余りに少なかったので書きました。
古見さんはコミュ症です。の二次創作増えて下さい(懇願)
好き!!!!!!!!!!
二次創作増えて下さい!!!!!!
僕、只野仁人は至って普通の高校生だ。
学力も、容姿も、挙げ句の果てには体格すらも平均値という、いっそ異様なまでに普通の高校生である。
けれど、普段から「ふつう」を労せずとも体現してしまうような僕にも、ちょっとした特技が存在する。
それは、機微を察すること。その人の表情や性格、その他諸々がわかってきたというのもあるのだろうけど、僕はクラスメイトの思考回路がそこそこの精度で読めるようになってきた。
高校に入るまではそんなことはなかったと思うけれど、隣の席のコミュニケーションが苦手な女の子――古見硝子さんとの交流によって、人の思考を読むという技術が自然と研磨されていったように思う。
悪いことじゃない。むしろ、この特技のお陰で古見さんとのコミュニケーションも最近は滞りなく進められているのだから歓迎するべきだろう。
古見さんの通訳係となじみからは揶揄われるけど、実は僕のちょっとした自慢だったりする。
さて、本題に入ろう。
僕が古見さんと過ごした時間は相当なものだ。中学からの同級生であるなじみを除けば、高校では他の誰よりも長い時間を一緒にしているだろう。
だから、古見さんの心情は大抵わかるようになっていた。
けれど、先程届いたメールからは、いったいどうしてそんな経緯になったのかがさっぱりわからなかった。
古見さんのメールは丁寧で、とても長い。だから要点をかいつまむと、以下のことが綴られていた。
『ケーキを食べませんか?』
首を傾げざるを得ない。これがクリスマスだとか、誕生日のようなイベントごとが近かったのなら、すんなりと納得できたのだが、あいにく今は高校二年の夏休みだ。誕生日も、僕の知る限りではまだ先だった筈。そして僕たちは高校生らしく怠惰に時を浪費している真っ只中。ケーキに付随するイベントがあるようには思えない。
そう僕が一人疑問に思っていると、ブブ、とスマホがブザーを鳴らした。通知を見ると、古見さんからのようだ。
そのメールは、いつも通りの丁寧な挨拶から始まり、そして先程のメールの情報が足りなかったことに対する謝罪、そしてケーキを食べに行こうと誘ってくれた経緯と続いていった。
曰く、古見さんは先日、僕が自転車の練習を手伝ったことをいたく感謝してくれていたそうだ。そのお礼を悩んでいたところ、お母さんからケーキバイキングのペアチケットをもらったのだという。そして、僕が甘いものを嫌いじゃないことを思い出し、一緒にどうかと誘ってくれた、というのが事の顛末らしい。
ありがたいお話だ。
自転車の練習に誘ったのはそもそも僕だし、それは一緒に遊びたかったからという、利己的なモノだ。正直に言って、お礼なんてして貰えると思わなかったし、される義理もないと思っていた。けれど、古見さんが僕に対するお礼を真摯に考えてくれていたという事実が、ひどくこそばゆい。
カレンダーをチェックし、予定のない暇な日を確認する。
悲しい事に大半が空欄だった。
「でも、今回ばかりは良かったな」
僕は自然と顔がほころぶのを自覚しながら、古見さんに了承を伝えるメールを返信した。
(古見さんとのケーキバイキング、楽しみだな)
なお、スマホに向かってにやける姿は妹に見られていたらしく、この後に散々揶揄われた。
――――――――――――――
メールでやりとりした翌日、僕は眩しい太陽に苦しみながらも最寄りの駅前にたどり着いた。
時計に視線を滑らせると、現在は待ち合わせの二十分前のようだ。少し早く着きすぎたかもしれない。
近くのコンビニで軽く時間でも潰そうかな、と思った時だった。待ち合わせ場所に指定されていた像の前に、異様な人だかりが見える。
日頃の数倍は人が集まっているだろう。
その原因に心当たりがあった僕は、苦笑いを浮かべつつも、四苦八苦しつつ人の輪をなんとか抜け出した。
ふうと息を吐いて正面を見遣ると、やはりと言うべきか、輪の中心では白いワンピースに身を包んだ少女――古見さんがいつも通りブルブルと振動している。太陽に照らされた真白な肌が眩しい。
僕は予想通り古見さんがいたことに胸を撫で下ろしながら、中心部へと歩き出す。
嫉妬や憎悪の視線がすかさず飛んでくるけれどもう慣れたものだ。山井さんの視線と比べたらなんのこともない。……こんなことに慣れたくはなかったな。
「古見さん、こんにちは」
「!」
僕が声をかけると、古見さんは弾かれたように顔を上げて、周りの視線に怯えながらもとてとてと歩いてきた。
古見さんはいそいそとノートを取り出して、『こんにちは』と達筆な文字を見せてくる。
「すみません、お待たせしましたか?」
『いえ、私も今来たところです』
「そうですか、なら良かったです。……予定の時間より少し早いですけど、もう向かいましょうか?」
「……!『ええ、行きましょう』」
ケーキバイキングの誘いをかけると古見さんは「ふんす」と息巻いて瞳をキラキラと光らせた。
随分と楽しみなようだ。
その可愛らしい姿に頬を緩ませつつ、僕らは歩き始めた。
道中を無言で歩くと言うのもおかしな話なので、ケーキに関する話題を振る。
「古見さんはどんなケーキが好きなんですか?」
「……」
「僕ですか?僕は月並みですけどイチゴのショートケーキですかね」
「!」
「へえ、古見さんもお好きなんですか。そういえば、これから行く場所のフルーツは軒並み絶品だそうですよ」
「……!!」
「楽しみですね。なんだか想像だけでお腹が空いてきました」
『私はケーキのために朝ごはんを抜いてきました』
実際に喋っているのは片方だけというこの状況は側から見ると異様だろうが、僕はもう慣れている。それに、古見さんは一見無表情なようで意外と表情が豊かだ。今もノートを開きながら、ふんすと拳を握って意気込んでいる。
その可愛らしい姿に魅せられて、僕も少々口が軽くなる。
「おお、すごい気合の入れようですね……あ、でも朝に食べないと空腹中枢がどうとかで、食べられる総量は減るって聞いたことがあるような……」
「……」
一気に絶望した表情になった。
「迷信ですよね!食べなかったんだから、食べられるに決まってますよね!」
「……」
僕が慌てて手のひらをひっくり返すと、胸に手を当てて「ほっ」としている。
そうやって取り留めもない話を続けているうちに、僕らはいつの間にかケーキバイキングの会場に辿り着いていた。
チケットを用いて会場に入ると、そこには色とりどりのケーキが並んでいた。
「わあ……!凄いですね古見さん」
「!!」
こくこくと古見さんが激しく頷いている。滅多に見られない猫耳?までも生えていることから、バリエーション豊かなケーキに相当興奮しているようだ。
ケーキバイキングなんて、せいぜいホテルのバイキング形式の片隅にあったミニケーキぐらいしか体験したことがなかったけれど、これは全くの別物だ。部屋中に漂う甘い香りに、思わず唾液を飲み込む。
隣を見遣ると、古見さんも頬を赤らめて楽しげに周囲を見回していた。その子どもを彷彿とさせる純真無垢な姿に、思わず僕も破顔しながら赤面する。
僕は照れた自分を誤魔化すように、古見さんを促す。
「い、いきましょうか!」
「!」
お皿を持って、僕たちはケーキの泉へと飛び込んでいった。
――――――――――
「はぁ〜、美味しかったですね。古見さんはどうでしたか?」
『満足です』
「それはよかったです。一心不乱に食べてましたもんね」
からかうように笑いかけると、古見さんは顔を苺のように真っ赤にしてブンブンと腕を振った。
「すみません。僕も同じようなものでしたから。でも、あれですね、こういう時は胃の容量が無限になって欲しいです」
「……!」
やや過剰気味に、古見さんが首を縦に振った。
「それにしても、今日は誘ってくださりありがとうございました。本当に楽しかったです」
『こちらこそ、楽しかったです。今日はありがとうございました』
僕がお礼を言うと、古見さんはペンを取り出して、塀を机がわりに文字を書いた。僕がしてもらった側なのに、お礼を言われるというのも変な感じだ。
古見さんは自転車の練習を手伝ったお礼と言うけれど、今日の出来事とはとてもつり合いが取れているとは思えない。
勿論、僕が貰いすぎという意味だ。
「古見さん、今日のお礼はまたさせてもらいますね。何か希望とかありますか?」
僕の問いかけに対し、古見さんはわたわたと否定するように体の前で手を振った。首も振っている。どうやら、古見さん側はお礼など求めていないらしい。
苦笑して、考える。古見さんを困らせるのは本意ではない。
そこまで表立っての物を求められていないのであれば、また今度缶ジュースでも奢ろう。古見さんの性格からして、あまり仰々しいものをお礼にすると、それこそお礼し合いの無限ループに陥ってしまいそうだ。
そう考えて、口を開こうとするも、古見さんはこちらを向いておらず、再びノートに何か書こうとしていた。
ならば古見さんが書き終えるまで待とうと、古見さんを見つめていると、何やら様子がおかしい。
ボールペンを見て一度首を傾げた後、猛烈に上下にペンを振り始めた。
「インクが切れちゃいましたか?」
古見さんはコクリと頷く。僕がペンを持って入れば良かったのだが、あいにく今は持ち合わせていない。古見さんも予備は家に置いてきてしまったようだ。
沈黙が僕らの間に横たわる。
ずっと黙っていても仕方ないので、僕は先程の言動を撤回しようと口を開こうとして――やっぱり閉じた。
それは、怖気付いたからじゃない。
それは、意固地になったからじゃない。
それは、咄嗟に言葉が出なかったから、といった理由じゃない。
――古見さんが、僕を真剣な眼差しで見つめていた。
目線は泳いでいるし、指先は忙しなく動いているけれど、何かを覚悟したかのような表情だ。
僕は黙して、ただ待った。
古見さんは一度口を開き、やっぱり閉じ。そしてもう一度開いたかと思えば、またすぐに閉じる。
そうして少なくない時間が流れたけれど、古見さんは決してやめようとしなかった。
やがて、その形のいい口腔から音が紡がれる。
「……まっ、ま、た…………い、きま、ま……っしょ、う」
綺麗な声だった。
掠れ混じりで、言葉間の空白も多い。けれど、言葉少なに語られたその言葉は、すんなりと僕の耳へと入ってきた。
古見さんは顔を真っ赤に熟れさせて――でもちょっぴり不安そうに、僕を見る。
「――はい!また行きましょう!」
僕は精一杯の笑顔でそれに応えた。途端に、古見さんの表情がほっと緩む。
そして僕らは、二人並んで帰路についた。
ちなみに、歩き始めた時に視界に入った鏡には、古見さんに負けないくらい顔を真っ赤に染めた僕の姿が映っていた。