ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート 作:ルルマンド
「頭がおかしい戦力ですわ!」
スピカの部室。
少数精鋭の具現化のようなチームスピカの総員を集めた作戦会議というこの場所で、メジロマックイーンは打線のようにズラリと並べられたチームリギルのメンツを教杖で指し示した。
「1番センターにアメリカで3年連続首位打者・盗塁王・最多安打を獲得したスズカさんがいるだけでも脅威なのに2番ショートのブルボンさん、3番キャッチャーの会長、4番サードのブライアンさんと三冠王が3人! 5番6番には外野の両翼を固めるエルコンドルパサーさんとグラスワンダーさんの助っ人コンビ! 全員打てて守れて足もあるダイナマ――――史上最強打線ですわ!」
1番。一番脚早いひと。
2番。一番出塁率高いひと。
3番。最強打者。
4番。ホームランたくさん打てるひと。
マックイーンの打線を組む趣味が開示されながらも、スピカの作戦会議は続いていく。
そんな中で、トウカイテイオーは思った。
あれ、これってトレセン対抗野球大会での作戦会議だっけ、と。
そう。野球大会――――ではなく、いよいよアオハル杯が迫ってきていた。
アオハル杯は基本的にアオハルチームという摩訶不思議な単位で――――リギル、スピカ、カノープス、シリウスなどの中央トレセン内の有力チームとは別物――――参加する一大大会である。
これはかつてのブルボンや現在のライスシャワーのように専属契約を結んだウマ娘たちも参加できるようにという配慮だった。
つまり、なにも学園内での制度としてのチームの枠で参加する必要はないのだ。極論、適当に友達同士で組む、というのでもいい。
アオハル杯は1つのチームが中距離、マイル、長距離、短距離、ダートの5部門にそれぞれ3人までのウマ娘を送り込んで開催される。
枠をいっぱいに使うなら、15人。
全部門にウマ娘を出走させるなら、最低5人。
無論全部門に出走させる必要はないわけだが、一応チーム戦という形式の手前チームの最低結成人数は2人となっている。
そしてチームが上げた勝利数に応じてランキングが設けられ、そのランキングを参照して来年6月に再びアオハル杯が開催され、6月の結果を踏まえて12月に――――といった具合である。
つまり今回に関しては、各チームには順位というものが振られていない。
なので完全にランダムに6チームが1つのレースに押し込まれ、最大18人立てのレースが行われる。
無論全チームが3人のウマ娘を用意できるわけではないから、18人立てになることの方が少ないだろうが。
そしてこの5レース、同一場所・同日開催である。
日本では流行らないが香港などでは主流なレースの同日開催という形式を試してみようという思惑も、アオハル杯を復活させようとしたURAさんサイドにはあった。
まあ何が言いたいかというと、2人以上15人以下のチームを作ってうまく得意分野のレースを勝ち、勝てば勝つほど順位が上がる。そういう複数年に跨がる競争。
それが、アオハル杯というシステムである。
「よし。当分、ギラギラエガオとは当たらないな」
ギラギラエガオ。
チームシリウスのオグリキャップと、東条本家のトレーナーと専属契約を結んでいるタマモクロスによって結成された最少人数を満たしただけのチーム。
タマモクロスが長距離、オグリキャップがマイルを担当するらしいそのチームは、二人ながらもランキング上位候補レベルの強さを持つと言っていい。
当たらないことを幸いと喜ぶ芦毛の男に向けて、栗毛のウマ娘は耳をピコピコと動かしながら問うた。
「どちらかが苦手なのですか?」
「ああ。オグリキャップが特にな」
オグリキャップ。疑う余地のない天才。
疲労と故障でほぼ終わりかけていたのに、復活の有馬記念で並み居る強豪を爆発力でなぎ倒したという、東条隼瀬が一番苦手とするタイプであった。
今は何故かピンピンしてドリームリーグのマイルを荒らし回っていたが、最近はタマモクロスとの対決を行える中距離へとシフトしつつある。
だから今年、春夏秋とマイルのドリームリーグを制したサイレンススズカとのマッチは無かった。
ファンたちは無邪気にそのことを残念がったが、東条隼瀬はそのことに心の底から安堵していたりする。
――――勝ち筋は無数にある。だがいくら頑張っても負け筋が消えない。そんなやつは、心の底から相手にしたくない
それが、彼の偽らざる本音だった。
「思ったのですが」
IQ1億のブルボンヘッドをフル回転させてとある結論を導き出したミホノブルボンは、ふと思ったことを口に出した。
「マスターは主人公的というか、ヒロイックな相手に弱いですね」
「あぁ……そうだな」
ヒロイックなウマ娘。
それ即ち、オグリキャップやら
「そしてマスターはどちらかと言えばラスボスチックな相手と組んできました」
最初から言うなれば、ミスターシービーVSシンボリルドルフ。
疑うことなく、ラスボスはシンボリルドルフであった。
隙が結構あって派手に勝ったり負けたりする邪道を操る新世代の旗手たるスピカのエースVS、隙無き無敗の王道の皇帝。
あまりにも強過ぎるルドルフの前にミスターシービーは完膚無きまでに叩きのめされたが、人気ではシービーの方が上だった。
次に、ミホノブルボンVSライスシャワー。
人気で言えば間違いなくミホノブルボンだが、このサイボーグの得意技はラップ走法という相手に関係なく時を刻むラスボスじみたものであり、挑み続けるライスシャワーとそれを跳ね返し続けたミホノブルボンのどちらが主人公か、どちらがラスボスかと言われれば、ミホノブルボンがラスボスでライスシャワーが主人公であろう。
そしてサイレンススズカとナリタブライアンは、ライバルの存在すら許さない圧倒的な強者だった。
脚質こそ正反対ではあるが、スペックでぶん殴り続けるその姿や、どうにも防ぎようのない破壊力は共に魔王じみている。
「確かに。スズカやブライアンは魔王じみている。基礎スペックでぶん殴ってくるあたり絶望感がある」
「うそでしょ……」
この言葉を聴けば100人のうち100人が『そうでしょ……』と言いそうな程に魔王じみた強さを誇るスズカ。
というか『うそでしょ……』はアメリカのウマ娘が言うべきセリフである。
ちなみに今、スズカは神経衰弱をやっている。ひとりで。別にハブられているとかそういうのではなく、一人遊びが好きな子なのである。
「魔王か……悪くないな」
猛禽類に憧れを抱いたりと若干そういう気のある黒鹿毛の――――あるいは黒影の魔王は、ボソリと呟いた。
「王は
「悪くなくないな」
「そうだ。それでいい」
――――期待しているよ
臨戦態勢にあるこの勝負服を着た皇帝は、まごうことなくラスボスであろう。もはや議論の余地がないほどに。
「ブルボン」
「はい」
「お前、ラスボスか?」
「はい」
むふーっと胸を張るイヌ娘。
いいところマスコットなこの少女は、実は凱旋門賞を勝っていたりする。
「ルドルフはわかる。怖いからな」
「え?」
「スズカとブライアンもわかる。だが、お前は……ラスボスじゃないな。うん」
いぬ。いぬ。いぬである。
全く怖くないというのか、逆に親しみが持てるというのか。
「参謀くん」
「ん?」
「私は……怖いのか?」
「ああ」
私怖い?と妖怪みたいなことを言い出した皇帝の言葉を、東条隼瀬はあっさりと肯定した。
「俺はそうは思わないが、何故お前がダジャレというものに手を出したのか。それは後輩やらなにやらから話しかけられないからだ。実績充分、成績も並ぶものがない程にすごい。性格もいい。ではなぜ話しかけられなかったのか。それは消去法的な考え方になるが、怖いから。そうではないのか」
正直、走っているときは怖い。
まあその怖さは真剣であるが故に本質的な強さが漏れ出て怯んでしまうから、というのもわかる。
しかし彼からすればそう恐れるものでもないと思っていた。
「怖い……」
凹む皇帝、ひとり神経衰弱に勤しむ逃亡者、撫でられて尻尾を振っている犬。
なんだこの状況……と部屋を見回してから軽くため息をつきつつ、ナリタブライアンは本当に犬の相手をするような感じに適当に撫で回しつつ片手で何やらパソコンのキーボードを打っている男に声をかけた。
「おい。色々試行錯誤していたようだが、アオハル杯の出走メンバーの振り分けは終わったのか?」
「ああ。一応最終変更期間が1ヶ月前だからな。なんとか変更も間に合った」
なにせ、今年からの復活である。参加者側も運営者側もノウハウも少ない。
割と駆け込みでの参加者も多いし、辞退者も多い。
「対戦相手は5チーム。その中で気にするべきはスピカだ」
復活した皇帝と撫で回しから解放されて少しシュンとなったブルボン、神経衰弱を続けるマイペースなスズカ。
「当初、俺はトウカイテイオーが中距離に来ると思っていた」
トウカイテイオーにとって、長距離はやや長くマイルは明確に短い。まさにクラシックディスタンスの申し子というべきであろう。
そんな彼女がその本領を発揮できる距離に来るというのは、謂わば当然の帰結だった。
「だからスズカと」
「はい」
「呼んでいない。スズカと、ルドルフとブライアン。この3人を中距離に放り込んでテイオーを力でねじ伏せるつもりでいた」
神経衰弱のカードが広げられた机からくるりと移動した視界が、再び戻る。
そんな中で、『鬼だな』と。
意識のほとんどが神経衰弱に向かい、残りはうそでしょ空間に飛んでいるスズカ以外の全員がそう思った。
三冠ウマ娘二人に加えてスズカというのは、過剰戦力もいいところである。
マイルにエルコンドルパサー。
中距離にサイレンススズカとシンボリルドルフとナリタブライアン。
長距離にミホノブルボンとグラスワンダー。
当初はこの予定で挑む予定であったが、ブライアンの有馬記念がどうとかで外したりとかなんとかあり、そしてまたも事態は変わった。
「だが、情報を集めるにつれてわかった。トウカイテイオーはルドルフとやりたいらしい。となると、どこでどう走るかの選択権はこちらにある」
「だから君は私に長距離を走ってくれないかと言ってきたわけか」
「そうだ。これによってテイオーをこちらにとって有利な距離に引き込んで戦える。だが、問題がある」
それは、長距離ではサイレンススズカが使えないということである。
スピードの絶対値の差でなんとかなるかも知れないが、そんな博打はしたくない。
「だからブルボンに走ってもらおうかと思っていた、が」
――――だが、あのガキがいくら爆発しても関係のない勝ち方を思いついた
結構自信有りげな顔。
スズカはいい顔してるなぁと思い、ブルボンとブライアンはじゃあ勝てるんだろうなぁと思い、そしてシンボリルドルフだけは一歩退いた視点を持って問いかけた。
「君が思いついたと言い切る以上はおそらく、その作戦に間違いはないだろう。だがやはりここは保険として逃げウマ娘を必要とするのではないかと思うのだが……」
「いや、ルドルフ。リギルの逃げウマ娘は居ない方がいいんだ。実力実績共に豊かな逃げウマ娘がいると先頭集団は逃げウマ娘のペースに支配される。中段から後方はお前が支配できるだろうが、それでも分割支配の形になる」
支配者はひとりでいい。
そういうことなのかと思いつつも首を傾げるルドルフの前に、パソコンの画面が示された。
そこに映るのは、具体的な作戦案。
逃げが必要ではないと言うことが理論的に示されたそれを見て、シンボリルドルフは少し笑った。
(なるほど。頼り過ぎない、ということか)
そう思いつつも、わざとらしく頷く。
どこかで誰かが聴いていても問題ないように、彼女は無上の信頼を受け止めたような声をあげた。
「なるほど。そこまで私を信頼してくれている、と。そういうことか」
「ああ。もちろんだ」
「では、そうだな。期待に応えるとしよう」
50人の兄貴たち、感想ありがとナス!
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