ラクーン市警 署長室 9月29日午前2時頃
来訪者を威圧する剝製の数々。所狭しと飾られたトロフィーや表彰状が飾られた棚。悪趣味な調度品といい部屋の主の本性を具現化したような空間に高級茶葉の薫り高い匂いが漂う。
「飲みたまえ。気分が落ち着く」
ティーカップに注がれ差し出された濃い赤橙色の液体からそっと目を移すとアイアンズ署長と名乗った男の目はスカートから覗くストッキングとの間の絶対領域を舐めるように見ている。
普段は鉄壁の良識人の仮面もバイオハザードという異常事態の中で外れかけ、色と欲に塗れた俗物の本性が見え隠れする。
「い、いただきます……」
十中八九、一服盛られている紅茶を飲むふりをしながら弱弱しい12歳児を装いながらアイアンズの一挙一動を注視して隙を伺う。
(ふん、見た感じバーキンの娘と同じ何もできないメスガキじゃないか、こんなガキを"S"はどうしよ
うっていうんだ?)
T-ウィルスがラクーン市内全域に蔓延し、ゾンビだらけになり都市機能は完全にマヒ。これにより今まで善良な署長として振る舞い手に入れた地元の名士としての地位や名声も最早あってないようなもの。
癒着していたバーキンが社内で失脚したが挙句、化物に成り下がりアンブレラとのパイプも失い、市民を守るヒーローと地元メディアに誉めそやされて鼻高々だったが所詮はお山の大将でしかなかったことを痛感する。
(しかし、生き残れるチャンスがあるなら……)
警察署に殺到するゾンビの群れを見た時、アイアンズの理性は完全に弾けた。指揮系統を分断し、武器弾薬を署内に分散して、逆らう署員は射殺した自分の王国の崩壊に発狂して破壊の限りを尽くしたが署内が壊滅状態になってあとは野となれ山と鳴れという捨て鉢な興奮も冷め切り、あとは命が惜しむ気持ちがあることに気がついた。
そんな時、噂に聞いていた”S”からコンタクトがあった。
”S”―各業界に絶大なコネクションを誇る謎多き人物。一応はラクーンシティの暗部に食い込んでいたアイアンズも噂だけは聞いていた。
(一人だけでも確保したら脱出を手引きすると言うが……本当か?)
何の前触れもなくSから送られてきたメールの内容はラクーン市内にいる3名の女子の確保。メールに添付された三枚の画像の一つと外見が一致した少女を偶然にもかつての根城の近くで見つけた時は欠片も信じていない神に感謝した。
(指定の場所に”コレ”を持っていく前に楽しんでもいいだろう……)
アイアンズは二十歳前後の白人女性が一番の好みだがたまには趣味を代えてももいい。小鹿のようなしなやかな足や折れそうなほど細い首などはアイアンズの嗜虐心をそそる。
「おぉ、寝てしまったか。よしよし」
柔らかすぎて逆に座り心地が悪いソファーでなまほしちゃんは寝息を立てている。カップの中身は半ばまで減っている。小柄な分、睡眠薬が早く効いたんだろうとほくそ笑み、鼻歌を歌いながら高速バンドと趣味で持ち込んでいる猿轡の準備を始める。
カーペットに目を移せばなまほしちゃんが紅茶を捨てていたことに気づいたが、無防備な獲物を前にして舌なめずりをするアイアンズは気づかない。
「ふふん♪ふんっ♪さぁて、子猫ちゃん。一緒に……!」
お楽しみグッズを両手に持って得意げなアイアンズの足元にコロコロと閃光手榴弾が転がる。なまほしちゃんは両耳を手袋で覆い閃光手榴弾の炸裂に備えている。
ギーン!
「うがぁぁぁっ!目が!耳がぁぁぁっ!」
完全に虚をつかれたアイアンズは閃光手榴弾の爆音と閃光をもろに浴びて絶叫する。耳と目を保護したなまほしちゃんはソファーから降りると署長室のカギをデスクの上から持ち出すと署長室を飛び出していく。
「このクソガキィィィ!!!逃げるなぁ!!」
激怒したアイアンズは壁に立てかけておいたライフルを手に取ると視覚も聴力もまだ録に機能を回復していないにも関わらずなまほしちゃんの後を追いかけていく。
to be continued