ラクーンシティ中央通り 9月28日午後7時頃
市中央通りを分断する物々しいバリケードの前でクッコロ・セツはセダンを止めた。
「えー!なにこれー!そこらじゅう大騒ぎだし、とめるちゃん大丈夫かなー」
ラクーンシティの街中はまるで内乱状態。治安は崩壊し最早警察や消防は機能していない。ラジオをつければDJは発狂状態。ニュースでは暴動の拡大が止まらないとキャスターが緊張した声音で伝えている。
「ここから先は車じゃ無理っぽいですね……」
「しょうがないね。歩いていこうか」
深層三女なまほしちゃんは助手席で溜息。四女のクッコロもやむおえないとセバスが経費で支給のセダンを乗り捨て、体の弱いなまほしちゃんを背負うととめるの安否を確認するため家賃滞納をしているアパートに向かうことにする。社不のひきこもりなのでこの状況でものんきに寝こけている姿が目に浮かぶ。
女騎士特有の体力でバリケードを軽々と超えた先ではパトカーが電話ボックスに突っ込んで大破している。その横では数匹のドーベルマンが警察官の死体に群がり仲良くお食事中。生きもの全般が嫌いなクッコロは嫌悪感を剥き出しにする。
「な、なにぃ、あの犬ッコロ……!」
「なんだか全身が腐ってます」
警察官がドーベルマンに貪り食われているというだけで十分異常事態だが、さらにそのドーベルマンたちは所々肉が腐り落ち、肋骨まで露出している。警察犬として鍛えられた精悍な風貌は完全に失われ、白濁した目でひたすらに生きた肉を求める亡者―ゾンビ犬と化している。
グルルル……!
ゾンビ犬の一頭がふいに首をもたげ若く新鮮な肉塊二つに気がつく。他の個体も呼応して最早骨と皮だけになった警察官の成れの果てから興味を失い新たな獲物を威嚇する。
「なまほしちゃん……後ろに下がってて」
弱きものを守るのが騎士の本懐。なまほしちゃんを背中に庇うと道路標識を無造作につかむとうんせとと引っこ抜いた。
ボゴォ!
「生き物は嫌いだから、ちゃっちゃっと終わらせるよ!」
標識の先端にはバスケットボールほどの大きさのコンクリートの塊がくっついていて即席のメイスとなっている。ゾンビになっていなければもっと相手を警戒したであろうゾンビ犬は湧き上がる飢餓感のままにクッコロ・セツに一斉に飛び掛かった。
「えいやっー!」
まず先頭の一頭を上段からの振り下ろした標識のコンクリート片で叩き潰す。ぺしゃんこになって道路の染みになった最初の一頭の無惨な死にざまを意に返さず後続の二頭が左右から同時にクッコロに襲い掛かる。
「てやぁ!」
アスファルトに寝そべる様に急激に腰を落としたクッコロはブレイクダンスの要領でアスファルトの地面で高速回転して標識を振り回し地面に叩き落す。破壊力のキモであるアスファルト塊のクリーンヒットこそ逃したものの、きゃんと吠えてひるんだ隙を見逃さずモグラたたき宜しく頭を正確に砕いて絶命させる。
「なまほしちゃん、危ないっ!」
最後の一頭は先の三頭の末路にわずかに残った本能を刺激されセツとの戦闘を避け、背後で震えているなまほしちゃんに牙を剝いた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
飛び掛かってきたゾンビ犬相手に手袋で保護された手で必死の抵抗にも関わらず細い首筋にゾンビ犬の牙が迫る。しかし、クッコロには数秒の猶予があれば充分であった。
「でやぁぁぁっ!!」
渾身の横振りで見事にホームランを決め、ゾンビ犬を道路沿いのビルの壁に叩きつける。原型を留めず赤黒いインクとなったゾンビ犬には一瞥もくれずなまほしちゃんに駆け寄る。
「なまほしちゃん、大丈夫?!」
「はい、何とか無事です……あっ!とめるちゃんからLine!」
ゾンビ犬相手に九死に一生を得たことに一息つく暇もなくなまほしちゃんはとめるからのLineを確認する。
「とめるちゃん、よかった無事だったんですね……」
「警察署で合流しようだって……このままじゃ埒が明かない。とりあえず行ってみよう」
末っ子の無事に胸を撫でおろした二人は立ち上がり地獄とかしたラクーンシティを行く。パトカーと警察官の無惨な末路から警察署(R.P.D)は安全な場所という確信はない。だが信じるしかない。妹との再会を信じて―。
to be continued