ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート 作:ルルマンド
いやー、感じ取れんだろうなぁ! こう……オーラ的なやつ!? と。
重賞制覇していることが珍しくもないメンバーの中で圧倒的な不利を受けて6着と非凡なところを見せた
アンタ6着だったじゃない、と。
まあ、ウオッカの言いたいことはわかる。育成面においてもレースにおいても当世最強のトレーナー、日本の歴史で6人しかいないクラシック三冠ウマ娘を3人輩出したキングメイカー。
そんなトレーナーに警戒され、対策され、そしてその判断力を褒められる。
どれかひとつでも、ウオッカは光栄だと思っていただろう。ウマ娘にとって一番の屈辱はなんの対策も警戒もされず視覚外に置かれることなのだ。
そんな中で、全力で抑えに来られた。そして封殺されたとはいえ、ある程度応えられた。そのことは、敗北の味を拭い去る程度の満足感を彼女に与えていたのである。
無論これは敗北をヘラヘラと受容したわけではない。次は素質ではなく、実力を褒めさせてみせると燃えてすらいる。
だが海外への飛翔を狙うウオッカにとって、日本のトレーナーの中で傑出した遠征実績を叩き出している男に褒められたということは、より大きな意味を持っていた。
だがそれでも、ダイワスカーレットとしては6着で喜ぶようなウオッカでいてほしくない。
現実というものを段階的に捉えているウオッカと、現実というものを飛躍的に捉えているダイワスカーレット。
それはおそらく彼女たちが抱く夢の性質の違いからくるものだったが、あるいは単にいつものじゃれ合いの延長戦のようなものであったかもしれない。
しかしダイワスカーレットからすれば、負けん気が刺激されたのは確かだった。
その負けん気がどこに向いているかは知らないが、ウマ娘というものが持つ闘争心がライバルを褒め称えられ、称揚されて刺激されないわけもない。
だからこそ、だったと言えるだろう。
常に何かの一番でありたい彼女が、ハナを奪われたくないと思ったのは。
(よし、釣れた)
関係者席の男は、それなりに正確な体内時計と観察眼でダイワスカーレットの意志の高揚を感知した。
やる気が上がってる。それは間違いない。
実力以上のものが出ている。それは間違いない。
だが、長所とは裏返れば即ち短所である。
「そうだ。単純な2連戦と言うなら恐れる理由もない」
ブルボンなら勝てる。なにせ、マックイーンとライスシャワーという長距離で本気を出せる2人との地獄の2連戦を、春天でやって勝ったのだから。
(やはりか)
眼下で行われるレースを、シンボリルドルフは見ながら頷いた。
「開幕からのスパートはなんだと思えば……ハナから全力で競り潰し、後半のスペシャルウィークに備える。各個に撃破していく気か」
「それだけではない。が、そうなっている」
参謀の、右隣。優雅耽美に座っている皇帝がん?という顔をしたのを、豪快粗雑に脚を組んで座っているナリタブライアンは見逃さなかった。
(見てないのか)
ミホノブルボンの、独自の走法。
あのスパートを持続させるすべを持っている、ということを。
ナリタブライアンは、見た。
しかし、シンボリルドルフは見ていない。
(なるほど。情報ってのは大事だな)
現状という一枚絵を見て、より正確に推察の手を伸ばせるのは、疑いなく皇帝シンボリルドルフであろう。誰が描いた絵か、どのように描いたのか。そのあたりをパズルのピースのように嵌めていくに違いない。
だが、ナリタブライアンには裏を見た経験があった。確定した情報を知っていた。
たった一度の目撃の有無が、シンボリルドルフというウマ娘に判断ミスをさせた。
しかし彼女ならば、いずれ気づくだろう。伊達に皇帝ではないのだから。
しかしそれでもこの一瞬は、彼女は遅れを取った。
「おい」
「ん?」
「アンタが情報を重視する理由がわかった」
「それはどうも」
正確な判断は、正確な情報のもとにのみ成立する。
何かあるな。
そう考えたシンボリルドルフが眼を移し、そして気づいたちょうどその時。
「スカーレットちゃーん! 2000メートルですよー!」
どうしようと悩んだ末に、スペシャルウィークは大歓声の中でそう声をかけた。
首に鈴をつけるようにピッタリと追従する。
やや離され続けてはいるが、これをできるウマ娘がどれほどいるのか。
たぶんそれは、意気がアガっているからだ。
スペシャルウィークには、その経験があった。エルコンドルパサーに負けた、そして日本総大将として責任を負って挑んだジャパンカップでの彼女は、実力以上のものが出せた、と。
少なくとも彼女当人はそう述懐している。
東条隼瀬からすればそれは本来スペシャルウィークが持っていた実力を出し切っただけ、となるわけだが、その認識はダイワスカーレットへの声掛けをためらわせるには充分だった。
ロケットスタート。
セイウンスカイという曲者の逃げウマ娘を相手にしていたスペシャルウィークには、逃げというものはスタートを重視するものだという認識がより強力にある。
だから、開幕スパートをそこまでおかしいとも思わなかった。
(隼瀬さんは、ウオッカちゃんにエルちゃんとグラスちゃんをマークにつけるような人だから)
エルコンドルパサー。
グラスワンダー。
同期で、共に数多の激戦を繰り広げてきた豪傑2人。その実力は無論、スペシャルウィークの脳内にある。
自分より、上。その認識もある。そしてそんな自分が各距離の司令官で、あの二人は分隊司令官。
スズカさん。
異次元の逃亡者、サイレンススズカ。
同室なだけに、無論その強さは知っている。併走したことも100度もある。
知覚し、実体験があってもなお、スペシャルウィークにはエルちゃんとグラスちゃんをデビュー前のウマ娘を牽制するために使うのかという衝撃が残っていた。
その衝撃が、錯覚させた。
自分をいくつかの赤点から救ってきた隼瀬さんはダイワスカーレットというウマ娘の実力を正確に測り、素質を正確に見定め、スタートから振り切れと厳命したのだろう、と。
無論、そんなことはない。そう思われようとメンバーを選出したが、そんなことはない。
観客の皆さんは、毎日王冠の続きが見たいでしょうから。
彼は、メンバー登録について問われたときにそう言った。しかし、横浜高校ストーリー打線じゃないのである。そんなセンチメンタルな選出はしない。
だから、気づくのが遅れた。
スペシャルウィークは序盤、ダイワスカーレットを見ていた。ミホノブルボンを追うダイワスカーレットを見ていた。
だから、遅れたのである。
(……おか、しい?)
そう気づくのに、遅れた。
ダイワスカーレットは、本当によく粘っていた。ある種驚異的な根性を見せた。
νブルボンは伊達ではないが、ダイワスカーレットの根性も伊達ではなかった。
ズルズルと下がってくる、ダイワスカーレット。
そしてそこからミホノブルボンを見て、気づいた。
(変わった?)
テストの解答欄のズレに気づかずに0点を取ったスペシャルウィークは、鋭敏なレースセンスでそれに気づいた。
ミホノブルボンのフォームのズレに。
これがミホノブルボンでなければ、スペシャルウィークは気にもしなかっただろう。競り合えばフォームはズレるし、なんなら理想的なフォームを長時間維持できるウマ娘の方が少ない。
だが、相手はミホノブルボン。
誰にもできないような才能はないが、誰にでもできる技術を極め尽くし、再現可能な強さの理論値を叩き出したような、リギル系列二代目の三冠ウマ娘。
初代は、肉体的にも精神的にも怪物だった。
三代目は、初代をも上回る天与の肉体を持っていた。
だが二代目は、誰にでもできる技術を誰にでもできる努力で積み上げ、再現可能ながら誰にもできないような結果を出した。
つまり、コーナーは限界まで内をついて曲がる。直線はまっすぐ走る。
膨れないし、よれない。つまり、ロスがない。
そしてそれは、走行フォームも同じ。
自分の身体と適性にあったフォームを、なんの狂いもなく再現し続ける。
それが崩れたのは唯一、春天でのライスシャワーの追撃を躱したときのみ。
そんなウマ娘のフォームが、ズレている。
(ズレたんじゃない! 変えたんだ!)
じゃあ、なんのために?
そこから気づいたスペシャルウィークの行動は早かった。ブロックされかけている現状を大外に持ち出して回避し、そしてロングスパートで一気に上がる。
「スカーレットちゃん!」
「スペ、先輩! スパートが……」
スパートが終わらない。
『なんでスパートがあんなに持つのよ!?』という思考からさっさと『そういうものだ』と受け入れたダイワスカーレットは、息を切らしながら、おそらくこの状況を打開できるであろう先輩に現状を伝えた。
「スカーレットちゃん。もうひとつだけ、頑張ってください!」
フォームを変化させているのは、後々使うべき筋肉を温存し、使うべき筋肉に負荷をかけきるため。
一部を集中的に疲労させるフォームを切り替え、負荷を与える部位を変え続けることによって、理論上はいつものよりも少し遅いくらいのスパートを常に維持することができる。
「なんですか? なんだってやりますよ!」
勝負根性が服着て歩いているような、そんな返答。
しかしそんな言葉とは裏腹に疲れていることを承知で、スペシャルウィークは思いついた対策を言葉に出した。
「今は離されてもいいので、息を入れて。第3コーナー付近で仕掛けてください。私も後で行きますから」
「わかり、ました!」
すぐ近くにある。
大きな心肺器官の飢えを満たすように大きく息を吸って、脚を若干溜める。
そして、ダイワスカーレットは仕掛けた。
スペシャルウィークが外に進路を取るように見せかけて好位置を取られないように防壁になっている間に溜めた脚を、ここで使う。
離されるばかりだった距離が若干詰まる。足音からして、ミホノブルボンは気づく。
(次は……!)
ダイワスカーレットの脚がその出力を放出し終える直前。
息を入れる暇を与えないような連撃を、スペシャルウィークは仕掛けた。
これからの第4コーナー、そして長い東京の直線。そこまで、ダイワスカーレットの脚は持たない。消耗している。
それを瞬時に理解し、そしてスペシャルウィークは仕掛けたのだ。逃げというものはどこかで息を入れなければならないことを知っているから。
サイレンススズカ。
例外的な逃げウマ娘を、スペシャルウィークは知っていた。
そしてスペシャルウィークがサイレンススズカを知っていることを、東条隼瀬は知っていた。
(落ちない?! いや、ここから?)
第4コーナー、直前。
そこでも落ちない。だったら、直線で息を入れるのか。
しかしそれは効率が悪い。サイレンススズカがコーナーで息を入れるのは、距離を詰めさせないためなのだ。
逃げウマ娘は、ロスのない最内を通る。逃げウマ娘を抜きに来るウマ娘はロスのある外を通る。
そのロスの区間に息を入れる。詰めさせすら、影すら踏ませない。
心理的ダメージを同時に与えるからこそ、だからこそ、逃げ差し戦法は無敵だったのだ。
そして直線半ばで、ミホノブルボンは更に走る姿を変えた。それはナリタブライアンを思わせる地を這う猛禽類のような走行フォーム。
これは止まらないと、スペシャルウィークは悟った。そして同時に、理解した。
たぶん1ハロンごとに、フォームを変えているのだと。
(息を入れずに……!)
ずーーっと。同じ速度で走る。
駆け引きも何もいらない、自分より弱い相手には絶対に負けない、そして自分より強い相手には負けるある種の完成形。
『残り200メートル! 外からダービーウマ娘が襲ってくる! 襲ってくるがしかし、三冠ウマ娘だミホノブルボン! これが未だ無敗のウマ娘!』
少しずつ詰められる。徐々に、徐々に詰められる。
しかし詰め切る前に、白い勝負服が流星のようにゴール板前を通過した。
『凱旋門制覇は伊達じゃない!』
悠々とゴール板前を通過し、ギアでも切り替えるように少しずつ減速してからぐるりとレース場を一周し、手を振る。
「すごい……」
ダイワスカーレットは、見た。
常に1番を取り続けるウマ娘。通過順は無論どれでも1番。
それは、彼女にとって理想の姿でもあった。
膝に手をついて荒く息をする中で、常に1番を取り続けるそんな理想の姿が、観衆の声に応えて手を振りつつそれなりの速度でやってくる。
「てんてーん、てっててーん、てーてーてーてってってー」
そんな鼻歌混じりに、余裕たっぷりに。
スペシャルウィーク以外全員のウマ娘が死んだような顔で疲れ果てていく中で過ぎ去っていく、このサイボーグ。
――――ほんとうにロボなんじゃないか
3枚の放熱板を手で操るように空を舞わせて再び肩の定位置に順次着地させ、接合させる。
勝負服の機構を活かした勝利ポーズを見せたミホノブルボンの去りゆく姿を見送った誰もが、そう思った。
72人の兄貴たち、感想ありがとナス!
鳥っぽ兄貴、しらふじ兄貴、setu23兄貴、oyler兄貴、杏山西兄貴、ジャンボ fate兄貴、Hiiru meridian兄貴、ichi兄貴、桑田ケネディ兄貴、評価ありがとナス!
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