(『さて、どうしたものか』)
球磨川が最初に考えたのは意外にもこれからの事だった。
(『インデックスちゃんは外部から来たらしいから、救急車は呼べない、かと言っても僕の家で匿うのは居場所がバレてる以上やめた方がいいよね。あとはこのステイル君は……まぁ放置でいっか、口ぶり的に仲間がいるみたいだしね』)
(『もう二十時を過ぎる、あと考えるべき問題は──』)
インデックスに関して思案する球磨川は背後から忍び寄る気配に気が付いた。
『あ、小萌先生』
場所は小萌宅、眠るインデックスを横目に2人は鍋をつついている。
奇しくもそれは球磨川に変化が起きた時と同じような構図だった。ちゃぶ台を挟み1対1、球磨川には何か事情があり小萌はそれを聞く。
「ふふっ、少し懐かしい感じがするですね」
小萌はそんな過去を脳裏に思い出し、笑みをこぼしながら話を始める。
「球磨川ちゃん、思い返してみればこの1年で色々なことがありましたね……」
『ありましたねぇ』
「球磨川ちゃんは優しい子ですから、トラブルに首を突っ込むことも少なくなかったかと思います」
『突っ込みましたねぇ』
小萌はこの1年を振り返りつつ脳内で状況を整理していた。
(球磨川ちゃんが一人暮らしを初めて一週間……まさか一週間程度で見知らぬ女の子を拾ってくるとは思わなかったのですよ)
(常識的に考えれば
「あ、お豆腐はフーフーしてから食べるのですよ」
『はーい! 先生ポン酢取ってください』
「はいですよー」
球磨川に鍋を取り分けポン酢を渡しつつも思考を進める。
(それにしても球磨川ちゃんの幼い子を惹き付ける能力はなんなのですか? このままでは球磨川ちゃんの能力が
思考を少し脱線しつつ鍋をつついていると、声が聞こえた。
「お腹……空いたんだよ……」
『おや? インデックスちゃん、起きたのかい? お鍋ならあるよ』
「おはようございますなのですよ〜」
目を覚ましたインデックスを確認すると小萌は思考を止め、即座にインデックスの分を小皿に取り分け始めた。
「はい、これはシスターちゃんのです。お箸は使えるですか?」
「ありがとうなんだよ! お箸は使えるよ!」
感謝の言葉を言い終えると同時、小萌の体内時計をして1秒の狂いもない完全な同時に、インデックスは、小皿に盛った分を吸い尽くした。
「ふふっ、若い子は食べっぷりが違いますね〜。球磨川ちゃんもこのくらい元気よく食べなきゃ大きくなれないですよ〜?」
その速さに動揺することなくインデックスの皿に次を盛る小萌。
『いや〜、僕の成長期はもう終わりますよ。先生の方こそもっと食べた方がいいんじゃないですか?』
その速さに動揺することなく小萌に軽口を返す球磨川。
ツッコミが、不在である。
閑話休題
「ふぅ、結構食べましたね〜」
『ご馳走様でした、洗い物は僕が後でやっておきますよ』
「いいのですか? お願いするですよ〜」
食後特有のゆったりとした暖かい時間。特別話し出すことも無く、聴こえるのは何となくでつけているクイズ番組の声とインデックスの寝息だけ。
お腹を満たし満足したインデックスは疲れからか再び眠りについていた。
言葉を切り出したのは小萌からだった。
「さて、この子は球磨川ちゃんの何様なんです?」
『義理の妹なんですよ』
「……球磨川ちゃんに義妹はいないはずなのですよ?」
『突然降って湧いた……とか?』
「球磨川ちゃん」
お茶を一口飲むと姿勢を正し先生モードになった。
「いいですか球磨川ちゃん、大人には義務があるのですよ。球磨川ちゃん達がどんな問題に巻き込まれていようと、それが学園都市内で起きたことなら
珍しく神妙な面持ちで話しを聞いていた球磨川が口を開いた。
『ふぅ』
一息つくと球磨川は括弧を外した。
「すみません、さすがに先生は巻き込めませんよ」
「むっ、急に括弧つけないで言われても先生誤魔化されないんですよ?」
小萌は頬を少し赤く染めつつニヤリと笑う。
「で・す・が」
「今日はもう夜遅いのです。先生普段ならこの時間はもう寝てるのですよ? 続きは明日の朝話しましょう。それと」
なんと言ってくれるかに薄々気づいている球磨川は笑みを浮かべつつ聞く。
『それと?』
「先生、寝て起きたら話すのを綺麗さっぱり忘れちゃうかもしれません。起きたら球磨川ちゃんからしっかり話してくれなきゃダメなんですからね?」
そんなことを言って布団に潜った小萌、それを見る球磨川の表情は「また勝てなかった」と言いたげなものだった。
ふと、目を覚ますとちゅんちゅんと雀の声が聞こえた。昨日は何をしていたか、ここはどこだったかと思い出して合点が行った。
考えてみればこんなにゆっくり眠ったのは久しぶりだったな。
わけも分からず刺客に追われながら逃げ回る日々。今日まで誰にも助けは求めなかったし、求められなかった。
そんな生活だったのに昨日からは不思議な感じだなと思う。彼は素性もしれない私にご飯をくれたし傷も治してくれた。小萌は優しいしお鍋も美味しかった、私的には白滝が一番好きかもしれない。
でも、そんな楽しい時間もそろそろ終わりかも。
小萌は学校に行ったみたいだし、もう彼が私といる理由もないと思うし。私もそろそろお暇しようかな。なんて言おうと思った矢先に彼に聞かれた。
『それで? インデックスちゃんはどういう事情を抱えてるのかな?』
「知りたい?」
まさかそんな事を聞かれると思ってなかったし、急に聞かれるもんだから。驚いてノータイムで聞き返しちゃった。すると、
『えー! 知りたい知りたい! 超知りたい! 気になる気になる!』
正直、思ってた3倍以上の食いつき方で少しびっくりした。
そうやって冗談なのか本気なのかわからない答え方をするから、もう一回聞いてみた。
「本当に私が抱えてる事情、知りたい?」
『ふふっ、これだと僕の方が神父さんみたいだね』
あまりにも軽く、本人は真面目そうな顔で本職のシスター相手に言うものだから。少し笑った。
「──────これが私の今までの話なんだよ」
彼に私のこれまでの全てを話した。彼は私が話してる間もずっと静かに話を聞いてた。
私が話し終えて生まれた沈黙が辛くて、なんて言われるのかが怖くて。見放されたくなくて。つい、言ってしまった。
「……、ごめんね」
彼は少しの沈黙を挟んで口を開いた。
『なんでそれを言わなかったんだい?』
さっきまで張り付いたような笑顔だったのに、急に真顔になるから何か間違えちゃったかと思って。必死に言葉を紡いだ。
「だって。信じてもらえると思わなかったし、怖がらせちゃうし……嫌われたくなくて」
だって仕方ないじゃないか、優しくされたのは初めての経験だったんだから。嫌われたくないと思ってしまうのが普通なんだよ。そんな言葉も小さくなっていく声では伝えられるわけもない。そう自嘲した。
すると、彼がため息をついた。いかにも何も分かってないと言いたげなものだった。
『インデックスちゃんってさ、何も分かってないんだね(笑)』
???
理解が追いつかなかった。どうして私は煽られてるんだろう?
『いいかい? インデックスちゃん、僕はもう君を追う魔術師とやらと戦ったあとなんだぜ? 君を助ける助けないに関わらず僕の命だって危ないんだ、戦うよ』
たしかに、それはその通りだ。部外者に魔術を知られるのは何かといいことばかりではないから。
『それにね? インデックスちゃん。僕はこういう時、弱い者の味方をするって決めてるんだ』
心臓が止まった。いや、止まった気がした。彼を止めなければと思った。彼にも日常があって、きっと本意からの言葉じゃない。括弧つけた格好だけの言葉だから、早く止めなきゃいけないと思った。このままじゃ期待しちゃうから。止めようと思って、それでも私の口は上手く動かなくて、彼が私のそんな気持ちを見透かしたように言った。
「そしてもとより、僕は君といるために君を拾ったんだ」
括弧を外した言葉を聞いた時、私の心臓は止まって。また動きだした。今から人生が始まったような錯覚に陥るくらい嬉しくて嬉しくて、産まれたての赤ちゃんみたいに泣いちゃった。大声で泣くのは恥ずかしかったから、顔を隠しながら。
暫く泣いてたら彼が喋りだした。
『まぁ、僕に任せなよ。こんな僕でも負け戦なら百戦錬磨だぜ』
負け戦なら百戦錬磨、何それ、変なの。
「その……。正直なところ、勝算はあまり高くないんだよ?」
思わず出てしまった弱音。
それを聞いた彼は顎に手を当てながら少し考えると言い出した。
『そう言えば一つ忘れてたことがあったね。自己紹介がまだだった』
『僕は球磨川禊、
救うって言った相手に対する自己紹介だとは思えないような言葉ばかりが並べられてる。
『ただ一つ言っておくなら、僕という泥舟に乗りかかったことを君が後悔したって、僕は悪くないってことだ』
普通に考えたら、こんな人に自分の今後を任せるなんて不安で仕方なくなるはずなのに。
『ということで、よろしくね? インデックスちゃん』
不思議と今はすごく気分がいい。
「ふふっ、
差し出された手がとても温かかったから。
球磨川……好きだ……