響くブレーキ音の後に、ゴンッと衝突音が鈍く鳴る。その光景は、まぎれもなく交通事故だった。
トラックが不注意で横断歩道を渡る人をはねてしまったらしい。
パニック状態だった運転手は轢いた者をあとにしてそこから走り去っていった。
明らかな轢き逃げだ。
しかし、その周りに人気は全くなく、トラックが逃げた後、少女と轢かれた者だけがその空間に取り残されていた。
死んだような静けさに、少女はなんのリアクションもなく再び帰路に歩み始めた。
「ん?」
鼻孔がくすぐられ、少女は足を止める。
クンクンと空中から漂うある臭いを嗅ぎ分けて、交通事故により冷たいアスファルトの上に倒れている者のもとへ向かう。
暗闇なうえ遠くからで判断がつかなかったが、近くで見るとそれが男だとわかった。いや、顔つきや若い恰好から青年というべきだろうか。
トラックに衝突した衝撃で青年の腕は曲がらない方向へ折れており、口からは大量の血が流れている。ソレだ。
血の匂い。それが少女の気を向かせた。
「ふーん、稀血ねぇ」
少女はそう口ずさみながら、真っ赤な舌で唇を湿らす。
稀血とは、名前の通り稀に見られる血中成分が黄金比の血液のことで、十万人に一人の確率で生まれる。稀血は少女らにとっては極上の味である。
死体の血は鮮度が落ちる、だが死にたてならばそれほど劣化していないだろう。
先ほど男二名を食した少女だったが、すぐさま食欲が湧き地面に横たわる青年の首元に、顔を、唇を、その牙を近づけ、気づく。
「うっ……」
その声が聞こえた刹那、少女は咄嗟に青年から距離をとった。
不覚だ。
稀血に夢中になりすぎてそのことに気づかなかった。まさかまだ生きていたなんて。
あの交通事故でまだ生きているのも、やはり稀血のおかげだろうか、それともまた別の何かの影響か。
「ふふっ、まだ生きているとは不幸な奴め。苦しみながら死ぬがいい。」
死。それは少女にとってほど遠い概念。だからこそ、憧れや憎しみを抱く。
後はこの青年が命の限界を待って、大人しく息を引き取った後にいただくとしよう。いや、それとも今無理矢理にでも襲うべきか。
少女は瀕死の青年を気にも留めずに、稀血をいただくことだけを考えていた。
その最中、青年は余力を振り絞ってそっぽを向く少女に向けて言葉を放った。
「……し、死にたく……ないッ……」
その発言に、残した言葉に、少女が感じたのは哀れみでも悲しみでもなく、それは純粋な怒りだった。
「ッ!はぁぁあッ!」
少女は歯を食いしばり、顔を真っ赤にして、静寂な街の中央で叫んだ。
「死にたくないだと!これだから人間は貧弱で、強欲で、身勝手で、無責任で、そして死ねることのありがたみを……」
少女は言葉を飲み込んだ。そのセリフは禁句だと自分自身で決めていたのに。
深呼吸をして息を整え、改めて瀕死の青年に視線を向ける。
そして、微小の憤慨が混ざった声で少女は言い放った。
「死にたくないなら、そうしてあげる」
瞳が黄金に輝き、その身体からは悍ましくも、妖艶なオーラが放出される。
少女は青年のもとに屈み、地面に垂れそうな髪を耳にかき上げ、ゆっくりと永劫なる時間をかけてその首に牙を立てた。
その後少女と青年は姿を消し、まるで何事もなかったかのように深夜の街には再び静寂が訪れた。
全然投稿できていませんでした。
でも、このように期間を開けつつ投稿していきたいと思っているので、気が向いたらぜひ読んで感想聞かせてください。
自分としてはもう少しわかりやすく書きたい。