「ま、つまるところ君の頭には後遺症が残るわけだね?」
カエル顔の医者はベッドから身を起こす彼に言った。
『はぁ』
「もしかしてピンと来てないね? 正直、このダメージで生きていることが不思議なくらいなんだけどね?」
『ははっ、僕にしては珍しく運が良かったんですかね』
「今回は僕がいたからたまたま何とかなったんだよね? 次以降にこんな怪我したら死ぬと思った方がいいんだよ?」
『あはは、ありがとうございます
へらへらと笑う。
「はぁ、僕も患者のためなら最善を尽くすけれど、一番いいのは患者が出ないことなんだけどね?」
「まあ君の怪我は今に始まったことじゃない、そろそろ君に出る症状を説明しようと思うね?」
いつも通りのヘラヘラした態度に呆れながらも説明に入ろうとすると、病室の外からパタパタと近づいてくる足音がした。
「その前に君と話をしたい子がいるみたいだね?」
ガラッと大きな音を立てながら扉が開く。
「
『おはよう、
「無事でよかったんだよ!」
『無事も無事さ、この程度の怪我ならあと3回はできるね。死なないことだけには自信があるんだ』
ふふんと得意げな顔で胸を張る球磨川。
「いや、普通に死ぬからね?」
対照的に呆れた顔で言う冥土帰し。
『(笑)』
2人のやり取りを見て泣きそうな表情になるインデックス。
「ほんとのほんとに死なないで欲しいんだけど……?」
「みそぎが死んじゃったらってずっと心配してたんだよ……」
球磨川にしては珍しくワタワタと慌てながら宥め始める。
『ああ、ごめんごめん。インデックスちゃん、冗談だよ。冗談。僕は絶対死なないから安心して? 必ず約束するから、ほら泣かないで?』
「うん……絶対絶対やくそくなんだよ」
「ははっ、君たちは本当に兄妹みたいなんだね?」
閑話休題
「さて、そろそろ話を戻そうかな?」
和やかな空気の中、緊張感を取り戻すように口を開いたのは冥土帰しだった。
心苦しいことではあるが、と前置きをし話し出す。
「君の頭に残る障害は能力の行使に少し影響を及ぼすことになるね?」
「脳の中で
重々しく冥土帰しの口から語られる事実に当の球磨川は飄々とし、インデックスは顔を青ざめながら聞く。
「そしてもうひとつ、これは君自身から話してもらいたいところでもあるんだけど……」
『?』
冥土帰しから振られるも全くピンと来ていない顔で首を傾げる球磨川。
「うん? 惚けたって無駄だよ?」
「君、記憶ないよね?」
直接聞かれると、やっとピンと来たような表情をして答える。
『ああ、そのことですか? 正直……』
ニコニコともったいぶる球磨川に心配と不安に表情を染めたインデックスは続きを待つ。
「正直……?」
『正直……』
「正直……?」
『正直……』
実に3回のタメに遂に耐えきれなくなったインデックスは声を上げた。
「ちょっと長いんだけど?」
「本当にほんとに心配してるんだけど……! もったいぶらないで欲しいかも!」
『ごめんごめん、シリアスにちょっと耐えきれなくなっちゃった』
『正直なところ、説明が難しいんだよね』
『なんと言うか、ところどころ記憶が
『虫食いがすごい? 感じかな』
球磨川の説明に眉をひそめながら聞いていた冥土帰しが疑問を口にする。
「それは、おかしいね?」
「君の脳細胞の1部は使い物にならないほどズタズタになっていたんだけどね?」
頭に? マークを浮かべる球磨川とインデックス。
「つまりだね? 君は虫食いどころか
「はぁ、本来なら失ってるはずの記憶を虫食いとは言え残してるというのは良いことでもあるけど、記憶がある原因が分からない以上恐ろしいことでもある」
「症状の悪化で全ての記憶を失うかもしれないからね?」
冥土帰しの圧力に気圧され表情を暗くするインデックス。記憶力が良い分、鮮明に思い出される球磨川の優しさや家族のように過ごした時間。球磨川の顔に映し出される感情は後悔や絶望か。罪悪感と恐怖心から俯いた顔を上げることが出来ない。
そして、球磨川は言った。
『ま、そういうこともありますよね』
『
「どうして?」
『ん?』
「どうしてみそぎはそんなに普通にできるの?」
心からの疑問だった。
『どうしてって言われてもなぁ』
少しの逡巡の末に球磨川は言った。
『理由なんてないよ、僕はいつだって不幸《マイナス》だからこういう
『それにさ』
「インデックスちゃんを守れたんだ。こんな結果も悪くない。もっと言うなら、君も僕も悪くない。そうだろう?」
その顔は一切の偽りない正真正銘心からの笑顔だった。
後日談。というか今回のオチ、なんだよ。
あの後、括弧を外したみそぎはすっごくかっこよかったし、ほんとにほんとの意味で私を救ってくれた。モヤモヤが完全に晴れたわけじゃないけど、みそぎは私を救って守ってくれた。これから私がみそぎのために出来るのは、その恩に酬いることだと思ったんだよ。
そこまでは良かったんだけど────
すっごくかっこよかったみそぎは頭から血を噴いて手術室に戻って行ったんだよ……。正直締まらないかも。でもそんなみそぎも
それから私はみそぎの身体の話を詳しく聞いたり、かおり達が残していった手紙を読んだり。そんなこんなでみそぎの退院日が来た。
病院からの帰り道。
『いや〜今日も暑いね』
「そんな真っ黒な格好してたら暑いのも当然なんだよ?」
『あはは、全くもってその通りだね』
はははと互いに笑いあい、二人の間に流れる沈黙。意を決したように声を上げたのはインデックスからだった。
「────みそぎ!」
『なんだい? インデックスちゃん』
「責任、取るんだよ」
『責任?』
突拍子も無い言葉に驚き復唱した。もしかして忘れているだけで、インデックスちゃんに何かしていたんだろうか。責任という言葉に心当たりの無い球磨川は考える。しかし、やはり答えが出ないので直接続きを聞くことにした。
『責任って言うのは?』
「私がみそぎを傷つけてしまったことに、だよ」
深刻な面持ちで言葉を紡ぐ。
「私は、みそぎに消えない傷を負わせておいて、いけしゃあしゃあと幸せです。なんて顔出来ないんだよ」
『はぁ』
「だから、私がみそぎの
『???????』
正直、意味がわからなかった。なぜならインデックスは既に
『インデックスちゃんが責任を取る必要なんて1つもないと思うんだけど?』
球磨川の言葉を意に介さず、いや! と声をあげると反論しだした。
「みそぎは優しいから私も悪くないって言ってくれたけど、私にだって責任があるんだよ!」
「聞いたんだよ、みそぎの記憶力が下がるって話を」
『そう言えば、そんなことも言われた気が?』
「ほら! もう既に若干出てるんだよ!」
『えぇ』
鬼の首を取ったように叫ぶインデックス。
「そこで考えたの、私はこの完全記憶能力をみそぎのために使いたいんだよ!」
『なるほどね?』
「だから私はみそぎの人生を記録する
必死にプレゼンをするインデックスを前にう〜んと悩む声を上げる球磨川。もう一押しとばかりにインデックスは言葉を続けた。
「その、みそぎがどうしてもって言うなら、全開パーカー? って言うのもやって……」
『契約を結ぼう』
顔を赤らめながら言うインデックスの手を握り、食い気味にキメ顔で答える
「むぅ、薄々気づいてたけどみそぎってもしかして変態なのかな?」
『変態とは失敬な! 僕は全然変態なんかじゃない至って健全な青少年だよ? インデックスちゃんみたいに魅力的な女の子からの提案を受けないわけないだろう?』
インデックスは魅力的という言葉に反応して満更でもなさそうな表情を浮かべる。
「えへへっ、それほどでもないんだよ! 確かに私は魅力的で! 大人な! レディーだけどね!」
えへんと無い胸を張り、ドヤ顔で語るインデックス。
それを横目に球磨川は少し前に出ると仰々しく芝居がかった口調と動きでインデックスの手を取った。
『それではレディー? 本日の昼食は何にいたしますか? なんでもご用意致しますよ』
「ふふっ、苦しゅうない! 今日はみそぎが食べたい物が食べたい気分かも!」
『ではあちらの店にでも────』
太陽の照りつけるアスファルトの上、手を繋いだ黒い少年と白い少女。二人が交差する時、物語は始まった。
お疲れ様です。作者です。
これにて原作1巻分は終了です。とんでもない亀更新申し訳ないです。
読んでくださる皆様には感謝の極みでございます。
1巻までの内容がやっと終わったところですが、前話までの内容はより良い展開が思いついた時点で変更される可能性があります。
皆様に楽しんでいただけますよう、精一杯頑張りますので、これからもよろしくお願いします。