英国式修道服の下には下着を着けない
7月20日、朝
つい先日に一人暮らしを始めた球磨川禊には少し広く感じる部屋。
なんだかんだで小萌に思いの丈を吐き出してから一年が経っていた。約一年程度を
そんな球磨川も今年で高校三年生。箱庭学園の記憶を得たのが高校二年生の時分であったから現在は高校三年生の夏休みが始まったばかりである。
普通の高校三年生であれば受験勉強の一つも始めている時期であろうが、そこは何時だってギリギリで世界に生かされている球磨川。全くしていない、なんなら高校三年生にして夏期補習がある。普段の球磨川であれば適当に流して行くのを誤魔化すだろうが今日はそうもいかない、何よりもお世話になっている小萌先生が球磨川禊のためだけに行ってくれる補習なのだ。
小萌先生がマジ泣きしながら「禊ちゃん!! 本当に来てくれないと卒業できないのですよ!! お願いだから来てほしいのです!!」なんて言った日には、いかに
『というか、そんな良くしてくれる先生の気持ちを無下にするって過負荷というか人ですらないよね』
球磨川が一人そんなことを呟きながら黒い学ランを羽織ると、ベランダから「ドンッ」という音とか細い声が聞こえた。
『うわっ、なんの音?』
少し驚きながらもベランダの窓を開けると、そこには銀髪に白いシスター服を来た少女が干されていた。
『????』
困惑の表情を浮かべ、かける言葉に迷っている球磨川に対し、窓を開ける音に気がついた少女は一言。
「お腹へった」
「おなかいっぱいご飯を食べさせてくれると嬉しいな!」
この異常事態の中、困惑の表情を浮かべる学ラン姿の少年相手にそんな図々しい要求が出来るものだろうか。否、何も図々しくは無い、彼女はシスターらしく教えである「汝、隣人を愛せよ」を実践しているだけなのだ。彼女が家主側であれば腹を減らした者がいれば迷いなく食事を与えている。故にこの発言は何らおかしいものではないいやおかしいだろ。であれば問題は球磨川禊が宗教とか神とかそういうものを一切信じていないことのみであった。
ここまでの生涯で通算0勝、戦績表は黒星一色であり間違いなく神の加護だとか寵愛を受けていることは無い。そもそも神とかいう偉そうで無条件に価値がある存在を球磨川禊は好きではない。所詮は人の妄想でしかないと思うし、それを信じることが出来ない球磨川の中では正しく意味の無いものなのだ。
だが球磨川とて鬼ではない、最低最悪だが鬼畜野郎では無いのだ。いつだって弱者や愚か者の味方である球磨川なら、こんな時に何を言うかは火を見るより明らかだろう。
『まあ、入りなよ』
彼はキメ顔でそう言った。
球磨川の用意した焼きそばを完食し一息ついた少女は
「まずは自己紹介をしなくちゃいけないね」
そう言うと姿勢を正して話し出した。
彼女の言うことは端的に纏めるとこうだった。
【彼女の名前はインデックスである】
【イギリス清教のシスターである】
【彼女は10万3000冊の魔術書を狙う者に追われている】
様々な経験を積んでいる球磨川禊と言えども理解には少しばかりの時間がかかった。魔術などという荒唐無稽なオカルト話を「はいそうですか」と信じられるほど球磨川の頭は柔らかくはない。
『インデックスちゃん、魔術(笑)なんて存在するわけないだろう? ごっこ遊びであんな所に引っかかっちゃダメだぜ? 危ないんだから』
『人なんて、案外簡単に死んじゃうものなんだからさ』
球磨川が優しく諭すようにそう言うとインデックスは言った。
「ごっこ遊びじゃないよ、ほんとに魔術はあるもん」
『はぁ、そう言うなら使ってごらんよ』
少し呆れた表情で球磨川が促す、すると少し口をとがらせながら言った。
「わ、私は使えないもん、魔力が無いから」
『ふーん、じゃあ申し訳ないけど信じられないね、何よりここは天下の学園都市だぜ? 科学の最先端にある街で魔術って(笑)』
「むぅ! 魔術はあるったらあるんだよ! そもそも
『そんなこと言われたって、ねぇ?』
ムカつく笑顔でそう言う球磨川を横目に何かを思いついたインデックスは台所から包丁を取りだした。
「わたしのこと刺してみて」
『??????』
突拍子もなく殺人の提案をするインデックスを前に、いかにもパンダみたいに目を白黒させる球磨川。
「この
胸を張って包丁を押し付けようとしてくるインデックスから包丁を受け取りつつ呆れたように言った。
『はぁ、いいかいインデックスちゃん? この学園都市においても殺人なんてのは普通に犯罪なんだぜ? まさかとは思うけど、まだまだ先の長い僕の人生を暗い監獄で過ごさせるつもりかい?』
『でもそこまで証明したいって言うなら仕方ない、こっちで刺そう』
するとどこからか取りだした
『ちょっとくらい怖い思いをしたって』
『僕は悪くない』
インデックスの身長程もある細長い螺子を躊躇いなく刺した球磨川は悪びれもせず言った。
『どうだい? 今の気分は』
突き刺され少しぐったりとしたインデックスは答える。
「ちょっとびっくりしたけど全然痛くないよ、少し体が重いくらい! ほらね? 魔術はあるんだよ!」
『……なるほどね』
想定していた返答との違いに驚愕を顔にしながら球磨川は答える。
『うん、君の魔術のことは信じるよ』
急に手のひらをかえす球磨川に驚きながらも胸を張りインデックスは言った。
「ふふん! 信じてくれたならいいんだよ!」
『じゃあちょっと失礼するよ』
そう言いながら球磨川が右手を翳すと、螺子が消え、それと同時にバサッという音が鳴る。
『……ふっ』
「……!」
驚きが一周回って落ち着き、つい笑ってしまう球磨川、自信ありげな顔から一転、頬を真っ赤に染めるインデックス。
何が起こればそんな状況になるのか、一言で言うのなら、
プルプルと震えるインデックス、自分の死を知覚した球磨川は気丈に言う。
『インデックスちゃん、一つだけ言わせてくれるかい?』
『また勝てなかっ……』
言い切る直前
ガブッ! そんな音がした。
『インデックスちゃん、悪かったよ』
『まさかバラバラになるとは思わなかったんだって』
噛み傷にまみれた球磨川は申し訳なさそうにヘラヘラと謝りつつも今起こった現象に関する考察を始めた。
(『う〜ん、僕がなかったことにしたのは僕の刺した
自分で起こした事故に責任を取らず、変なところで意思を尊重する。普通であれば即座に直すことを提案するであろう局面で、まぁいっかを選択出来る男。それが球磨川であった。
『さて、インデックスちゃん。僕はもうそろそろ時間が無いから学校に行くけど、君はここに残るかい? なんなら学校まで着いてきたっていいんだけど、どうせ小萌先生と2人きりだし』
それを聞いたインデックスは家を出る準備をしながら言った。
「ううん、遠慮しとく。ここに居るといつ敵が来るかも分からないしね」
「ごはん、ありがとうね」
儚げな笑みを浮かべながら言い切ると去ろうとする。
『いいのかい? インデックスちゃん、追われてるって言うならこの部屋に隠れてたっていいと思うんだけれど』
「だめ、不幸になるよ?」
『不幸になるなんて日常茶飯事だよ』
球磨川が即座にそう返すと、少し諦めたような表情でインデックスは言った。
「私と一緒に地獄の底まで着いてきてくれる?」
『もちろん』
「ふふっ、嘘つき」
そんな問いにも即座に返す球磨川、そんな球磨川を嘘つきと言ったインデックスはどこか寂しそうな表情を浮かべる。見透かすような目を前にバツの悪そうな顔をする球磨川とインデックスの間に流れる微妙な空気。そんな沈黙に支配された場に、突如近づいてきた複数の機械音に驚き飛び退くインデックス。
「うひゃっ! なんか変なのが出てきてる……!」
『ははっ、驚きすぎじゃない? ただの掃除ロボだよ』
「へぇ、日本は技術大国って聞いてたけど、
走る掃除ロボの最後の一体が去っていくのを見届けると、インデックスは走り出した。
『あっ、インデックスちゃん! この先1人でどうするつもりなんだい!』
「だいじょーぶ! 教会にまで逃げ切れば匿ってもらえるはずだから!」
嵐のように過ぎ去って行ったインデックスの背中が見えなくなると、球磨川は部屋に戻った。
『あら、インデックスちゃんたら、忘れ物してるじゃないか』
そう言うと忘れられたフードを鞄に詰め、補習のために小萌の待つ教室に駆け出して行った。
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