ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート   作:ルルマンド

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スピカ三部作テイオー編完。
ちなみにブルの恩返しはこのあとの出来事です。

あと23時から
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で架空ウマ娘を作る安価スレやってます。暇だったら来てね。


アフターストーリー:不撓不屈

 管理主義への移行というのは、大変なものである。

 指導するトレーナーの頭を改革しなければならないし、放任主義から管理主義への移行はやることが何から何まで変わってくる。

 

 これは管理主義から放任主義への移行も似たようなものではあるが、やることが増える放任主義から管理主義への移行がより困難だと言えるだろう。

 

 だがしかし、もっと大変なのはむしろウマ娘側であろうと、東条隼瀬は思っていた。

 

「アンタここ抜かったでしょ!」

 

「お前もここむやみに加速しすぎだろ!」

 

「何よ!?」

 

「何だぁ!?」

 

 グギギギギ、と。

 二人は幸せなキスをして終了、というテロップが出てきそうなゼロ距離での、顔を突き合わせての言い争い。

 

 基本大人の集まりのリギルでは起こり得ないやり合いである。

 そんな二人を遠目に見つつ、東条隼瀬は素直な感想を口に出した。

 

「よし、楽しく話せてるな」

 

「……ほんとうにそうか?」

 

 ブライアンは、思った。

 こいつあの二人を放置し過ぎではないか、と。

 

「アンタのやり方にケチをつける気はないが、折角の機会だ。色々教え込んだほうがいいんじゃないのか?」

 

「と言うと?」

 

「アイツら、放任主義の徒だろ。教えられるという経験に乏しいはずだ。その乏しさを埋める為に、アンタが選ばれたんじゃないのか」

 

 放任主義と管理主義。ウマ娘を育成するにあたって双璧を成す二大体系。

 どちらが正しいのかは、ブライアンにはわからない。まあ正直言って興味がないというのが本音である。

 

 だが放任主義と管理主義が双璧めいて存在している以上、そこには必ず理由がある。

 無ければ、ここまで存続し得ないであろう。

 

 となるとどちらにも必ず長所がある。

 なのだから、ここは管理主義の長所を味わわせてやるべきじゃないのか。

 

 そう思うナリタブライアンの言っていることはもっともだった。もっともではあるが、東条隼瀬としては別な考えのもとにこういうことを行っているのである。

 

「アイツらは放任主義のチーム、スピカに所属している。俺がいつまでもどこまでも面倒を見られるならいいが、そういうわけでもない」

 

 面倒を見られるとか見るとかではなく、見てはいけないのである。

 ブルボンの初期の頃にベテラントレーナーが越権行為を承知で接触してきたことがあったが、それは本来よろしくないことであった。

 

「だから最初は練習の組み方を見せて、そして後半からは自分の手で組めるように持っていく。これが一番いいだろう」

 

「なるほどな」

 

 こいつ、よくやる。

 自分にとってなんの得にもならないことを色々と考えて実行に移すのはもはや奇人と言うべきだが、更には自分の手から離れたときのことまで考えている。

 

「お人好しだな、アンタは」

 

「別にそういうわけでもないが」

 

「そう見えるということだ。将来苦労するだろう」

 

 お人好しに見られると、付け込まれる。

 そう明言するほど人間不信でもないが、物事を端的に、そして本質的に理解するのがこのナリタブライアンという天才である。

 

 彼が将来余計なものを抱え込みすぎるだろうと洞察するくらいのことはできた。

 

 そんな中、非常な安定感で距離感を保っていたのが、メジロマックイーンとゴールドシップのコンビだった。

 

「あの人は危険ですわね」

 

「あら、マックちゃん知ったんでござんすね」

 

 謎のキャラ変をしたゴールドシップが特に何も言うことなく肯定したのをみて、メジロマックイーンは少し驚いた。

 この芦毛の奇怪な人物は案外と良識があるから、『そんなことを言うもんじゃないぜマックちゃん』とか言われると思っていたのだ。

 

「知っていましたの?」

 

「知っていましたのよ」

 

「いつからですの?」

 

「明日」

 

 このやり取りで、メジロマックイーンは瞬間的に察知した。この白いアレは、まともに会話する気がないのだろうと。

 だがそれでもなんだかんだ付き合ってしまうのが、彼女の人格的な美徳である。付き合いやすさと言ってもいい。

 

 あるいは振り回されやすい、というのかもしれないが。

 

「……明日のことを何故知っているように語れるのですか?」

 

「知ってるからですのよ」

 

 言う気ないですわね。

 そう判断してさっさと諦めたメジロマックイーンは、さすがにゴールドシップと付き合いなれていると言うべきだろう。

 

「…………それにしても驚きましたわね。あの人は特化型――――個々人に即したトレーニングメニューを組んで育てるのが得意だと聴いていましたのに」

 

「そうした方が効率的ってだけで、別に得意不得意ってのはないと思うぜ」

 

「チームを率いる器と?」

 

 となると、リギルの天下は終わらない。

 メジロ家は、リギルと関わりが薄い家である。シンボリ家は言うまでもなく、ナリタ家も深い繋がりがある。

 

 リギルとのコネを作っておくことは、必要になってくるかもしれない。

 そのあたりを、ライアンはおそらくわかっている。わかっているだろうが、一応言っておくべきだろう。

 

 そう思ったところで、どこかから取り出してきたタピオカドリンクを吸いながら、ゴールドシップはつぶやいた。

 

「あれは与えられた権限に応じて自己の能力を拡大させていくタイプだろうし、やろうと思えばやれるんじゃねーの」

 

 それはいつか、皇帝が彼を評した言葉に似ていた。

 それを彼女が知ってていったのか、そうでないのかはわからないが。

 

「と言いますと?」

 

「皇帝といるときは補佐を、スズカといるときは道の舗装を、ブルボンといるときは主導し、ブライアンといるときは才能を必要に応じて封じ、あるいは引き出してる。やりようを変えられるってことだ」

 

「……貴方、案外鋭いですわね」

 

「ま、丸っこくないからな」

 

 しゅっと顎の下に親指と人差し指を添わせ、キリッと顔を引き締める。

 貫通能力がありそうな程に鋭くなった顎を怪訝な目で見つめながら、メジロマックイーンは何やら考えるような眼差しでダイワスカーレットとウオッカを見つめた。

 

 後輩を見守る先輩の眼差しになったメジロマックイーンの意識が自分から逸れたのを見て、ゴールドシップは少し足元に目をやってやはりと頷く。

 

(マックちゃん、脚に触れてないな)

 

 1年前くらいのこと。

 メジロマックイーンは、繋靱帯炎になった。

 

 そしてなってからもしばらくその現実を受け入れず、意地を張って走りすらした。

 そのときに感じた違和感、痛み、そういうものが残っている。いや、残っていた。

 

 走っているときの、微弱な違和感で足が止まる。

 走っているとき、また痛くなるのではないかと思って全力が出せない。

 

 そういう心理的な病が、メジロマックイーンを蝕んでいた。

 だからこそこういうところではなんとなく、自然にかつて痛んだ場所に手を触れてしまうのだが、2日前からそれが見られない。

 

(なんかしたな)

 

 沖野トレーナーとメジロ家の医師は、不治の病である繋靭帯炎を治した。しかし肉体を治したからといって、元に戻るわけではない。

 身体は元に戻っているかも知れない。だが本人の記憶に走れば脚が痛むという経験が染み付き、本来の動きをすることを阻む。

 

 だがその染み付いた記憶が、するりと抜け落ちたような感じがある。

 

(環境変えたからか? まあなんにせよ、本人に悟らせずに治すってのはあいつの得意技だもんな)

 

 治った。

 違和感が、違和感でなくなった。

 

 そのことを自覚されないように静かに目線を元に戻して、ゴールドシップはブライアンとこちらに歩いてくる男に声をかけた。

 

「あんがとな」

 

「さあ、なんのことかな」

 

「わーってるよ」

 

「だろうが、紛らわしい。慎むことだ」

 

 そんなやり取りを耳にしたのか、薄紫がかった芦毛の耳がピコンと揺れる。

 手短で、聴く分には何がなんだかわからないやり取りを咀嚼し終えたマックイーンは去りゆく二人の背中を見終えてからゴールドシップの方に視線を戻した。

 

「またなにかやってもらいましたの?」

 

「んにゃ、ゴルシちゃん号を修理してもらっただけだ」

 

「してもらってるじゃありませんの!」

 

 ああ、お礼を言いに行かなければなりませんわ!とアワアワするマックイーン。

 いつも通りのウオッカとダイワスカーレットに、あとは何故か横浜に現れたスズカとスペ。

 

 そんな中で一方トウカイテイオーはと言えば、戦術のなんたるかを叩き込まれていた。

 シンボリルドルフは、最強クラスのウマ娘である。

 しかも戦局を自在に変化させ他のウマ娘を操ることにかけては隔絶した技量を持っている。

 

 視野の広さ、天性の才能、百戦錬磨というべき経験。

 支配者として完成された才能を言語化して弟子に伝えるその姿は、皇帝と言うよりは教師に近かった。

 

 そしてトウカイテイオーからしてみれば、ルドルフの一言半句を聴くたびに自分との明確な視野の差を感じずにはいられない。

 

 トウカイテイオーは、ダービー以来負けが先行している。大阪杯こそ勝ったがそこから2年後の有馬記念まで勝ち星は無し。

 鮮烈な復活を見せたからやいのやいのと言われていないが、終わった感じがないと言えば嘘になる。

 

 なにせ、連敗を知らなかった無敗の二冠ウマ娘が連敗を知り尽くしてしまったのである。

 

「テイオー。君はここから、常に注意を向けられる立場にある。少なくとも参謀くんは君を全力で叩き潰しに来るだろう。無論私も君を全力で封殺する」

 

 その言葉を聴いて、トウカイテイオーは高揚した。尊敬する皇帝と、感情をすべて排せば認め過ぎるほどに認めてしまっている皇帝の杖に見込まれている。

 自分の実力を評価される。警戒される。レースを生業とするウマ娘の本能が、そのことを喜ぶ。

 

 だが一方で、心のどこかで思うのだ。

 

 

 ――――荷が重い、と。

 

 

「あ」

 

「げ」

 

 あが、テイオー。

 げが、東条の甥の方。

 

 合宿施設の廊下で、二人はかなり久々に顔を突き合わせた。

 

「やはりお前、俺の意識の外から仕掛けてくるな。油断できん」

 

「……偶然でしょ」

 

 事実、トウカイテイオーはなんとなくそこらへんを歩いていただけで、彼どころか誰にも会いたいなどとは思っていない。

 

 ――――その偶然を引き込む力が、お前にはある。

 

 東条隼瀬としてはそう言いたかったが、やめた。調子こかせると対応がめんどくさいからである。

 

 しかしいつもならキャンキャンと噛み付いてくるテイオーには、明らかなバイオリズムの低下が見られた。具体的に言うと、テンションが低い。

 

(いいことだ)

 

 トレーナー代理としての意識を食い破って、テイオーを敵に回して戦ってきたトレーナーとしての意識が出てきて反射でそう思ったあたり、天敵としての意識が強い。

 他の誰を相手にしても、これほど恐れはしないだろう。

 

(いや、よくないか……)

 

 どうにも、警戒心が尽きることはないらしい。こういう、爆発力を秘めた難敵を前にしては。

 

「……あのさ」

 

「なんだ」

 

「キミ、なんでボクをそこまで警戒するの? カイチョーなら、ブライアンなら、ブルボンなら、ボクを敵に回しても勝てることくらい、キミならわかってるでしょ?」

 

 復活してからまた怪我をして、そしてアオハル杯で完封に近い負け方をする。

 それも、純粋に実力で負けたわけではない。それよりももっと上の次元で、視野の広さで負けた。

 

 そのことを自覚しているだけに、そして責任感が強いだけに、ちょっとだけ凹んでいるトウカイテイオーは到底彼女らしくない問いを投げた。

 

「お前は忘れたかもしれないが、お前はトウカイテイオーだ」

 

「知ってるよ、そんなこと」

 

「だからだ」

 

 なにが?と。

 トウカイテイオーは首を傾げた。

 

「お前がトウカイテイオーであると言うだけで、警戒するに値する。俺はお前が何度骨を折ろうが、全知全能を傾けて叩き潰す。そういうことだ」

 

 あんまりにもあんまりな理屈に、一瞬トウカイテイオーは呆気にとられた。

 実力ではなく、名前で警戒する。それは素人とか、新人トレーナーがやりがちなミスである。

 

 本物のトレーナーとは名前ではなく、中身を見る。見た上で警戒する対象を決める。

 

「……ハハッ」

 

 それなのに、この百戦錬磨のキングメーカーは敢えてそうするのだという。

 お前にはそれだけの価値があるのだと、言外にそう告げられて、トウカイテイオーはバカらしくなって笑った。

 

「ボク、次は負けないよ!」

 

 それは、宣戦布告だった。いつかどこかでマックイーン相手にやったものと、ほぼ同じもの。闘志が再点火された。再燃した。その証。

 

 だが返ってきた言葉は、実に平坦なものだった。

 

「だろうな」

 

「え?」

 

 暖簾に腕押し、糠に釘。

 要は気組みをサラリと外されて、トウカイテイオーは半角めいた変な声を発した。

 

「スピカの次の対戦相手は俺ではないし、お前なら勝つだろう」

 

「そういうことじゃなくてさぁ! わかんないのかなぁ!」

 

「理解できないから恐れているんだ。それがわからないのか?」




107人の兄貴たち、感想ありがとナス!

炭酸珈琲兄貴、tooma1122兄貴、K.W.C.G.兄貴、tinpan兄貴、棗くん兄貴、Zeffiris兄貴、touya兄貴、評価ありがとナス!

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