ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート   作:ルルマンド

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みんながディオガ級とかオウ級とか使ってる中でザケルだけで勝つタイプ


第4回ジャパンカップ:雷霆と稲妻

(24、5、いや、もう少しか)

 

 東条隼瀬は、コーヒーを口に含みながらレースを見ていた。

 先頭カツラギエースからシンガリミスターシービーまでおよそ25バ身。

 

(想定より広い。シービーはどうした?)

 

 ミスターシービー。破天荒、天衣無縫。

 彼女特有の前進を旨とするような進取、鮮鋭な気風が感じられない。

 今の彼女であれば、菊花賞で勢い任せに坂を下るようなことはしないだろうというほどに。

 

(まぁ、いいか)

 

 ルドルフはちゃんと逃げられている。

 内に1人閉じ込め、閉じ込めた相手にプレッシャーをかけ続け、そして外には大きく離れて2人。

 

 シンボリルドルフのいる位置は、完璧な好位である。そりゃあ必然的に、真面目にレースしたければ横に位置せざるを得ない。

 

 

 この頃の彼は知らないことではあるが、シンボリルドルフは所謂ライオンのレッテルを貼られているウマ娘である。

 別にそれはレッテルもクソもなく事実なのだが、要は彼女は生まれたときからボス気質だった。

 

 シリウスシンボリが隣にひょいっとくれば雰囲気で威嚇してビビらせ、シリウスシンボリが前を横切れば雰囲気で威嚇してビビらせ、道を譲らせる。

 

 ウマ娘の中で私がナンバーワン!という感覚を当たり前のように持っている産まれながらの強者。

 まあ今では多少マシになったわけだが、本質的にはライオンのままである。性格はかなり改善されたというか丸くなったが、威圧感はやや減衰しただけに過ぎない。

 

(なんというプレッシャーだ……)

 

 凱旋門賞ウマ娘と蹄鉄を並べて走ったことがある。

 そのことを自慢とするウマ娘は、このジャパンカップに多く参戦していた。

 

(競りかけられない。本能が拒否する……!)

 

 ジャパンカップでは――――というよりも海外のレースでは、熾烈なポジション争いが行われるのが常である。肩をぶつけ合うなど日常茶飯事で、別に驚くことでもない。

 しかし今回のジャパンカップでは、その熾烈なポジション争いというものがほとんど見られなかった。少なくとも日本の観客たちからすればそう見えた。

 

 彼ら彼女らが注目するのは、シンボリルドルフとミスターシービーという二人の三冠ウマ娘。

 しかしシンボリルドルフに関してはプレッシャーの力場で全く他者を寄せ付けず、ミスターシービーに関しては競り合う必要がないほどの後方にいる。

 

(シービーはどこだ)

 

 シンボリルドルフと言えども、狼顧の相よろしく首を180度回頭させるわけにもいかない。

 

 そんな彼女の耳に、指の鳴る音が5度届いた。

 

(怪我……? 怪我をしたということか)

 

 だがそれであれば、彼が呑気しているわけもない。

 脳の一部分を少しだけ現実に起きているレースから切り離して、シンボリルドルフはその意味を考えた。

 

(なるほど。怪我明けだからか)

 

 ミスターシービーは、天皇賞秋で復帰した。

 そしてジャパンカップに駒を進めてきている。そんな彼女がいつも通りの位置につこうとすれば、熾烈なポジション争いに巻き込まれるだろう。

 

(あとは当初の想定通り……ということなのか。それにしては遅い。届くとは思えないが)

 

 当初の想定とはつまり、ミスターシービーはシンボリルドルフのバ群操作による進路潰しに何らかの手を打ってくるだろうということである。

 宝塚記念でものの見事にしてやられただけに、何らかの手は打ってくる。

 そのためのいくつかの想定の中に、【後方で視野を高めて直線一気にしかける】というものがあった。

 

(しかしそれにしては差が開きすぎている)

 

 ミスターシービーと言えども、捉え切れるものではないだろう。

 

(とはいえ、布石は打っておくか)

 

 少しだけ脚を緩め、自分のプレッシャーを直接ぶつけられる位置に何人かを巻き込む。

 焦燥、疲弊。それらを常に与え続け、そして適切な手を打てば短慮な突出をしてくれるだろう。

 

 やれることはやる勤勉な皇帝である。その結果がどうなるかはともかくとして。

 

 レースを引っ張るのは、カツラギエース。

 マイル路線から参戦してきた彼女は耳当てを装着し、このレースで初めて逃げという戦法をとった。

 

 それは皇帝とその参謀からすれば想定内――――折り合いが付きにくく、先行策が合っていないのは周知のことであったから――――であったわけだが、それにしてもよく逃げる。

 

 カツラギエースは、裏をかいたという確信があった。

 事実、皇帝は自分の逃げに対して何ら有効な手は打てていない。

 

(2人も競りかけてくるとは思っていなかったけど!)

 

 そいつら、皇帝のファンネルだよ。

 

 そう指摘する人はいない。まだ表立って目立つほど、シンボリルドルフは他のウマ娘を思い通りに動かすような策を取っていないからである。

 

 ミスターシービーの宝塚記念にしても、ペースを支配しただけだと思われていた。

 

(がんばるな)

 

 3人による壮絶な叩き合い。

 後方皇帝面で死ぬほど他人事な感想を心の中に漏らしたルドルフは、クイッと首を傾げた。

 

 ――――さて、そろそろのはずだが

 

 中盤を越えた。残りは812メートル。

 ミホノブルボンのように繊細な距離感覚があればそう思えただろうが、ルドルフからすれば大雑把に『まあそろそろだろ』と思ったに過ぎない。

 

 そしてその『そろそろ』は、すぐやってきた。

 カツラギエースと競り合っていた2人が流石に疲労を見せ、失速して先頭集団から脱落しつつあったのである。

 

(振り切った! よし、いくぞ!)

 

 いつものように溜めていた脚を爆発させようとして、カツラギエースは気づく。

 

 脚が全然残っていない、ということに。

 

(いや、逃げていたんだ私は)

 

 先行策ではない。実戦では初めての逃げである。

 だから、彼女は気づかなかった。逃げるにしても尋常ではない程に消耗させられていることに。

 

 これが二度目の逃げなら、カツラギエースであれば気づいただろう。彼女も英邁なウマ娘なのだから。

 だが意識的に逃げに打って出るのはこれが初めてで、なおかつこの場はジャパンカップ。

 

 日本勢が負け続けた中で、初めての勝者として名を残したい。そういう欲は、彼女にもある。

 

 だからこそ、気づかなかった。逃げにしても、消耗の度合いが段違いだということに。

 このレースでシンボリルドルフは、逃げのペースで走っていた。だからこそスタートを綺麗に切り、ことさら急いでみせたのだ。

 

 そして追い立てられた逃げは大逃げになり、カツラギエースはスタミナを喪失。

 そしてハイペースの中取り残され、ミスターシービーは勝ち筋を薄くした。

 

(よし、整った)

 

 半分を越える。

 3人抜く。

 

 領域どうこうはともかく、シンボリルドルフはこれらを満たせば全力を超えた全力を出せる。

 そのことを、東条隼瀬は知っていた。

 

「役目大儀」

 

 そんな一言を残して、気づかぬ内にとんでもないハイペースを牽引させられていたカツラギエースと他2人。

 それら3人を纏めて抜き去り、後ろに3人を引き連れたシンボリルドルフが先頭に立った。

 

 そして、必死に喰らいつかんとしたカツラギエース以外の2人は体力の消耗もあり皇帝の隣に居ることを恐れて下がっていく。

 その落ちていく進路と、ミスターシービーの進出経路がバッティングした。

 

 無論偶然ではない。偶然ではないが、ミスターシービーはこれをうまく避けて進路を確保する。

 それは後方に構えていたからでもあり、彼女自身がまた優れた能力を有していたからでもある。

 

(やるな、シービー。さすがは私のライバル)

 

 賛辞を贈りつつ、その跳梁は許さない。

 自分と無理矢理に競り合わせ、そして焦燥と消耗を叩き込んでいたウマ娘たち。

 自分が仕掛けた瞬間、横に広がるように続いて仕掛けてきた短慮なウマ娘たちが、シービーの進路を塞ぐように展開される。

 

「さて、いつまで避けられる?」

 

 ちらりと外を見てそんなことを言いつつ、意識を後ろに戻す。

 目端の利く外国勢が、距離を取りつつ後ろにピッタリとマークしていた。そのことは無論、知覚している。

 

「来るか」

 

 最後のコーナーを曲がり、あとに続くものは1人。シービーはウマ娘の群れの中でもがいている。

 

「やるな」

 

 こいつ日本語喋れたのか。

 

 そんな感想が頭を過ぎって、消える。ルドルフが前3人を抜き去った時、後ろから迫るこのウマ娘との差は6バ身程。しかし今は2バ身くらい。

 

 要は、差を縮められている。

 観客席から悲鳴とか、そういったものが多く上がる。シンボリルドルフというウマ娘は、辛勝が多い。

 競り合って、競り合って、その果てに勝つ。皇帝と呼ばれつつも、その勝ちは割と泥臭い。

 

 天馬の娘、ミスターシービーが泥すらかぶらない突き放すような勝ち方をするのとくらべれば、如何にも対照的である。

 

 東京レース場の直線は、長い。なにせ525.9メートルなのである。

 そんな長い直線がはじまって少しだというのに、無敗の三冠を得た日本の皇帝は海外から来たというだけのなんでもないウマ娘に追い詰められている。

 その光景はシンボリルドルフをよく知っている人間たちからすれば『またか』程度なものだったが、ほとんどの観客たちはこのときシンボリルドルフを知らない。

 

 常に接戦に持ち込んでなんとか勝ってきた、と思っている。

 まあそれは結果としては事実ではあるのだが。

 

「私はお前が来ると思っていた。だから付かず離れずの距離をとって、お前を風よけにしていたんだ。それがこの差だ!」

 

 このままいけば差し切れると、そんな思いの中で一気に詰めていく。

 

「日本の皇帝であろうが、世界では……!」

 

 少しずつ、少しずつ。2バ身が1バ身になって暫し走り、そして気づいた。

 

(詰まらない……!?)

 

 詰まらない。いくら走っても。

 ゴール板がすぐそこに迫っても、詰まらない。広がりもしない。

 

 

 ――――もう少し必死になれ。そうすれば無駄口も減る

 

 

 最後の一瞥だけを残して、シンボリルドルフは領域の片鱗すら見せず辛くもジャパンカップ制覇の栄冠を戴いた。

 しかしそこから暫く、日本勢は苦戦を続けることになる。

 

 そしてその後に勝つのは、奇しくも彼女と同じ雷鳴のような領域を持つ者であった。




Q.なんでルドルフのジャパンカップ?
A.7冠馬コラボしてたから。あとアオハル2回戦に続くから
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