とある敗者の敗北宣言   作:かつおのたたき

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御坂妹

 日が沈み出した夕方、大量の缶を両手に抱える御坂をお姉様と呼ぶ声に振り返る。

 

「こんばんは、お姉様。と見知らぬ男性。とミサカは両手に抱える缶飲料に疑問符を浮かべながら挨拶をします」

 

『こんばんは、御坂ちゃんの妹さん?』

 

「はい、妹です。とミサカは食い気味に同意します」

 

 妹と言うにはあまりに似すぎている2人を見比べ球磨川は言った。

 

『君たちそっくりなんだね? 見た限り、スリーサイズまで同じだと見える』

 

「同質の遺伝子ですから当然です。とミサカはパッと見でスリーサイズが分かるあなたの観察眼に恐怖を覚えつつ回答します」

 

『へ〜、双子なんだ?』

 

『でも同じ御坂なら一人称がミサカなのっておかしくない?』

 

 もっともな疑問である。

 

「ミサカの名前はミサカですが、とミサカは即答します」

 

『なるほどね?』

 

 正直納得いかない所はあるが、まぁ一人称が変わってる人なんてそこら中にいるだろう。と結論づけて球磨川は無理やり納得して質問を続ける。

 

『好きな言葉は?』

 

「特にありません、とミサカは即答します」

 

『御坂ちゃんのことは好き?』

 

「お姉様のことですか? とミサカは質問に質問を返します」

 

『そ、御坂ちゃんのことは好き?』

 

「もちろん、好きです。とミサカは質問の意図を理解できないまま答えます」

 

『仲はいいんだね』

 

「この質問攻めの意図が知りたいのですが、とミサカはこの人めっちゃミサカのこと質問してくるな? 面接か? と違和感を覚えながら回答します」

 

『いやいや、御坂ちゃんの妹さんに会えてテンション上がっちゃってね。今日は何しにここまで来たんだい?』

 

「先程、ミサカと同等の能力を半径600mの領域で感知したので気になって見に来ました。とミサカは懇切丁寧に質問に答えます」

 

『御坂妹ちゃんは御坂ちゃんと同じ能力を持ってるんだね。双子だから当然なのかな?』

 

「御坂妹、とは? とミサカは疑問を口にします」

 

『御坂ちゃんとミサカちゃんじゃ被るだろう? だから御坂妹ちゃんって呼ぼうかな、とね』

 

 こんな調子で10分ほど質疑応答を続けていると、球磨川はあることに気がついた。普段なら球磨川と同等くらいには喋る御坂が、いやむしろ黙っていることが苦手な方であるはずの御坂がいやに静かだった。

 珍しいこともあるものだと思いつつ球磨川が表情を伺おうとすると御坂が声を荒らげた。

 

「あんた、なんでこんな所にいるのよ!」

 

「研修中です。とミサカは簡潔に答えます」

 

『はぁ、風紀委員(ジャッジメント)かなんか? 大変だねぇ』

 

『僕も頻繁に風紀委員にはお世話になるからね、お勤めご苦労様です』

 

 仰々しく敬礼をする球磨川。もちろんお世話になると言っても物探しをしてもらったとかそういうことではなく、シンプルに通報されたり補導されたりである。

 

 御坂は、こいつが風紀委員のお世話に? 絶対ろくな事じゃないわね。と思う気持ちを押し殺し、とりあえず同意することにした。

 

「そうそう、そうなのよ〜この子風紀委員なのよ、ほらあれよ大変なのよね〜? ね?」

 

「そういうことだからちょっとお姉様とお話しましょう? あっちで、ね?」

 

「は? いえ、ミサカにもスケジュールがあります、と───」

 

「いいから、きなさい」

 

 球磨川は御坂妹への言葉に何か得体の知れない感情が篭っているようになど一切感じず。あー複雑な家庭なのかな? 程度に捉えていた。

 

「あー、じゃあ私たちこっちの道だから。あんたも気をつけて帰んなさいよ」

 

 そう言うと御坂は御坂妹に無理やり肩を組み、去っていった。

 

『ま、色んな家庭があるよね』

 

 

 


 

 

 さて、日が沈みゆく夕方。夕日に真っ赤に照らされた球磨川は両腕に缶ジュースを抱え、ヨタヨタと帰宅していた。

 

 公園で少し飲み、減らしたものの、依然19本の缶ジュースが残っている。1本350mlであるから重さにして約6.65kgほど、チリツモよろしくまあまあな重量である。

 

 缶を19本も両手に抱えて帰らなきゃ行けない現実に珍しく表情を歪める球磨川。面倒だな〜というか持ち上げられるかな? これ、と思いつつチャレンジしてみるもあえなく撃沈。それはそう。

 

 ベンチの前、そこら中に散らばったジュースを拾い集めようと球磨川が背中を丸めしゃがみこむと球磨川の上に影が差す。

 

(『だれかいる?』)

 

 球磨川が顔を上げると目の前には、御坂美琴にしか見えない少女が立っていた。

 

『あれ、()()()ちゃん。御坂ちゃんはどうしたんだい』

 

 一目で御坂美琴と御坂妹を見分けられるのは球磨川くらいなものだろう。球磨川からすれば双子であろうと生き方が違う以上、御坂美琴と御坂妹の保有する弱点もまた別物。弱点を見て人を判別する、というのは特殊ではあるが球磨川らしいと言える。

 

 御坂妹は球磨川からの質問に対して、表情を変えないまま頭にハテナマークを浮かべながら、あちらから来た。と向こうの通りを指さす。

 

『? まあいいや、時間があるならこれ運ぶの手伝ってよ』

 

「良いですよ、とミサカは頼りになる細い腕を見せつけます」

 

 御坂妹がしゃがみこむと、短いスカートを気にしていないせいか、スカートの合間から白と青の縞柄がちらりと覗き込んでいる。

 

『御坂妹ちゃん、パンツ見えてるよ』

 

「むっ、そういうタイプの変態だったのですね。とミサカは軽蔑しつつスカートを手で押えます」

 

『いやいや失敬な、僕は変態じゃない立派な紳士だよ?』

 

「変態はみんなそう言う、とミサカは軽蔑の目を向けパンツを見た事を非難します」

 

「はぁ、まあいいです。これはどこまで運べば良いのでしょうか、とミサカは露骨に溜息をつきつつ問いかけます」

 

『ここから僕の家まで五分だし、そこまで頼むよ』

 

「了解しました、とミサカは両手いっぱいにジュースを抱えながらいい返事をします」

 

 同じカタチのビルが建ち並ぶ殺風景な場所だが、風力発電に最も適してるらしい。球磨川がまともにそんなことを知るわけもないが。

 

 幅2m程度の狭い路地を抜け、ボロボロの入口を抜ける。そして今にも壊れそうなオンボロエレベーターに乗り込み七階のボタンを押す。

 

 キンコーン、と安っぽい音を鳴らして七階に着いた。

 

 球磨川の寮は長方形なため、扉が開けば目の前は真っ直ぐな廊下になっている。よく見ると家の扉の前でインデックスが何かをしているのが見えた。

 

『ただいま、インデックスちゃん。スフィンクスと何してるんだい?』

 

「あ、みそぎだ。おかえり────ってまた知らない女の人を連れてるんだよ」

 

『またとは人聞きが悪いね』

 

「もう、みそぎはすぐ知らない女の人を連れてくるんだから! この前も────」

 

『その時のことは謝ったろう?』

 

「むぅ」

 

『ほら、これあげるからもう怒らないで』

 

「もう別に気にしてないけど! ジュースは貰うけどぷるたぶは嫌い! みそぎ、ジュース開けて!」

 

『仰せのままに、お姫様』

 

「ありがと!」

 

 球磨川から貰ったジュースを飲み、機嫌を少し治すと何をしていたか説明しだす。

 

「今はスフィンクスに付いてたノミを取ってたんだよ」

 

『ノミ?』

 

「一般的に節足動物門昆虫綱ノミ目に属する昆虫の総称です。とミサカはWikipediaに書かれているような知識をひけらかします」

 

『もちろん布団には入れてないよね?』

 

「うーん、言いづらいけど……」

 

『……おーけー、そういうこともあるよね』

 

 いつも通りの笑顔ながらも心做しか肩を落とす球磨川。

 

『にしてもノミか〜、薬買ってこようか?』

 

「ふふん! 秘策があるんだよ!」

 

 そう言うと懐から葉っぱを取り出す。

 

「これに火をつけて煙で燻すんだよ!」

 

 胸を張るインデックスに球磨川はため息をつく。

 

『はぁ、猫だって生き物なんだから煙にさらしたら可哀想だよ』

 

「そう言われればそうかも……、でもどうすればいいか分からないんだよ」

 

 ガックシと肩を落とすインデックスを前に、御坂妹はやれやれと肩をすくめる。

 

「ふむ、要は猫に危害を加えずノミが取れれば良いのですね? とミサカは確認を取ります」

 

『そうできるなら1番だけど、どうやって?』

 

「こうやって、とミサカは即答します」

 

 御坂妹が三毛猫に手を翳すと、静電気のような大きな音と共に三毛猫の体毛からパラパラとノミの死体が落ちた。

 

「特定周波数により害虫のみを殺害しました。部屋の方は市販の煙が出るタイプの殺虫剤をおすすめします。とミサカは迅速な仕事と的確な助言を繰り出しクールに去ります」

 

 御坂妹は感謝の言葉も聞かずクールに去ってしまった。

 

「みそぎ、あれこそがパーフェクトクールビューティーってやつなんだよ」

 

『インデックスちゃんにも少し見習って欲しいかな』

 

 はぁ、とため息をつきながら布団のノミをどうしようかと考える球磨川だった。

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