フゥ…と、息を吐く水篠さんの後ろには巨大な蜘蛛型のボスが倒れている。
「信じられない!!」
諸菱健太がほとんどボスを一人で倒した水篠さんに言葉を発した。
「水篠さん、凄いですね」
「いえ、国玉さんのおかげです」
俺は水篠さんとそんな会話をしながら、ボスの魔法石を回収する。
「あ…あの…水篠様、国玉様。魔法石…お預かりいたしましょうか?お荷物は僕がお運びします」
諸菱健太は汗をダラダラと流しながら、俺達に敬語を使う。
その後も、俺は断ったが、俺達に水を渡してくれたり、マナ石を掘ってくれたりと、色々な事をしてくれる。
水を渡す際に手が震えていたので、恐らく、不正登録者の異常者だと思われているのだろう。いや、可能性の段階だとは思うが。
突然、塞がれていた入口が爆発し、右京隼人達のシルエットが見える。
「えっ?生きてんじゃん?」
「ボスが死んでる!?」
右京隼人達は、予想と違う結果があっため少し驚き、E級二人とD級一人で倒されたと思ったのか、ボスを貶し始める。
「隼人さんどうします?」
「決まってんだろ殺れ」
右京隼人達の呟きが聞こえた。
すると、右京隼人が諸菱健太に水篠さんと俺を殺せと言った…いや、命令した。従わないと、全員殺すと脅して。
殺すことを躊躇う諸菱健太に早く殺せと唆す。
「弱いから裏切られる。当然のことだよ」
水篠さんが、答えを求めるようにこちらを向いた諸菱健太に言う。
しかし、
「なに?」
諸菱健太は俺達ではなく、右京隼人達へと剣を構えた。
「弱いのから片付けろ」
右京隼人がそう言う。
突然、ピロンッと言う音と共に、ウィンドウが出現した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[緊急クエストが発生しました]
[緊急クエスト:敵を殺せ]
プレイヤーに殺意を持つ者が現れました
全員倒し、身の安全を確保してください
これに従わない場合心臓が停止します
残り人数:4人
倒した人数:0人
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
水篠さんにこのウィンドウが現れるのなら分かるが、何故俺にも現れたのだろうか?いや、俺にも殺意を持ったからか。
俺は疑問に自己完結すると、コージもとい、魔法使いの攻撃により、俺と水篠さんが壁へと吹き飛ばされる。
「水篠さん!国玉さん!」
諸菱健太の声が聞こえた。
諸菱健太は顔を青褪める。右京隼人達への恐怖ではなく、水篠や国玉にしたことに対して。
俺達は立ち上がり、右京隼人達へと歩き出す。
右京隼人達は、コージを茶化す。
「人の命を奪おうとしたってことはそれなりの覚悟ができてるってことだよな?」
「はぁ…固定観念だけで実力を決めつけんじゃねぇよ」
俺達はそれぞれ右京隼人達に向けて言う。
右京隼人達から二人の人物が俺達に肩を組んでくる。余程の自信があるらしい。
俺と水篠さんはすぐに短剣を取り出すと、それぞれ一人ずつ首を搔っ切った。
二人の首は胴体とお別れし、血が噴き出し、返り血を浴びる。
とりあえず、
「「一人目」」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
残り人数:3人
倒した人数:1人
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
右京隼人達が慌てだした。
仲間が殺されたことにもだが、いつの間にか手に握りしめられていた武器にも。
俺は人を殺したのに、ほとんど何も感じない。これなら、俺は異常者と言われても仕方なさそうだ。
俺達は短剣を握りしめ、右京隼人達を睨む。
コージが右京隼人に言われ、魔法を使用する。
しかし、当たることは叶わない。
水篠さんが急速に接近し、コージを切り刻む。
俺はその間に、二人を殺す。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
残り人数:1人
倒した人数:3人
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
水篠さんに二人が攻撃した。しかし、水篠さんに避けられ、流れるように二人が殺される。
俺は一人を殺す。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[緊急クエスト]の条件をすべてクリアしました。
報酬を確認しますか?
はい いいえ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はいを選択する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
受け取る報酬を選んでください
次の報酬が選べます
報酬1.状態の回復
報酬2.能力値ポイント +10
報酬3.スキル:「殺気」
全ての報酬を一括で受け取ります
よろしいですか?
はい いいえ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
どうやら、俺も殺気を取得することができるらしい。
すぐにはいを選択して、報酬を受け取った。
その時には、右京隼人も水篠さんに殺されていた。
「……何でこんなものがあるんだよ…」
俺は自室で、目の前のウィンドウを見て、驚愕や困惑と言った感情が湧く。
「ウィンドウが二重になってるなんて誰が分かんだよ…」
その理由は、目の前にある、二つのウィンドウ。一つはこれまで俺が使用してきたシステムのモノ。そして、もう一つが、恐らく俺が使用していたシステムではない報酬画面。
これまでのシステムが上に重なっていたせいで分からなかったが、ピコンッピコンッという音と共にこの報酬画面が俺の目の前に現れたことにより、この謎のシステムの存在について気が付いた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
報酬を受け取っていません!報酬が残り1時間で消滅します。すぐに報酬を受け取ってください!
「哀れなる愚者の旅立ち」、「無才無力独特な最弱者の一歩」の報酬を受け取れます。
報酬を受け取りますか?
はい いいえ
残り:59分17秒
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺ははいを選択する。
すると、どちらか分からないが、報酬が支給された。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
お知らせ
報酬が支給されました。
受け取る報酬を選んでください
次の二つが受け取れます
報酬.1自由な旅
報酬.2無能者への贈り物
全ての報酬を一括で受け取ります
よろしいですか?
はい いいえ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はいを選択し、すぐに詳細を確認する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
クエスト報酬
―自由な旅 愚者は愚かにもあるはずのない自由を求める旅を始めた。その旅を止めることは決してできない。
―効果
状態異常を無視し、
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
自由な旅の詳細は分かった。しかし、無能者への贈り物の詳細は何処だろうか?
俺はすぐに詳細を探すが、見つからない。そもそも、無能者への贈り物が見つからない。
贈り物、という文字を見て、一応、インベントリを見てみる。
ビンゴ。無能者への贈り物と書かれた物が入っている。
俺は無能者への贈り物を取り出す。
すると、クラッカーのように飛び出した紙吹雪と共に、装備が出現した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[アイテム:氷王の短剣]
入手難易度:S
種類:短剣
攻撃力:+106
この短剣は所有者を選ぶ。選ばれなければ、氷像にされる。本来、この世界に存在しなかった物。氷王は、選ばれた者の一人目で、生涯この短剣を手離す事は無かった。氷王が死亡した後、この短剣は死んだように眠り、所有者ではなく主を見つけるまで、本質を隠し続ける。
―効果「氷結」:攻撃した相手の部位を一定の確率で凍らせます。溶けることはありません。―短剣の意思により、一部の効果が封印されています。
―効果「不明」:この効果は短剣の意思により、封印されています。
―――
[アイテム:
入手難易度:S
種類:仮面
全能力値+60 HP・MP+1000
並行世界からやってきた鬼面。帝と名付けられた王が肌身離さず身に着けていた。しかし、帝は運命的な出会いを果たすと身に付けなくなった。この仮面には呪いが溜まり、着用者が呪いに抵抗できる強さを持っていないと、呪い殺される。
―効果「不明」:効果を見るための強さが足りません。
―――
[アイテム:アルナの長剣]
入手難易度:S
種類:長剣
攻撃力:+70
英雄アルナの長剣。アルナの持った初めての武器にして、天使インサニアを討った武器。
―効果「アルナの加護」:剣に炎が宿る。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は説明文を見た瞬間、全ての装備を床に落とす。
「えっ?なんでこんなもの贈り物にするの?殺す気?」
俺は理解ができなかった。もしこの報酬を最初に見つけていたとして、もし氷王の短剣を持ってしまっていたら?帝の鬼面を着用してしまっていたら?
まあ、間違いなく死んでいる…。
しかし、俺は氷王の短剣に触れてしまっていたが、一応、所有者としては認められているのだろうか?でも、怖いので使わないでおこう。
俺は一応、アルナの長剣以外、トングで摑み、触れないようインベントリに入れた。
突然、俺の携帯が鳴り、ビクリとする。
着信を見てみれば、諸菱という者からだった。
「あっ、国玉さん、こちらです!」
「ん?水篠さんも呼ばれたんですか?」
俺は分かっているが、水篠さんに聞く。
「ええ、そうなんです。連絡先も教えてないのに携帯が鳴って…」
「俺もです。それで、健太君はなんで俺たちの連絡先知ってるの?」
「協会に知り合いがいまして…お飲み物要りますか?」
「いや、俺は喉は乾いてないからいいかな」
俺はやんわりと断った。
諸菱健太にはかなり助かっている。俺と水篠さんに魔法石を全て譲ってくれたし、あの事を黙ってくれているお陰で。ちなみに譲ってくれた魔法石は9:1で分けた。俺が1で水篠さんが9。
「それで、用件は?」
水篠さんが聞く。
諸菱健太は用件を話し始める。
その要件というのは、攻撃隊を組むので、入って欲しいとのこと。
しかし、水篠さんがそれを聞いた瞬間に、断る。
水篠さんがそこを去ろうとする。
すると、諸菱健太が19回だけでいいので、と、言った。
それを聞き、水篠さんは足を止める。
「どこに?ダンジョン?」
「はい!報酬はたっぷり用意します」
諸菱健太はそう言う。
しかし、水篠さんはレイドはスポーツなんかじゃないと説教のようなことを始めたが、諸菱健太の目的に気付く。
「まさか…ギルドマスターになりたいのか?」
「はいっ!」
威勢のいい返事だったが、水篠さんは再度去ろうとし、話だけでも聞いてほしいと諸菱健太が止める。
諸菱健太の話を聞くと、ギルドマスターになるために、免許を取得したいらしい。ハンターが免許を取得するには、レイド経験20回以上であること。この間のレイドが初参加で、残り19回レイドに参加しなくてはいけない。筆記試験もあるが、会社を継ぐために勉強はしてきたらしく、自信はあると言う。
ギルドマスターになりたい理由としては、会社のためらしい。
要約すると、
諸菱健太の父がギルドを作り、そのギルドにダンジョンを攻略させて利益を得ていくことで、自給自足を始めようとしている。
S級ハンターをマスターに起用し、副マスターに諸菱の兄を置くことで、企業のように回そうとしているらしいが、マスターの権限が大きすぎて、いくら諸菱の兄が副マスターとなっても、摩擦は避けられないものだ。
諸菱の兄は頭はいいが、覚醒者ではないためマスターになれない。そのため、覚醒者である、弟の諸菱健太が実績を積み、父親を説得することで、ギルドマスターになるためにギルドマスターを目指しているらしい。
「水篠さんや国玉さんが不正と…実力を隠していることは一生秘密にします!」
諸菱健太が実力を隠してレイドに参加するなら仲間が必要だろうと、俺達を誘う。
「「それで、報酬は?」」
俺達が同時に聞くと、厚いファイルが渡される。
そこには、ありえないほどの額が書かれていた。