すいません
ダンジョン内では剣によるカンッ!キンッ!といった音や、魔法による炎が舞う音など、戦闘音が響いている。
しかし、少しずつその音が少なくなっているのはダンジョン攻略が終盤に入ったせいなのだろう。
それは置いといて、俺は今どうなっているかと言うと……
「水篠さん、まさか意地張ってハンターを続けてるんじゃないですよね?」
水篠さんに説教をしている隣の女性、観月さんに傷を癒してくれるのを待っている状態ですね。はい。
「俺は関係ないみたいな顔をしてますが、国玉さんもですよ!」
「あ、はい」
水篠さんに説教をしていたはずが、何故か俺にも飛び火し、二人一緒に説教される。
「――はい、国玉さん、終わりましたよ」
「ありがとうございます」
俺は感謝を伝え、立ち上がると手元にある輝くひし形の石。魔法石を見つめる。
魔法石はモンスターから出てくる石の事であり、等級としては下のC級モンスターの魔法石ですら百万以上の価値がある。しかし、それより等級が低い俺や水篠さんでは、C級を倒すことは夢のまた夢であり、E級モンスターさえ、倒すのもままならない。
俺が今手元にある魔法石はE級の物が一つ。それだけだ。
まあ、水篠さんみたいに病院代に溶けることも無いので、稼ぎ自体はあるのだが
「割に合わなすぎ…」
そんな水篠さんの呟きが聞こえると、ハンターの一人が何かを見つける。
「お~い、こっちにもう一つ入口があるぞ~」
その入り口と言うのは、俺には約6メートルほどの大きな大穴のように見えた。
「二重ダンジョンか…こういうのって実在するんだな」
馬渕さんはそう言うと、手のひらほどの火球を大穴の奥へと放つ。このダンジョンは広いのか、かなり遠くまで行き火球が爆発しても、突き当りが見えなかった。
「うむ…全員聞いてくれ」
そう言って馬渕さんが提案したのは協会に報告せずに、自分たちでボスを討伐する事だった。ただし、討伐するか否かは多数決で。
「やめときましょう」
「行ってみようか」
などと、皆は自分の意思を伝えていく。
「これで、8対8。さて、後は水篠くんと国玉くんだけだ」
ここは…観月さんには悪いが、
「行きます」
「行きますッ!」
俺が言うと同時に、水篠さんも言葉を発する。ただ、その言葉には確固たる意志を感じた。
「こんな奥まで入ってきて大丈夫ですか?」
一人のハンターがそう言った。
このダンジョンに侵入して、約40分ほど経つ。
前にも言った通り、俺は転生者だ。最終話まで読んでいないにしろ、その知識は恐らく、というより、絶対にチートなのだろう。しかし、この世界はそう甘くない。知識があるからと言って、水篠旬のように
ただ、知識があるなら行かない、知っているからこそ、犠牲を出さないために、行かせない選択肢もあっただろう。確かにそうだ。しかし、何故、水篠旬があれだけの力を手に入れることができた?何故、水篠旬が自身よりも格上の相手に怯まないことが出来た?何故、水篠旬はあれだけ冷淡になれた?それはこの出来事があったからではないのか?
それに。俺は漫画のように
「着いたぞ!ボスの部屋だ!!」
やっとボスの部屋を見つけたので、ハンターは大声を出して言った。
ボス部屋には扉があり、周りからも珍しい、や見たことがない。などの声が聞こえる。
「なんか…やばそうじゃないか?」
「同感」
真島さんたちがそう言った。ただ…
「まだ誰も知らない新ダンジョンかもしれないぞ?私は一人でも行く」
馬渕さんがそう言うと、その信頼度の高さのせいか、皆は否定的な意見を一言も発さなかった。
馬渕さんはその大きな扉を簡単に開く。
「案外すんなり開いたぞ… よし、入ってみよう」
ボスは一匹と言う固定観念があるからなのか、入ってすぐには襲ってこないと思っているのかどうかは知らないが、中に何があるか、居るかも知らないまま、ボス部屋へと入って行く。
入るとすぐに、ゴオッと青い炎が両脇に設置された巨大なトーチに灯されると、ドーム状の部屋が照らされ、次々と壁掛けのキャンドルに青い炎が灯されていく。
そこは長い間忘れ去られたかのように古びており、不気味なほどにある石像も寂れていた。石像たちは一体、一体、違う武器や楽器を持っており、王座には他に比べて一際大きな石像が目を見開き、
「モンスターいなくね?」
「ですね」
「一匹も見当たらない」
ハンターたちはこの部屋を一人一人探索している。
そんなハンターたちを横目に俺は文字が書かれた石板を持った石像へと進む。
この賭けは失敗する確率が絶対というほど高い。だからこそ、この石像に一言言っておく。
俺がいるだけで世界が変化することはあり得ないが…、俺が死んだ時、この世界が元の軌道に戻るように。この世界が救われるように。このダンジョンが特異点となるはずだから。
「お前がどちら側かは知らんが、いつか殺されるまで待ってろ」
最善ではないが、最悪でもないからな。と付け足すと、俺は他のハンターに見つかる前にそこから離れる。
石像は俺が背中を向けた瞬間、俺を嘲笑うかのように石像がニヤリと笑った。様に感じた。
「馬渕さん!!ここに何か書かれてます!」
俺がそこを離れ、他の所を探索していると、馬渕さんを呼ぶ声が聞こえ、皆が声の下に集まる。
文字は石板に書かれており、それは俺が話しかけた石像が持っている。
「ルーン文字か…」
馬渕さんはそう言うと、石板に書かれた文字を読み始める。
「カルテノン神殿の掟、一つ目、神を敬せよ。二つ目、神を讃えよ。三つ目、神を信仰せよ。この掟を守らぬ者は、生きては帰れん」
馬渕さんが石板の文字を読み終わると、空気が変わった。
ダンッ!と大きな音がボス部屋に響いた。その音の方向を見ると、何故か扉が閉まっている。
言いたいことは言った。
死ぬ準備……いや、生きる準備も終わった。
後は自分を信じて頑張るだけだ。
「おいっ!扉が閉まったぞ!」
一人が慌てたように言った。
「私たち閉じ込められたんじゃ…」
そう言う女性ハンターを押しのけ、一人の男性ハンターが文句を言いながら閉まった扉の方向へ歩き出す。
「俺は帰る。宝だろうと何だろうと全部くれてやる。あーばよっ!」
そして、男性ハンターは扉に触れた。いや、触れてしまった。の方があっているのだろう。
馬渕さんはすぐに気が付き、その男性ハンターに叫ぶ。
「待てっ!扉に触れるな!」
しかし、もう遅かった。まあ、触れなかったとしても生きていた保証はないが。
ガガガッと地面を削る音がしたと思いきや、次の瞬間には男性ハンターの首が消えていた。
男性ハンターの頭を消し飛ばしたモノは、扉の両脇に門番のように立っている石像だった。石像が持つ巨大な武器に男性ハンターの血液が付着していることから、あの石像の仕業、と言うのは一目瞭然だろう。
石像が動いたこと。それ以上に皆は石像の強さに驚愕し、絶望していた。
「瞬殺だぞ…!」
「あれがボス…!?」
「あんなのとどうやって戦うんだよ!?」
恐らく、皆は低級ダンジョンに警戒をしたことがないのだろう。だからこそ、予想外の事態に対応できない。いつも必ず予想を超えることは無く、俺以上の強さを持つハンターたちは安心しきっている。
ただ、俺と水篠さんは違う。
何時も予想以上であり、予想以下が一匹もいない。だからこそ、格上と会った場合、いつもと変わらない動きができ、冷静でいられる。もし、水篠さんにできなくとも、俺には出来る。
王座に座し俺たちを見下ろしている石像が俺たちを睨んだ。
「「みんな伏せて!」」
俺と水篠さんが同時に叫ぶ。それと同時に石像の目が光り出し、伏せた瞬間、俺達めがけて光線を放った。
光線は当たった場所や物を、破壊し、灰にし、融解させた。触れたものを全て消滅させた。
そんな恐ろしい光線が止むと、生存確認を始める。
「大丈夫かっ!」
「しっかりしろ!」
そんな仲間を心配する声も聞こえれば、
「キャァァァッ!」
仲間の死体が付近にあるせいか、耳をつんざくような悲鳴も聞こえる。
石像たちの力を知り、より一層、俺は思う。
このダンジョンはよくできているな、と。
低級のダンジョンをまき餌に弱い人間を引き入れ、弱者にクエストをクリアさせることにより、プレイヤーになれるという餌を与える。
いや、それならダンジョンではなくここにダンジョンを設置した奴が凄く、配置をよく考えてあるな。と言ったほうが正しいか。
「間一髪だったな。二人が気付いてなければ、全員死んでいたかもしれない」
水篠さんは上半身のみ起き上がらせると、すぐに観月さんの容体を確認する。
生き残った人たちは、すぐにでもここを離れたい思いが強いのか、起き上がり、動こうとしていた。しかし、混乱している者たちを冷静にさせたのは馬渕さんだった。
「全員動くな!起き上がればまた攻撃される!」
「はい…」
馬渕さんの声のおかげか、周りの人たちは多少落ち着いたのか、起き上がらなくなった。
水篠さんは…、馬渕さんと話してるか。あの様子なら大丈夫か。
俺はいつもの癖か、水篠さんが無傷な事に安心する。
怪我人は――まあ、居るか。ただ、ヒーラーは全員行動不能。怪我人の治癒は不可能。石像が動く気配はなく、この時間は皆が現実を受け止めるのに忙しく、行動は不能……。まあ、ストーリー通りか。
んじゃ、この時間を使ってこれからする行動の確認だ。とりあえず、俺は水篠さんと同じ行動をし続ける。何故? 無力な者の勇気の条件が不明だからだ。
これは予想でしかないが、無力な者の勇気の条件は、瀕死、強者への挑戦、生の懇願、ありえることのないもう一度のチャンスの懇願。
俺にはこれくらいしか予想ができなかったが、恐らく一つくらいはあるはず……まあ、これはストーリーでの出来事を並べただけだから予想とは言えないのかもしれないが。
水篠さんと同じ行動をして無力な者の勇気の条件をクリアできなかった場合は? 大人しく死ぬ。俺が死ねば、この世界は元に戻る。
死ぬのは怖くないのか。 …怖くない。絶対にだ。恐怖なんて感情は捨てろ。
「このまま死ねるか」
俺が思考していると、そんな声が聞こえた。戦闘系の男性ハンター。そいつは投げやりになったのか、冷静さがないのか分からないが、速度には自信があると言い一直線に扉へと向かう。
しかし、その男性ハンターは石像から放たれた光線により足を残して消滅した。
その様子を見ていた人たちは悲鳴を上げる者がいれば、目を背ける者も居た。
さてと、そろそろ水篠さんがカルテノン神殿の掟に気付く頃か?
「カルテノン神殿の掟か」
俺は掟に気付くというのが条件かどうかわからないので、とりあえず、口に出した。条件のクリアがどのように確認されるのか分からない今、カルテノン神殿の掟、というのを思う事と、掟という言葉を口に出す事をした。これで条件がクリアできていればいいんだが。
近くから、水篠さんの声が聞こえてきた。
「このダンジョンにはルールがあります」
俺はそう言って立ち上がる水篠さんを確認すると、俺も立ち上がった。
なんか中途半端な終わりですいません