ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート   作:ルルマンド

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Q.使える駒1人ぶんだけでレースを支配してたやつが3人分の駒を与えられるとどうなりますか?
A.どうにもならないことになる


アフターストーリー:僚戦

 有馬記念は、ヒシアマゾンの勝利に終わった。

 クラシック路線に比べて必要となる距離限界が短いが故にレベルが低いとの誹りを受けている――――そんなティアラ路線を主戦場にしたウマ娘による有馬記念制覇は、今や一般化した三冠ウマ娘という存在よりも更に珍しい。

 

 ミホノブルボンがいないからだとか、ナリタブライアンがいないからだとか、ライスシャワーがいないからだとか。

 そういう雑音すら黙らせる圧巻の追い込みで封殺してのけた今季のトリプルティアラのウマ娘は、『ヒシアマゾン』というウマ娘がシニアにも通じるティアラの雄だということをこの一戦で示したのである。

 

 

 2着はシンボリの古豪。3着は4年連続いつものひと。

 

 

 そんな有馬記念が終わると、ライトなトゥインクルシリーズファンたちはホープフルステークスで来年に向けての夢を見て、冬が明け大阪杯が来るまで眠りにつく。

 だがそんな惰眠を貪るファンたちに向けて、起床のラッパが吹き鳴らされた。

 

 

 アオハル杯の開催である。

 

 

 ブルボンの偉業によって、トゥインクル・シリーズは大量の新規ファンを抱えた。

 そしてその新規ファンたちはブライアンの傑出したパフォーマンスによる三冠奪取で定着しつつあるが、その定着しつつあるファンたちが一番離れやすいのがこの有馬後から大阪杯までの空白期間である。

 

 通であれば来季を占うこの時期も無論楽しめるのだが、通でなければGⅠでないと見ない、ということもままあるのだ。

 

 そんなときに、アオハル杯を行う。

 1月から2月まで、各レース場で順繰りに。

 それはまさしく、新規ファンの完全定着――――というかむしろ完全固着を狙った方式だった。

 

 そしてついでに、短距離とダートにも目を向けてもらう。

 なにせ同日同レース場でダート、短距離、マイル、中距離、長距離のレースをやるのである。中長距離の華やかさに隠されて見向きもされないことが多い短距離とダートにも自然と目が行くし、そこで興味が惹かれれば人気になることもあるだろうという施策である。

 

 そして、アオハル杯を運営するにあたってURAは工夫をこらした。つまり、スピカVSリギルの対戦カードをどういう日程で行うか、ということである。

 トリにするのもいい。中盤に置くのも中弛みを防ぐ方法としては悪くはない。

 

 だが、やはり。

 

「ということで、我が銀河帝国はURAから先鋒を仰せつかった。皇帝陛下、なにか一言お願い致します」

 

 作戦会議用にホワイトボードを背にした、半円型の長机。

 短い直線に面している皇帝と参謀は、半円の弧に面して腰掛けている出走メンバーを見渡してから声をかけた。

 

「銀河帝国たる所以は星の名を冠すチームの尽くの上に立ち、統治し支配するが故にある。有馬記念では、ヒシアマゾンが勝った。我々もこれに続こうじゃないか」

 

 !?と。

 隣からの唐突なフリに若干虚を突かれながらもきっちりそれっぽいことを言った皇帝ルドルフは、おーっ!と気を入れるチームメンバーたちを見回してから話のバトンを傍らの参謀に投げた。

 

 視線でなんとなく投げられたことを察知し、指で軽く卓上を叩いて注意を集める。

 

「事前に発表していたが今回の開催場所は東京レース場。マイルは1600メートル、中距離は2000メートル、長距離は2500メートル」

 

 一応どのチームがどこで走るかというのは、くじで決まるということになっている。

 しかしこれはおそらく、くじによるものではないだろう。

 

 日本の看板レース場たる東京レース場で、日本の看板チームが走る。

 まあ多分普通に最初はくじじゃなくて人為的に決めたんだろうな、と。

 

 関係者の殆どがそう思っていたし、ファンも一部の純粋無垢な連中以外はそう思っていた。

 

「改めて出走区域を通達する。長距離はルドルフ、ブライアン。中距離はブルボン。マイルはスズカ、エルコン、グラス。短距離ダートは不出走だ」

 

「中距離はブルボンさんだけでよろしいのですか?」

 

 そう問うたのは、グラスワンダー。

 

 相手の中距離には、スペシャルウィークがいる。対スペシャルウィーク決戦兵器みたいなところがあるグラスワンダーは、決戦兵器だからこそその強さを知っていた。

 スペシャルウィークは、ジャパンカップで見せたように格上食いなところがある。

 ライバルなだけに、そして天敵呼ばわりされているだけに、グラスワンダーはブルボンも脅かされかねないということを知っていた。

 

 無論、グラスワンダーはミホノブルボンの強さを間接的にせよ知っている。

 そして、評価もしていた。あるいは実像以上に。

 

 自分とエルコンドルパサーを完膚無きまでに叩きのめしたサイレンススズカに勝った。

 その事実が独り歩きしている感は否めない。なにせグラスワンダーはミホノブルボンと対決したことがないからである。

 

 しかし彼女がミホノブルボンに与えた評価は誇張であっても虚構ではなかった。

 つまり比較的、彼女は正確な目でミホノブルボンを見ていたのである。

 

「2000メートルだから問題ない。それに」

 

「それに?」

 

「少し宣伝したいことがある」

 

 また何か企んでいるというわけですか。

 そこらへんを察して、グラスワンダーはおとなしく引き下がった。

 

「ということで、ブルボン」

 

「マスター、私はνブルボンです。新勝負服のロールアウトにより進化しました」

 

「そうか。じゃあ中距離は頼んだぞ、ブルボン」

 

「νブルボンです、マスター」

 

「……エヌ、イー、ダブルユーか?」

 

「いえ、ギリシャ文字です。逆襲のブルボンです」

 

 お前は負けていないんだし、されることはあってもすることはないんじゃないか。

 そう思いつつ、東条隼瀬は曖昧に頷いた。

 

「わかった」

 

 おそらくわかってない。

 まあそんなことは置いておいて、参謀は彼らしく話を軌道修正して本旨に戻す。

 

「次、マイルについて。注意するべきはウオッカだ。デビューはまだだが、いい脚を使える。現時点でも直線の長い東京であればGⅠの1つや2つ取れるかも知れない」

 

「……でも、私の方が速いですよ?」

 

 いつもの。

 

 マイル戦線の総大将の不遜とも言える言葉に、副将二人は顔を見合わせた。

 奇しくも、毎日王冠の面子である。

 

「そうですねー」

 

「デース……」

 

 あのとき、年間無敗を貫いていた二人。

 ノリにノリ、ちゃんと対策した上で挑んだ二人を子供扱いして競り潰したウマ娘。それがサイレンススズカ。

 そんな相手の言うギャグみたいなセリフにこの二人は『あんたほどのウマ娘がそう言うなら……』と頷く他なかった。

 

「まあ、一応これまでの模擬レース結果を踏まえて、ウオッカが差し切る為の限界距離みたいなものを出してみた。つまり直線時にどれくらいの距離離していれば勝てるか、という距離だな。参考にしてくれ」

 

「ありがとうございますー」

 

「ありがとデース!」

 

 グラスワンダーと、エルコンドルパサー。

 普通ならば同時に運用しないし、別距離の大将格となっても全く問題ない二人。

 それをいっぺんに投入したのは、リギルが如何に層が厚いか、ということを示していた。

 

 そしてその層の厚さを示すような布陣を改めて見直しながら、ルドルフはふと気がついた。

 

(ウオッカが怖いのかな)

 

 ダイワスカーレットの方が強い。

 だが、ウオッカの方が怖い。

 

 彼らしい言葉で言えばたぶん、そういうことなのかと、ルドルフは思う。

 彼の『強い』という概念は、イコール安定して強いことである。

 そして彼の『怖い』という概念は、イコール爆発力があることである。

 

 トレーナーとして着任して早々安定感があれば強い!と思わせるように脳を破壊してのけた当人(無自覚)は、恐ろしく他人事のようにそう考えた。

 

 スピカの中距離担当ことスペシャルウィークは基本的に優等生的なところがある。学業成績とレース成績が相反している、というのか。

 だから、それほど警戒していないのであろう。安定感の強いウマ娘は、あくまでも彼の想定内で推移するから。

 

(たぶんそうなんだろうな……)

 

 そう思うシンボリルドルフの予測は当たっていた。

 

 エルコンドルパサーというウマ娘を評価しているグラスワンダーからすれば『スペちゃんと互角か少し上だったエルを倒したブロワイエは強い』という認識だったが、東条隼瀬からすれば『府中のスペシャルウィークなら不慣れな外国のウマ娘など相手にもしない』と評価している。

 

 つまり、スペシャルウィークはトップクラスに強い。今の怪我の三連単を食らったトウカイテイオーより断然強い。

 だが、参謀からすれば怖くはなかった。いつでも脳天気というか、スペッとした顔をしているからかもしれないが。

 

「あの、トレーナーさん。その予測表って私にはないんですか?」

 

「お前、そんな器用なことができるならピーキーの極みみたいな大逃げ専用機になってないだろ」

 

「あ……そうですね」

 

 一般トゥインクル・シリーズファンでも気づくようなことを今更気づいたスズカが若干しょんぼりしている中、話は長距離レースの話題に移った。

 

「ルドルフ。長距離に関しては、うまいことやってくれ」

 

「ああ。任された」

 

 極めて端的なやり取り。

 その後に、パンと柏手を叩く。

 

「では、3勝してここに戻ってこよう」

 

 一斉に立ち上がり、ガタンと音がして椅子がズレる。

 非常に統率の取れた動きからは、基礎を基礎から叩き込む東条ハナの薫陶が感じられた。

 

 最初に行われるダートと短距離のレースが終わると、はじまるのはマイルである。

 

「懐かしい……」

 

 東京レース場。たぶん最後に走ったのは、秋の天皇賞2000メートル。

 あのときとは違う空気を吸い込みつつ、スズカは1枠1番のゲートに入った。

 

「エル」

 

「わかってますよーグラス!」

 

 3枠と、5枠。

 それぞれ隣り合わないゲートに入り、左右を見回す。

 

 全くもってチーム戦を理解していないし、する必要もない。中盤までは、そんなサイレンススズカの補佐をする。そして勝つ。

 それが、この二人に与えられた役割だった。

 

 ゲートが開くと同時に、エルコンドルパサーが前方を、グラスワンダーが後方を見る。

 二人とも、海外遠征の経験者である。封じ込められたこともあるし、それを突破したこともある。

 

 チーム戦に慣れていないであろう他のウマ娘たちがめいめい好き勝手に走る中、チーム戦の本場にいた男に指示された経験豊富なこの二人は、実にうまく立ち回った。

 

「エル」

 

「はいはーい!」

 

 線で結ばれたように速度を合わせ、ウオッカの前を走る。

 グラスワンダーが外側、エルコンドルパサーが左側。

 

 外に持ち出そうとすればグラスワンダーが防ぎ、内を抜こうとすればエルコンドルパサーが締める。

 二人が見事な連携で即席の檻を構成する中、サイレンススズカはたぶん何も考えずに走っていく。

 

 それぞれが意思と目的を持って動くレースにおいては、これほど完璧な檻を作ることは難しい。共謀することができないからである。

 

 だが統一した意思のもとに息のあったコンビが運用されると、ほぼ完璧に対象のウマ娘を完封することができた。

 

(うげ……)

 

 突破する道が見えねぇ。

 こういうことをされたらどうするかっても、考えていかねぇとなぁ、と。

 

 新たな課題を得たウオッカだが、実際のレースでここまでバッチリブロックされることはない。たぶん。

 なにせやられていることは、互いに互いの意図を察してちょこちょこ調節し、爆発物でも扱うように徹底的に封殺するということなのだ。

 

 彼方へカッ飛んでいくサイレンススズカを差し切ることは、もうおそらくはたぶん無理。

 

(一旦下がって距離広げて、外から抜くか)

 

 バカっぽくかっこよさに憧れるところがあるが、決してバカではない。

 そんなウオッカは、レースがはじまって44秒でさっさとこの状況を前進によって解決することに諦めをつけた。

 

 どのみちこのまま封殺されると、勝つのはサイレンススズカ、即ちリギルが銀河帝国。

 

(なら、下がるに限る)

 

 ウマ娘のレースとは、如何に前にいくかである。有力な逃げウマ娘がいるならば、特に。

 まだまだ未熟ながらここであっさりと後退を選べるところが、ウオッカの非凡さだった。

 

 しかしその非凡さと同質のものを、前を走るこのエルグラコンビの二人は持っていた。つまり、後退した瞬間に一気に加速をかけたのである。

 スパートではない、半加速。するするとバ群を抜けて、やや減速ペースに移行したサイレンススズカの背中を捉える。

 

 その光景は実質的に三人の叩き合いになった毎日王冠の光景に似ていた。

 グラスワンダーが仕掛けるも粉砕され、続いて追いかけたエルコンドルパサーも子供扱いされて負けた、あのレースと。

 

 しかし、違うこともあった。

 この時先に仕掛けたのは、エルコンドルパサー。

 

 毎日王冠ではグラスワンダーが掛かった形になり早仕掛けする羽目になったが、今回は順当にエルコンドルパサーが仕掛けたのである。

 そしてエルコンドルパサーが仕掛けたのに僅かに遅れ、脚を溜め終えたグラスワンダーが仕掛ける。

 

 ウオッカをガッチリとブロックしつつもキッチリと勝ち目を残しつつ、最後に仕掛ける。

 二兎を追って二兎を仕留めようとするような、ここらへんの見極め、塩梅は流石であった。

 

 しかしやはり、サイレンススズカは片手間で打倒できるような相手ではない。

 

 ――――第一回新アオハル杯マイル戦。

 一着、サイレンススズカ。

 二着、エルコンドルパサー。

 三着、グラスワンダー。

 

 いずれ再びアオハル杯というこの場で仁義なき戦いを繰り広げることになるこの3人の再戦は、1チームが三着までを独占する完勝で終わった。




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