ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート   作:ルルマンド

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試験的童話風ボン


ブルの恩返し

 トレーナー室に、ウマ娘が4人。

 日本だけでも合計32個のGⅠを制した無敵のリギル分艦隊の面々は、レースのために集まったわけではなかった。

 

「お集まりいただきありがとうございます、皆さん」

 

 32個のうち10個を占めるロボは、自分の呼び出しに応じてくれた3人を見回して一礼した。

 

「皆さんにお集まりいただいたのは、お訊きしたいことがあるからです」

 

「と言うと?」

 

「私はマスターに恩義があります」

 

 三冠ウマ娘にしていただいた、と。ミホノブルボンは思っている。

 あとは他にも夢を応援してくれたり、夢を肯定してくれたり、周りのバッシングを受けても庇ってくれたり、新しい夢を見つけさせてくれたりと。

 

 凱旋門賞のあれこれはあったがそれでも、恩を少しくらいしか返せていないとミホノブルボンは思っていた。

 だからクリスマスに料理を作ったりなんだりして少しでも恩を返していきたいと思っているのである。

 

 だが実際、どうやればいいのかわからない。

 

「その恩義を返していくために、何をすればよいでしょうか」

 

「参謀くんは君の夢を叶えるためにがんばっていたわけだから、恩義を返したいと言うなら夢を叶える以外に方法はない。君は夢を叶えたわけだから、もう返したと言っていいのではないかな」

 

 これは実に皇帝らしい、東条隼瀬という男の心情に即した感想だった。

 事実、彼はこれっぽっちもミホノブルボンに恩義を貸し付けたと思っていない。むしろ借りがあると思ってすらいる。

 

 ただ事実、シンボリルドルフにはわかっていた。ミホノブルボンとしては借りた恩義を義務的に返したいというよりも、自分にやってくれたように尽くしたいと思っているのだろう、と。

 

(と言っても、彼はそういうことを望まないだろうし)

 

 どうやって宥めすかしたものか。

 そういう思考を巡らせていたルドルフは、取り敢えずブライアンに目配せをした。

 

 基本的に思考回路が単純明快なこの副会長であれば、ブルボンに明確な指針を与えられるのではないかと思ったのである。

 

「勝てばいいんじゃないか」

 

「レースにですか」

 

「ああ。アイツは今は一応トレーナーだ。勝ちを積み上げるのがウマ娘として最高の貢献なのではないか」

 

 勝てば、栄光が得られる。

 勝てば、金銭が得られる。

 勝てば、実績が得られる。

 

 負ければ何も得られないが、勝てば全てを手に入れる。ブライアンは身を削り合うような勝負が好きなだけでそういうものに興味はないが、【そういうものが得られる】ということは知っている。

 

 一応、彼女は名家の出なのである。

 

「ですがそれは私の利益にもなることですし、結局のところマスターに恩義を返すのと同時に恩義を受けることになるのではないでしょうか」

 

 別にいいんじゃないかと、ブライアンは思った。

 彼女は確かに育ててくれたことに恩義を感じている。だがその恩義を自分の才能を発揮しレースで勝つことによって返そうとしているわけで、ミホノブルボンのような思考にはならなかったのである。

 

 そんな中で、サイレンススズカが口を開いた。

 

「ブルボンさん」

 

「はい」

 

「健康であれば、もうそれで一番だと思いますよ」

 

 部屋が、シンとした。

 静かな空気が場を満たし、サイレンススズカという常に走っているようなウマ娘のまとう雰囲気を際立たせる。

 

「怪我をしないというのが、一番だと思います」

 

 自分でもよくよくわかっているのか、あるいは走っているだけで温かな眼差しを向けられていることを察しているのか。

 そこらへんはわからないが、ともかく超弩級の爆弾の投下によりこの場は解散という運びになった。

 

(マスター……)

 

 しかしそれでミホノブルボンが恩返しを諦めたわけではない。彼女は結構頑固なところがあり、そしてその頑固さは大抵諦めなさにつながる。

 その諦めなさは長所として夢を支えていたわけであるが、この場合は不毛な働きを見せていた。

 

 少しずつでも、恩返しをしたい。

 その気持ちに偽りはなく、ミホノブルボンは他の友達にも訊くことにした。

 

 しかし、ミホノブルボンには友達が少ない。ライスシャワーというウマ娘がいるが彼女は海外、オーストラリアにいる。

 

「え? 恩返し?」

 

 そんなところで、ミホノブルボンは奇妙な声で鳴く友人の下へと走った。

 通常の人間であれば全角で表されるような言葉を半角で見事に表すようなその少女は、弾むような跛行で歩いていたところをとっ捕まったのである。

 

「うーん、ボクなんかはありがとーっていっつも言ってるかな」

 

「あら、テイオー。どうしましたの?」

 

 そんな話をしている中で、優雅瀟洒なお嬢様が現れた。

 

 パクパクですわ。

 ホヤあそばせ。

 おしるこ。

 

 そんなことなど、言うわけもない。彼女は、メジロ家の令嬢である。

 美しい紫がかった芦毛が太陽の輝きを反射し、高貴なヴェールのような光を放っていた。

 

「あ、マックイーン。恩返しをしたいんだって。どうやればいいかなーって」

 

 半角の彼女は、後ろを通りすがったお嬢様に向かってそう問うた。

 半角の彼女は、旧家の令嬢である。しかし本家本元のお嬢様であれば、何かしらあるのではないかと思ったのだ。

 

「恩返し、ですか。やはり込められた期待に応える、ということですわね」

 

「なるほど」

 

「私は、思いますわ。皆が込められた期待に応えてくれれば……優勝していたのに、と」

 

 雲行きが怪しくなってきた。

 

「ゆ、優勝?」

 

 半角の彼女は、裂きイカのような一房の白い髪をくるりと丸めて首を傾げる。

 そのセリフはまさしく半角のそれであった。

 

「ええ」

 

 そう頷く彼女の表情は、いかにもお嬢様と言った感じに耽美で沈痛なものだった。

 

「バースの再来だったはずですのに……」

 

「バースというのは、どういう方なのですか?」

 

「……我々党員にとって、シンザン様のようなものですわ」

 

 要は神だと、沈痛にして耽美、流麗にして瀟洒なお嬢様は述べた。

 

「なるほど。身の丈にあった期待をしなければがっかりする、ということですか」

 

 ミホノブルボンは、そう思った。かつ口に出した。

 しかしお嬢様は優雅な寛容さを発揮して、この寒門ロボの無礼をスルーした。本当に聴こえてなかったのかもしれないが。

 

「やはり、思いますわ。誠意は言葉ではなく金額と、とある偉人は言いました。前評判に違わぬ行為を見せることこそ、恩義を返すということではないかと」

 

 ミホノブルボンに、雷鳴が走った。

 トウカイテイオーすらも、この言葉には頷いた。

 

 誠意は言葉ではなく、金額。なんと謹厳な言葉であろうか。修飾、華燭。それらのうちにある実こそが、重要なのだと。

 

 トウカイテイオーは、思った。

 自分を応援してくれるファンから送られてくるファン・レターに頑張って返事をするのもいい。

 だが、ファン・レターよりなによりも、走りを見せることが重要なのだと。

 

 ガンバルゾ。

 自分が決定したチーム名のごとく、がんばるぞ。

 

 そう決意した帝王がスピカの部室へと独特なステップで帰っていく中、ミホノブルボンもペコリと頭を下げてからその場をあとにした。

 

 誠意は言葉ではなく、金額。

 しかしだからといって金銭的な贈り物をしても、マスターは受け取ってくれないだろう。

 

 ミホノブルボンは学習型コンピューターを積んでいる。そしてその学習型コンピューターは、恩返しをしたい対象が教え子から金銭を受け取るような存在ではないことを告げていた。

 

 うむむ、とロボは思った。この小学生のような情緒をしたロボは、いつもなんとなくマスターと呼ばれる人間にくっついて回り、とことこと付いて行っている。

 しかしそれはやりたいからやっているだけであって、特に何が役に立っているというわけでもない。

 

 そのことを知っているだけに、ミホノブルボンはなんとなく合鍵を使ってトレーナー寮に侵入して室内に侵入し、そして勝手知ったる台所と勝手知ったる冷蔵庫を使って料理を作りはじめた。

 

 現在彼女のマスターは学会での発表で素人意見で恐縮ですが、と言っているはずである。

 そして彼はとても料理がうまい。だから本来ミホノブルボンが作る必要などないのだが、彼は自分のために腕を振るうということをしない。

 

 そんなわけでミホノブルボンが夜食を、シンボリルドルフがお弁当を作ったりしているのである。

 ミホノブルボンはなるべく丁寧に料理を作り、時間と相談しながら温かなままに提供できるように気を遣った。

 

 あとついでに、老犬を撫でたり面倒を見てやったりした。暇だったのである。

 

「お」

 

 ただいまとすら言わずに鍵を開けて入ってきた男は、暗がりの中に光る髪飾りと瞳を見て来訪者の存在を察知した。

 

「おかえりなさいませ、マスター」

 

「来ていたのか」

 

「はい。ご飯の用意も万全です」

 

「ありがとうブルボン」

 

 ポンポンと栗毛を軽く叩くように撫でて、東条隼瀬は荷物を置いた。

 正直適当に惣菜を買ってきてこれで済ませようとしていただけに、これは嬉しかった。

 

 そして帰ってきたときに誰かがいるというのも、悪くはなかった。

 

「マスター。マスター。一緒に食べましょう」

 

「わかったわかった」

 

 袖をくいくい引っ張ってくる大型犬型ウマ娘ロボをいなしつつ、卓上に予めパソコンを立ち上げておく。

 

 これからまた仕事をするんだなーと思いつつ、ミホノブルボンはパタパタと尻尾を振った。1日とはいえ、ついて行けないのは寂しかったのである。

 

 この帰ってきた飼い主にしなだれかかり尻尾を振り足元にまとわりつくような大型犬のようなウマ娘を撫で、ほっぺたを引っ張る。

 

 こうしてブルボンの恩返しは、なんとなくいつもの形に落ち着いた。

 こういう形がこれからもつづくといいなぁと、ミホノブルボンは思った。




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