とある敗者の敗北宣言   作:かつおのたたき

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結局のところ、初投稿ってわけよ!


同じだけど違うもの

「つまり、箱庭学園という学校がある世界に存在してた球磨川ちゃんと、この学園都市にいる球磨川ちゃんの記憶が混ざったってことですか?」

 

『まあだいたいそんな感じです! さすが先生! 理解が早いですね!』

 

「球磨川ちゃんがちゃんと質問に答えてくれてたらもっと早かったのですよーっ!」

 

 呑気にお茶を啜りながら言ってのける球磨川に、小萌は疲れた様子で叫ぶ。

 

 それもそのはず、やっと聞けた問題の答えは、いまいち的を得ないものであり、その的を得ない解答から本当の答えにたどり着くまでに数十分もの時間を費やしたというのに、理解が早いなどと言われて喜べという方が無理な話だろう。

 

「はぁ、まあいつも通りみたいで安心したですよ……。それで、球磨川ちゃん個人に記憶以外で大きな変化などは起きたのですか?」

 

 少し呆れた様子でため息をつくと、球磨川の様子を心配するように顔を覗き込み言った。

 

「記憶に大きな変化があったなら、球磨川ちゃんの精神に何かあってもおかしくないと思うのですよ」

 

 深刻そうな顔で小萌が言うと、球磨川はヘラヘラと笑いながら言う。

 

『やだなー、月詠先生ったら、僕は過負荷の中の過負荷である球磨川禊ですよ! 精神に異常なんてとっくの昔にきたしてますよ!』

 

「そんなはずはないのですよ……!」

 

『?』

 

 小萌からの否定に対して、球磨川が首を傾げると、小萌は少し身を乗り出しながら言った。

 

「先生の目は誤魔化せないのですよ! 球磨川ちゃんは気づいてないみたいですが、さっきから球磨川ちゃん、普段よりも()()()()()()()じゃないですかっ!」

 

「先生がこんな球磨川ちゃんを見るのは初めてです! 先生、そんな辛そうな球磨川ちゃんなんて見たくないのですよ……! こういう時くらいは括弧つけずに、格好つけずに、球磨川ちゃんのことを教えて欲しいのです……!」

 

「それとも先生のこと、信用できないですか……?」

 

 シュンとしながら上目遣いで聞いてくる小萌に、さすがの球磨川でも、無視することは出来ず、口を開いた。

 

『参ったな、そんな顔で言われたら』

 

 少し困ったようにそういうと、球磨川の雰囲気が一変した。

 

「括弧つけるわけにはいきませんね、月詠先生」

 

 括弧を外した球磨川は居住まいを正すと、自分の括弧つけない本音を話し出した。

 

「僕、人生で1度も勝ったことがないんです」

 

「僕の人生はいつだって敗色(灰色)で、奇跡なんて起こらないし、努力に意味は無い、そんな人生だった」

 

「それは、箱庭学園の僕だって例外ではなかったんですよ」

 

「そういう、敗北ばかりで、やられ役で、弱くて、何もかもに勝てないような僕でも、箱庭学園の僕は勝てたんです」

 

「勝った記憶の中の僕は、とても幸せそうで、こんな僕でも勝って幸せになれると思ったら感動しちゃいました」

 

 泣きだしそうなくらい必死な顔で球磨川は言葉を続ける。

 

「でも、その勝利は学園都市に住む僕の勝利を保証するものじゃないでしょう?」

 

「箱庭学園の僕には、こんな不幸で不運な僕でも、幸せだって言えるくらいの仲間に恵まれてました……」

 

「でも! 学園都市に住む()()()には、素晴らしい仲間なんていないんですよ……!」

 

 普段の球磨川からは想像できないような表情で本音を吐き出していく。

 

「箱庭学園の僕には、勝ちたいと勝てるはきっと同じだって言ってくれる人外もいました」

 

「でも、その言葉だって学園都市の球磨川禊に向けた言葉じゃない」

 

「この世界に、僕が勝てると思ってる人なんて1人だっていないし、僕の勝利を信じる人はいない」

 

勝てない球磨川禊(学園都市の僕)勝てた球磨川禊(箱庭学園の僕)()()なんですよ……」

 

 球磨川が括弧付けずに本音を吐き出すと、小萌は球磨川に近づき手を握ると、全てお見通しだと言うように優しく言った。

 

「先生はわかってるのですよ? 球磨川ちゃん」

 

「球磨川ちゃんの言いたいことはそれだけじゃないですよね?」

 

 小萌の背中を押すような優しい言葉を聞き、球磨川はダムが決壊したかのように涙を流しながら叫ぶように言った。

 

「別物だからこそ! この僕でも! 学園都市の球磨川禊でも勝てるって証明したい! 例えどんなに無理だと思っても! 無理だと思われても! 最後には必ず勝てるって! 僕という弱者の勝ち(価値)を証明したい! 僕が勝てるわけないって笑ったやつを笑い返してやりたい! 僕の勝利をまぐれだって言うやつらにまぐれなんかじゃないって証明してやりたい!」

 

「僕だって勝ちたい!!!」

 

 球磨川がその本心を叫ぶと、小萌はその小さな胸に球磨川の頭を力強く抱き寄せ、思いの籠った強い声で叫ぶ。

 

「よく言ったのですよ球磨川ちゃん! 球磨川ちゃんはとっても強い子です! 先生は球磨川ちゃんの強さを信じてます! いつだって弱い者の味方ができる球磨川ちゃんは間違いなく強いのです!」

 

「それでも! どうしても不安だって言うのなら! その人外さんの代わりに先生が言ってあげるのですよ! 勝ちたいと勝てるは絶対同じです! 球磨川ちゃんが勝ちたいと思いながら戦い続けるなら! いつかは必ず勝てます!」

 

「先生が保証しちゃいます!!」

 

 小萌が力強く叫ぶと球磨川は小萌から離れ、素の笑顔を見せながら言った。

 

「ありがとうございます。()()()()

 

「っ! やっと小萌先生って呼んでくれましたね!」

 

 小萌が感極まっていると、括弧をつけ直した球磨川は、しんみりとした空気を吹き飛ばすようにテンション高く言った。

 

『さぁさぁ小萌先生! もう夜も遅いですから早く夕飯食べて寝ちゃいましょう! 夜更かしはお肌に悪いですからね!』

「はいはい、わかったのですよー球磨川ちゃん! おっとその前に一服させてくださーい!」

 

 なんだかんだで楽しい球磨川との生活に小萌も充分に満足しているようだった。

 

 

 


 

 どこかの路地裏──

 

 暗く、ジメジメとした路地裏を真っ白な修道服を着た銀髪のシスターが何かから逃げるように、走っていた。

 

「やっと撒けたんだよ……」

 

 息を切らし立ち止まると、落ちているゴミ袋に倒れ込む。

 

 

 

 

 魔術と科学が交差する未来もそう遠くはない




こんな感じでプロローグ終わりです。
プロローグ感はないし安心院さんの目的もわかりませんがこれから先に恐らく分かります。

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