とある敗者の敗北宣言   作:かつおのたたき

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お久しぶりです。


慈愛に満ちて

 

「男子三日会わざれば刮目してみよ」とは少し違うかもしれないが球磨川とインデックスにはこの三日間で変化があった。

 

 球磨川はインデックスについて少し詳しくなったし、インデックスは携帯を使えるようになった。

 

 球磨川はインデックスが一年前から記憶喪失なことや完全記憶能力を持っていること、今までどうやって生きてきたかなどを大雑把に。

 

 インデックスは球磨川が持つ携帯を使いこなして電話にメール、更にはゲームまで出来るようになった。(お気に入りはパズルゲーム)(制限(ペアレンタルコントロール)つき)

 

 そんなこんなで過ごした三日間、魔術師の襲撃もなく普通の日常を過ごしていた。

 

「みそぎ、そろそろお風呂に行くんだよ」

 

 インデックスのその一言に小萌から出された課題をする手を止めた球磨川。

 

『ふぅ、じゃあ一段落したしそろそろ行こうか』

 

 そう言うと手早く準備を整え家を出る。

 

 目的地は小萌家から30分程度の距離にある銭湯。この三日間毎日通っている場所である。

 

「今日はコーヒー牛乳に挑戦してみようと思うんだよ! カプチーノみたいな味がするの?」

 

『うーん、そんなオシャレな感じじゃないかな。でも甘くて美味しいよ』

 

 楽しそうな笑顔で問うインデックスに、ニコリと返事をする球磨川。

 ここだけを切り取って見れば仲のいい兄妹のように見えるくらいにはインデックスは球磨川に懐いていた。

 

「みそぎっていつも括弧つけて喋るよね? たまには本音も見てみたいかも」

 

『ははっ、僕みたいな負け犬でも格好くらいはつけてなきゃみっともなくなっちゃうだろう? 必要なことなのさ』

 

「むっ、でも小萌に聞いたら外してる時もあるって言ってたよ? ちょっとずるいと思うんだよ。あと、みそぎの自分を負け犬とか卑下するところ嫌いかも」

 

『その言い方だと僕のことが元々好きみたいじゃない? 僕だったからいいけど、あまり男に勘違いさせるようなこと言っちゃダメだぜ』

 

 キメ顔でそう言った。

 

「うぅ、みそぎは何も分かってないんだよ!」

 

 


 

 

 顔を赤くしてインデックスは1人でさっさと行ってしまった。

 

 最初は追いかけようとしたが『まあゴールは同じだしすぐ合流するでしょ』と追いかけるのはやめた。

 

(『にしても、なんで僕の知り合いの女の子は人を置いてく傾向にあるんだろう。めだかちゃんとか……』)

 

 

『あれ?』

 

 

 暗くなった夜道をそんなことを考えながら歩いていた時、生まれた違和感。そこまで深夜という訳でも無い、それこそついさっきまで夕方と言ってもいい時間だったはず。

 

 しかし、()()()。全く、一切人の気配が無い。

 

 球磨川が訝しげに周囲を見回していると一瞬前に見ていた場所にその女は居た。

 

「ステイルが人払いのルーンを刻んでいるだけですよ」

 

 女はTシャツに片脚を大胆に切ったジーンズという少し露出は多いが普通の範囲の服装ではある。

 しかし、腰から拳銃のようにぶら下げた2m以上はある日本刀が明らかに〘本物〙であることを裏付けていた。

 

「ここの一帯にいる人に〘何故かここには近づこうと思わない〙ように集中を逸らしているだけです。多くの人は建物の中にいるでしょうから、ご心配なく」

 

 そのくせ、本人は日常会話のように気楽に話すところが余計にプレッシャーを強めている。

 

『……、君は?』

 

「神裂火織、と申します。……できれば、もう一つの名は名乗りたくないのですが」

 

『もう一つ?』

 

「魔法名、ですよ」

 

 すると球磨川は不敵な笑みを浮かべ言った。

 

『名乗りたくないなら名乗らなくてもいいよ。僕はこのままやらせてもらうから!』

 

 そう言いながらどこからか取り出した巨大な螺子を投げた。

 

「話は最後まで聞くものですよ。私は無理して戦う必要は無い、と言ったつもりなのですが?」

 

 一瞬、神裂が刀の柄に触れただけで螺子はただの鉄くずに変わる。

 

『おいおい、飛んでくる螺子をバラバラにするのなんて誰にだってできるぜ。その程度の脅しじゃあインデックスちゃんは渡』

 

 球磨川が言葉を終える瞬間、轟ッ! という音を鳴らしながら恐るべき速度で斬撃が襲いかかる。

 

 瞬間、球磨川の肉体から聴こえる肉を引き裂き骨を断つ音。ともすれば球磨川の肉体を分割していてもおかしくはない当たりだった。

 

 しかし、瞬殺の斬撃を当てた神裂の表情は決して明るいものではない。困惑を顔に浮かべ口を開く。

 

「……、何をしているのですか?」

 

 神裂がそう聞いてしまうのも当然。地面に刀傷をつけるつもりで放った斬撃に球磨川は()()()()()のだ。理解できないものを見る目をした神裂に対して球磨川は嫌に挑発的な目をして言う。

 

『今の一撃、いや七撃で確信したよ。君は僕を殺せない、ないしは()()()()()()んだろう? 君が何を考えてるのかは知らないけど、僕からすれば攻撃に当たろうとするだけで手加減してくれるって言うんだから願ったり叶っ

 

 

 七閃(ななせん)

 

 

 神裂がそう一言つぶやくだけで、球磨川の四肢に七回の斬撃が浴びせられる。

 

「はぁ、それがなんだと言うのですか? 例えあなたを殺せなかったとして、殺さない程度に甚振ることは出来ます」

 

 呆れたような口調で、冷たく鋭い眼光を球磨川に浴びせかけながら言う。

 

「あなたが彼女(インデックス)を諦めるまで痛めつけるだけでもいいんです。そうはなりたくないですよね?」

 

『ははっ、それは悪手ってものだ。君は今、僕を殺せないと自ら認めたんだよ』

 

 斬られた四肢から流れ出る血液を気にする素振りも見せず、立ち上がる。

 

『申し訳ないことだけど、僕は拷問じゃインデックスちゃんを諦めない、拷問程度のこと僕には慣れたものだからね。それに』

 

「……、それに?」

 

『これから僕は、君の大切な大切な仲間になれるから』

 

「は?」

 

 呆気に取られたように口を開ける神裂。それとは対照的ににいっと口元を三日月の形に変える球磨川。血まみれのポケットから携帯を取り出すと画面を開きながら言った。

 

『この三日間、インデックスちゃんとほぼ常に二人きりだった訳だけど』

 

『なぜ今になって君は襲ってきたのか、答えは簡単だ。僕がインデックスちゃんと離れたからだろう?』

 

 球磨川は傷だらけの身体をものともしていない。さながら推理小説の探偵にでもなったかのように話す。

 

『となると、インデックスちゃんの方もこの前の人か、はたまた知らない人かは分からないけど襲われてるはずだ』

 

 言い切ると同時に遠くの空がオレンジ色に燃え上がった。

 

『となると1つ、疑問が生まれる』

 

 神裂は苛立たしげに口を開く。

 

「この茶番はいつまで続くのですか?」

 

『まあまあ、話は最後まで聞くもんだぜ。人として』

 

 苛立つ神裂を気にすることも無く話を続ける。

 

『疑問とは、何故僕の元に来たのが()()()()ってことさ』

 

「何が言いたいのですか?」

 

『だってそうだろう? 本来君たちは僕に保護をしたいなんて言う必要ないんだから、ぱぱっと殺せる方(ステイル)を連れてきて殺しちゃえばいい』

 

『では何故そうしなかったのかだけど。僕を殺せない理由ができてしまったから、だよね?』

 

 確信を持った表情で、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる球磨川。

 

『残念ながら君がどんなに僕を痛めつけたってインデックスちゃんの足枷にすることは出来ないよ』

 

『インデックスちゃんにはこういう事態に陥った時一人で逃げるように言ってあるんだ』

 

 挑発的な声音で、神経を優しく逆撫でするように言葉を続ける。

 

『追ってる君たちならわかってると思うけど、インデックスちゃんは天才だ』

 

「そんなことは知っています」

 

『GPSの役割をしてた【歩く教会】とやらも僕がなかったことにしたし、もう君たちには彼女を捕えられないだろう』

 

「それも分かっています」

 

 神裂は眉間に皺を寄せ、耐え切れずに言う。

 

「もういい加減にしてください、長々と殺されない理由を述べようとどうでもいいんですよ。あなたは何が言いたいのですか?」

 

『せっかちだなぁ、まあそこまで聞きたいって言うなら仕方ない』

 

 球磨川は勿体つけるように言う。

 

『僕だって死にたくないんだから殺されない理由は明確にした方がいいに決まってるだろう?』

 

『ふぅ、まあ要はインデックスちゃんを捕まえる助けをしてあげよう、って話しさ』

 

「は? 頭がおかしくなったんですか?」

 

 球磨川の荒唐無稽な提案に対し苛立ちを通り越し呆れてしまう。

 

「言うに事欠いて()()()()()()()? 長々と話したと思ったらそんな下らない嘘のためですか? わざわざ付き合ったのが間違いでしたね」

 

 首を振り、そう言うと神裂は刀に手をかける。

 

「申し訳ありませんが、あなたはここで半殺しにします。そもそもあなたは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですよ」

 

『随分と知ったような口をきッ!』

 

 七閃(ななせん)

 

 球磨川の体に七つの斬撃が刻まれる。球磨川は倒れない。

 

 七閃(ななせん)

 

 十四、倒れない。

 

 七閃(ななせん)

 

 二十一、倒れない。

 

 二十一の斬撃を受けてなお、球磨川は倒れない。

 

『はぁ……はぁ……斬撃っていうのは、存外、効くものだね……漫画なら、大したこと、なさそうなのに』

 

 満身創痍な球磨川に対し、神裂は哀れみすらもこもった瞳を向け小さな声で問う。

 

「もう、いいでしょう?」

 

 諭すように続ける。

 

「あなたは十分にやりました。先程までのだって自分の命が助かることに確信が欲しくて話していたんでしょう? もういいんです。ここで辞めたって彼女があなたを責めることはありません」

 

「私だってわざわざあなたを……」

 

 神裂の言葉をさえぎり球磨川は、はぁはぁと短い呼吸を繰り返しながら言葉を紡ぐ。

 

『わかっ、た……君の言う通り、だよ。僕は、死にたく、なくて、君に話してた』

 

『でも、この調子じゃそうもいかない、らしい、最期に一つ……教えて、くれないかな』

 

『君が、彼女を、追う理由…を……』

 

 フラフラと立ち上がり、くたびれたように座り込むと球磨川は言った。

 

 神裂はそれを見て少しばかり申し訳なさそうな表情をすると話し出した。

 

「私だって……。私だって本当は、こんなことしたいわけじゃないんですよ──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 神裂は全てを語った。

 

 インデックスの脳内の85%を10万3000冊の魔導書が占めていること。

 

 それによって、インデックスの記憶を消さなければ脳がパンクして死んでしまうこと。

 

 自分がインデックスの仲間であり、死んで欲しくないがために一年周期で記憶を消していること。

 

 光の無い眼で言う神裂に対し、対照的な笑顔で球磨川は問う。

 

『ふーん、それで諦めたんだ? インデックスちゃんの記憶が無くなるのがわかっててもずっと一緒にいるのじゃダメだったのかい?』

 

「最初は、そうしていました……」

 

『要は君たちにインデックスちゃんといる覚悟が無かったって話だろう? そりゃあそうだよね、どれだけ仲良くしても1年で全部なかったことになっちゃうんだから』

 

『でも君たちは悪くない、悪くないよ。仕方なかったんだ、君たちに覚悟がないせいでインデックスちゃんは追われる日々を送ってきたけど仕方ない。君たちにはインデックスちゃんを救えないから仕方ない』

 

 夏のはじまりの蒸し暑い空気と球磨川の発する異様な圧に神裂は口を開けない。

 

『あーあ、良かった。僕たち案外気が合うかもしれないね』

 

 ボロボロなはずの球磨川を神裂はどうすることも出来なかった。

 

『君たちも、()()()()負け犬なんだ。せっかくだしそこら辺のカフェでお茶でもしようぜ』

 

 神裂は拳を震わせ、ギリギリと歯を鳴らす。

 

 球磨川はよろよろと立ち上がると平然と言う。

 

『コーヒーとか飲めるかい? 僕行きつけのカフェがあるんだ』

 

「じゃあ……」

 

「どうすればよかったって……言うんですか……?」

 

 神裂からやっとの思いで絞り出された言葉に球磨川はため息をひとつ吐く。

 

『そんなのは決まってる、インデックスちゃんの記憶を消す度に新しく思い出を作ってあげればよかったのさ』

 

『結局のところ、君たちがインデックスちゃんを想ってできることなんてそれだけだったんだよ』

 

『やれることをやらないからこうなったんだ』

 

「でも、だって……」

 

 神裂の言葉を聞きつつも続ける。

 

()()()()()も無い』

 

『君は何回インデックスちゃんを殺したんだい? そんな君が言い訳なんて許されるとでも?』

 

 神裂は膝から崩れ落ち顔を伏せる。

 

『さて、もういいよね? 仲良くなれそうだと思ったけどそんなことも無さそうだし』

 

『インデックスちゃんの為にも()()しておこうかな』

 

 神裂はうわ言のように「でも」「だって」と繰り返す。つまらなそうに螺子を取り出す球磨川の様子にも気づかない。

 

『それじゃ()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやいやいや()()()()()()じゃないんだよ!!」

 

 ガサガサと茂みを掻き分け神裂と球磨川の間に姿を現した白い壁。

 

「……、!?」

 

『どうして君がここに!?』

 

 少しの間を置いて事態を理解し驚愕を顔に出す神裂、そしてわざとらしく驚いてみせる球磨川。

 

「みそぎが私をここに呼んだんだけど? わざとらしく驚かれても困るかも!」

 

「というか私のためなところ悪いけど、みそぎはちょっとやりすぎ!」

 

「なに? 処分って! 軽くのして逃げる手筈じゃなかったかな??」

 

 やりすぎたことへの怒り半分と自分のためにやってくれたことへの嬉しさ半分と言った表情で捲し立てるインデックス。

 

『やりすぎと言われても、僕だってこんなにボロボロだぜ?』

 

「だからって必要以上に傷つける必要あったのかな……?」

 

 ジト目で見つめられしれっと目を逸らす。

 

「あの、どういうことですか? なんでインデックスがここに?」

 

 1人だけ急展開に置いてかれている神裂が疑問を口にする。

 

『あぁ、言ってなかったっけ? 君と楽しくおしゃべりしてる間にインデックスちゃんを呼び出しておいたんだよ』

 

()()()()()()()()……? 一歩間違えたらあなたは殺されていて、ノコノコと出てきたインデックスは捕まっていたかもしれないのにですか?」

 

『でもそうならなかっただろう?』

 

「確かにならなかった……ですが! そういう問題では」

 

「まあまあまあ、これで事情は分かったんだからいいと思うんだよ」

 

 ヒートアップしていく神裂をインデックスが窘める。

 

()()()、でいいのかな。今までのことは私のためにやってくれてたんだよね?」

 

「……はい」

 

「私のためとは言え、ちょっと怖かったかも」

 

「っ……はい」

 

 優しく笑いながら話すインデックス。

 

「悪いことしたら必要なこと、あるよね? ほら、おいで」

 

 そう促されインデックスの腕の中で涙を流しながら神裂は言う。

 

「インデックス、今までごめん…なさい」

 

「うん、許す! 

 

 神裂はインデックスの胸の中で声を上げながら泣いた。小一時間泣きながら謝ると、泣き疲れて眠った。

 

 その寝顔は安心しきった安らかな表情だった。




顔面バーコード「くっ、また逃げられてしまった!」
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