でも、人々が彼に求める正義は…
どんなに良い奴でも、悪く見ようとすれば悪く見れる。
一見いい奴でも、よくよく考えると意外に悪者だったりもする。
「ア~ン…パーンチ!」
「バイバイキ~ン!」
いつものように彼は現れて、悪者を追い払いました。
「わ~い!」
「助かったー!」
「ありがとうアンパンマン!」
みんなは大喜びで彼にお礼を言いました。
歓声を浴びながら彼は去って行きました。
「今日もアンパンマンのおかげで助かったね」
「本当に頼りになるよね」
みんなが喜ぶ中、誰かが呟きました。
「あいつ…本当に良い奴なのかな?」
「え?当たり前だよ。いつも助けてくれるし…」
「けど、あいついつもばいきんまんを追い払うだけで、捕まえたりとかしてくれないじゃん」
「それはアンパンマンが優しいから…」
「そのせいで僕たち、何度もばいきんまんに襲われてるんだよ?」
「でも…」
「僕たちがひどい目に遭ってからしか来てくれないし、未然に防ごうとしてくれないじゃん」
「……………」
「あいつ、本当は自分が何度も良いカッコしたいだけで、だからばいきんまんを放っておいてるんじゃないの?」
「……………」
その一言がきっかけで、彼への不信感はたくさんの人に広がりました。
しかし、彼の正義を信じる人も多く、色んな意見が飛び交いました。
「やっぱりいい奴だよ!いざという時は頼りになるし…」
「でもそれ、裏を返せばいざという時しか頼りにならないって事だろ?」
「いざという時以外、助けてもらう必要なんてないじゃないか!それにいちいち裏を返していたら、きりがないだろ!」
「彼に助けてもらっているのに、文句なんて言ったらダメだって!」
「改善を求めるのは当たり前じゃないか!」
「やっぱり悪い奴は徹底的に退治してくれないと困るよ…」
「そこまで厳しかったら、僕たちだってちょっと迷惑かけただけで退治されちゃうよ…」
「そうだよ…息苦しくて生きていけないよ…」
「困った後でしか助けに来てくれないなんて、困る前に何とかして欲しいよ…」
「自分の事は自分でやるべきだろ!何でも彼に頼ったらダメだよ!」
「文句があるなら自分でやればいいだろ⁉」
「確かに…僕たちだけでも十分やっつけられるかもしれないよな…」
「アンパンマンも、意外と僕たちに助けてもらっていること多いし…」
「最後のとどめを自分が持って行ってるだけじゃない?」
「やっぱり頼りにならないのかな…」
「でもいつも顔を分けてくれるし、やっぱりい人だよ!」
「いくらいい事をしていても、心の中で悪い事考えていたら悪い奴でしょ?」
「普段彼に助けてもらっているのも結果論だし…」
「彼は優しいから、ばいきんまんにもひどい事をしたくないだけだよ」
「でも、結果的にそのせいで、みんな何回もひどい目に遭っているのよ」
「いくら善意があっても、結果的に迷惑かけていたらダメだよ」
「いくらいい所があっても、それで悪い所がなかったことになるワケじゃないだろ⁉」
「多少悪い所があっても、それでいい所が全部なかったことになるワケないだろ⁉」
誰に何と言われても、彼が正義だと思い込んでいる人たちの考えは変わりませんでした。
それは、彼が偽善だと思い込んでいる人たちの考えも同じでした。
その論争は、ある悪者の耳にも聞こえました。
「キィーーーッ!アンパンマンの奴が半分も悪名を持って行きやがった!世界一の悪者はこのばいきんまん様なんだぞ!許せーん!」
「何よ、そんなの放っておけばいいじゃない」
「でも、そのせいでアンパンマンの仲間のしょくぱんまんも悪く言われているぞ」
「何それ⁉キィーーーッ!しょくぱんまん様を悪く言うだなんて!絶対に許せない!」
怒った二人はさっそく町に行き、悪さを働きました。
そこに当然彼は駆けつけ、彼らを追い払いました。
「ア~ン…パーンチ!」
「バイバイキ~ン!」
「やった~!」
「ありがとうアンパンマン!」
彼が悪者を追い払ってくれたことに感謝して、たくさんの人がお礼を言いました。
「……………」
「もっと早く来てよ…」
「家が壊されちゃったよ…」
「ケガしちゃった…」
「何でこうなる前に何とかしてくれないの?」
しかし、お礼を言わない人や文句を言う人も大勢いました。
彼はそんな人たち一人一人に頭を下げて謝り、壊れた物の修理やケガの手当てをしました。
けど彼は、自分のやり方を変える事はありませんでした。
今日もパトロールに出かけ、困った人がいたら助け、悪者は追い払う。
そして、お腹が空いた人には自分の頭を食べさせる。
感謝されても文句を言われても、彼はこれからもずっとそれを続けるのです。
良い所もあるけど悪い奴なのか?悪い所もあるけど良い奴なのか?
それは誰が見るか、誰を見るか、良い所がどこなのか、悪い所がどこなのかによって左右されがち。