ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート   作:ルルマンド

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Q.なんでこのロボいきなりガンダムにハマったの?
A.新勝負服発表生放送で視聴者のコメにνガンダムじゃんとか言われたから


アフターストーリー:復帰

 ――――復活したアオハル杯の初戦、勝利おめでとうございます

 

 ――――ありがとうございます

 

 ――――殆どのトレーナーからすれば初めての、東条トレーナーからしても久しぶりのチーム戦になりましたが、なにかしらの方針を立てて臨まれたと思います。よろしければ、お聞かせ願えますでしょうか?

 

 ――――まず、ウオッカ選手ですね。彼女は怖い脚を持っています。その切れ味についてある程度の目算は付けていましたが、予測し切れるものではありません。まずは数の優位を活かしてその切れ味を封じることを第一に考えました

 

 ――――ウオッカ選手は未デビューのウマ娘としては最先着となる6着でしたが、封じ込めは成功したと考えられますか?

 

 ――――彼女はもう少し長く、前進で突破することにこだわると考えていました。それをさっさと見切りをつけてするりと下がったところに燦めくような才能が感じられます。しかし一応どう動いても対応できるようにはしていましたから、成功したと言えるでしょうね

 

 ――――即座に下がられた場合、どうするおつもりでしたか?

 

 ――――単純な話ですが、序盤で下がられたらエルグラコンビにも下がってもらう予定でした。するとウオッカ選手は更に下がらざるを得ませんし、となるとスズカは差せません

 

 ――――なるほど……東条トレーナーがそこまで対策する、ウオッカ選手はこれからの注目株と?

 

 ――――自分の才能と長所を認識しつつも、冷静に立ち回れる。心の底から対戦したくない、怖い相手です

 

 ――――やはりそういった怖い相手を封殺しつつ本命を通すというのが、チーム戦の理想といったところなのでしょうか?

 

 ――――いえ。三冠ウマ娘クラスの力を持つ逃げ、先行、追込のエースを3枚用意して力押しするのが理想ですね。なにもしなくていいので

 

 ブルボン、ルドルフ、ブライアン。

 序盤、中盤、終盤、隙がないよね。でもオイラ負けないよ。

 ブルボンルドルフブライアンを相手にしてそう言える相手は、たぶん居ない。

 

 ――――な、なるほど。戦略的に優位な状態で挑んだ先のレースよりも深い事前準備で勝負を決する、ということですか

 

 ――――そうですね。事前に相手がどう動こうが勝てるだけの強さに仕上げておく。それが理想です

 

 ――――ありがとうございます。東条隼瀬トレーナーでした!

 

 そんなインタビューを終えてもなお、レース場は慌ただしく動いていた。

 やや、発走時間が遅れている。まあコースをいちいち切り替えなければならないのだから当たり前と言えばそうだが。

 

 そんな慌ただしい景色を控室のテレビで見ながら、傍らのブルボンの方を向く。

 

「テーテー、テッテテー」

 

 次の出走ウマ娘は、なんか鼻歌かましているこの犬。

 最近、ブルボンの奇行がエスカレートしつつある。

 

 元々そんなにまともな行動を取る娘ではなかったが、最近のこと。

 ブルボンを放っておいて犬ツーと戯れ続けていた翌日に、『捨てウマ娘 拾ってください』というダンボールに正座した状態でいつもの散歩コース――――余談だが犬ツーを拾った場所と同じようなところである――――に鎮座していたこともあった。

 

 東条隼瀬は朝早く起きたあと、少し散歩をしてから仕事に取り掛かる。

 その早暁の頃に行われる人気の少ない中での散歩コースの最中に、ミホノブルボンはダンボールに入って待機していたのである。こんな堂々たる奇行をしていたら、いつか誰かにばれる。

 見つけた瞬間にひっ捕まえて散歩を中断して連れて帰ったから何事もなかったが、自分の知名度というものに全く頓着しないというのも考えものだと言える。

 

「マスター」

 

「なんだ」

 

「ブルボン出ます! ブルボン発進!と言ってください」

 

「……なぜだ?」

 

「解析によればそれにより個体:νブルボンはステータス【うきうき】を獲得できます」

 

「そうか。そんなステータスは別にいらないから言わないことにする」

 

「言わなかった場合、バッドステータス【がっくり】を獲得することになります」

 

 最近小賢しくなってないか、こいつ。

 

 そんなことを思いつつも、遅れてきた反抗期……反抗期?を引き起こしたロボ犬の頭をポンポンと叩く。

 

「大丈夫だブルボン。絶不調だろうとバッドステータスがあろうとお前の性能に影響は出ないと、俺は信じている。良くも悪くも常に安定しているのがお前の強みだからな」

 

「はい、マスター。その信頼に応えてみせます」

 

(よし)

 

 ちょろい。

 直接的にはそう思わなかったが、似たような感想を抱いて撫でるのをやめる。

 

 うきうきロボになって出ていくのを見送って、東条隼瀬はさっさと関係者席に戻った。

 

「私達の勝利デース!」

 

「そうですねー」

 

 見事なコンビネーションを見せたエルグラコンビと、首を傾げるスズカ。たぶんこの先頭民族はチーム戦だという認識を異次元の彼方へ放逐してしまったのだろう。

 

 チーム戦というものは、勝利という曖昧な概念を目指しての乱雑な個人プレーの集合体ではない。

 どのように勝利するかという絵を描き、そのために駒になる。そしてその上で、最善を尽くす。そういうことが求められる。

 

(ウマ娘というのは闘争心が高い。潰れ役になるのはどうかとも思ったが、うまいこと動作してくれたようだな)

 

 チームとして勝つ、という方向に闘争心が作用している。

 これまで個人競技の側面が強いトゥインクル・シリーズにずっと参加しながらも即座にチーム戦としての頭脳に切り替えられるのはやはり、この二人がベテランだから。

 そしてなによりも、個人戦の中でチーム戦を行うことが常識の海外での遠征を経験したからであろう。

 

(その点では、いい手本になってくれた)

 

 どう動くか。どう勝つか。

 エルグラコンビの見事なやり口は、これからのチーム戦の基礎になる。

 

「エルコン、グラス。よくやってくれた。完成度は落ちるにしても、お前たちの動きがこれからの主流になるだろう」

 

「光栄です」

 

「デース!」

 

 淑やかにしかし勝利の栄誉を噛み締めたようなグラスワンダーと、単純にとにかく明るいエルコンドルパサー。

 

 え、私は?といううそでしょ顔をしてるスズカに取り敢えず声をかけようとしたところで、横槍が入った。

 

「その主流を利用するのが、君か」

 

「なんのことかな」

 

 すっとぼける参謀だが、シンボリルドルフは知っていた。

 彼が仕掛けた戦術は、確かに完璧に見える。しかし相手にサイレンススズカはいないし、それに近いものを見せても前に進みつつ解決するすべを彼は見つけることだろう。

 

 彼を模倣するものが生まれても、それは決して彼以上にはなりえない。

 模倣した上で独自の工夫をこらしてこそ、模倣元を上回れる。

 

「……まあ、言いたくないならいいさ。私にもいくつか、あのブロックをかいくぐる思いつきはあるしね」

 

 ――――今は、ブルボンの走りを見よう

 

 自分の出るレースが迫りつつあることに高揚している様子を隠しもせず、シンボリルドルフは眼下で行われつつあるレースに目を落とした。

 

 中距離。スピカからの主な出走ウマ娘はスペシャルウィークとダイワスカーレット。

 逃げと差し。ある意味ではチーム戦においての王道の組み合わせである。

 

 マイルで逃げられる人材がスピカにはいなかったからウオッカ単騎ということになったが、基本的に沖野Tは古典的な、王道なトレーナーである。

 おハナさんと同じくレース前まではトレーニングメニューを組む。もっとも彼は放任主義なのでおハナさんのように徹底的にトレーニングメニューに従属させるわけではないが、要はレースまでは主導し、レースでは当人の意思を尊重する。それが、古典王道のトレーナー。

 

 この古典王道のやり方は素質ある名門のウマ娘を預かるが故にその脚質や戦法を尊重しつつ育てるということに尽きる。

 それは育てるのが上手ければ素質で勝ち切れるが故の、王道の戦法だったのだ。

 

 しかしその王道を崩したのは東条鷹瀬という男だった。

 彼は貴公子然とした顔の軍服の如き装いのよく似合う栗毛のウマ娘を担当するまでは固定の担当を持たず、基本的にお助けキャラのように引退レースの代打などを買って出ていた。

 

 そして素質の差を現場で指揮を行うという細やかな戦術で覆し、数多くの夢を叶えてきたのである。

 勝率は、6割。明らかに能力が劣るウマ娘を指揮しながらこの勝率というのは、いかにも怪物じみている。

 

 そんな中で生まれたのが現在東条本家や地方のトップトレーナーに見られるようなハンドサインや音を使って現場で指示を下すトレーナーだった。

 しかし現実問題、0.1秒を争い合うようなウマ娘のレースの中で的確な指示を下せるトレーナーは少ない。

 

 故に依然として、王道は一大派閥を形成していた。

 そしてその王道を分かつ二大派閥、管理主義派と放任主義派。

 

 その放任主義派の領袖と言うべき存在が、スピカのトレーナーこと沖野Tである。

 故に、彼の取る布陣は王道を踏襲したものだった。

 

「ガション、ガション、ガション」

 

 ネクタイで隠していたとはいえ、そして放熱のためとはいえ、前まではガバッと開いていた胸元。

 それを装甲のようなパーツで塞いだ代わりに放熱を代行してくれる放熱板を勝負服の肩に増設されたミホノブルボンは、その放熱板自体を謎の生体電気パワーで浮かばせながら、入場した。

 

 

 大歓声が、東京レース場を包む。

 

 

 国民的スポーツエンターテイメントである日本トゥインクル・シリーズの悲願、凱旋門賞制覇。それは即ち、日本の悲願でもある。

 尻尾を鎧う謎のリング軍団と放熱板をふわふわと浮かばせながら、瞳をチカチカと明滅させるこのウマ娘が成し遂げた悲願を、栄光を、観客たちは鮮烈に、それこそ昨日のことのように思い出すことができた。

 

「ガション、ガション……」

 

 彼女のマスターが作った、生体電気の備蓄装置。

 それを応用して作られた空飛ぶ円盤ならぬ空飛ぶ放熱板を元の位置に合体させて、軽く手を振ってゲートに入る。

 

 無論、レース中の放熱板アタックは禁止である。

 タイキシャトルはピストルを撃たないし、ライスシャワーは短剣を抜かないし、グラスワンダーは背負った薙刀を振り回さない。これらと同じことであった。

 

「せんぱーい! 頑張ってくださーい!」

 

 隣に立つ鹿毛から若干引いた眼で見られる尾花栗毛の後輩。

 彼女の記憶をデータベースから引き出してきたミホノブルボンは、軽く手を振って応えた。

 

 娘だったり犬だったり、とにかく他者の指示を聴く立場に自ら好んで就いていた彼女からすれば、自分を見上げてくれる存在は新鮮であり、そして大切にしたいとも思うのだ。

 

 暴動が起きそうな程の人入り。ダートが終わってマイルがはじまるあたりから明らかに多くなった観客たちを見回して、ミホノブルボンは一息ついた。

 

 昨年の、URAファイナルズ決勝戦以来。時間にしてほぼ1年ぶりのレース。

 

『さあ。我が国初の凱旋門賞ウマ娘、ミホノブルボンがゲートに入り、後続も続々と入場していきます。新設第一回アオハル杯4戦目、中距離芝2000メートル。大ケヤキを超え、中距離を制すのはリギルの銀河帝国か、スピカのガンバルゾか。無論他のチームにも勝ち目はありますが、ほとんど一騎打ちの様相であります』

 

 スタートを邪魔しないようにという気遣いか、あれだけの大人数が醸し出す雑音が減り、熱気と雑気に包まれた空間が透明感を孕み静謐さを増す。

 

 その透明度が極限に達した瞬間、ゲートが開いた。

 

『――――さあ、スタート!』

 

 そして、一歩踏み出すか出さないかという、その瞬間。

 

「全出力アップ。ミホノブルボン、発進」

 

 均されたように拓いた道にカタパルトが出現した瞬間に放熱板が指針のようにくるりと道を示し、ミホノブルボンを弾き飛ばす。

 逃げウマ娘同士のハナ差争いを無視したような領域を開幕からぶちかまし、ミホノブルボンはスタートからスパート姿勢で先頭を取った。




ブルボン新領域
先頭に立つことが縛りのスズカとは違い、出遅れないことが縛り。そのぶん早く出るがスズカより加速期間が短く、加速性能も低い。

71人の兄貴たち、感想ありがとナス!

大紅蓮兄貴、ターエー兄貴、対魔忍キノP兄貴、ノコノキ兄貴、wyvern兄貴、赤蟻兄貴、参讃州兄貴、新グロモント兄貴、OGATA兄貴、ブラックワンタンオムレツケチャップ抜き兄貴、評価ありがとナス!

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