ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート   作:ルルマンド

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50話目にして正式にナカヨシ√突入

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アナザーストーリー:灰の中で

「参謀くんは大丈夫だろうか」

 

「最近それしか言わないな、アンタ」

 

 ナリタブライアンらしいぶっきらぼうな言い方ではあるが、言っていることは正しい。

 エアグルーヴは、特に何も言うことなく心の中で頷いた。

 

 ここは、生徒会室。専らひとりの生徒会長と、ふたりの副会長が詰めている。

 

「頼んでおいてこんなことを言いはじめるのもおかしな話だが、参謀くんとテイオーの相性は最悪と言っていい」

 

(イイやつがいたか?)

 

 ある程度好意的だったルドルフですら、最初の頃は怪訝な顔をしていた。

 エアグルーヴはサイレンススズカを復活させるまではずっとその手腕を疑っていたし、ブライアンもなんとなく扱いづらいような印象を抱いていた。

 

(まあ、悪いやつじゃないが……)

 

 偏食極まるナリタブライアンの食生活を本人に無理させることなく正道に戻し、自分の身体を破滅させかねない力を制御できるようにする。

 客観的に見て、めんどくさかっただろうと思う。だが、不味いと言って食膳を下げても文句を言わず、食べられるようにして出してくるその根気と献身には一目を置いていた。

 

 だが、好きか嫌いかで言えば嫌いであるという自負がある。

 

 ――――アンタ、いつかは独立するんだろ。私を担当したいから、こういうめんどいことをしてるのか?

 

 才能に耐えうる身体を作る。

 その名目で、かなり早い段階でトレセン学園に入りながらも才能を嘱望されるに留まっているナリタブライアン。

 

 リギル時代のあるとき。

 自分が食べられるように工夫をこらして調理された野菜を口に運びつつ、からかい気味に問うたときにやつは言った。

 

 ――――効果が些細だとしても、それが僅かでもウマ娘のためになるならば『めんどいこと』を避ける理由にはならない。それがトレーナーというものだ

 

 ――――そうかよ

 

 ――――ついでに言えば、担当するなら安定感抜群の姉の方がいい。運命的な何かを感じるし、お前には安定感が無いからな

 

 ――――……そうかよ

 

 いつでもどこでも安定して力を出せるウマ娘が一番強い。そう言っていたし、主張はわかる。

 

 姉を褒められて嬉しい。怪物怪物と持て囃された自分のオマケみたいな扱いを受けることもあった姉を正当に認めるこの男は、実に見る目があるとも思う。

 

 だがそれはそれとして、ぶん殴りたくなる言い回しだった。

 

 そういうやつに、トウカイテイオー――――しかも、凹んだトウカイテイオーとの良好な関係を短期間に築けるとは思えない。

 

 そんな時に、生徒会室の扉をぱかーんと開けて参謀は入ってきた。

 雑な開け方に注意の1つでもしてやろうとして思いとどまるエアグルーヴと、いつものことに動じないが、尻尾だけは少し動いたナリタブライアン。ぴこんと耳が立つシンボリルドルフ。

 

「結論が出た」

 

「はやいな、参謀くん」

 

「早くして欲しかったんだろう。こんな忙しいときに、お前が頼んでくるということは」

 

 ぴょこん、と。またへたれていた鹿毛の耳が天を向く。

 

「結論。お前は別に悪くない。ただ、だめなときは何をやってもだめ。そういうことだ」

 

「私は自己の正しさを証明するために、君にテイオーの調査を頼んだわけではないよ」

 

「知っている。だから、俺なりに原因を調べてきた。スピカの面々にも色々訊いたりしたし、シンボリの家にも訊いた。その結果として言うが、あいつは別に無敗の三冠ウマ娘になりたいわけではない」

 

 ほんまかいな、とでも言うように、シンボリルドルフの尻尾がクエスチョンマークを描く。

 耳と尻尾が完全に管制下から逸脱している珍しい皇帝を見ながら、参謀は口を開いた。

 

「あいつはお前になりたいのだ」

 

「……うん?」

 

「お前が三冠ウマ娘でなくてもいい。お前が皐月賞ウマ娘なら皐月賞ウマ娘に、ダービーウマ娘ならダービーウマ娘に、菊花賞ウマ娘なら菊花賞ウマ娘に。憧れて仰ぎ見たお前になりたいだけだ。ある種のヒーローへの憧れに近い」

 

 だから、ライスシャワーとは違う。

 そう言った参謀に対して、エアグルーヴが口を開いた。

 

「ライスシャワーも似たようなものではないか。あいつも菊花賞ウマ娘になりたかったわけではない。ミホノブルボンに勝ちたかったのだろう?」

 

「違う。ライスシャワーは本人を追っているが、テイオーは影を追う。ライスシャワーは勝ちたいが、テイオーは勝てる自分になりたいのだ」

 

 ライスシャワーは、勝ちたい。無論相手が全力であることに越したことはないが、自分から有利を捨てるような真似をしない。

 

 ――――勝つ。追いつく。追い越す。そのための機会も、場所も選ばない。それが、ライスシャワーの願望の形。

 

 だがテイオーは、場所に拘る。状況にこだわる。こだわってこだわって、その上で勝てる自分でありたいと思っている。

 

「理想を越したいのがライスシャワー、自己を理想に近づけるために走るのがテイオーってことか」

 

「頭いいな、ブライアン」

 

「……フン。まあな」

 

 ?という顔をしているエアグルーヴを他所に、参謀は話を続けた。

 

「スピカのトレーナーに聴いた。あいつは菊花賞に出走できなかった時、こう言ったらしい。無敗の三冠ウマにはなれないけど、無敗のウマ娘にはなれる」

 

 Aにはなれないけど、Bにはなれる。

 これはつまり、Aより落ちるけどBにならなれる、ということである。

 

「無敗の三冠ウマ娘になるのと、無敗のウマ娘であり続けること。これはどちらの方が難しいか。その答えはルドルフ。お前が持っている」

 

「私は無敗の三冠ウマ娘ではあるが、無敗のウマ娘ではない」

 

「そうだ。お前は負けた、凱旋門で。つまり、テイオーはお前が達成した限定的な無敗とお前が達成できなかった永続的な無敗を見て、前者の方が偉大だと思っているわけだ」

 

 これは言葉のあやであると言えるかもしれない。だが、トウカイテイオーにとっては無敗のウマ娘よりも無敗の三冠ウマ娘の方が重かったのは確かである。

 

 どちらも偉大な存在であることは変わらない。

 だが極論三冠ウマ娘になったら負けていい無敗の三冠ウマ娘と違って、無敗のウマ娘は敗北そのものが許されない。

 テイオーが普通に無敗の三冠を目指すだけのウマ娘であれば、無念はあれども無敗であろうとする目標を誇りに思えるだろう。無敗の三冠になり損ねたことを悔いつつも、過ぎ去った夢以上に。

 

「だが、そうはならなかった。それはなぜか」

 

「私が達成したから、か」

 

「そう。あいつはつまり、お前の事績を追いたかったのだ。無敗の三冠になりたかったのではなく、夢見た憧れになりたかった」

 

 ――――シンボリルドルフさんみたいな、強くてかっこいいウマ娘になります!

 

 参謀は知らないだろうが、ルドルフの日本ダービーのあとにトウカイテイオーはそう言った。トレセン学園に入学してすぐ、訪ねてきたときにもそう言った。

 そのどちらにも、彼は居合わせていない。

 

 トウカイテイオーはシンボリルドルフさんみたいな強くてかっこいいウマ娘になりたいわけであって、三冠ウマ娘はそのための手段に過ぎない。

 

 ここが、ミホノブルボンとは違う。

 ミホノブルボンは三冠ウマ娘になりたい。そこに他人は関わらない。誰と戦おうが、なれればいい。

 

 当然ながらライスシャワーとも異なる。ライスシャワーはミホノブルボンのようなヒーローになりたいと思ってはいるが、ミホノブルボンみたいになりたいわけではない。

 

「だがもうクラシック三冠には挑めないだろ。どうするんだ、あいつ」

 

「ブライアン?」

 

「そうだ。なれない。強請っても挑戦権は手に入らんから、あいつは一生シンボリルドルフにはなれないわけだ」

 

「参謀くん?」

 

 思ったことを割とハッキリ言うタイプのナリタブライアンと、単純に人の心がない参謀。

 常識人枠に入る2人が止めるが、参謀は止まらなかった。

 

「で、どうしようとしたか。大阪杯に勝って、トウカイテイオーはたぶん気づいた。このまま勝っても、シンボリルドルフにはなれないと。彼女にとっての『シンボリルドルフみたい』の定義は、無敗でのクラシック三冠が必要不可欠なはずだからな」

 

 であればわざわざ、無敗の三冠ウマ娘などと言わない。

 極端な話、皇帝になりたければ10冠ウマ娘――――今は冠が更にひとつ増えたが――――になればいいのだ。どちらが難しいかはまた別の問題だが。

 

「で、俺はここでテイオーは成長しかけたと思っている。あいつはここで、マックイーンと戦うことを選んだ。初めて、一途に憧れを追う脚を休めて隣を見たわけだ」

 

 無敗の夢を見ているならば、クレバーになるべきだった。マックイーンと戦うにしても、2400メートルか2500メートルまでで戦うべきだった。

 だが、そうしなかった。トウカイテイオーは無敗の夢を達成するよりも、負けるかもしれないマックイーンとの対決を選んだ。

 

 つまり、意識が変わった。トウカイテイオー的には下方修正した無敗の夢を安全に追う自分よりも、夢を追いつつライバルと戦う自分であることを選んだ。

 

 憧れを追う。

 それだけで、トウカイテイオーはダービーまでを駆け抜けた。

 その点では、トウカイテイオーはミホノブルボンに似ている。彼女はダービーまでを、自己完結した世界のままに駆け抜けた。

 両者の差は追うものが生物か、概念であるかというものでしかない。

 

 そんな彼女が、別の道を見た。

 ミホノブルボンにライスシャワーがいるように、トウカイテイオーにはメジロマックイーンがいた。そのはずだったのだ。

 

「だからたぶん、テイオーに挑みかかってくるやつがいれば、あいつが歯牙にかけられるやつがいれば、また変わっていた」

 

「そう確信するわけは?」

 

「ライスシャワーが居なければブルボンは新たな夢を見つけられなかった。おそらくはそれが答えだろうと思う」

 

 ひたすら追うだけの世界に、色が加わった。自分を追ってくる影が差した。

 たったそれだけのことだが、『それだけ』の差は思ったよりも遥かに大きい。

 

「ライスシャワーが居なかったら、菊花賞をもっと楽に勝てていた。だがそのときはおそらく、勝つたびに俺が逐一目標を与えることになっていたと思う。目標を達成しても隣を走る相手を見れば、追い抜かれまいと走る。だがいなければ……」

 

 止まることもある。

 トウカイテイオーの今はそれだと、参謀は思っているらしい。

 

「だから、私ではだめだったわけか」

 

「そうだ。トウカイテイオーの世界に、既にお前はいた。他でもない目標として。だから、他のウマ娘が必要になる。

隣を見ることができれば、偶像化されていない他人を意識することができれば、あいつはすぐに立ち直るだろうと思う。だからマックイーンと走れば立ち直るだろうというのが俺の結論だ」

 

「だが骨折ってるぞ、あいつ。療養のために実家に帰ってるし、まさかテイオーのモチベーションのために治りきってない脚で走れ、ってわけにもいかないだろ」

 

「そう。それはありえない。故障明けの三冠ウマ娘が春天に出て、次に短距離を走るくらいのあり得ん無茶だ」

 

 それはあり得るんじゃないか。

 なんとなくの嫌な予感を感じつつ、ナリタブライアンは思った。

 

「テイオーにはたぶん、色々な経験が足りていない。別にこれは誰のせいでもないし、敢えて言うならば怪我のせいだ。怪我は事故みたいなものだからな」

 

 その言葉を聴いて、ピコンと耳を立たせたエアグルーヴが机を叩くように立ち上がった。

 

「貴様、やっと割り切れたのか! なら……」

 

「いや、スズカのアレは俺のせいだ。謹慎中に色々検証してなお結論を得られなかったが、責任は俺にある。彼女の健康をつきっきりで管理していたし、食事もそうだ。色々と制限した末に何もできないのだから俺が悪――――」

 

「わかった。悪かった。嘴を突っ込んで悪かった」

 

 ならスズカにマトモな手紙でもやれ。謝罪の手紙しか送ってないだろう。そして謝罪の手紙を断られてからは送ってすらいないだろう。

 

 そう言いかけたエアグルーヴの言葉の切っ先を、参謀は平手でハエのように叩き墜とした。

 

「…………そうか」

 

 まだ言い足りないとばかりにやや不満げに謝罪を受ける参謀を見て、思う。

 

 責任から逃げるようなトレーナーより余程好感が持てる。それは確かだ。

 担当ウマ娘が怪我をして、『ああ、運が悪かったね』と。俺のせいじゃないみたいにほざくやつを、エアグルーヴは死ぬほど嫌っていた。カメラのフラッシュとか虫くらいには嫌いだった。

 

 だが思う。やはり、自責の念は時と共にある程度風化させるのも大切だと。

 

「とにかく、テイオーにはライバルが必要だ。別に誰が悪いというわけでもないが、マックイーンが怪我をしたことにより精神の成長が固まりきらない蛹のようになっている」

 

「超えるべき壁でもなく、目指すべきものでもなく、超えたい壁が必要だということか」

 

 テイオーにとっての目指すべきものは、納得したようにそう言った。

 

「この際だから不敬極まりないことを言うが、スペシャルウィークがジャパンカップで負けていたら話は早かったんだ。テイオーはジャパンカップで勝手に復活していただろうからな」

 

「私以来の――――日本勢によるジャパンカップ制覇、か」

 

「そう。そういうシチュエーションのトウカイテイオーはたぶん、強い」

 

 走る理由が、これ以上ないほど明確に与えられる。

 『皇帝以来の』という言葉は、無敗の三冠を為せなかった、無敗ですらいられなくなったトウカイテイオーに走る目的を思い起こさせるだろう。

 その後はどうなるかといえば、多分また燃え尽きることになるだろうが。

 

「で、どうするか。俺はスピカのトレーナーに訊いた。そして、彼の方針が正しいであろうと思う」

 

「……待つこと、か」

 

 待つことがおそらく正しいであろうということは、シンボリルドルフにもなんとなく察せていた。

 だが、ウマ娘の全盛期は短い。不調の海に浸かり過ぎると、身体が不調状況を基準にしてしまうこともありうる。スランプになり、更に悪化することもある。だから、シンボリルドルフは動いたのである。

 

 動き、道を示す。立ち上がれと喝を飛ばす。それが信頼の形であるならば、待つこともまた信頼の形なのだ。

 

「才覚のある人間はなまじ自分に自信があるものだから、待たない。自分の手で状況を打開しようとする。これは如何にもベテランらしい正しい選択ではある、が」

 

 才覚のある、と。

 本来ならば自分の才能を誇るような言葉が、この場の3人には妙に自嘲気味に聴こえた。

 

 それがこの才覚のある人間――――参謀が一度、大きな失敗をしているからだということと決して無関係ではないだろう、と。

 

 もじもじと気まずそうに身をよじるエアグルーヴは、思わずといった感じに耳を畳んだ。

 

「それがいつかは、わからないということだな?」

 

「そうだ。本人が参って、復活する前にやめてしまう。そういうこともありうる」

 

「対策は」

 

「ある。だがその前に、聴きたい。テイオーは菊花賞を見て、なんと言っていた?」

 

 シンボリルドルフの右耳だけが器用に畳まれ、彼女の耳につけられた明哲な智性を表しているような水晶が鳴る。

 自分の失敗を悔いているのか、或いは痛々しくてみていられなかったのか。

 

 たぶんどちらもだろうと、ふたりの副会長は察する。

 一方、参謀はシンボリルドルフの表情にあまり興味がなかった。彼の注意と興味は、シンボリルドルフの言葉に集約されていた。

 

「ミホノブルボンみたいになりたかった、と。そう言っていた」

 

「ボク、ライスシャワーみたいに頑張るよ、とは言わなかったんだな」

 

 妙に独特の韻を踏んだ声真似がうまい。

 たぶん歩く蓄音機のような正確なリピートをするミホノブルボンの影響だろうと、シンボリルドルフは看破した。

 

「そう言っていたら、私は君に頼まないさ」

 

「言葉を返すようで悪いが、そう言っていたら割と取り返しがつかなかったと思うぞ」

 

「……どういうことだ?」

 

 シンボリルドルフが思考に耽っている中で、エアグルーヴは思わず疑問を口に出した。

 

「つまりそれは、次の目標を見つけられた。ウマ娘が走るには、夢が要る。その足りなかった物を得られた。そういうことだろう?」

 

「お前、バカだな」

 

 かつての口癖がポロッと口をついて出た。

 ムッとするエアグルーヴから視線を流してルドルフの方を見るが、無反応。余程熱心に思考をしているらしい。

 

「……本質が変容する可能性があった、ということか」

 

 パチン、と。妙に乾いた音が鳴る。

 参謀が、指を鳴らした音だった。

 

「その通り。頭いいな、ルドルフ」

 

 パタパタと、もう大反乱を通り越して無政府状態の尻尾が揺れて耳が立つ。

 

「トウカイテイオーの本質は、理想を追いかけること。理想の自分に躙り寄り、肉薄し、己の夢を極めることだ」

 

「現実の物を追いかける夢とテイオーのそれに、貴賤はない。だがテイオーの理想へのこだわりは、たった一度のレースを見て覆せるほどのものではない。それが変化したとなれば――――」

 

 それは、諦めである。今の自分には今までの夢を追うのは無理だと言う諦めから生まれた、明確な劣化だと言える。

 そうすればトウカイテイオーはそんな思いを無自覚に抱えながら走ることになる。

 

 そして、一度砕けた理想は戻らない。覆水が盆に帰らないように。

 

「となると、案外解決は早い。つまり――――」

 

 ミホノブルボン。自分には為せなかった無敗の三冠ウマ娘。ライバルにするには、これほどふさわしい相手もいない。

 主戦とする距離も同じ。となればうまくすれば、トウカイテイオーはミホノブルボンに勝てる自分という理想を目指して駆け出せるかも知れない。

 

 ――――ミホノブルボンになりたかった

 

 シンボリルドルフには絶望と諦めとしか見えなかったそんな言葉の中には、トウカイテイオーがトウカイテイオーたる所以が、理想への尋常ならざる執着が未だ健在であることが見え隠れしている。

 

「それで! ブルボンの調子はどうなんだ!?」

 

「聴きたいか」

 

「ああ!」

 

 頷くルドルフ。

 

 ミホノブルボンが好調であればあるほど、トウカイテイオーが復活する可能性は高くなる。今の自分では叶わないと思えば思うほど、彼女は努力の方向性をより具体的に定めることができる。

 

 ――――高い理想に挑むことこそ、トウカイテイオーの本質なのだから。

 

 そんな彼女に言って聞かせるように、参謀は言った。

 

「目下、【サイボーグ】ミホノブルボンは史上最高に絶不調だ」

 

「……絶不調」

 

「そう、絶不調。だが絶不調なら絶不調なりの戦い方がある」

 

 そう言って、資料を卓上に置いて身を翻す。

 

「参謀くん!」

 

「なんだ?」

 

 振り返る、その横顔。

 

 たぶん寝る間も惜しんでいたであろう彼の背中に、シンボリルドルフは心からの感謝の言葉を投げた。

 

「ありがとう。心から、君に感謝する」

 

「お前は俺の皇帝だろう」

 

 理想に先鞭をつけたもの。思想の共有者。

 おそらくその意味で言われたであろう言葉に、シンボリルドルフの身が引き締まる。

 

「臣下というものは、主君のために身を擲つことを躊躇わないものだ。今はそれはできないが……それでも多少の献身くらいは、な」

 

「……ああ。私は、君に相応しい皇帝でいよう」

 

「元々だろ」

 

 目に強さが戻った皇帝と、去り行く参謀。

 

(なんでなんだろうな)

 

 二人を改めて思ってから、ナリタブライアンはそう思った。

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