ラクーンシティ 某格安アパートの一室 9月28日午後7時頃。
低空飛行の報道ヘリのけたたましいローター音。パトカーのサイレンが夜空に鳴り響き。獣の遠吠え。人々の悲鳴に息根とめるは目を覚ました。
「ふぁぁ~~!うるさーい」
徹夜でゲームをして目が痛い。
ゲームのプレイ中に寝落ちしたはいいものの安物のソファーでは安眠など叶わぬ夢。
なんだか外が騒がしいのが気になるが引きこもりの自分には関係ないと、このまま二度寝にしこもうとしてはっと思い出した。
「そうだ……今日はなまほしちゃんが来るんだ……」
アメリカはシアトルのホームステイ先から流れに流れて中西部の都市ラクーンシティに流れ着いてはや数か月。
世界的製薬会社アンブレラ社の城下町ということでオムツや酔い止め薬に事欠くなく太い実家ととめラーのスパチャのおかげで悠々自適な社不ライフを満喫している。
「めんどくさいけど酔い止め薬をキメて外でよう……確か待ち合わせ時間は八時で……場所はJ's BARって店だっけ」
コラボの打ち合わせのためにわざわざ四女のクッコロの運転する車で病弱な身体にムチうってはるばるやって来る。
外に出るのも人の多い場所に行くのも億劫で仕方がないがが長女はともかく8年来の付き合いである以上、顔を出さないわけにはいかない。
しかし、外に出たくないのにはもう一つ理由がある。
バンッ!
「ひぇ!お、大家さんだよぉ……!」
日本にいた時と同様、家賃を滞納して三か月にもなる。いい加減、大家の堪忍袋の緒が切れる頃合いだ。
自分と同じアジア人で深窓年齢11歳の女の子ということで今までずっと大目に見てくれていたが、それもそろそろ限界だろう。
「い、居留守居留守~~」
鉄壁の毛布シェルターに包まってやり過ごそうとするが、ドアを叩く音はどんどん激しくなっていった。
バンバンバンバン!!バンバンバンバンッ!!!
「こ、怖いよー!こ、殺されるー」
万が一、踏み込まれた時にソファーの上で丸くなっていてははバックレられない。小柄な体を活かしてクローゼットに逃げこもうと身体を起こした時にとうとうドアの堅牢な鍵が白旗を上げた。
バキャッ!
「え、大家……さん」
年の割に髪が薄いことを除けばごくごく平凡なアジア人男性の風貌は変わり果てていた。
血の気を失った肌は蝋のように白く、所々肉が腐り落ち、口からは涎が止めどなく流れ、目は白濁して知性の光は完全に失われていた。
「えっ……ゾ、ゾンビ……?」
ホラゲでお馴染みの敵クリーチャー。生ける屍ゾンビ。大家の姿はまさにそれだった。
アメリカでは相応しくない表現だがうらめしやーとでも言いたげに両手を伸ばしてフラフラとした足取りでとめるに迫ってきた。
「ひぇっ!えぇぇぇぇ~~!ゾンビ!ゾンビ!食べられる~~」
泡を食っている様でとめるの行動は迅速だった。
アメリカでは大型スーパーで普通に売っている大型ガンラックに立てかけておいたサブマシンガンを取り出し、マガジンを装填して安全装置を外すと、大家の成れの果てに向け引き金を引いた。
バララララッー!
「こ、こないでー!」
フルオートで放った弾の過半数は年相応にせり出したビール腹に吸い込まれた。ホローポイント弾は内臓を滅茶苦茶に蹂躙し背骨を寸断、腐敗した上半身と下半身とを見事に泣き別れさせた。
「やっ、やった……て、まだ死んでないのー!」
上半身だけになってもなお生きた肉への未練を見せる大家ゾンビはうぉーと呻きながらとめるの細い足首に腐りかけた手を伸ばす。
「そ、それならこれだ!えーい!」
ドスリッ!
テーブルの上に偶然、放置していたカランビットナイフに手を伸ばしゾンビの脳天に思いっきり突き立てた。さしものゾンビも脳を破壊されては生命活動を継続できず、あぁーと間の抜けた断末魔とともにやっと偽りの生に幕を下ろした。
「や、やったこれで家賃払わなくて済む……てっ!違う違う!なんなのこれ?一体どうなっちゃてるのぉー?!」
呆然としていると外からズーン!と大きな爆発音。締めきっていたカーテンを慌てて引くと眼下に広がるのは阿鼻叫喚の地獄絵図。暴走する車。鳴り響く銃声。
亡者の群れに襲われ、成すすべなくパニックに陥り逃げ惑う人々の悲鳴。そこかしこから上がる火の手で夜のラクーンシティはまるで昼間のような明るさだった。
「た、大変……なまほしちゃんとクッコロちゃんを助けにいかなきゃ!」
二人の姉の危機に覚醒したとめるの行動は迅速だった。
新品のオムツに履き替え、防弾防爆仕様の配信服を着こむとありったけの弾丸とアサルトライフル、ロケットランチャー、サブマシンガンに手榴弾、予備のカランビエットナイフに酔い止め薬、リコーダー、そしてフェラチオザウルスを持って自室を飛び出した。
「待っててね!絶対に二人を助けるからー!」
こうして、とめるの長い長い夜が始まったのだった……。
to be continued―