ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート   作:ルルマンド

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なんとなく書いたからなんとなく投稿。一応意味はあります。


第4回ジャパンカップ:千の夜を越えて

 ジャパンカップ。

 世界に通用するウマ娘をと、後進国たる日本のトゥインクル・シリーズの主催者……URAによって創設されたレース。

 

 その創設当初の理念は、『まだまだ進化していく』という向上心の発露である。

 

 しかし、それはどうか。

 その裏には、確かな自信があった。URAは、思ったのだ。

 

 

 ――――そろそろ、日本も世界に通用する力を手にしているのではないか

 

 

 無論URAの上層部は白昼夢を見ながら歩くような連中ではない。海外遠征し、大レースを征する。そんなことなど、夢見すらしない。

 

 だが、彼らには勝算があった。つまり、ホームでやれば充分に相手になるのではないか、という。

 ホームアドバンテージというのは、多かれ少なかれどこにでもある。どんなスポーツでも、ある。

 

 そしてトゥインクル・シリーズにおいてそれは特に顕著だった。気候風土に合わせ適応した芝の上で行われるレースは、国や海を跨げば競技そのものが変容しているのではないかと思うほどに変わる。

 

 芝が軽い。重い。

 たったそれだけで、有利不利が容易くひっくり返る。それならば、和と洋の芝の間にある差はどれほどのものか。

 

 URAは、勝てると思った。少なくとも国内であれば勝てると。

 そう思った。

 

 しかしそこに油断はなく、日本勢は総力戦の様相を呈していた。

 

 アメリカの血を引いた期待のウマ娘、タクラマカン。

 

 前年の有馬記念を制し、年度代表ウマ娘となった『ターフの紳士』ホウヨウボーイ。

 

 ダービー、菊花と一番人気に推されながら惜敗した『無冠の王子』モンテプリンス。

 

 地方トレセンの浦和からやってきたスター、ゴールドスペンサー。

 

 名門メジロからはカノープスの古豪、メジロファントム。

 

 ティアラ路線からはこの年の毎日王冠でレコードを叩き出し頭角を現したジュウジアロー。

 

 典型的な逃げウマ娘として、その勝負服の鉢金から【日の丸特攻隊】なる異名をつけられた短距離路線のサクラシンゲキも徴用され、ほぼ完璧な体制。

 

 対して外国勢は、GⅠ級勝利をあげたのが一人というやや格落ち感のある体制。

 

 ――――日本を相手にするなら、この程度でいいさ。

 

 そういう意図が透けて見える。

 そしてその意図、意図の裏にある冷徹なまでの現実認識は、正しかった。

 

 その意図を裏切り破壊するべき日本のウマ娘たちが、その正しさを証明してしまったのである。

 

 この錚々たるメンツの中で、日本勢の最先着はゴールドスペンサー。

 しかも彼女は地方から来たウマ娘で、URAの生え抜きとしては6着のホウヨウボーイ。

 

 勝ったのは、特に優れたところもないと目されていたメアジードーツ。しかも4着までの外国勢は、当時のレコードを更新してのゴールだった。

 

 日本勢は、ベストを尽くした。

 ベストを尽くしてなお、勝てなかった。

 つまりそれは、どうしようもないレベルの差が日本と外国の間にはあるということだった。

 

 

『あのレースを観戦したものは、日本バがジャパンカップを勝つまであと20年はかかるだろうと心底ため息がもれたはずだ』

 

 

 どこかの誰かが、そう言った。

 そしてそれと時を同じくして、特設の観客席で幼い獅子が吼えた。

 

「見ていろ」

 

 3年後を。20年後でもなく、何年か先でもなく、3年後を。

 私が出てくるまでの、つかの間の天下を楽しむといい。

 

 その威風堂々たる立ち振る舞いに、特設の観客席に詰めかけた各名家の代表たちは息を呑み、絶望を引っ込めた。

 

 

 ――――この娘ならば、なにかをやるのではないか。

 

 

 そんな威風が、彼女にはあったのである。

 そして、3年後。

 

「おぅ!?」

 

 啖呵を切ったのと同じ声が、ものすごく情けない声を奏でた。

 腹部に打撃。なにか、物が落下したらしい。

 寝ぼけ眼をゴシゴシやりながら熱を持ったそれをどけようと手を腹の方に伸ばし、取る。

 

「湯たんぽ……か?」

 

 ソファで寝落ちしていた身体は、どこか強張っている感じがある。

 首を回したり腕を伸ばしたりあくびしている最中、背中から回り込むようにぬっと、見覚えのある顔が出てきた。

 

 まだ若い。だが若さを感じさせない、冷たい眼差し。

 

「腹を出すな」

 

「おぉ!?」

 

 意識覚醒率47%くらいの皇帝は、強かに不意を突かれた(3分ぶり2回目)。

 基本的に周密に配慮した作戦で危なげなく勝つことを常とする彼女からすれば、不意を突かれた経験というのはそう多くない。

 

 ――――いい経験だ

 

 覚醒しきらない頭の中で、そんな悠長な言葉が鳴った。

 

「……参謀くんか。なんで私の部屋にいるんだ?」

 

「腹を出して寝るな」

 

「わ、わかった。わかった。で、なんで私の部屋にいるんだ?」

 

「お前はいつ、部室を実効支配したんだ?」

 

 本気で頭が起きてない皇帝は、ふわーっとあくびをしてから40%くらいしか開いてない眼で周囲を見回した。

 

「あれ、部室だ……」

 

「やっと起きたか」

 

 史上最高に寝ぼけていた頭がそれなりの働きを見せるようになってから、皇帝は――――シンボリルドルフはゆっくりと起きた。

 

 そして、髪にものすごい癖がついていることにも気づいた。

 

「ちょっと顔を洗ってくる」

 

「洗わんでいいから早く部屋に帰って寝ろ」

 

 湯たんぽの熱が伝わったお腹をポリポリと掻きながら歩き出した皇帝の進路を誘導し、扉を閉じて締め出す。

 

「ふぅ……」

 

 やるか。

 第4回、ジャパンカップ。

 出走メンバーのすべてが詰まった情報の集積体から、少しずつ無駄なものを削いでいく。

 化石の発掘のような作業を行いながら、参謀と呼ばれた男はレースに臨もうとしていた。

 

 凱旋門賞の掲示板に入った二人。そして、日本勢の中で油断ならないのが一人、さらには逃がすと怖いのが一人。

 

「……そうするか」

 

 ちゃんと頭が回る程度の健康状態さえあれば勝てる。

 問題は菊花賞から中1週であるということだが、そのあたりも手を抜かせたからおそらくは問題はない。

 

 使える手が多い。だからこそできる手。

 逃げ。先行。差し。追込。ルドルフには全てができる。だがその全てを、相手は知悉しているわけではない。

 

(そのあたりに活路が見えてくるだろう)

 

 

◆◆◆

 

 

 最強コンビ1-7一点日本の夢。

 ジャパンカップ当日に掲げられたその横断幕が示すところは、明白だった。

 

 シンボリルドルフ、ミスターシービー。

 世間は、神以来初めて現れたミスターシービーという三冠ウマ娘と、【皇帝】などとあだ名されるシンボリルドルフというウマ娘に夢をみていた。

 

 ジャパンカップ初制覇という、向こう20年は叶わないであろうと目されていた夢を。

 

「というのが作戦だ」

 

「なるほど。領域はどうする?」

 

「いらん。どうせそれまで見せたこともない札だ」

 

「わかった」

 

 シンボリルドルフは、言葉足らずな彼の言葉を正確に理解した、

 

 いらん。

 

 そう言いつつ、彼は自分の想定外の出来事が起こるかもしれないということを想定している。

 

 土壇場の覚醒、異様な粘り。レースはチェスや将棋ではなく、駒は生きている。

 飛車が龍王になるとは限らない。角行が龍馬になるとは限らない。歩が龍王になり、ビショップが桂馬になる。

 

 だから、『どうせそれまで見せたこともない札だ』と言ったのだ。

 最後の最後、奥の手として取っておけと。

 

 府中、左回り、2400メートル。バ場状態は良。

 5ヶ月前に走ったあの時、杖無しで走っていた後の時と似た、しかし大きく異なる風景を見回して、シンボリルドルフは客席に向けて手を振った。

 

 そんな彼女の背に、聞き覚えのないハスキーな声が飛ぶ。

 

「The Kaiser has arrived! Are we ready to give her bouquet?」

 

 

 ――――Yeah!

 

 

 多重の返事が、東京レース場の一角の雰囲気を明るくする。

 

 

 これまで通り、相手にならない。

 

 

 そんな楽勝ムードが漂う、纏まって何やら話し込んでいる外国勢。

 それらをチラリと見て、微笑む。

 

「怖い顔してるね、ミスルドルフ」

 

「そうかい?」

 

 自分よりほんの少し……帽子を含めれば相当高く見える、天衣無縫の三冠ウマ娘。 

 後ろからやってきたミスターシービーの方をちらりと見て、シンボリルドルフは笑った。

 

「そんなこともないと思うが」

 

「いや」

 

 獲物を見つけた狼のようだ。

 

 ミスターシービーの言語センスは、高かった。というよりもシンボリルドルフがそうとしか言えない顔をしていたからかも知れない。

 

 ルドルフ。高名なる狼。

 名は体を表すというわけでもないだろうが、高い鼻梁を顎ごと少し上げながら微笑んだ彼女は、凄絶としか言いようがないほどの顔をしていた。

 

「君か私。どちらかがジャパンカップの歴史にピリオドを打とう」

 

「珍しいな」

 

「少しくらいは気にするさ」

 

 そういう世俗的なものとは無縁な、三冠ウマ娘。常識を破壊する天衣無縫さ。

 そういったものが、ミスターシービーの本質であったはずだった。

 

 だが少し、今は枠に囚われかかっている。

 

「ルドルフ」

 

「参謀くん。シービーが気後れしている」

 

「そうか? まあともかく、シービーはお前を打ち負かす可能性のある数少ないウマ娘だ。最終手段として、隣二人は残しておけよ」

 

「ああ」

 

 ミスターシービーは、本質的にはスプリンターよりのマイラーである。

 そして思い立てばすぐに仕掛けてしまうような気まぐれさを持っている。

 そのスタミナの低さ、気まぐれさを解消させるために、沖野Tは直線で仕掛ける戦法を彼女に教え込んだ。

 

(純粋なスピードで殴られると怖い)

 

 そういう危惧を、彼は彼女に伝えていない。

 いつか伝えようとは思っているし、事実として彼はこの危惧を後に伝えた。

 

 敗北という形にして。

 

 まあそれはともかく、ジャパンカップはもうすぐはじまる。

 

「大枠は決めたが、逸脱してもいい。臨機応変にな」

 

「君の指揮を信じるよ」

 

 端的なやり取りを終えて、赤いマントをはためかせて皇帝はゲートに向かっていく。

 

(さて)

 

 そんな彼女を見送って、リギルのサブトレーナー――――東条隼瀬はコーヒーを入れた魔法瓶をくるりと回してカップに注いだ。

 

 それは他の観客からすれば、皇帝の補佐をするために精神を統一するための動作に見えただろう。

 

(やることがない)

 

 しかし、別にそんなことはない。

 もう彼のやることは、ほぼない。レースがはじまると、あとは暇になるばかりだったからである。

 

『さあ、常識を塗り替えた三冠ウマ娘、ミスターシービー。1枠1番に入ります。前走秋天では見事な差し切り勝ちを収めました。

2枠2番はエスプリデュノール。前走凱旋門賞では掲示板内となる4着。昨年のジャパンカップでも好走しており……』

 

 とうとうと、実況の口上が続いていく。

 しかし6人目のウマ娘を紹介したあたりで少しだけテンションが上がり、そして10人目となる頃にはやや早口になっていた。

 

『さあ、主役の登場です』

 

 緑の勝負服。日本の皇帝。

 

『7戦7勝! ここまで無敗! 手にしたGⅠは皐月賞、東京優駿、宝塚記念、菊花賞!』

 

 それまで平気な顔をして立っていた7枠11番、ストロベリーロードが逃げるようにゲートの端に寄るほどの威圧感を漂わせながら。

 

『日本の【皇帝】! シンボリルドルフ!』

 

 今日この場で5個目の栄冠を手にする皇帝が、ゲートに入った。

 

 

 ――――カイザーのお出ましだ。花束の用意はいいか?

 

 

 極東の島国で覇者を気取るウマ娘に現実を知らせてやろう。そういう気概も何もかもが、雷霆のような威圧感の前に崩れていく。

 

(はやく、はやく開け)

 

 ゲート。

 ゲート。

 走りたい。早く逃げたい。

 

『さあ第4回ジャパンカップ、スタート!』

 

 瞬間、ルドルフの両隣が弾かれたように走り出した。

 左右に分かれ、なるべくルドルフに近づかないように。

 

(バカ!)

 

 好位をキープしようとしていた外国勢は、思わずそう毒づいた。

 ああもバカみたいな逃げをしては、ルドルフに容易く好位を明け渡してしまう。先行策を許してしまう。

 

 日本の逃げ、カツラギエースもやや驚いたようにペースを上げている。これでは下手をすれば逃げ切りを許してしまう。

 

 日本のトゥインクル・シリーズは、甘い。

 外国であればぶつかるなど挨拶なのである。そしてそんな甘い中で――――容易く好位を譲られてきた皇帝などに負けやしない。

 

 雑草魂。

 

 和訳すればそんな感じの言葉を胸に、同胞に先行策を邪魔されたウマ娘はルドルフに競りかけていった。

 

(なにが――――)

 

 ギロリと、競りかけに行った彼女をアメシストの瞳が睥睨する。

 

 食い殺されそうな、獅子の瞳。

 一度噛み付いたら喉を引き裂くまで襲い続ける狼の瞳。

 

 競りかけるために動いたはずの身体が失速するまで、時間はさほど必要としなかった。

 

 先頭、カツラギエース。

 その後ろには必死の外国勢2人。

 中盤、シンボリルドルフ。

 その隣にかなり大きな間を空けて2人。

 最後尾、先頭から25バ身程後にミスターシービー。

 

 第4回ジャパンカップは、波乱の幕開けを迎えた。

 たった二人を除いた、すべての人にとっては。




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