とある敗者の敗北宣言   作:かつおのたたき

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R.I.P

 

 

『じゃ、僕は2日くらい空けるのでインデックスちゃんをお願いしますね。小萌先生』

 

「はいですよ〜」

 

『いい子にしてるんだよ、インデックスちゃん』

 

「むっ、みそぎは私を子供扱いしすぎかも」

 

『頼んだよ、神裂さん』

 

「言われなくても、任せてください」

 

『じゃーね、ステイルくん』

 

「はぁ、さっさと行ってくれ」

 

『つれないねぇ〜、じゃあ、またね〜』

 

 こんな会話からもう2日経った。

 

 銭湯前に起こった襲撃のあと、なんだかんだでかおり達と和解して、なんだかんだ銭湯に行って、なんだかんだで一緒に何とかする方法を探すことになったんだよ。

 

 正直、みそぎが帰ってくるまでかおり達と過ごすのは気まずいかも? なーんて最初は思ってたけど、過ごしてみればなんてことはなかった! むしろ私のことを大切に思ってくれてるって伝わってきて嬉しかったんだよ! 

 

 ステイルに焼き殺されかけたことでちょっといじわるしてみたらすごく動揺したり、かおりとお風呂上がりにコーヒー牛乳を飲んだり……ほんとに色々あって楽しかった! 

 

 なんて話をみそぎにしたいんだけど……。

 

「全然帰って来ないんだよ……」

 

 もうお風呂は入ったし(フルーツ牛乳も美味しかった!)ご飯も食べた。かおりとステイルはどこか行っちゃったけど、あとはみそぎが帰って来るのを待つだけ。意味もなく部屋の中を歩き回ったりしちゃう。

 

 でもちょっと、なんだか眠くなってきちゃった…かも……。

 

 

 揺れる視界、覚束無い足元、不思議と近づく地面。気を失うインデックスが直前に見たのは、らしくない焦り顔で腕を伸ばす球磨川だった。

 


 

 

 インデックスちゃんが倒れた時間は0時丁度だった、頭をぶつける直前で僕が受け止めたから怪我はない。けれど、もう時間もない。部屋に入る直前にステイルくん達から言われたことを思い出す。

 

「0時15分だ、その時間に僕達はインデックスの記憶を消す。この2日間は本当に楽しかった、それに関してはありがとう」

 

「私からも、ありがとうございます。まだ、10分ほどあります。最後にインデックスと過ごしてあげてください」

 

 苦虫を噛み潰したような、険しい顔で言う2人が印象的だった。

 

 僕に与えられたこの10分間、大切に使わなきゃいけない。

 

『なんて、僕らしくないな』

 

 球磨川が独り言ちると、

 

「ぁ────」

 

 インデックスの口から声が漏れ出た。苦しそうにしながらも球磨川を見つけると笑みを浮かべる。一切己の状態に気を留めずに、ただ帰ってきた球磨川を笑顔で迎えるために。

 

「おかえり、みそぎ」

 

『ただいま、インデックスちゃん』

 

 球磨川はインデックスの手を握りながら、笑顔で返事をした。

 

『ごめんね、インデックスちゃん。どうしても君を助ける方法が見つからないんだ』

 

『ここが箱庭学園なら、僕が(箱庭学園の球磨川)だったらきっと、君のことも救えたんだろうけど』

 

『ごめん、ま「また勝てなかった、でしょ?」

 

 球磨川のセリフを遮り、えへへと笑いながらインデックスが言った。

 

「いいんだよ、みそぎ。気にしないで」

 

『でも』

 

「いいの、だって」

 

 ふふっと笑みが堪えきれない様子で言葉を紡ぐ。

 

「私、こんなに幸せなんだもん。この一週間ずっと楽しかった! かおりがいて、ステイルがいて、こもえがいて、何よりみそぎがいてくれた」

 

「私の記憶が無くなったって、あなた達が覚えててくれるでしょ? だから良いの」

 

「それに、いつかみそぎが救ってくれるもんね。賭けたっていいんだよ?」

 

 地獄のような痛みに苦しめられているはずなのに、屈託のない笑顔でインデックスは言った。

 

『ふふっ、シスターさんなのに賭け事なんてしてもいいのかい?』

 

「でも、わかった。君を必ず勝たせてみせるよ」

 

「括弧つけてないみそぎも、かっこいいね」

 

 笑顔で言うと、握っていたインデックスの手から力が抜けていく。

 

 球磨川はインデックスに、1つ嘘をついた。

 

 本当はインデックスを助ける方法は、ある。

 

 ただ、球磨川自身の無事が保証できる物ではなかったから、言えなかったのだ。

 

 球磨川は玄関の扉を開くと、重い表情を浮かべる2人に声をかける。

 

『ステイルくん、神裂さん、やるよ』

 

「ええ」

 

「もちろんだ」

 

 

 

 

 そして球磨川はインデックスの身体を観察し始めた。

 

 インデックスを救うために。

 

 足の裏、腹部、首筋、頭、どこかにあるはずの刻印を探す。

 

 しかし見つからない。

 

 インデックスの苦しそうな表情が一層3人を焦らせる。全身を見終え、いよいよ終わりかと言う時。神裂が口を開いた。

 

「………あ」

 

「口の中、ではないでしょうか?」

 

 一筋の光明、言われるままに浅く息をするインデックスの口を開くとそこには、不気味な黒い紋章があった。球磨川は、一瞬だけ躊躇い。喉を突くように右手を滑り込ませ、言った。

 

大嘘憑き(オールフィクション)、インデックスちゃんの【首輪】を無かったことにした』

 

 その刹那、バギン! と球磨川の右手が勢い良く吹き飛ばされた。

 

 右手が弾け飛ぶかと言うような衝撃を気にも止めず、球磨川は立ち上がり構える。

 

 目前にぐったりと倒れていたはずのインデックスは静かに閉じていた両目をゆっくりと開く。

 

 その眼は()()()()()()()を映し出している。

 

 その瞳が恐ろしいくらい真っ赤に輝くと同時に、何かが爆発した。

 

 ゴッ! という凄まじい衝撃と同時に、球磨川達は向かいの本棚に激突する。

 

「────警告、第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorum────禁書目録の『首輪』、第一から第三まで全結界の消失を確認。再生準備……失敗。『首輪』の自己再生は不可能、現状、10万3000冊の『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」

 

 球磨川は無機質な口調で話すインデックスを見る。のろのろと、骨も関節もないかのようにな気持ちの悪い動きでゆっくりと立ち上がる。その瞳に映る光に人間らしいものはなく、そこにインデックスらしい優しさは存在しない。

 

 球磨川が立ち上がると同時、インデックスが口を開く。

 

「────『書庫』内の10万3000冊により、防壁に傷をつけた魔術の術式を逆算……失敗。該当する魔術は発見できず。術式の構成を暴き、対侵入者用の特定魔術(ローカルウエポン)を組み上げます」

 

「────侵入者個人に対して最も有効な魔術の組み込みに成功しました。これより特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を破壊します」

 

 バギン! と凄まじい音を立てて、インデックスの両目にあった魔法陣を拡大させる。その二つがインデックスの顔の前で重なるように配置された。左右の眼球一つずつを中心に固定されているようでインデックスが首を動かすと、空中に浮かぶそれも同じように後を追う。

 

「──────。────、」

 

 インデックスが歌声のような声を上げた瞬間、インデックスの周囲に空間そのものを引き裂いたような、真っ黒な亀裂が四方八方へと飛び散った。僅かに開いた亀裂の隙間から流れ出る獣のような匂い。

 

 それを球磨川が感じ取ったと同時、べギリと開いた亀裂から光の柱が襲いかかってくる。球磨川は右手を前に出しその光線を無かったことにしようとするが全ては消えない。一瞬途切れるも、復活してしまう。

 

 瞬間、神裂とステイルが叫ぶ。

 

「Salvare000!!」

 

「Fortis931!!」

 

 ステイルの服の内側から何万枚というカードが飛び出し、部屋中を埋めていく。

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)!!」

 

 球磨川が作ったその刹那、光線と球磨川の間に魔女狩りの王を挟むことでステイルが時間を作り、神裂が七閃をインデックスの()()を破壊。突然に足場を失った彼女は後ろに倒れ込み、眼球に連動された光線も大きく狙いを外す。

 

 まるで巨大な剣を振ったかのようにアパートの壁から天井、雲までもが切り裂かれてしまう。ひょっとすれば宇宙を飛ぶ人工衛星すらも切り裂かれたかもしれない。

 

 引き裂かれた壁や天井は、木片の代わりに純白の光の羽となった。触れればどうなるかなど球磨川には皆目見当もつかないような物が雪のように舞い散る。

 

「それは『竜王の吐息(ドラゴンブレス)』────伝説にある聖ジョージのドラゴンの一撃と同義です! 人の身でまともにとりあおうとしないでください!」

 

 神裂の言うことの八割はよく分からない球磨川だったが、喰らえば死ぬということだけはよく理解出来た。

 

 だが、彼は球磨川禊。死を厭わず、どれだけ殺しても死なない男。球磨川は螺子を投げると同時にただ走る。数本の螺子を投げ、その全てが光の柱に呑み込まれる様子を確認しつつ走る。

 

 あと四メートル、走る。

 

「──警告、第二二章第一節。炎の魔術の術式を逆算に成功しました。

 曲解した十字教の教義をルーンにより記述したものと判明。」

 

 あと三メートル、神裂がワイヤーを振るい光線を逸らす。

 

「対十字教用の術式を組み込み中……第一式、第二式、第三式。」

 

 あと二メートル、ステイルが魔女狩りの王で光線を抑える。

 

「命名、『神よ、何故私を見捨てたのですか』完全発動まで十二秒」

 

 あと一メートル、球磨川の右手に()()()()()()

 

「まずい────上だ!」

 

 ステイルくんの叫び声を横目に上を見上げればひらひらと純白の羽が降り注いでいる。

 

 魔術の使えない僕にだってそれが当たればどうなるか理解出来る。これを先に何とかしなければ僕は無事で済まないだろう。それでも()()()()

 

 螺子をインデックスの胸に突き刺し叫ぶ、

 

『大嘘憑き!! インデックスちゃんの【自動書記(ヨハネのペン)】を無かったことにした!!』

 

 瞬間、光の柱も、黒い亀裂も、その奥の魔法陣も、サラサラと砂になるように消えていった。あまりにも呆気なく。

 

「──────警、こく。最終……章。第、零────……。『 首輪、』致命的な、破壊……再生、不可……消」

 

 

 

 プツンとインデックスちゃんの声が消えた。この羽ってインデックスちゃんに当たって大丈夫なのかな?

 

 分からないけど、分からないことばかりだけど、これだけは分かる。

 

「はぁ、また勝てなかった」

 

 僕の頭にひらひらと落ちた純白の羽が、僕の不幸を笑っている気がした。

 

 

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