパイなんじゃないかってな」

「そうですか」

「だけど一番うんざりしてるのはその基地にいるベルカ人だ。どことも知れない奴らが馬鹿やったせいでなんで俺たちが恨まれなきゃいけないってな」

 

 全くもって同意見だ。

 

「その人たち、ノースオーシア出身者が多いんですか?」

「まあな、リヒトくんは出身何処だっけ」

「南ベルカ生まれの北ベルカ育ちです。ますます風当たり強そうですね」

「いやそんなことはないさ。北も南も変わらない、一括りでベルカ公国。ほら、環太平洋戦争でベルカ強硬派残党がたむろってたノースオーシア・グランダーI.G.もその名の通りノースオーシアだろ? だから差なんかない。あの戦争はオーシアが接収したノースオーシアに潜伏していた奴らに踊らされてたって訳さ。躍起になって手に入れた自分の土地に居たのに気づかないとは、笑えるよな」

 

 そう言いながらもクラウンの目は笑っていなかった。

 自国の不甲斐なさにうんざりしてるのか、それとも。

 

「クラウン自身はどうなの。ベルカに対して。恨みとか」

「先進的な兵器を数多く作り上げたベルカは確かに脅威だけど。軍人と政府、民間人はそれぞれ別種の存在だ。ベルカ人全てが世界の破滅を望んでる訳じゃない。そうだろ」

「当たり前です」

「てかそんなこと言ってるならオーシアやユークだってなんだかんだベルカの技術を使った訳だしな。大部分は悪いとは言っても、全ての責任をベルカばかりに押し付けるのもなんか違うのさ。そんなことになったら、俺たちが乗る戦闘機を作った、又は戦闘機の祖を作り上げたご先祖様も恨むことになっちまう。果てしないだろそうなったら」

 

 道具は使い手によっては凶器にもなる。クラウンはそう言いたいのだろう。

 例えば拳銃だって、引き金を引かない限りはただの置物だ。

 戦闘機だって、機銃やミサイルを撃たなければ今のってる旅客機と同じように空を飛ぶための乗り物になる。

 

「俺はベルカ戦争からベルカと因縁はあるし。ベルカに見知った仲間が沢山落とされていくのを見た。その時は確かに憎んださ。でもいつまでも憎み続けると、そこから新たな火種が生まれかねない。必要以上の怒りは景色を曇らせて、思考を奪っていく」

「そういうものですか」

「ああ、だから憎しみだけで戦うなよ。オーシアの軍人になるならな」

 

 クラウン………

 

「まあ最後のはうちの中隊長の受け売りだけどな。ハハハ」

「あら」

 

 な、なんかそういう感じにカッコよく言ってたのにこの人は。

 今のでこの人がどういう人なのか少しわかった気がする。道化師(クラウン)の名前に偽りはなかった。

 

「まああれだ。もし入るのならうちの隊にいれてやる。ベルカ人だろうが大歓迎だぞ」

「配属先って選べるんですか」

「わからん」

 

 えー。

 

「あ、一応言っておくが。ベルカ生まれを偽証したら詐欺罪で捕まるから気を付けろ」

「そんなことしませんよ!」

 

 正直凄いしたいですけど! 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 長いフライトの末。

 ベルカ国際空港、ベルカの首都、ディンズマルクに降り立った。

 春の先触れが来てる様子はなく、変わらず寒かった。

 

 二度と訪れることはないだろうと思っていた故郷に訪れてみたものの。なんとも懐かしさとかそんなものは皆無だった。

 そもそも育ての地だったホルンシュタットからかなりズレてるし。外の景色なんて、ラリーとのバイク旅で見た程度のもの。

 

 周りを見渡した限り。ディンズマルクは平和な様子。

 底では例の強硬派がまだ蠢いてるやもしれんが。見た感じ普通の日常そのものだった。

 

「うー寒いな。早く待ち合わせ場所に行こう。約束の時間までまだあるが。早めの昼飯にしよう」

「うん」

 

 クラウンの提案に賛成し、足早に目的地の喫茶店に滑り込んだ。

 アンティーク風の見た目にはバー・トレーロを思わせたが。あちらの内装が赤を中心とした暖色系に対し、こちらは水色を基調とした寒色系だった。

 

「ふー、暖まる。とりあえずどっかに座って………おっ?」

「あっ」

 

 クラウンに釣られて目線を移した場所。端っこのテーブルに、サングラスをかけた一人の男がコーヒーを飲んでいた。

 鮮やかな金髪を携えた、グラウンと同じぐらい歳をくった男だった。

 

「あの人か? もしかして」

「多分。写真は?」

「えーと、あったあった」

 

 クラウンの懐から出された写真には軍服を来た男性の姿。

 生憎こっちの姿を向こうは知らないので目印としてあちらから写真を送ってもらったのだ。

 

 奥でコーヒーを飲む洒落た伊達男と写真の姿はサングラスを除いて瓜二つだった。

 

 こちらに気づいたのだろう。サングラスの男は俺を見るなり足早にこちらに来た。

 結構な早さで。

 

「もしかして君か!? 君がアレクセイの!」

「え、えっと」

「待て待て。そんな詰め寄るなよ色男」

「ん? あー、すまんな。初対面なのに突然」

 

 サングラスを外し、男は軽く咳払いをした

 

「申し遅れた。フリューゲル隊の元2番機だったエリアス・アインホルンだ。君が俺に連絡をくれた男の子だね? 名前を教えてくれるか」

「リヒト。リヒト・フォン・フリューゲルです」

「リヒト。そうか、リヒトか。ああ間違いない。隊長が言ってた末っ子の名前だ。生きていてくれたんだな………なんにせよ、会えて良かった」

 

 薄く浮かんだ涙を拭った男。エリアス・アインホルンがこちらに手を差し出し、その手を握り返した

 現在はベルカの高級将校である彼がこんなカフェに一人で来てるのは、他ならぬ俺からのアポイントメントだ。

 

 全ては、自分の知らない父親を知るために………

 

「今回は忙しい時間を割いてくれてありがとうございます。アインホルン少将」

「いや構わないよ。君こそこんな辺境の地に遠路はるばるありがとう。あー、あと少将呼びはやめてくれるか。年功序列とネームバリューでのしあがっただけだからな。ささっ、立ち話はなんだ。座るとしよう」

 

 先程コーヒーを飲んでいた席につき、ウェイターにハニーミルク、はなかったのでホットミルクを。クラウンはコーヒーを注文した。

 

「それで。君はボディーガードというところか?」

「オーシア空軍所属、TACネームはクラウン。あんたを信用してないって訳じゃないが。リヒトくんをむざむざ一人でベルカに送り出せないからな」

「信用してる割には警戒心ありありだな」

「そういうのは、後ろで殺気飛ばしてる奴らをどかしてから言うんだな」

「っ」

「振り向くな」

 

 後ろを見ようとした首をすんでの所で止めた。

 

 全然気づかなかった。

 店に入った時には仲睦まじい男女のカップルの2人しかいなかったが。クラウンが言ってるのはそのカップルだろうか。

 

「2人とも、席を外してくれ」

「し、しかし少将」

「頼むよ、俺なら大丈夫だ。くれぐれもここでの出来事は内密にな。何処かで時間を潰してくるといい」

「………了解」

 

 ジトッと汗を垂らす俺を見てアインホルンさんは後ろのカップルに向けて声をかけた。

 カップル………に扮していた2人はコート羽織って外に出た。

 

「すまないな。立場上一人で外に出歩けなくてな。しかしよく気づいたな」

「ボディーガードを買って出たんだ。それぐらい気づけないようじゃ格好がつかない。ちなみに俺がベルカにいるのは上層部に伝えてある。俺に何かあったら査察の口実にされるぞ。オーシアはベルカを調べたくてウズウズしてる」

「いっそのこと洗いざらい調べて貰いたいものだ。おっと、今のはオフレコで頼むぞ。オーシアの軍人さん」

 

 シーと茶目っ気たっぷりでおどけるアインホルンさんに安心をもって良いのか少しわからないながら、最低限の警戒をしてる間にホットミルクが来た。

 

「リヒトくん、先に飲むぞ。毒味だ」

「そこまで信用されてないと傷つくな」

「リヒトくんに至ってはそうもなるんだ。相手がベルカの将校で、フリューゲルの関係者ならな」

 

 クラウンの予想以上の警戒心をはらんだ睨みに、アインホルンさんは戸惑いの表情を浮かべ。

 

「どういうことだ?」

「知らないのか?」

「なにをだ? そもそも、フリューゲル家はもう随分前に潰れちまった。もう俺とは関係ない」

「そうですか。もうないんだ」

 

 もともと存在しか知らない名前だったが。既になくなっていたか。

 それを知って出た言葉は薄すぎるぐらい淡白なものだった。

 

「随分とあっさりしてるもんだな。君の生まれだぞ?」

「そんな感傷を抱くほど、俺はベルカに良い思い出はないですから。ここでの暮らしは酷いものでしたし」

「………どうも俺の知らないことがありそうだ。話してくれないか。行方不明として消えた君が、何故オーシアに居るのかを」

 

 アインホルンさんに促され、俺は生まれてから今までのことを話し始めた。

 

 生まれてまもない自分が、戦争から守るために1人ホルンシュタットに預けられたこと。

 戦争が終わったあと、叔父夫婦に虐待を受け、奴隷同然の待遇で軟禁されたこと。

 

 フリューゲル家に戻る直前に傭兵に救われ、紆余曲折を持ってオーシアに養子として迎え入れられたこと。

 

 その後、環太平洋戦争で自分が差別を受け。頬に一生残る傷を受けたことを話した。

 

「………はぁ。まさかそんなことが」

「あんたはなにも知らなかったのか?」

「末っ子のリヒトくんだけが生き残ってるということはアレクセイ隊長から聞いていた。だけどベルカを建て直すのに必死で会いに行けなかったんだ。そしたらルーメンの爆撃だ。変わりに俺が会いに行こうと思ってフリューゲル家の使用人に聞いてみたら『御曹司は貴重なフリューゲル家の跡取りです。御身に危険が及ばない為にも、関係者以外に居場所を教えることは出来ません』だとよ。そしたらなんだ。久方ぶりに急に電話が来て『リヒトがそっちに来てませんか!?』と来たもんだ。関係者じゃねえって言ったと思ったらこの有り様だ。フリューゲル家の残りカスがなくなったのは、そう時間はかからなかったよ」

 

 おそらく、俺がラリーに連れられて直ぐだな。

 あの叔父夫婦は相当絞られたに違いない、いい気味だ。

 

「では、今も探してる可能性は」

「多分ないな。とっくに捜索は打ち切ってるだろう」

 

 もう俺が探されることはない。

 

 サピンやオーシアでたまに悪夢を見る。あの時の夢を。そして目覚める度に。あの叔父夫婦は今でも自分を血眼で探してるのではないか。

 そう感じてしまう時があった。

 

 もう、そんな心配はする必要がないのかもしれない。それを聞いて、俺の胸には間違いなく暖かい安心感が出てきた。

 

「すまない。ベルカを代表して、謝罪させてくれ。そして改めて言わせてもらう。生きていてくれてよかった。空の彼方にいるアレクセイ隊長も安心してることだろう」

「はい………」

「次は俺の番だな。アレクセイ隊長について知りたいんだよな?」

「はい。その為に俺は。生まれ故郷に戻ってきたんです」

 

 軽く深呼吸をし。向かいに座るアインホルンさんの眼に真っ直ぐ合わせた。

 

「あー本当に似てるな。君は」

「なににです?」

「アレクセイ隊長。いや、アレクセイにだよ。さっき君を見るなり近寄っただろ? 一目見てわかったんだ。君がアレクセイの子供だって。丁度若い頃の奴にそっくりなんだ。君は」

「父とは古い付き合いなんですか?」

「ああ、それはもう古いのなんの。ハイスクールから防衛大学、そこから空軍士官学校に至るまでずーっと腐れ縁さ」

 

 そういって彼は口許を綻ばせて笑った。

 それと同時に悲しそうに眼をつぶったのだ。彼が、父親がこの世にいないことを再確認するように。

 

「父と親しかったのですね」

「ああ。でも最初の頃は衝突してたなぁ。フリューゲル家は名家中の名家。黙っても人気者でさ。そんなあいつが気にくわなくて、ことあるごとに衝突したもんだよ」

「父はどんな人物でした?」

「絵に描いたような好青年! 次期当主の秘蔵っ子で文武両道の色男! ってな感じでハイスクールではアイドルのような奴でな。女子人気が高くて男どもの嫉妬を買ってよく絡まれたもんだ。まあ残らず返り討ちにしてたよ、涼しい顔で」

 

 アインホルンさんが話す父親は正しく非の打ち所のない人だったそうだ。

 防衛大学でも成績トップを叩きだし、名前に恥じない好成績を取った。教官にも怖じけずくことなく発言し、そのせいで進級を危うくしたことがあったとか。

 

 実直で真っ直ぐな性格に、自然と彼を慕う人々が現れ始め、それは戦闘機に乗った後も変わらなかった。

 

 そう語る彼はさっきより砕けた口調で話し、父のことも呼び捨てで言った。

 2人がどれだけ仲が良かったのかが、彼を見てわかった。

 

「軍に入ったあとも父と?」

「そうだよ。ベルカの空軍マニュアルは知ってるか? ベルカは訓練生に本物の空を教える為に各地のベルカ所有駐屯地にひよっ子を送り出して。本当の戦場を体感させるんだ。勿論それで命を落とす奴もいるが、それを切り抜ければ選りすぐりのベルカ空軍が出来るってわけだ」

「ベルカは量より質で勝ってたからな。くやしいが、あの時は一筋縄ではいかない戦場ばっかだった」

「あんたもベルカ戦争に?」

「ああ、おたくのフリューゲル隊にこっぴどくやられたこともあったよ。味方もやられたことがあった」

「クラウン」

「もう恨んではいないさ。そんな時期は、もう過ぎた。ああ、そうさ」

 

 恨んではいない。その言葉の真意を読み取ることは出来なかった。

 戦争でいつ誰が死ぬかわからない。どの敵に落とされるのもわからない。

 

 少なくともわかることは。クラウンは仲間を落とした部隊の隊長の息子の為に。仇敵の祖国まで一緒に来てくれたということだ。

 

「すまんな、話を戻してくれ」

「ああ。そこでも俺とアレクセイは一緒だった。腐れ縁なんてちゃちなんもんじゃない、もはや因縁ってぐらい俺と奴は一緒に飛んだ。その戦場で、奴は初出撃にも関わらず活躍した。俺も負けじと敵を落とそうと努力したが、恐怖が邪魔をして生き延びることしか出来なかった」

 

 行く先々で敵を落としていった。正規兵よりも落としたこともあった。

 型にはまらない自由な操縦。

 決して臆すことのないプライド。

 そして純粋な力。

 

 新兵であるにも関わらず、アレクセイ・フォン・フリューゲルは戦果を挙げ続けた。

 

「色んな戦場を駆け抜けて、いつの間にかあいつを隊長としたフリューゲル隊が出来て、俺は2番機に組み込まれた。そして目の前で見せつけられ続けた。そして認めざるを得なかった。こいつは本物のエースパイロットだ、こいつがいればベルカは負けることはないだろうってな」

「本当に凄い人だったんですね、父は」

「ああ。俺とは雲泥の差って言ってもいい。だけどあいつは欲がなくてなぁ。時々命令無視して司令官の反感を食らったこともあった。といっても戦果を上げてきたから司令官も苦い顔してなぁ。アレクセイにとって出世なんかより、祖国を守る戦いに重荷を置いていた。そして、空を飛ぶことをなによりも重要視していた」

 

 空を飛ぶことを第一に優先していた。

 それって………

 

「父は。空に心を奪われていたのですか?」

「おっ? 良いことを言う。あいつは何よりも飛ぶことを喜んでいてな。一時期では空と戦闘機が恋人なんて言われてた」

「教えてくださいアインホルンさん。空に捕らわれるとは………戦闘機から見た空って、なんなんですか?」

 

 マルセラさんの恋人も、自分の父も。空に心を奪われた。

 それほどの魅力を持つ物が空にある。

 

 今回ベルカに来た目的は、父のことと同時に。

 その感覚がなんなのかを知りたかったからだ。

 一騎当千の活躍をした父の僚機だった彼なら、もしかしたら………

 

「そうだなぁ………………………悪い、俺にはわからない」

「そう、ですか」

 

 ガクッと肩が落ちた。

 期待していた分、落差も大きかった。

 

「ああ、でも」

「なんです?」

「多分だけどな。空に心を奪われるというのは、その本人にしか説明が出来ないのかもな。いや、説明とかそんなもんじゃないな。感覚、情景、素質。そんなスピリチュアルなものなんだろう」

「それを、父は見た」

「ああ。でも君の父さんは心を奪われたとは表現しなかったな」

「父はなんと?」

「空と一つに繋がる。アレクセイはそう言っていつも空を見上げていたよ」

 

 空と、一つに繋がる………

 

 その言葉が何故かジンッと胸の奥からじんわりと広がった。

 

「ありがとうございます」

「答えは得たか?」

「いえ。答えは、自分で探しに行きます。あの大空に」

 

 そこに答えがあるのなら………

 

 

 

 

 

 

 その後は昼御飯を食べながら談笑に費やした。

 父の話や母の話。クラウンを交えたベルカ戦争の数々。そして核に消えたフリューゲルの領地のこと。

 環太平洋戦争で暴走した、ベルカの強硬派についても。その人たちは、『灰色の男たち』と呼ばれていたことも。

 

 そして気づけば空は紫に染まりつつあった。日帰りの便で帰らなければならない。最終便を逃せば、ベルカで一泊しなければならない。

 

「今日はありがとうございました」

「こちらこそ。君と話せて本当に嬉しかった。墓参りに行くときの土産話が出来た。ミスタークラウンもありがとう。オーシアの軍人と腹を割って話せて良かったよ」

「ええ。改めてベルカには悪人しかいないという偏見を払拭出来た気がします」

 

 固く握手を交わす2人に頬を緩ませながら。俺たちは店を出ようとした

 

「最後に一つ良いだろうか」

「はい?」

「君は、一度だってベルカに戻ろうと考えたことはなかったのか? ベルカの空軍に入ろうとは」

「何故そんなことを?」

「オーシア軍は、ベルカに対して懐疑的だ。はっきり言って茨の道。ベルカ空軍に入れば君はなんのしがらみもなく空を飛ぶことだって出来る。フリューゲルとしてではなく。リヒトくんそのものとして」

「………」

 

 彼の言う通り。オーシアではなくベルカなら、差別を気にせずに空軍に入れることだろう。

 普通に考えて、戦闘機乗りになるだけならベルカを選んだ方が遥かにマシだ。

 アインホルンさんも、心からの善心で心配してくれているのがわかる。

 それでも。

 

「すいません。先ほど話した通り。俺はベルカに対して、愛国心も。戻りたいという帰属心もないんです。ベルカが嫌いって訳ではないです。だけど俺はオーシア空軍に入りたいと思います。ベルカだからって理由でそこから逃げては。自分は勇敢な父に顔向け出来ません。それに、オーシアなら、恩人が住むオーシア大陸を守るために飛べる。無論、この国も含めて」

「そうか。野暮なことを聞いてすまないな」

「いえ、期待に添えず申し訳ありません」

「いいさいいさ。そう答えるって何処かでわかっていたからな。アレクセイも、君がそう言うとわかっていたんじゃないかな?」

 

 ニカッと笑うその姿は、何処か若々しさを感じた。

 彼の心の中には、間違いなく父の姿と心が受け継がれている。そう感じたのだ。

 

「あ、そうだ。最後に一つ。聞き忘れていたことがあります」

「なんだい?」

「父の。アレクセイ・フォン・フリューゲルのTACネームって、なんだったのですか?」

「ああそのことか」

 

 

 

 

 

「あいつのTACネームはAbzug(アプツーク)。ベルカ語で、引き金。って意味さ」

 

 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 空は快晴。雲一つない澄み渡るようなスカイブルー。

 風は夏の暑さを忘れ去れるように爽やか。

 そして風に乗る潮の香り。

 だだっ広い滑走路と戦闘機を納めたハンガー。

 

 そのど真ん中で、俺は空に手を伸ばしていた。

 大海原とも例えられるその場所。

 国境線の遥か上にある。何者にも縛られないフロンティア。

 

 その大いなる天空を自由自在に飛べるのは。

 世界広しと言えど。戦闘機を駆るパイロットのみだろう。

 

「おーいトリガー!」

 

 空に手をかざしていた黒髪の青年が声のした方向に目を向けた。

 

「どうしたーブレッド」

「どうしたー、じゃねーよ! もう集合時間間近!」

「やば。もうそんな時間か」

 

 小走りでブレッドと呼ばれた金髪の男性の元に走っていく。

 彼の側につくと同時にデカいため息を吐かれた。

 

「まぁた空みてたのかよ」

「だってこんな気持ちいい空よ。ずるいでしょあんな空、誰だって目を奪われる」

「お前だけだよそれは。委員長カンカンだぞ」

「うわー………頑張れブレッド」

「お前が頑張れ空馬鹿!」

 

 

 

 ここはオーシア北端の島。ウェザール島。その航空基地。

 

 時は2018年の夏。

 リヒト・パーマー、24歳。

 TACネームはTrigger(トリガー)。オーシア語で引き金の意味。

 

 ついこの間。ウィングマークを取得し。これから本物の戦場を飛ぶ戦闘機による訓練が始まる………。

 

 まだ、空の本当の姿を見れないままでいる。

 

 

 

 

 





 過去編。終了………と思いきやもう少し続くんです。

 自分でも思います。焦らしすぎだと。

 次回からは訓練生編。トップガンを見返しながら頑張ろうと思います。マーヴェリック早くみたいです。
 出来れば2話で終らせたい(フラグ)

 ………フラグじゃないぞぉ(震)
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