ラクーン市警(R.P.D) 正門前 9月29日午前1時頃
「ひぇ……死屍累々」
「このオーバーキルっぷり……これはきっととめるちゃんですね」
ゾンビの群れを避けながら、ようやく合流場所のラクーン警察署(R.P.D)に到着したクッコロとなまほしちゃんは警察署正門前に累々と積み上げられたゾンビの死骸の数に愕然とする。
「でも、これなら安心して入れそぉ。えーと何か武器武器」
警察署までの道すがら襲い掛かってくるゾンビを片っ端から粉砕した結果、曲がりくねった標識を投げ捨て大破したパトカーを物色してサバイバルナイフや警棒を拝借する。とめると違い銃は性に合わない女騎士なクッコロは物理武器一本に縛る。
「ナイフが6本、警棒が2本……ちょっと心もとないけど行くしかないかぁ」
「なまほしちゃんはこっちを貰いますね」
腕力の無いなまほしちゃんは護身用に閃光手榴弾を一つ頂いて警察署内に踏み入った。
「どこもかしこもゾンビだらけ……お巡りさん……どこにもいませんね」
警察署内まるで野戦病院の様相を呈していた。正面ロビーはソファーやカーテンで仕切られていて簡易的な連絡所であることが分かる。通路の半分近くは即席のバリケードで塞がれ地図の類もあてにはならない。
「あっ!銃声はが聞こえる!結構近く……ゾンビと戦ってる?」
警察署内では指揮系統が崩壊して分断されているといえ生存した少数の警官たちが脱出のために奮闘していた。しかし、本当の”脅威”はゾンビやリッカーなどではない。
「うわぁぁぁっ!来るな化物!」
バン!バン!バン!
R.P.D正式採用のブローニングHPMr.Ⅲが火を噴き、放たれた9mmパラベラム弾が分厚い胸板に吸い込まれた。
「な、なんだ!全然効かない……!」
ライフル弾も弾き返す特製の防弾防爆コートは拳銃弾程度ではビクともしない。ズンズンと重々しい足音とともに2mを優に超える圧倒的な巨漢が年若い警官に迫る。若さゆえの実戦経験の致命的不足と生来の温和で臆病な性格が仇になり人間に限りなく近い外見に作られた”彼”―タイラントの頭に狙いをつけることができず不用意に接近を許してしまった。
「うわっ……あぁっ!!」
丸太のような野太い腕がぬっと伸び警官の頭を鷲掴みにする。頭蓋骨がミシミシと軋みを上げ、万力のような凄まじい圧力に絶叫を上げることすら敵わない。
「がぁぁっ!あっ!や、やめ……!」
バン!バン!
死の予感に恐怖し、マガジンの残弾を頭に叩き込むがコートと同様に防弾防爆仕様の帽子を吹き飛ばしたところで全弾を使い果たし、感情の宿らない空虚な双眸に映し出された警官の絶望に歪んだ顔が床にたたきつけたトマトのように弾け散った。
グシャッ!
あっけなく事切れ肉のマネキンと化した警官が雑に投げ落とされる。脳を完全に破壊されゾンビとして復活することがないのがせめてもの救いか。
「な、なんですか、あれ……に、人間じゃない……!」
「ハ、ハゲだ!……でかいハゲがいるぅ!」
銃声の音を聞きつけて駆け付けたはいいものの最悪のタイミング。一仕事終えたと言わんばかりに首を鳴らしコートの襟を直すとハゲことタイラントは新たなターゲットを見据えると大股の早歩きで怒涛の勢いで二人に迫ってきた。
「逃げて!なまほしちゃん」
姉を背に庇いナイフと警棒の二刀流でクッコロは異形の巨漢に立ち向かう。小さく頷くと妹の覚悟に泥を塗ることなくなまほしちゃんは細いあんよで全力疾走で駆け出した。
「はぁはぁ、とめるちゃん、どこにいるの?」
親友にして妹のとめるを探し求めなまほしちゃんは署内を彷徨う。全身に絡みついてくるような暗闇に怯えながら、小柄な体を活かしてバリケードの隙間に入り込み、血の水たまりが広がるフローリングの床で転んでも決してくじかない、しかし、運命は12歳児にも容赦はしない。二階の所長室前でゾンビの一体に見つかってしまった。
「こ、こないで……!」
リッカーの脳みそで遊ぶのに夢中でとめるが殺し損ねた中年婦警のゾンビがなまほしちゃんに迫る。そのゾンビはどこか毒親の面影があってなまほしちゃんを委縮させる。
「だ、だれかぁ……」
懐の閃光手榴弾に手を伸ばしたところであと一歩まで迫ったゾンビの頭が銃声と同時にぱぁんと弾け飛んだ。
「えっ!な、なんです……」
かーんと空薬莢が地面に落ちる音がする方に視線を移すとボルトアクションライフルを構えた恰幅の良い壮年の男がゆったりとした足取りでなまほしちゃんに歩み寄ってきた。
「君、大丈夫かね?」
ぬっと差し出された手を取ってなまほしは抜けた腰を叱咤してようやく立ち上がる。
「は、はい。大丈夫です」
「一人かね?もう心配はいらない。わたしが守ってあげよう」
物腰は柔らかく口調も穏やかで丁寧。一見すると壮年の紳士そものだが、なまほしちゃんの長年の虐待経験が彼を”危険な大人”だと見抜く。
(ここは逆らわないほうがいい……隙を見て逃げられれば……)
場慣れした雰囲気から警察関係者か?なんとなく偉そうな雰囲気で相手の情報を知るべく無知で無力な子供を装って質問を投げかける。
「あの、おじさんのお名前は……」
「あぁ、わたしかね?わたしはブライアン・アイアンズ。このR.P.Dの署長だよ」
to be continued―