風が吹き荒ぶ鉄橋、その手すりの上に少女──
その背後に、一人の少年が現れた。
『やあやあ美琴ちゃん!』
「……名前で呼ばないで。こんな時間に何してんのよ」
『いや、別に?』『散歩がてらに君の妹さんの実験を止めようとしてるだけだけど』『もしかして君を心配してここに来たとか勘違いしちゃった?』
半笑いで小馬鹿にするような言葉にイラつく程の元気も今はない──と思ったところで御坂は気づいた。
「……妹の実験って何の話?」
『それは君が1番知っているだろう?』『しらばっくれるのはいいからさ』『実験の場所だけ教えてくれない?』
「私は、知らないわ」
『えー』『知らないわけないだろう?』『というか早くし
バチッ、御坂から発された電撃が球磨川の足と言葉を止める。
『危ないなぁ』『こんなの食らったら僕、死んじゃうんだけど』
「それが嫌なら引き返すことね、今は手加減できる気がしないの」
バチバチと電流を迸らせながら御坂が言った。
「あんたがどこでその話を聞いたのか知らないけど、
『アイツ?』
「これから引き返すあんたには関係の無い話ね」
御坂は球磨川を拒絶するように、コインを握った手を球磨川へと向ける。その構えは御坂美琴の真骨頂、
誰よりも努力を重ねた。その努力に自信を、その自信に誇りを持っていた。
故に、必殺。
故に、最強。
その技を向けられるということがどういうことか、誰もが理解できるだろう。
『やめてよ御坂ちゃん。そんなに露骨に拒絶されると、君を助けたくなっちゃうじゃないか』
この学園都市に生きる、ただ一人を除けば。
「……どういう状況か理解していないの?」
『何が? 君が
「私は今、あんたに銃口を向けているようなものなのよ?」
信じられない物を見るような目で球磨川を見る。この状況を前にして、LEVEL5と相対していながら余裕を崩さない表情。いけしゃあしゃあと助けるなどと言ってのける姿勢。
今ここで死んだっておかしくないのに、私よりも弱いのに───その事実が御坂を更に苛立たせる。
「本当に、バカ言わないでちょうだい。私が指先を動かすだけで、あんたは死ぬのよ? 私にすら勝てないあんたが……アイツに、
御坂から絞り出された、悲痛な、悲鳴のような叫びを聞きながら球磨川はその笑顔を崩さない。悲劇を、惨劇を、その全てが喜劇であると嗤うように、嘲笑うように、表情を変えない。
御坂の言葉を聞いた球磨川は、ただ一言。
『撃て』
瞬間、その場に響く爆発音。球磨川がいた場所でピンポイントに起こった爆発。
特別なことは無い。ただ御坂の手から音速の3倍の速さでコインが放たれた。そしてそれを球磨川に防ぐことは出来なかった。それだけの話だった。
後悔してももう遅い。既に手元を離れたコインを止めることは御坂にも不可能なのだ。
「そんな…こんな、つもりじゃ……」
御坂から放たれたコインはただでさえ弱い球磨川の肉体を砕き、弾き、その命を散らせた。人の肉が焼ける臭いがする。前を見ることが出来ない、その現実を直視することが出来ない。御坂は体の奥から込み上げてくる嗚咽を必死に抑えることしか出来なかった。
「私が…また…殺したんだ…」
御坂は球磨川禊だった物体の前で下を見て震えるばかりだった。風の音が嫌に大きく聞こえる。
自分はこれから死ぬのに、意味もなく人を殺めてしまった。そんな言葉ばかりが頭の中で空虚に響いている。
『その通り!』『君が殺したんだ』
その声を聞き、御坂が顔を上げると何も無かったかのように球磨川が立っていた。
「なん…で?」
『誰かがコインを入れたみたいだね』
「あんたは、確かに死……」
死んだ、という言葉を嗚咽が止める。
『……あ』『君の飛ばしたコインと掛けてるんだよ?』
理解不能、意味不明、死んだはずの男が立っている。
『で、教えてくれるかな?』『御坂ちゃん』
「……教えられない」
『………』『オーケー、やり方を変えよう』
球磨川はそう言うと地面に突き刺した螺子に腰掛けた。
『君がどうやって実験を終わらせるつもりかは知らないけど』『僕が協力してあげるよ』
「協力…?」
『そう! 協力!』『君は実験を終わらせたい、僕は実験を潰したい』『目的は一致してるんだから協力しようぜってわけ』
「でもあんたが戦う理由は……」
『あるよ』
球磨川は断言した。
『あれのせいで僕はしばらくトマトが食べれない』『買い込んだばかりなのに』
想像以上にくだらない理由に御坂は思わず困惑してしまう。
「えぇ……」
『僕はこう見えて繊細な男の子なんだぜ』
「……あんたほど繊細って言葉が似合わないやつも居ないわね」
少し余裕を取り戻した御坂を見て球磨川はいつものように笑顔を浮かべながら言う。
『君に見せてあげるぜ』『