エースコンバット7 FLIGHT REZON 作:ブレイブ(オルコッ党所属)
「遅いわよトリガー!」
「いやすまんブラウニー。5分前だからセーフということには」
「10分前が基本! それにブレッドが行かなかったら確実に遅刻だったでしょ!」
「そこは大丈夫。脚力には自身があるしアラームもセットしてたから」
「初ブリーフィングで滑り込みセーフなんて目も当てられないって言ってるの!」
「すいません!」
開幕雷を叩き起こした若い女性、TACネーム、ブラウニー。本名ジェシカ・ウィンターズ。
成績優秀の才女で他人にも自分にも厳しいことからついたあだ名が委員長。
小さい頃から憧れたパイロットがいるということでオーシア空軍を目指すために日々努力している。
「まあまあブラウニー。そう怒らないで。眉間の皺が凄いことになってるよ?」
なだめにかかったのはコーギーという女性空軍候補生。
小柄な見た目とは裏腹の図太い根性とタフネスを持ち、小さな巨人と言われたこともある。
そんなTACネームの通り子犬のような外見の女性は自分とは対照的なブラウニーに怯えることなく割って入った。
「快晴の時のトリガーはいつもこうだし。それでもトリガーは遅刻なんて一回もしたことないでしょ?」
「あのねコーギー。私たちはオーシア空軍の卵。この国を守る使命を背負ってるのよ? なのにこんなルーズなのが訓練校の………訓練校の………訓練校、のトップなんて」
認めたくないオーラがだだ漏れで拳を握るブラウニーに思わず苦笑してしまう。
そんな彼女にフォローを入れたのは意外にもブレッドだった。
「っていってもそれは飛行技能の話だろブラウニー、しかも僅差。それに筆記はブラウニーが圧倒的に勝ってるし」
「だとしても。トップならトップらしくキチンとしないと駄目。そう言う貴方はもっと勉強したらどうなのかしら?」
「すまんトリガー。ブレッド、離脱する」
勝手に出て勝手に離脱したこのお喋りな男。TACネーム、ブレッドの名前は実家がパン屋だかららしい。
幼い頃見たあのOBCの特集ドキュメンタリーで円卓の鬼神に惚れて軍に入隊したという。
最初は彼と同じ傭兵になろうとしたらしいが親に猛反対されてここにいる。
「あのさ、ブラウニー」
「なに?」
「俺が言うのは筋違いだけど。もう入らないとヤバくない?」
「はっ! 貴方たち、早く入るわよ!」
「ウィルコ」
「ラジャー」
「了解」
俺たち四人は他のところから来たであろう候補生がいる教室に入った。
ジロッと向けられる視線に構うことなく空いている席に腰かけた。
「そういえば言ってなかったけどさトリガー。ここウェザール島訓練基地に来ることは訓練生にとっては栄誉らしいぞ?」
「その心は?」
「ここは各地の優秀な原石を集め、未来のトップエースを育てるためのエリート校なんだと! つまり俺たちは選び抜かれた有望株ってわけだよ」
なるほどそういう。
確かにブラウニーは言うまでもなく。ブレッドとコーギーも良い腕してる。
この場合俺も当てはまる。否、ここにいる全員が好成績を残したということか。
………ベルカ生まれでも成績が良ければこんなとこに来れるんだな。
「諸君、おはよう」
沈みかけた意識になんとも耳に残るダミ声が響いた。気づくと軍服を着た渋めの男性が入っていた。階級章を見るに中佐だろう。
中佐は教室を軽く見回したあと、軽く咳払いをする。
「みんな揃っているな? ンンッ、ハンス・ガーデルマン中佐だ。今日から君たちの教官を勤める。宜しく頼む」
ハンス・ガーデルマン。
その名前が出た途端教室のいくつかでざわめきが起こった。そのざわめきの発信源は俺の隣。ご存知ブレッドからも発せられた。
「うっそマジか!」
「あの人誰?」
「知らねえのか! あのハンス・ガーデルマンを!? 不死身のベイルアウターだよ! 被弾撃墜数は多いけど。その度にケロッとした顔で戦線復帰してくる不死身の男、コールサインはオメガ11! あのメビウス中隊の8番機だったとされる時の人だぜ!? うわー、感激だぁ!」
メビウス中隊。あのメビウス中隊の一員か!?
ミスターベイルアウターというのはなんか凄い作為的な名前だが。そんな凄い人が俺たちの教官だって?
てかお前そんなでかい声で言ったら。
「あー君、あまりそういうのは大声で言わないで欲しい。恥ずかしい思い出だからな」
「いぃ!? 聞こえてた、ましたか!?」
「ああ、とても元気な声でね」
「し、失礼しましたぁ!!」
「いや、あの時は自分も新人だったし、今はもうベイルアウトはしないさ。君たちはベイルアウトをする事態にはならないでおくれよ?」
ブレッドのドジとガーデルマン中佐のジョークに教室内はクスクス笑いの渦になった。
二つ隣でブラウニーが頭を抱えていた。御愁傷様である。
「さて、君たちは栄えあるオーシア空軍の軍人としてこのウェザール島基地に来てくれた。オーシアが過去に大きな失敗を二度も犯してしまったのにも関わらず、オーシア軍人としての道を選んでくれたことに心から感謝する」
大きな失敗。
ベルカ戦争による戦争誘導と。環太平洋戦争でベルカ強硬派に踊らされたことだろう。
どちらも前線の兵士ではなく。後方で高みの見物を決め込んでいる戦争を知らない政府高官による横暴が招いた不祥事だ。
環太平洋戦争で灰色の男と組んだ政治将校は軒並み粛清されたということらしいが。
それでもまだ根深い者が残っているのでは? そうではないことを祈るばかりだが。
「諸君は無事にウィングマークを獲得し。戦場を飛ぶ航空機に乗ることになる。君たちにはF-16C、又はF/A-18Fに乗って貰うこととなる。訓練では二機でエレメントを組んだツーマンセルの連携訓練を行う。エレメントの希望があるのであれば、事前に伝えるように」
エレメント。
ペアによる編隊を組んで飛べということか。
「これまで乗った訓練機とは段違いの飛行能力を有した本物の戦闘機だ。身体にかかる負荷も今までの比ではない。だがそれに耐えれなければ、オーシアの空を守ることは夢のまた夢」
「………………」
「ここに居るものは卒業後仲間となる者たちだが、今は切磋琢磨するライバルだ。君たちの中に未来のトップエースとなれる者がいるかもしれない。心半ばに空に散るもの、地面に激突して骸となる者といるかもしれない。君たちには空で生き残る術を細胞の一つ一つにまで叩き込んで貰う。各員、心して挑むように!!」
「「はい!!」」
ーーー◇ーーー
「トリガー、エレメント組もうぜ」
「いいよ。俺からも言おうと思ってた」
「そっか! ブラウニーはコーギーと組むってよ」
「順当だな」
丁度俺たちは四人。半々で丁度ツーペアなのだからこういう組み合わせになるのも必然というものだ。
「オメガ11も言ってたなぁ。これまでとは比べ物にならない機動だって。くーー、ここからブレッド様のエース神話が始まるんだぜ!」
「はしゃぎすぎでしょうそれは。エースパイロットなんてそれこそ一握りなんだから」
「それはそうだ。大口を叩くなら先ずトリガーやブラウニーに勝たねえとな。取り敢えず一皮むけた俺にこうご期待しとけよ僚機!」
それは心強い。
パイロットに必要なのは操縦技術と度胸、ようはハートの問題。
ブレッドの場合、ハートは問題なし。教官やブラウニーの長時間説教にもケロリとしてるのは彼の強い精神力故だろう。少しは応えて欲しいものでもあるが。
「さーて飯だ飯ー。基地の良さは飯で決めると言っても過言ではない。これマジな」
「そういうもんかねぇ」
「そうだぞ。飯が美味い。イコール物資が充実してるってことだ! 当然飯を作るおばちゃんの腕にもよるがそこは外れなどないさ、なんせ食堂のおばちゃんはプロだから!」
「テンション高っ」
時にブレッドとかいう男。人間の三大欲求に忠実な男でもある。
食べるの好き、寝るのも好き。女の子と宜しくするのも好きという男である。
一番最後に置いてはアレだが。未だにトラブルらしいトラブルがないのは彼の人徳や人の良さ故だろう。
たまに俺をチェリーボーイ呼ばわりするのは頂けないが。
「ちょっといいだろうか?」
「なんだ?」
「君ではない、彼に用があるんだ」
「俺?」
「そう、君だ。悪いがそこの、少し席を外してほしい。彼と二人で話したいんだ」
突然話しかけてきたこの金髪碧眼の青年はブレッドを顎で追いやろうとした。
なんというか。俺とブレッドに対する温度差がこの数秒でわかる。
そのブレッドは鳩が豆鉄砲を喰らったようにキョトンとした顔で俺と彼を交互に見やる。
どうする? と言うブレッドに先に行くように促し、俺は目の前の青年の話に応じた。
「俺になにか用でしょうか」
「明日の訓練飛行で、僕とエレメントを組みたまえ。今回集まった中で一番君に相応しいのは僕だからね。君もそう思うだろう?」
「………あの」
「なんだい?」
「失礼ですが。あなたはどちら様でしょうか?」
「なっ。ぼ、僕を知らない? このミハエル・シュールズベリーを知らないと言うのか? オーシア・ウェスト防衛大学を主席で突破した僕を?」
「俺。オーレッド国際防衛大学なので」
凄い自信満々なところに水をさしちゃうけど。俺本当に目の前の美青年のこと知らない。
てか学校違うのに知るわけないじゃないか、なんだこいつ………なんて言うのは駄目だから。
「俺、人の名前を覚えるの苦手で。今回来たハンス・ガーデルマンがオメガ11だということも知らないという体たらくですし」
「ま、まあ良いだろう。それで、僕と組んでくれるかね」
「あー、すいません。俺もう決めちゃったので。さっき一緒に居た奴です」
「さっきのか? 彼は名家の生まれなのかな? それとも戦争で活躍したエースパイロットの家系だったり」
「いえ親は普通のパン屋だそうですが」
「なら君は僕と組むべきだろう? 選ばれし血統には同じく選ばれし血筋を持つものが相応しいのは当然摂理だ。そうだろう? リヒト・フォン・フリューゲル」
「っ!」
なんでここでフリューゲルが出てくるんだよ。
高校のあの日。この頬の傷を受けた日からフリューゲルと名乗ることはなかったのに………
「なんのことでしょう。俺の名前はリヒト・パーマーですよ?」
「とぼけなくてもいい。君のことはちゃんと調べてある。僕の父は軍上層部に所属していてね。君の成績についても勿論承知の上だ」
なんかさも当たり前のように言ってるけど、人のプライバシーをなんだと思ってるんだこの人。
俺の中で、段々と目の前のミハエルという男に対しての嫌悪感が燻り始めていた。
「これは栄誉なことだよ。この由緒正しき僕にエレメントを誘われるのだからね。あんな何処ぞの馬の骨に君の才能を不意にさせられるのは同じ名家としては放っておけないのだよ」
「馬の骨、ですか」
「そうだ。吐いて捨てるほどいる平民とは違って我々は選ばれた人種なのだから」
「………………」
「どうかな? 悪い提案ではないと思う。僕と組みたまえフリューゲル。共に栄光の空を飛ぼうではないか」
「お断りします」
差し出された手に見向きもせずに俺は即答した。
俺のことは良いが、ブレッドのことそう悪く言われて黙っていられる程大人しくはない。
ミハエルは今度こそ信じられないとばかりに余裕たっぷりの表情を崩した。
「な、何故断る。理解できない」
「俺は別に家柄なんてどうでもいいんです」
「僕よりあんな奴を取るのか!? 君は自分の血筋をなんだと!」
「確かに俺にはフリューゲルの血が流れている。国のために飛んだ父のことも尊敬している、彼みたいになりたいとも思う」
「ならっ!」
「だけどそれとこれとは話は別だろう。ブレッドは俺の掛け替えのない友人だ。そんな友達をけなす奴と、俺は一緒に飛びたくはない」
ましてや。祖国の為に立派に飛び続けたフリューゲルを目の前の男と同じと言われるのは。父さんや父さんについていった2番機のエリアスさんを貶されるみたいで嫌だった
冷たく言い放った俺とは対照的にミハエルの端正な顔が真っ赤に染まった。
余裕などもはや何処にもなく。何かを言おうとモゴモゴと口を動かした。
「どうやら君は貴族の誇りを捨てたようだな」
「あんたみたいな選民思想は持ち合わせていないだけだ」
「チッ! この選択を後悔しても遅いぞ! リヒト・パーマー!! 明日お前が吠え面をかくところを楽しみにさせてもらう!」
耳障りな声で吐き捨てたミハエルは踵を返してズンズンと足音をならしながら立ち去っていった。
こっちの台詞だ。化石野郎。
ーーー◇ーーー
「はあ………」
「でけぇタメ息だなぁトリガー」
「あぁ、ちょっとね。ところでミハエル・シュールズベリーって奴知ってる?」
「ああ、どっかで聞いたような。聞かなかったような………そいつがどうかした?」
「いや、いいんだ」
グラスを掴もうとしたら部屋の中を乱反射するミラーボールの光が目に入って目を瞬かせる。
「しかしなんで俺たちこんなところにいるんだろうな?」
「歓迎パーティーだろ。楽しもうぜトリガー」
「騒がしいところはあんまりなぁ。帰っていいかな」
「駄目だろ」
歓迎パーティー会場に選ばれたバーはバー・トレーロなんかとは雲泥の差という程派手だった。
パイロット候補は酒を飲み、店に来た若い姉ちゃんたちを口説いたり談笑したりとお祭り騒ぎだ。
歓迎パーティーとは名ばかりだなこれは。
そんな中俺は酒も飲まずにソフトドリンクを飲みながらお茶を濁していた。
「訓練校の歓迎パーティーがバーかぁ。一昔前にそんな映画あったよな?」
「1986年の?」
「1986年の」
「トムキャットが大活躍の?」
「それそれ」
一昔前の実話を元にした。エースを更なるトップエースにする為の養成訓練校が舞台の代物らしい。
トムキャットが最新鋭っていつの時代なんだろうなぁ。
「しかしザッと見た感じ粒ぞろいだなぁ」
「女の?」
「勿論! なあ賭けをしないか。今日このバーでお目当ての女を物にした方が勝ちだ」
「まんま映画そのままじゃないか。パスパス、俺はパス」
「なんだよ連れねえなぁ、男ならチェリーの一つや二つぶん投げてみろって」
「俺はお前ほど器用に生きれないの」
学生の頃から空に上がるための勉強をしてきたけど。女の扱いなんてどの参考書にも乗っていないんだよ。
一回同級生の女性と付き合ったことはあるけど。付き合って数日でベルカ出身だとバレてフラれたんだ。
………許すまじ。灰色の男たち。
「まあ粒ぞろいなのは女だけじゃない。パイロット連中もそうだな」
「お前男色の気あったの? ………ごめん用事思い出した」
「ちっっげぇよっ! 距離取んな! パイロットの腕が優秀な奴が盛り沢山だって話だよ」
そういうことか。
あー、びっくりしたぁ。マジで縁を切るところだったわ。
「お前ほんと他人に無頓着だな? オメガ11の時も無反応だったし。少しは情報を頭にいれとけよ」
「五月蝿いよ情報屋気取り。んで? 情報屋さんから見て誰が手強い?」
「んー、例えば………あっ、あそこだあそこ。バーカウンターで洒落こんでる二人」
指を指した方に意識を向けると。短髪の男とサングラスをかけている男の二人組がカクテルを片手に談笑していた。
「サングラスをかけてるのがボグガードでもう一人がフットパッド。二人のコンビネーションは絶妙って噂。訓練機で教官相手に速攻で撃墜判定取ったとか。二人は今回の生徒の中でベスト3に入るであろう期待度だとよ」
「もう一人は?」
「そりゃ断トツでブラウニーだよ。ブラウニーは優等生なだけあって上官からの好感度も爆上がり。堂々の1位だ」
「俺は?」
うーん、と考える仕草をするブレッド。考える、考える………いや長いな。
「いや別にいいよ気を使わなくて。自分の立ち位置を知りたいだけだから」
「そうか、じゃあオブラート無しで行くぞ。ぶっちゃけ期待値低い」
「飛行技能は良いってお前も言ってたじゃないか。筆記だってそれなりに出来てるし」
「筆記は文句ねえよ。でもよ、やっぱ飛び方だよなぁ」
「それかなぁやっぱり」
もしかして要注意人物としてブラックリストに乗せられたりしてねえよな? いろんな意味で。
「まあまあ。俺たちは最短でこの基地に来れたんだ。あとは実力勝負実力勝負!」
「その通り。最後に物を言うのは実力だ」
見慣れない声。振り向くとカウンターに居たと思っていたサングラスの男ボグガードと短髪の男フットパッドがいた。
「お前がトリガーか? 噂の『大馬鹿野郎』というのは?」
「凄く認めたくないけど多分間違ってないよ」
「マジでか。教官を卒倒させまくった?」
「ああ、忘れもしない。あれはある訓練の日。教官に後ろにつかれた瞬間、訓練機でバレルロールからのループという暴挙に出て教官が揃って白目を向いた日のことだった………」
「勝手にナレーションつけるな馬鹿」
「事実だろ?」
ブレッドの絶妙な切り返しに言葉に詰まった俺はごまかすようにドリンクを流し込んだ。
………最初は行儀よく教本通りに飛んでいた。
別にその飛び方に難があるという訳でもない。むしろ上手く飛べていた。
が、何かが違う。
そう思ったのだ。
空を自由に飛んでいるはずなのに、正しい飛び方をしているはずなのに、鎖に繋がれたような感覚。
身近な例だと靴の中の靴下がたごまってるような。歯に物が挟まってるような。耳に水が入って取れないような。
そんな些細な違和感を感じていた。
なんなのだろうかとある日アンソニーに相談したところ。
「心のままに飛べばいい」
言われた時は何がなんだか分からなかった。
訓練機での戦闘訓練のことだ。
6機でのバトルロイヤルルール。最後まで残ったものが勝利というルール。
そこで当時の教官が言ったのだ。
「死なない程度なら好きに飛んで構わない。だが
と。
好きに飛んでいい。そう後押しされた時、気づいたら操縦桿を思いっきり倒していた。
そこからは阿鼻叫喚。
枷から解き放たれた俺のとんでもない機動を前に他の訓練生は慌てに慌て。次々と落とされた。
いくら降りきろうとしても磁石のように後ろをピタリと飛んだり。
後ろを取ったと思ったらいつの間にか真下から機関銃判定を食らってたり。
本当に中に人が乗ってるのか? あれは本当に訓練機の動きなのか? と言うようなとんでも飛行を連発したのだ。
結果、俺の圧勝。
教官に怒られても、俺の中には今まで以上の満足感と解放感が満ち満ちていた。
それからも訓練機の限界ギリギリの機動で教官の冷や汗を誘った。
そんな飛び方を卒業までやった結果。同期の訓練生から畏怖を込めて。教官やブラウニーから叱責を、極一部の教官から称賛を込めてあるあだ名を授かった。
それが『大馬鹿野郎』。
侮蔑とも称賛とも取れる俺の渾名だ。
「それで? エリート様が俺たちになんの御用でありましょう?」
「偵察さ。オーシアのルーキーで噂になってる大馬鹿野郎がどんな面構えなのか見に来たのさ」
「ご足労どうも」
うわぁ。マジで1986年の映画の流れじゃんこれ。
俺訓練中に国籍不明のMiGなんか見つけてないんですけど。
平和な証拠かね? 訓練中にエメリアとエストバキアはドンパチしてたけど。
手にもった瓶ビールを喉に流し込んで軽くゲップしたフットパッドがマジマジと俺の顔を見てることに気づいた。
「なにか?」
「いや。遠目から見るよりもベイビーフェイスだなってな。とても狼には見えない。良くて犬だ。傷ありだから猟犬って読んでやろうかトリガー?」
「やめてくれ。それに相応しいのは円卓の鬼神とPJ、そして片羽の妖精だけだ。せめてただの犬にしてくれ」
「それは失礼した。憧れてるのか?」
「悪いか?」
「いや。結末はどうあれ。俺もあの人たちの生き様は嫌いじゃない」
そう答えたのはフットパッドではなくボグガードだった。
そんな彼を見て俺たちは少し目を丸くする
「意外だな、エリート様は傭兵を毛嫌いしてるも思っていたが」
「嫌いさ。だが信念を持つ傭兵なら話は別だ。腐った政治家や無能な上官に比べたら遥かに役に立つ。そのままテロリストにならなければ、の話だが」
「………そうだな」
言わずもがな、十中八九ラリーのことを言ってるのが見え見えだった。
わかっていても。仕方ないと言えど、やはりラリーを悪く言われるとあまり気分の良いものではないな………
ん? あれは。
「お嬢さん。相席宜しいか?」
「あの、ほっといてくれます?」
「そうは行かない。君のような戦場に咲く一輪の華を素通り出来るほど私は子供ではないのでね」
ブラウニーと………誰だ? あのハリウッドスターばりのイケメンは。
貴族馬鹿ではないのは確かだが。
「良ければ何処か二人で飲み直さないかい? ここより上品な店を知っているんだが」
「一人で飲みたいので結構」
「だけど君はここから抜け出したそうな顔をしているように見えるけど?」
「はぁ………」
なんか、絡まれてる?
てかわかりやすいぐらい不機嫌だなブラウニー。
相手の男もよりにもよって堅物ブラウニーを選ぶとは。
「どうしたトリガー?」
「なあ、ブラウニーに絡んでる男って誰?」
「ん? あの金髪のナイスガイか? 知らねえ」
「ブラウニーってあのキツそうな女の子かあの娘に絡んでるのは。あー、グリッターか」
「グリッター?」
「自称、輝ける未来のトップエース。大企業の息子でコネで入隊したんじゃないか? って噂だ。とにかく、癖が強い」
成る程。それはまた変なのに絡まれたもんだなブラウニー。
もしかしたら昼間のミハエルと同じ人種なのでは? そう思ったら重い尻が椅子から離れた。
「しゃーない。行ってくる」
「おっ、やるじゃん。トリガー、エンゲージ!」
「五月蝿い賑やかし。悪いな二人とも。また訓練で」
「いや構わない」
「空で会おうぜトリガー」
返事代わりに手を振り。口説かれているブラウニーの元へ。
「トリガー?」
「なんだい君は」
「すまないけど。友達に用があるんだ。行くよブラウニー」
「あっ」
「えっ、ちょっと」
呆気に取られるグリッターをよそにそのままブラウニーを店の外に連れ出した。
「あ、ありがとうトリガー。でも一人でもなんとかなったわよ。ああいう手合いは慣れてるし」
「いやー。フットパッドに聞いた話だと結構癖があるやつ見たいでさ」
「確かにキザな男だったわ。私のこと戦場に咲く一輪の華なんて言ったのよ。くすぐったかったわ」
「まあ今期の数少ない女性パイロット候補だからな。そいやコーギー見えなかったけど。一緒じゃないの?」
「コーギーなら不参加、今頃部屋でドーナツでも食べてるわよ」
今回は自由参加だからそこんとこは大丈夫だが。
俺もトンズラすれば良かったなぁ。
「私もこういうのはちょっとね。でも歓迎会だから出ない訳にもいかないし」
「真面目だなぁブラウニーは」
「トリガーはこういうのには出ないタイプだと思ってた」
「ブレッドに無理やり連行されたんだ。今日の遅刻回避の借りを返せってさ。でもここハニーミルクないから適当なもん飲んでたわ」
「あなた好きよね、ハニーミルク。小さい頃飲んで好きになったんだっけ」
「一番最初に飲んだ一杯の味は今でも忘れられない」
あー、サピン行きたい。そこでハニーミルク飲みたい。だけどここウェザール基地はオーレッドとは正反対の最北端。ベルカの方が近いって始末だ
「そういえばさっきフットパッドの名前が出てたけど」
「ああ、ボグガードって奴と一緒に挨拶された。俺が噂の大馬鹿野郎なのか? ってさ」
「あんたのあだ名が他の訓練校にまで広まってるなんて」
「やっぱり飛び方直した方がいいかな?」
「直せるの?」
「無理」
無理である。
慣れてる、といったらアレだが。今さら飛び方など戻せるはずもなく。
ラリーも言ってたな。サイファーの機動は僚機を殺しにきてるって。
「あんたの機動についていくの大変なのよ」
「面目無い」
「まあその型にはまらない飛び方があんたの最大の強みだから。そこまで無下に出来ないのも事実なのよね。悔しいけど、私は逆立ちしたって出来ないわ」
「俺の場合技術より感覚で飛んでる節があるからさ。でも俺はブラウニーの綺麗な飛び方は好きだよ」
「そう言ってくれると嬉しいわ。ありがとうトリガー」
「どういたしまして」
明日はいよいよ戦闘機動だ。
操縦適性にあったF-16CかF/A-18Fを選んで飛ぶ。
ブラウニーはF/A-18F。俺とブレッド、コーギーはF-16Cに乗って訓練をする。
因みにF/A-18F。複座なのにも関わらず一人でも問題なく乗れるように調整されたそうな。
度重なる戦争でパイロットが不足してるから今の複座機は大抵そうなんだと。技術力の進歩だよなぁ。
最近ではノースオーシア・グランダー・インダストリーが人が乗らない無人戦闘機の開発をしてるとかなんとか。
「ブレッドじゃないけど。ここの訓練飛行は他所とは比べ物にならない難易度って噂だわ。お互いの空戦機動がどれほど通用するか………」
「明日飛んでみたらわかるよ」
「そうね。いま考えても仕方ないか」
「そういうことだ………ん?」
ブレッドからメールが。
「なんて?」
「『よおトリガー。何時まで外に居るんだ? もしかしてブラウニーとランデブーしちまったのか?』だってさ」
「あいつシバいてやろうかしら」
「まあまあ」
「取り敢えず戻りましょ。締め上げるのは別としてね」
「了解ブラウニー」
明日に響いたら行けないからお酒は飲まないにしても、取り敢えずその場の雰囲気に飲まれて楽しんでしまおう。
俺は胸の高鳴りを隠すことなく明日の空に思いを馳せるのだった。