今回も何卒宜しくお願い致します。
神社に向かって巫女と靈夢は歩いている。
「貴方はどうしてここに来たの?」
「…ここに行けば妖怪の倒し方がわかるだろうって…家族で話し合って…」
巫女は眉を少し上げた。
少し時間を置いてから話す。
「…そう。分かったわ」
「…?」
「貴方には私が知っている全てを話す必要がある。長くなるわ」
「…うん」
「貴方、お名前は?」
「れ、靈夢よ…」
「よろしく、靈夢」
二人は神社の中に入る。
拝殿の手前にある廊下から建物の奥の床の間へ移動した。
「…」
「ここが床の間よ。楽な姿勢でいいわ。お茶はいる?」
「そんなにいいのよ…。助けてもらったんだし」
「はいはい。遠慮しちゃって、いい子ね」
床の間の引き出しからお茶っ葉と急須を取り出すと水を汲む為に部屋を出る。
すぐに帰ってくると、急須を囲炉裏に置いた。
「お湯が沸くまでちょっと待ってね」
「はい…」
「そんなに固くしないで、楽な姿勢でいいわ」
「いやぁ…」
人の住居でガサツな態度も取れず、
靈夢は正座のまま座った。
(全然言葉が出てこない…。初めての場所で初めての人と会話する事ってあんまりないのよね)
「どう?神社の中に入ってみて」
巫女から話題を切り出す。
「…大きいなって思うわ。建物もだけど、村の近くにこんな荘厳な所があったのね」
「お褒めに預かり光栄です。まあ、ただの私の住居よ。拝殿と本殿以外は」
「そうなのね」
『…』
「…巫女ってどんなお仕事をしているの?」
「神様が過ごしやすい場所を提供する仕事よ。
西洋では、貴族の家を掃除したりする職業を"メイド"と言うらしいけど、
それと変わらないわね。私が神様の家をお掃除して住みやすくする。
…あら、そろそろね」
靈夢は不思議に思った。沸騰していないのに火を止めてお茶っ葉を入れ始めた。
少し時間を置いてから急須にお茶を淹れる。
しかし、一度捨てる。そして、もう一度急須にお茶を淹れる。
「お茶はね、熱すぎないのが美味しいのよ。熱湯はお茶の旨味を逃してしまう。
一気に口に入れたとしても舌が火傷するかしないか。そのくらい温くて良い。
そして、この2回目に淹れたお茶が美味しいのよ。さあ、どうぞ」
靈夢はお辞儀をして湯呑を受け取り、お茶をすする。
「…美味しい!」
すごい、全然エグみが感じられない。すっきりしている。ただ…
「靈夢、顔に出てるわよ。よほどお母さんが淹れるお茶が美味しいのね」
靈夢は顔を赤くしながら熱いお茶を飲み干し、ゆっくりする。
「じゃあ、本題に入りましょうか」
巫女の言葉で靈夢は話を聞く体勢を取り始めた。
「では…。私は、この神社、"博麗神社"を代々管理する家系に生まれた。
この豊かな土地の中にある村は、豊かゆえに人々は神を必要としなかった。
それは排除ではなく、"仲間"として神と共生していた。
ずっと、この平和が続くと思われた。その妖怪が現れるまでは。
その日を境に全てが崩れた。
妖怪はこの神社を乗っ取ろうとしたの。神を追い出して、自分の物にしようとした。
多分、あの妖怪は神にでもなろうとしたのかしら。神社を乗っ取られる前に神は私たちにこの神社と村を託した。
"やがて、1人の少女が村を救う"と。さっき貴方と会って、納得したわ」
巫女は靈夢をまっすぐ見つめる。
「靈夢、よく聞きなさい。これから、貴方は村を救う英雄となる」
「…!」
「その為には、貴方があの妖怪を倒さなければならない」
靈夢は"貴方が倒す"という言葉に反射してしまう。
「無理よ!大人がたくさん血を流して…倒れていて…そんなやつに…」
「…それでも、貴方なら勝てるかもしれない。私はその方法を知っている」
「!。あの怪物に勝てる方法なんてあるの!?」
「そのヒントを話すわ。さっきの話に戻るけれど、妖怪はやがて神社を乗っ取ったの。
それと同時期に、神社の神棚に白衣と緋袴、そしてお祓い棒が現れた。
恐らく、貴方がそれを着てお祓い棒によって妖怪を退治する事によって村に平和が戻るという神からの希望だと私は思う。
そして、貴方こそ…まあいいわこの話は」
「?」
「本殿に来て頂戴。お茶を飲んだ後でいいわ」
「え、分かったわ。ちょっと待ってて………ごちそうさま」
靈夢は巫女の後ろを着いていく。
靈夢は神社の本殿に案内された。神棚の下には確かに白衣に緋袴、そしてお祓い棒が置いてあった。
「ひとまず、その服を着てみなさい」
「はあ」
「…?」
「分かったから!あっち向いて!」
「あぁ、ごめんね」
巫女が外を向いている間に靈夢は巫女から見えないように柱に隠れて着替えた。
「え、意外とかわいいじゃない…!」
(私と来ている服と同じだけど…)
巫女は外を見ながら思う。
「大丈夫ー?」
「大丈夫よー」
「…大きさもぴったりね。かわいいじゃない」
「//そんなの言わなくていいわよ//」
緋袴の様に顔が赤くなる。
「神様が置いていかれたのだからそこは当然よ」
「…で、この姿であの妖怪を倒せって言うの?」
「その通りよ。その衣装とは別に私から渡したいものがあるわ」
「何?」
巫女は柔和な表情で靈夢を見る。
「それは、巫女としての力よ」
「それって、私が新しい巫女になるってこと?」
「そう。そして、それは必要な事よ」
靈夢の体の揺れから困惑している様子が見て分かる。
「き、急にそんな事言われても!お父さんとお母さんも住んでる家もあるし…」
「今すぐここに住めって話じゃないわよ。あくまでもあの妖怪を倒すには力を継承する必要がある。
…それも膨大な力を」
…引っ掛かる。
「膨大な力を授けて貴方は大丈夫なの?」
「分からない。下手したら死ぬかもしれないし、巫女としての力を失うだけで済むかもしれない。
でも、貴方しかあの村を救えない以上、私から力を提供するしかないわ」
「どうにかしなくて済む方法はないの?」
「…正直に言って、私が思うにこのままではあの妖怪に勝てないと思う。私でも。
貴方なら戦闘経験がないから尚更ね」
「…」
「だからこそ、私の力を与える事で勝てる可能性を少しでも上げたい。貴方には期待してるのよ?」
自信が少しなくなってきた気持ちを巫女にぶつける。
「…もう一度聞きたいけど、本当に私が選ばれた人?他に適している人がいるんじゃ…?」
「貴方じゃないとダメ。それだけは確実に言えるわ」
「どうしてわかるの?」
少し沈黙を置いて巫女が話し始めた。
「…恐らく、貴方が神社に向かっている時だと思う。神様から神託を受けたの。
"ここに向かっている"
神様はそれだけ告げてついに消えてしまった…。
今はなんとか神社を妖怪から守るだけで精一杯。
…正直、貴方がいなくなったらこれ以上の打開策なんて思いつかないわ」
「…そうなの」
「だから、貴方が巫女になってほしい」
靈夢は疲れた表情をしている。
「…ちょっと待って。しばらく考えさせて。情報が多すぎて整理が出来てないの。
…外に出てもいい?」
「ごめんなさいね、色々と喋っちゃって。無理に引き受ける必要はないわ。
まずは自分の気持ちに従ってちょうだい」
「分かったわ」
靈夢は外にでた。
…………
恐怖と、小さな迷い。
中庭を歩く。神社周囲がほとんど木に囲まれている為、景色は木と青空だけだった。
鳥居から階段を見ても、先ほどの農民の死体だけが転がっており、父親が来ているような形跡はなかった。
「お父さん――――」
少し呼吸が苦しくなる。泣きそうな顔に力を加える。すぅーはぁー。
階段から顔を上げ、周りを見渡すと、池があることに気付く。…亀さんは池で気持ちよさそうに…、呑気なものね。
池から麓を見下ろすと全てが見える。
左側に村があり、村へ続く山から流れる川。その山の麓に小さく家が建っているのが見える。
「あそこからここまで来たんだ…」
長旅の形跡を噛み締める。
「…私が住んでいる所ってこんなに広かったのね…」
この地域全ての運命が私に掛かっている。巫女さんはそう言った。その言葉が本当かどうかは分からない。
……でも、…でも。
変えなきゃ。変えようとしなきゃ。
全てが上手く行くかもわからない。巫女さんも死ぬかもしれないし、私も妖怪に負けて死ぬかもしれない。
でもここでやらなきゃ何も変わらない。変わるしかない。
………
「私は、変わる。今日から変わる」
…ふぅ。
つっかえもなくなり、すっきりした靈夢は神社へと戻った。
………
「ただいま」
靈夢は巫女に向かってまっすぐ歩いて、近くで正座をした。
「…おかえりなさい。顔つきが変わったわね。貴方が言いたい事は分かっている。でも、その気持ちは貴方が自分で話してほしい。お願い」
「ありがとう、巫女様。貴方の神社を見て、貴方の技を見て、何なのよって思った。
たくさんの人があんな簡単に死んでいくところを見て、私と変わらないのにって…思って。
村を救うなんて言っても村の人は誰も救ってほしいなんて言ってないし。それこそ、今を望んでいる」
「…」
「でも、それでも現状を変えようと思っている人はいる。お父さん、お母さん、魔梨沙、霖之助君…。
皆、私が神社に行って何か新しい有益なものを手に入れる事に対して応援している。
私はそんな皆に裏切る事なんて出来ないし、私が私に対して裏切りたくない」
「…それで?」
靈夢は巫女をまっすぐ見つめる。巫女も靈夢の緊張感をまっすぐに受け止める。
―――私はあの妖怪を倒すことを決めた―――
「私に取り柄はないけれど、今まで言った事は全て感情論で勝算なんてあるかも分からないけど、
それでもあの妖怪を倒すことを誓うわ」
「…そうか、ありがとう」
これ以上ない巫女の笑顔。まるで、もう未練もないような…。
「君は私よりも大人だな。こんな重い責任を持たされても、成し遂げようとする気持ち。
私もそうあるべきだったのかもな」
「巫女様…」
「貴方に私の力を全て捧げるとしよう。村の運命は貴方に託した」
「任せて。あんな妖怪倒してあげる」
「ありがとう。では、これから私の力を授ける儀式を始める。神棚の下に行ってくれ」
「分かった」
靈夢は神棚まで移動する。
「座ってくれるか?出来るなら正座で座ってほしい」
「はい」
お互いに覚悟を決めているようだ。
「自分を一にする感覚、繊細な感覚。それを自分の中に持って」
「…」
………………
「よし、始める」
巫女は靈夢を真横から見つめる様に座った。巫女は頭を下げ、お祓い棒を頭上で振りながら呪文を唱えた。
「我命博麗之力与…………」
「…」
言葉の様な、言葉でないような音を歌い上げる。
「ハッ!!」
……………………
…静寂のまま、かなりの時間が過ぎていった。
「…ん?…あれ?唱えたはず…」
「どうしたの?」
焦っていながらも靈夢に的確に説明する。
「呪文が全然効かない…これじゃ貴方に力を与えられない」
「え!?そしたらどうするのよ」
「申し訳ない。別の方法を探すしかない」
「別の方法って…」
―――お待ちしておりました。次の博麗神社を継ぐ巫女、靈夢様―――
『!?』
どこからか声がする。野太い初老の男性の声だ。
「誰!?この神社には私しか住んでいないはずよ!?」
「まさか、妖怪の手下?」
「違いますよ。そちらに参りますので少々お待ちください」
中庭へ行く障子が外側から開けられる。
「お待たせ致しました。」
『亀!!??』
目の前に、喋る亀がいたのだ。
読んで頂きありがとうございます。まやしまです。
宿命って大変ですよね。受け入れろと簡単に言われても難しい。
まったり生きたいお年頃の私でございます。
一時期、コーヒーにはまってた時期がありました。
美味しい豆ばかり買うと、インスタントコーヒーが飲めなくなるんですよね。
それはそれでもったいないなって今頃思ってしまいます。
今は一杯抽出型のドリップコーヒーに落ち着きました。
それでは、次回も宜しくお願い致します。
※この作品は時代背景を考慮して作成しております。
その為、現代では倫理的に不適切な発言が作品内で書かれる可能性がありますが、筆者にはそのような思想はない事をご理解した上で読んで頂けると幸いです。
東方創想話にも作品が掲載されておりますが、この作品は最初に東方創想話に投稿した上で、ハーメルンに投稿させて頂いております。ご了承お願い致します。