ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート 作:ルルマンド
ライスシャワーというウマ娘がなぜ自分を目指すのか。それが、わからなかった。
一緒に走れるのが嬉しい。彼女には、そう聴いた。皐月賞前夜、深夜22時43分。寮に帰るところでばったりと会って、そんなことを言われた。
正確に言えば、『あ、明日、ね。一緒に走れるから、その、その、ね。嬉しくって』。今でも、口調や間を含めてリピートできる。
一緒に走れて嬉しい。その感覚は、いまいち理解し難いものがある。
ライスシャワーと一緒に走れて嬉しいとは、ミホノブルボンは思わない。マチカネタンホイザもナリタタイセイと走ってもそうだ。
いずれも中距離を得意とするウマ娘。中距離を得意とするように生まれ落ちた、天与の才能を持つウマ娘。当然格上だと、ミホノブルボンは思っている。
彼女ら3人の実力は恐れない。努力は恐れない。実力も努力も、勝っている自信があるから。
ミホノブルボンはただ、その才能を恐れる。自分にはないものを持っているという事実があるだけで、格上であると思う。
だがそれでも、一緒に走っても嬉しくはない。
嬉しいとは、なにか。
それを、ミホノブルボンは聴いた。練習の合間、雑談というべき時間中に。
「ミホノブルボンさんは、ライスのヒーローだから」
なにかしただろうかと、ミホノブルボンは過去のデータベースを探った。
ヒーロー。変身したり、ロボットに乗り込んだり、宇宙を駆ける戦闘機に乗り込んで敵を蹴散らす、すごい人たちの総称。
なるほど、ライスシャワーはヒーローというよりもヒロインといった儚さがある。自分にないものに憧れるのは、ある種当然でもあるだろう。
だが、彼女にヒーローと讃えられる何かをした記憶が、ミホノブルボンにはなかった。
「ブルボンさんは、負けなかった。周りの人の言葉に。無理だって、無茶だって言われて、色んなことを書かれて、メイクデビューで好走したあとも短距離に進めって言われて、それでも曲げなかった。それは、ライスにはできなかったことだから」
「ライスさんは、スプリンターになりたかったのですか」
それは自分以上の無茶であろうと、ミホノブルボンは思った。
ライスシャワーには一瞬のキレがない。ライスシャワーは飛行機のようなもので、真の実力を発揮するには滑走路がいる。
スプリンターにとって必須とされる、ミホノブルボンのような爆発的な加速はない。ある程度の距離を走り、徐々に速度を高めていくことしか彼女にはできない。
「私にできることは少ないでしょうが、応援します。なにか手伝えることがあれば、遠慮なく言ってください」
「え、あ、ううん! そうじゃなくってね。ライス……勝っても、がんばっても、駄目で。お兄さまに会うまで、レースに出るのが嫌になってたの。ライスが勝っても、誰も幸せにならないって……」
君は、間が悪かっただけだ。その証拠が、俺だ。
君が走ることで周りが不幸にしかならないなら、なぜ俺は君をスカウトに来たと思う?
君の走りに魅せられた。粘り強い末脚、飽くなき勝利への執念に。
断言する。君の勝利で、俺は幸せになると!
ライスシャワー! 俺を幸せにしてくれ!
将軍がそう言い終わる頃には、ライスシャワーは泣いていた。
泣いて、泣いて、その間におろおろしている泣かせた当人――――何も知らない人から見れば圧倒的な不審者――――がかわいそうな子を泣かせたということでヒシアマゾンに連行されていく。
アンタは顔の圧がすごいんだよ!などと言われてアーマーゾーン……などと返している未来のお兄さまを慌てて追っかけて、ライスシャワーの今がある。
「……お兄さまにはそう言ってもらって、でもライス、怖くて。そんな中で、ブルボンさんを見たの」
お兄さまは、前に向き直る勇気をくれて。
ブルボンさんが、前に進む勇気をくれたの。
そう微笑むライスシャワーには、今までにない強さがあった。
(……私にとってのマスターが、ライスシャワーさんにとっての私)
だから、追いかける。執着する。憧れる。
その気持ちは、わかる。
ミホノブルボンは、憧れているのだ。自分の夢を肯定して、夢へと続く路を拓いてくれたマスターに。
(私は……)
私は、マスターのことをどう思っているのか。
憧れている。一緒にいるととても落ち着く。ずっと一緒にいたいと思う。
――――ブルボン。自分のことを理解してくれて、夢を肯定してくれて、共に歩んでくれる。そんな相手に恵まれるのは、とても幸運なことだ。誰もがお前みたいな幸運を持ってはいない。
自分のことを理解してくれても、夢を肯定してくれない。夢を肯定してくれても、自分のことは理解してくれない。
理解して、肯定してくれたとしても、共に歩むことを選ぶとは限らない。
トレーナーくんのことを、大事にしなさい。信じてやりなさい。仲良くしなさい。お前に降りかかった幸運を、当たり前のことだと思わないようにしなさい。
お父さんは、そう言った。ウマ娘は誰しもが夢を持っているが、トレーナー側は理解してやれない可能性もある、肯定してやれない可能性もある。そしてその上で、叶えることは更に難しい、と。
三冠ウマ娘は、そもそも1世代に1人しか存在し得ない。そしてそれなりに長い日本ウマ娘史においても、現在4人しか存在しない。
セントライトとシンザンは、神話の世界の住人だ。
そんな中で現れたミスターシービーは、神話の世界の出来事が現実に起こりうるのだと証明し、人と神の時代を繋いだ。
確かに彼女は1年後に出てきたシンボリルドルフとの直接対決でジャパンカップ、有馬、大阪、天皇賞春、宝塚と5連敗とまるで歯が立たなかった。まさしく、完敗と言っていい。
たぶん唯一勝ち目があったのは菊花から中1週間の強行軍で挑んだジャパンカップだっただろうが、ルドルフは何故か生涯最高の出来と呼ばれる走りをした。
王道で、完璧な正攻法。なんの変哲もない、しかし圧倒的な走りをされて敗けた。
その後もルドルフには負け続けた結果として色々と言われているが、偉大なウマ娘である。
接してみると気さくで話しやすいシンボリルドルフは、神の時代にしかなかったクラシック三冠という単語を完璧に人の時代のものへと引き戻した。
未熟だったクラシック級での戦い――――あくまでも、当人曰くであるが――――を乗り越えたシンボリルドルフに不可能はなく、シニア級になってからはまさに無敵。
『私が絶対だ』とでも言うような王道のレースを貫き通し、日本のウマ娘が他国のGⅠでも勝てることを証明した。今やレジェンドの湯に頭まで浸かって浮かんでくる気配すらしない。
とにかく安定感と言うものを体現したような走りで、レース自体が驚異的なスローペースで進んだ菊花賞を除いては観ている者をハラハラすらさせなかった。
その伝説に自分がなりたいと、思わないウマ娘がいるのか。
それは、居ない。でも成長するにつれて折り合いをつけて生きていく。
無論、折り合いをつける気配すらないウマ娘たちはいただろう。だがそれでもトレセン学園に入って、自分以外の天才を見て、あるいは負けて、夢は儚く散っていく。
だがミホノブルボンは、負けなかった。なにせ、現在無敗の二冠ウマ娘。
これだってトキノミノル、コダマ、シンボリルドルフ、トウカイテイオーしか達成していない。朝日杯FSでジュニア王者になってホープフルステークスを制覇した無敗の二冠ウマ娘とすれば、初だ。
つまり早くも、デビュー2年にしてレジェンドの湯に足元まで浸かっている。菊花を控え、温泉に沈められたレジェンドたちからおいでーされてる状態ですらある。
かぽーん、と。その極上のお湯につかれるかどうか。今はそんなところにいる。
更に言えば、レジェンドの温泉に浸かっていたり床を突き抜けて別次元にワープしたりしているウマ娘はいずれも名門の出。
その点でもミホノブルボンは、異質の存在と言えるのだ。
――――こんなことを他に、誰ができる
誰にもできないだろうというのが、ミホノブルボンの結論だった。
ミホノブルボンは、アイドルウマ娘である。ファンレターも届く。無論名門の子弟からも来たが、やはり特に多いのは雑草のようにひょっこりと生まれ落ちた寒門のウマ娘たちからだった。
貴方のようになりたいです。夢を諦めずに頑張ります。
生来生真面目なミホノブルボンは、時折時間をとっては頑張ってそれらの返事を書いている。最近爆増して困っているが、とにかくも目を通している。
だがその度に、思うのだ。この後に続くウマ娘たちの夢を肯定してくれるトレーナーは出てくるのか、と。
ミホノブルボンは変異種で、まぐれであると言われはしないか。
背中に続こうとするウマ娘がいても、続くための道を舗装してくれるトレーナーがいなければはじまらない。
(……私は)
私の夢は。やるべきことは。
その答えは、自然と出てきた。実力相応の巨大な夢を持つ先輩が近くにいて、憧れて後を追ってくれる存在が近くにいて。
やっとミホノブルボンは、自らの望みに気づいた。
「ライスさん」
「え、う、うん! なに、ブルボンさん!」
「ありがとうございます。貴女のお陰で、私は『夢』のアップデートを完了しました」
曇り空だったミホノブルボンの青い瞳は、すっかり晴れ渡っていた。
それがライスシャワーには嬉しかった。自分の言葉で憧れの人の背中を押せたことが嬉しかった。
それはライスシャワーがお兄さまと慕う彼に、やってもらったことだったから。
「そして、失礼します。私はアップデートした『夢』の次第を、マスターへと報告しなければなりません。協力を、仰がなければなりません」
「きっと、協力してくれるよ」
「はい。私もそう信じています」
そう笑って、別れた。
そしてミホノブルボンは、ちょっと行ったところで戻ってきて、休憩前までつけていた紐を改めて腰に巻き直し、ズルズルとタイヤを引き摺りながらマスターの元へと向かったと、そういうわけである。
「『夢』のアップデートが終わった後に報告すべしというのは、マスターの指示です。そしてこの練習もまた、マスターの指示です。故に同時に実行すべく、私はタイヤを牽引してここへ来ました」
「なるほど。過程はわかった。結果もまあ、わかる。だが今一度、君の口から聴きたい。君はクラシック三冠の栄冠を掴んで、何を目指す」
「私は『切り開く者』になります。マスターが私にそうしてくださったように、夢への道を照らす標となります」
一息おいた一瞬の内にミホノブルボンは不安そうに耳を畳み、ピンと立てた。
「これは、血統主義への革命です。ウマ娘にとっては血統が全て。そういう論調が、常識です。ですが私は、未来に存在するかつての私のために常識を敵にしたいと考えています。そのためにはどうしても、マスターの助力が要ります。マスターは――――」
ぎゅっと、拳を握りしめる。
ふらふらと所在無さげに尻尾が揺れて、止まった。
「――――マスターは、私の味方でいてくださいますか」
「ああ」
「常識を敵にしても、ですか」
「勘違いするなよ、ブルボン」
名家の次期頭領。皇帝の杖。リギルの参謀。理詰めの脳筋。スパルタの軍師。
それらのどれでもない生身の、ミホノブルボンのマスターとして。
東条隼瀬は、傲岸なまでの自信を鋼鉄の瞳に宿して吐き捨てるが如く言った。
「俺たちに常識が味方してくれたことなど、それまでのただの一度も有りはしない。今までの当たり前がこれからも続く。ただそれだけのことが、俺達にできないと思うのか?」
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