エピローグ 闇の支配者
10月某日 東南アジアのどこか―
空調の効いた地下室。無数のモニターが煌々と光を放つ薄暗い部屋でゲーミングチェアで足を
組んだ見た目はごく普通のアジア人の男は自家製のブドウで作ったワインのグラスを傾けなが
らから肴のから揚げに手を伸ばす。
「最近から揚げに凝っているんだが、一つどうかな?」
Sこと旧セバス長が揚げたてのからあげを直立不動のU.B.C.S隊員ニコライに進めるが
にべもなく顎を横に振る。
「つまらん男だな。まぁ、こちらとしては”T腸菌”を確保しただけでも上々だが」
とめるの大便の人救いを収めたアンプルを見てほくそ笑むセバスにニコライはいぶかし気な視
線を向ける。
「あんた、ただの変態じゃないよな?あんなメスガキの糞にどんな価値が?」
すべての価値観が金に帰結するニコライに変態性癖への興味はない。これだけの資金力と組織力
を持つ男がアンブレラ側の傭兵である自分にあの状況下で大胆にもコンタクトを取りアルバイト
を持ち掛けてまで入手する以上、単なる糞の欠片がダイヤの原石に見えてきてならない。
「DWUの体内に存在する”Dウィルス”は社会適合者……俗にいう陽キャには適合率が低い」
自分に話しかけているのではなく独り言だと気づいてつくづく変人と嘆息しながら耳を傾ける。
「Dウィルスは血液……とくに経血に多量に含まれ経口摂取することで感染する」
Dウィルス……今回、騒動の発端となったTやGと同じ類。金の匂いは逃さない鼻が反応して自然と
薄い唇がほころんでくる。
「Dウィルスが発現すると身体能力や回復能力、免疫機能の飛躍的向上が報告されている……」
息継ぎもかねてワインで喉を潤し。会心の出来の唐揚げを豪快にほおばる。パワハラゼリーを飲む
禊の儀式はDウィルスを摂取させるためのものだが知らずに憎まれ役を買って出ているDWUの間抜け
ぶりに酒が一層進む。
「……社不揃いの深層家の中でも五女息根とめるは特に適合率が高い。あの特別調整したタイラントとの死闘を制したほどだ」
再びうっとりとアンプルを眺めて恍惚としてのっぺりとした能面のようなセバスの表情筋がいびつに歪む。
「Dウィルスから変異したT腸菌は糞便に多量に含まれる。便移植で感染できるかこれからの実験次第だ」
土方にから揚げにブドウ、様々な職を転々としてきて何一つ長続きしないが、社不をおもちゃにする以上の退屈しのぎは存在しない。
「深層家はまだ増える……モルモットには事かかない。まだまだ楽しめそうじゃないか……くっ!くくくく……!」
くつくつとした笑みは哄笑へと変わり暗い地下室へと響き渡る。ニコライはセバスの底知れぬ狂気に吞まれないよう
銭勘定に意識を向けるのであった。
とめハザ2 to be continued