ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート   作:ルルマンド

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アフターストーリー:左遷

 時は三冠ウマ娘が生まれそうな気配漂うナリタブライアンクラシック時代。これまでやや無法地帯の趣のあったトレセン学園は理事長・秋川やよいの海外出張に伴い着任した運動神経バツグンの理事長代理、樫本理子によってその色彩を大きく変えた!

 自由意思を尊重し、うまぴょいだのうまだっちだの隠語飛び交うトレセン学園から厳格堅実な監獄の如きトレセン学園へ。

 

 アスリートとしては一流であっても精神的未熟故の無計画・情動的さによる怪我を恐れた天性の運動神経の持ち主、樫本理子理事長代理による理論的な言説と実績を盾にした改革は放埒なだけの弱小チームたちを呑み込みつつあった――――

 

「どう思う、トレーナーくん」

 

「理が多いな」

 

「いや、そういうことではなくてね」

 

 同じような小学生並みの感想を抱いていただけに、シンボリルドルフは彼の意図するところを即座に察した。

 樫本理子理事長代理というのには、理が多い。うまくやれば連鎖で消せるのではないかと思う程に。

 

「俺が言った『理が多い』というのは物理的なものではない。その主張に理が多いということだ」

 

「あ、ああ……うん。その通り」

 

「全体的な管理主義への転換。アオハル杯の実施中止か。3年前だったら、俺は賛同していたかもしれんな」

 

「かも、かい?」

 

「お前が止めていただろう」

 

 カーテンを開け、生徒会室の窓から東条隼瀬は外の校門を見た。

 そこにはアオハル杯――――かつて一世を風靡したチーム戦。欧州では基幹となりながら、日本では然程主流でもないチーム戦を楽しみにしていて、そして参加することを望んでいたウマ娘たちがアオハル杯の中止を中止させるための署名運動を展開している。

 

「この場合、無理に中止してもウマ娘にとっての幸せには繋がらない。どうにかしてこのキツすぎるスケジュールに折り合いをつけさせ、適切な管理によって夢を実現させる。それこそが、トレーナーとしてやるべきことだ。少なくとも、俺にとってはな」

 

「気づけたかな、あの時の君は」

 

「気づけないだろう、間違いなく。だが俺は基本的に自分の判断よりもお前の判断をこそ優先する質なのでな。だから暴走しても、お前が間一髪で引き戻してくれるだろうと好き勝手やれているわけだ」

 

 無上の信頼にパタパタ揺れ、反逆するレジスタンスと化してきた尻尾を物理的に抑えつけつつ、シンボリルドルフは必死に頭を理性的なそれにシフトさせ切ることに成功した。

 

「どうする? 打ち砕くこと自体は、簡単ではあるが」

 

 熱心に署名運動が行われているアオハル杯だが、ひとまずお試しとして3年間は行われる。

 そしてその『お試し』を永続させる術を、【皇帝】は知っていた。というより、学園の誰もが知っていた。

 

 それは、3年間の間に樫本理子理事長代理率いるチームファーストを打倒すること。

 そうすれば学園を包む管理主義は一掃され、アオハル杯は存続する。

 

 問題は、打倒する力を持つチームがそれほどないことなのだ。

 そしてその数少ない打倒できるチームがリギルだった。樫本理子理事長代理のもとには彼女がかつて率いていたチームの流れを組むウマ娘たちが集結している。そしてリトルココンやビターグラッセといった今年のクラシック戦線の有望株も新たに加入した。

 

 しかしそれでも、リギルは強い。

 だからこそ無上の信頼を向ける彼に対して、やや挑戦的に問うたのである。

 

 やろうと思えば、いつでもやれるのだぞ、と。

 

「迅速な対処をしてもいいが、秋川理事長から言われたこともある。それに一応3年間は猶予期間があるのだし……」

 

 そこで、彼は煙に巻くように言葉を途切れさせた。

 

 

 なぜ3年間の猶予があるのか。それはウマ娘とトレーナーの関係が基本的に3年1周期で更新されているからであり、先一昨年に秋川やよい理事長が発案し、そして3年間かけて実行したURAファイナルズが成功を収め、その結果をもとに着手した――――もっとも、アオハル杯自体は廃止されていただけで、昔存在していた――――新しい企画だからである。だからこそ、アオハル杯は3年間は続く。

 

 理事長代理としての権力・権限があればその猶予をも消し去れたはずではあるが、樫本理子はそうしなかった。おそらくは本人すら自覚していないであろう奥底に揺蕩うその理由を、シンボリルドルフと東条隼瀬は正確に推察することができた。

 

 そして、なによりも。

 

(昔の君と似ているから、か)

 

 力で叩き潰すことは簡単ではあるが、それではなんの解決にもならない。別に管理主義それ自体が悪ではないのだ。

 

「ひとまず自由を善しとする放任主義派はスピカを軸に結束させよう。そうすることでそれなりの勢力にもなるし、自分の思想を貫けるだけの後ろ盾を得られるはずだ。管理主義派閥に関しては理事長代理からノウハウの支援もあるし、ひとまず放っておいてもいいだろうと俺は思う。お前はどうだ?」

 

「私もそれでいいと思う。私は管理主義を善しとするが、管理主義というのは放任主義あってこそのものだ。統制されることで活きるウマ娘もいるし、逆も然り。どちらかが廃滅するまでやり合うのは本意じゃない。主義主張というのは、並び立ってこそのものだからな」

 

「さすが、皇帝陛下は寛大であらせられる」

 

「そう言う参謀くんも、ずいぶん冷徹さが薄れたようだね。硬軟併せ持ち、人間的な深みが増した」

 

 かつての東条隼瀬は、樫本理子理事長代理以上の徹底した管理主義を敷いていた。その成果がミホノブルボンであり、その結果が無敗の三冠である。

 別にそれを後悔しているわけではないし、ミホノブルボンには徹底した管理こそが合っていたのだろうと思う。しかし誰しも、朝から晩まで、練習から食事まで徹底した管理主義へ適応できるとは思えない。

 

 樫本理子理事長代理が行っているそれは彼がミホノブルボンにしたそれよりも遥かに緩いが、それでもあぶれる者は出てくるだろう。そしてその受け皿が無くなるというのは、防がなくてはならない。

 

「取り敢えず、勝負は3年目か、2年目か。そのあたりだろうな」

 

「だろうな。私としても、その間放任主義派が好き勝手やれるように計らってみよう」

 

「俺からも、トゥインクルの乙名史記者を通じて発信してみよう。最近巷で流布している管理主義こそが至高であるなどという妄言が持て囃されている原因は俺にもある」

 

 管理主義の権化たるリギルの指導者と、その実質的な後継者。

 東条ハナと、東条隼瀬。管理主義の信奉者たるこの叔母と甥の二人しか、外国勢には歯が立たない。

 謂わばこの二人は衛青と霍去病のようなもので、そう断言してもいい程に他に海外に対抗できる人材がいない。

 

 となると日本が世界に追いつくには管理主義こそが尊ばれ、放任主義など淘汰されるべきではないか。才能のあるウマ娘が放任主義の甘い誘いに乗り、才能を浪費させることを阻止するべきではないか。

 ミホノブルボンに中・長距離を走るための才能が全くなかっただけに、そんな見方は日に日に強くなっている。

 

「俺があいつに才能がなかったと言ったのは、まずそれが事実だからだ。実は才能があってどうたらと言うのは、あいつの努力を侮辱している」

 

 ミホノブルボンは持っていた才能を活かして勝ってきたが、中・長距離を走るための才能が眠っていたわけでもないし、眠っていた才能を起こしたわけでもない。

 努力で中・長距離を走るための才能を作り上げ、乗り越えた。それが『実は才能がどうたら』と扱われるのは、聴く者が聴けば憤死しかねない程の侮辱であった。

 

「俺が伝えたかったのは誰でも正しく努力すれば夢を叶えられるし、血統による壁を乗り越えられると言うことだ。それがこうも曲がって、管理主義の勝利のように語られようとはな」

 

「正しく努力すれば夢を叶えられるというだけで、その正しさを与えられるのは別に管理主義だけではない。今思えば、君はそのあたりまで言うべきだったかもしれないが……」

 

 それは流石に読み切れないだろうと、シンボリルドルフは思った。

 別に責められるべきではない、とも。

 

「まあ、君が責任を感じるのもわかるから、私としては協力するよ」

 

「ありがとう」

 

 ここで君のせいじゃないと言っても、無駄だろうな。

 それがわかりすぎるほどにわかっているからこそ、シンボリルドルフは敢えて理解を示してその打開に協力する意思を示した。

 

 肯定もしない。否定もしない。理解はする。

 理性的に見えて感情が持つ熱の振れ幅が大きい彼をうまく出口に誘導するために必要なのは肯定して背中を押すわけでもなく、否定して出口まで牽引することでもない。

 理解して同行者となることだということを、シンボリルドルフは知っていた。

 

 そして基本方針を定めた後のこと。

 放課後、チームとしての方針を伝えるべく開かれた会議の中で、東条隼瀬はひとまず参加者を見回し、気づいた。

 

「おや」

 

 文字に起こすとふわりとした風韻を感じさせるその言葉は、声音と視線が悪い具合に作用して実に冷たげな印象を与えた。少なくとも、向けられた当人はそう感じた。

 

「ブライアン。なぜここに居るのかね」

 

「アンタのところに左遷されてきた。島流しと言ってもいい」

 

「ああ?」

 

 先程の『おや』とは違って、文字に起こすと冷たい風韻を感じさせるその言葉は、声音と視線が怪訝さをうまく伝える感じに作用して彼が実に困惑しているような印象を与えた。

 

 ナリタブライアンは、実のところ無敗ではない。去年、すなわちジュニア級においてGIを勝利してはいるが、何度か負けている。

 その点においては彼女はシンボリルドルフにもミホノブルボンにも劣るが、それでも左遷を喰らうほどダメダメというわけでもない。むしろ朝日杯FSを勝っているのだから、今年のクラシック路線一番手であるとすら言える。

 

「アマさんも今年だからな」

 

 顎をクイッと上げながら、『わかるだろう』と言わんばかりの態度に一定の理解を示し、東条隼瀬はなんとなく理解した。

 ヒシアマゾンも、今年いよいよティアラ路線に挑むことになる。数年前、所謂黄金世代のクラシック期を境に外国籍のウマ娘――――いわゆるマル外、留学生としてトレセン学園にやってきたウマ娘たちのクラシック路線参戦が許可された。そのおかげでエルコンドルパサー、グラスワンダーたちは多少なりとも恩恵を受けたわけだが、後に続くウマ娘たちにとってもそれは同じことなのである。

 

(そう言えば同一世代を大量採用したことはなかったな)

 

 リギルは、極めて古典派なチームである。重視されるのは中長距離王道、ティアラ路線よりクラシック路線。基本的に日本トゥインクルシリーズの花道を進むウマ娘を育てる。だから短距離やダートを走るウマ娘の層が中長距離を走るウマ娘と比して薄い。

 

 尤もこれは比較対象が悪いの一言で片付くが、そういう傾向があることは否定できない。

 故にリギルは【この世代はこの娘】といったウマ娘のみをチームに迎え入れる。そしてエルコンドルパサーとグラスワンダーは極めて例外的な事例である。

 

 その例外が、この世代でまた起きた。そして都合よく、預け先があった。

 で、預けられたのはナリタブライアンだったというわけなのだろう。

 

(いや、ティアラ路線はエアグルーヴ以来だったはず。その経験の薄さを師匠自らが担当することで補おうとしているわけか)

 

 つまり、そういうことなのか。

 自らの師匠であるおハナさんの深謀遠慮に感嘆しているこの男は、実情がもっと単純であることを知らない。

 

 つまりナリタブライアンは、来たいから来た。それだけなのだ。

 

「よし、わかった。取り敢えず三冠ウマ娘にでもなるか?」

 

「ああ。私としては強いやつと走れればそれでいいが……取れるもんは取りたい。アンタの手腕に期待する」

 

「任せろ。実は一昨年、俺は三冠ウマ娘の手伝いをさせてもらった経験がある。一昨年よりちょっと前にも手伝いをさせてもらったりしたし、こと『三冠ウマ娘』を誕生させることにかけてはそれなりの経験がある、はずだ。で、会議に話を戻す。まず――――」

 

 よく言うよ、このキングメイカーは。

 

 誰もがこのとき、そう思った。




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