「夜さん!こっちです!」
指定され集合場所近くに来ると、旬さんの声が聞こえた。
「すみません。お待たせしました」
「いえ、こちらこそ、急な呼び出し。すみませんでした」
「大丈夫ですよ。それで、お願いしたいことって…」
「…俺の役割じゃないんだけどな……」
俺は、とあるマンションの前で壁にもたれて言う。
首にかかった猫モチーフのネックレスが、夕日を反射した。
旬さんの頼み事。それは、朝比奈りんをレイドに誘う事と、
どちらも、俺が必要そうには思えないため理由を聞くと、朝比奈りんをレイドに誘うのは、数合わせの時、朝比奈りんとあの短時間で、少し打ち解けていた
何処をどう見たら打ち解けていたように見えるのか疑問だが、了承した。
了承する意味はあまりないが、まあ、了承しないよりも、了承したほうが、メリットが大きいと感じたから、了承した。
次に、
これに関しては、最初からそのつもりだったため、すぐに了承した。というか、すまない旬さん。
マンションの入り口から、一人の少女が出てきた。
(…やっぱ引き受けなきゃよかった。
「やあ、久しぶり」
俺は今更後悔しつつも、出来るだけ優しく微笑んで話しかけた。
「あの時の…。お久しぶりです……というか、何でここにいるんですか?」
「君の先生から何か言われてないかい?」
「まさか、先生が紹介してくれるって言ってたハンターって…」
俺じゃないんだけど……、後で言えばいっか。
「それで、君、最近学校に行ってないんだっけ?」
「……説教ですか?それなら、帰ってください。先生に何を言われたのか知りませんけど、私はもう、学校に行くつもりも、ハンターを辞めるつもりもありませんので」
「いやいや、俺は別に説教をしに来たわけではないから、学校に行け。とも、ハンターを辞めろ。とも言わないよ。ただ俺は、君をレイドに誘いに来たんだ」
「えっ?」
あー…いい言葉が浮かばないから、旬さんのセリフ借りるか
「…俺が――いや、俺達が、君を立派なハンターに育ててやる」
その後、朝比奈りんを旬さんの所へ連れて行き、旬さんは事情を説明した。
そして、夜に集合して白虎ギルドの訓練が行われるゲートに行くことになった。
夜。
俺、旬さん、朝比奈りんの三人は、とあるゲートの前に来ていた。
「お久しぶりです。宍戸さん」
「白虎ギルド第二管理課 課長。宍戸耕史郎です」
「同じく管理課の課長代理。吉田恭平です」
宍戸、吉田の二人は、頭を下げ、旬さんに挨拶をすると、後ろに居た朝比奈りんに気付く。
「あ~!君はこの間の!」
「こんちわ~」
「そちらは…」
「初めまして。国玉夜です」
どうやら宍戸は、俺のことについては調べていないらしい。旬さんの事で精一杯だったのだろうか?と思いつつ、俺は返事をした。
なんというか、ここまで興味を持たれないのも悲しいな…
「新入りハンターの訓練現場を見学されたいだなんて、驚きました」
宍戸はそう言って、色々と説明していると
「もう9時ですよ。喋ってないで、早く始めましょう」
一人の男性ハンターが、不機嫌そうに言った。
見た目からしてタンクだろうか。
「どなたですか?」
旬さんがそう聞くと、そのハンターについて解説する。
その男性ハンターの名前は、上原悠真。どうやら俺の記憶通りのようで安心した。
攻撃部隊に関しても同じだ。
説明が終わり、少し興奮した様子で朝比奈りんが言う。
「お兄さん、国玉さん、行きましょ!」
「君の後に続くよ」
旬さんと、朝比奈りんはそう言いながら、ゲートへ向かう。
「当たり前だけど、
そして俺は、そんなことを呟きながら、旬さん達について行き、ゲートをくぐった。
その瞬間、ゲートを通る感覚がいつもと違う事に気が付く。
レッドゲートをくぐる時って、こんな感じなのか…
ゲートはバチバチッと、赤色の光を迸らせると、真っ青だったゲート全体が真っ赤に染まっていく。
俺は旬さんの叫び声が聞こえながら、レッドゲートに飲み込まれていった。
ゲートをくぐった先は、雪が積もった吹雪の森。
俺達がいる所は、少し開けた場所だった。
「あの…何が起きてるんですか?」
朝比奈りんは、周りで騒ぐ白虎ギルドのハンターたちを見て言う。
漫画通りなら――
俺がそう思うと同時に、空を切る音がした。
チッ、早速違うのか…
俺は背後から朝比奈りんに飛んできた二本の矢を。旬さんは正面からの矢を受け止める。
もう一人、男性ハンターの方は、頭、腕、脚、それぞれ一本ずつ矢が刺さり、倒れる。
「奇襲だ!」
一人のハンターが叫ぶと、皆が武器を構え、警戒態勢に入る。
手は凍っているが…
俺の手にある矢を砕くと、効果が消えたのか、凍った手が元に戻る。
前の敵は漫画と変化はない。そして後ろは…少なくとも三体以上はいるか。
俺はすぐに氷王の短剣を取り出そうとしたが、次の瞬間、アイスエルフ達はニヤリと笑い、すぐに去った。
…今からじゃ間に合わないか。こういう時、弓とか、遠距離武器があれば楽なんだが……氷天じゃ、あまり遠くは狙えないし。アイスエルフ達から奪えないか?
ま、奪えそうな時に奪ってみるか…いや、襲うか。孤立した奴はいなさそうだから…あー、でも、バルカ……バルカの下にいないアイスエルフっていないのか?
まあ、弓については後でいいか。
それよりも、試したい事、まあ、ヴァルプルギスの夜の対象やヴァルプルギスの夜に関するその他色々を確かめたりしたいな。
そして、もし人間以外をプレイヤーに出来るのなら、アイスエルフとアイスベアを一体ずつでいいからプレイヤーにして、そのまま俺の戦力にしたい。協力的かは分からないが。
あとは……旬さんと少し話したい。前は邪魔されたし。まあ、俺のせいなんだけど……
などと考えていると、上原悠真が話し始める。
上原悠真が言うには、やはりここは、レッドゲートの中らしい。
「全員注目!俺はA級の上原悠真だ。こうなった以上、俺の指示に従ってもらう!」
そう言った後、ストーリー通りに二手に分かれて進むことになり、二つのパーティーに分かれた。
「では、俺達は森の方へ行きます」
俺はさっさとここを離れたいので、分かれてすぐに、そう言った。
「それじゃ、俺達はこの道を行くぞ」
「ご武運を」
「……」
森に入り、少し経った頃。
「あの、私の質問には答えてくれないんですか?」
B級の女性ハンターが旬さんにそう聞いた頃に、俺は後ろの気配に気づく。
俺があそこからさっさと離れたかった理由は、異常な数のアイスエルフが居たから。恐らく、あのままあそこに留まっていれば、俺と旬さん以外全員死んでいた。
数体は追ってきてるか……
俺は後方にある気配に意識を向けながら進む。
「あなたはどうなんですか?」
ふと、女性ハンターに聞かれた。
「…そうですね、旬さんと同じで」
そういえば、俺も聞かれてたな。と思い、言葉を返すと、すぐにアイスエルフへ意識を戻す。
どこかであいつらをまければ――いや、無理か。
このまま進んでいれば、熊どもの縄張りまで行けるが、恐らく縄張りに入る前に襲われるだろう。
そうなれば、俺と旬さんがいるとはいえ、少なからず犠牲が出る。
ならばここは…
「旬さん、半数分の防寒着は持ってるので、渡しますね」
「あっ、はい」
「それでは、俺は少し離れます。すぐに戻りますので、進んでいてください」
「何処に――」
俺は半数分の防寒着を布の上に出すと、すぐにその場を離れる。
旬さん達から離れながら、俺は氷王の短剣を出し氷を生成しながらエルフ達へと向かっていく。
自分たちの方へ向かって来ているのが分かったのか、矢が数本飛んでくるが、当たるはずもない。
「お返しだ」
俺は生成していたすべての氷を、エルフ達へ放つ。
「…ダメかぁ……」
しかし、氷は他と比べて近くにいた数体にしか命中せず、他はすべて空振った。
使い始めて、間もないし仕方ないか。というかそもそも、氷天じゃ遠距離――と、心の中で言い訳をしつつ、氷を生成してエルフ達から姿を見えないようにすると、スキルを使ってエルフ達との距離を詰める。
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[スキル:俊足・隠者を使用します]
[移動速度が50%上昇、敵から視認される確率が50%低下します]
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気づかれずに一体目の首を刎ねると、そのまま二体目、三体目と、流れるように殺す。
『ッッ!!?』
そして同時に、四体目、五体目が俺に気づく。が、遅い。
俺は四体目と五体目の頭上に生成しておいた氷を落とした。
真っ白な地面に、汚い赤色が散った。
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レベルがアップしました
レベルがアップしました
レベルがアップしました
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俺は、五体の死体からアイテムを回収する。
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[アイテム:雪月木の弓]
入手難易度:B
種類:弓
攻撃力:45
アイスエルフが所持していた、雪が反射した月の光でしか育たないという、厄介な性質をもった木――
雪月木の月と雪の祝福を受け続けた末に咲かせる花は、言葉では言い表せない美しさ。
―効果「雪月の祝福」:月光の下では、敵に与えるダメージを上昇させる。
[アイテム:雪魔の短剣]
入手難易度:B
種類:短剣
攻撃力:60
アイスエルフが所持していた短剣。何か特別な鋼で作られているわけではないが、刀身は何故か、何時もほんのり冷たい。
[アイテム:アイスエルフの血]
入手難易度:C
種類:血液
アイスエルフの血液。純潔ではないこの血液は苦く、後味に酸味がある。僅かだが魔力が混じったこの血液は、エルフであるという証明。
飲んだ生物の俊敏と知力が、少し上昇する。
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俺は、アイスエルフ達からアイテムを回収し終わると、一応、アイスエルフ達の気配を探りながら旬さん達の元へ戻る。
今更思ったんだが、俺はそのまま飲んじゃったけど、血液ってそのまま飲むんだろうか…?
俺が旬さんのところへ戻ると、ちょうど、旬さんがアイスベアを倒した所だった。
「勝手に離れてすみません。今戻りました」
「あっ、夜さん!どこ行ってたんですか?」
「ちょっと、アイスエルフを追っ払ってきました」
旬さんに話しかけながら、付近を探る。
…アイスエルフの気配はないか。
「それじゃあ、行きましょうか」
旬さんがそう言うと、皆はアイスベアの死体を横目に、進み始めた。
2022 6/23 編集しました。