ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート   作:ルルマンド

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前回のあらすじ:皇帝ナカヨシ√突入
今回のあらすじ:がんばれブルボン君2号

123G兄貴、白河仁兄貴、光に目を灼かれたペニーワイズ兄貴、ゴンSAN兄貴、朱鯉兄貴、すまない兄貴、志玖兄貴、ホモ兄貴、ぺろぺろんちーの兄貴、宗谷みさき兄貴、Hotateman兄貴、kayui兄貴、mtys1104兄貴、さんまたべたい兄貴、レイヴン兄貴、初見兄貴、raglaner兄貴、ホルムズ海峡兄貴、うまだっち兄貴、ガンバスター兄貴、zenra兄貴、tukue兄貴、金曜日兄貴、烏のつぶらな瞳兄貴、ブブゼラ兄貴、ありゃりゃりゃ兄貴、ベルク兄貴、みさち兄貴、とーか兄貴、T.C兄貴、RS隊員ジョニー兄貴、asai_n兄貴、かぶと兄貴、夕莉兄貴、ダンシング・オブ・超兄貴、レンタカー兄貴、サガリギミー兄貴、百面相兄貴、夏野彩兄貴、ニキータの店兄貴、FROSTY=BLAKK兄貴、ワットJJ兄貴、必勝刃鬼兄貴、乱読する鳩兄貴、yumeinu兄貴、蒸気帝龍兄貴、がんも兄貴、春都兄貴、クリストミス兄貴、石倉景理兄貴、Jupiter兄貴、星ノ瀬竜牙兄貴、ピノス兄貴、Prem兄貴、あqswでfrgt兄貴、fumo666兄貴、ラース兄貴、ESAS兄貴、ローレス兄貴、ぬー$兄貴、rairairai兄貴、葵い兄貴、名無し兄貴、なのてく兄貴、ピノキオ兄貴、曼陀羅兄貴、ライセン兄貴、ユウヨコヤ兄貴、hnzr兄貴、たきょ兄貴、迫る影兄貴、マイクだゴルァ‼兄貴、ハガネ黒鉄兄貴、さか☆ゆう兄貴、ふれんち兄貴、ガトリング・ゴードン兄貴、ととと兄貴、主犯兄貴、一般トレーナー兄貴、くさんちゅ兄貴、アパラッチ兄貴、通りすがりの鳥兄貴、すらららん兄貴、バナナバー兄貴、雪ねずみ兄貴、感想ありがとナス!


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サイドストーリー:弊害

 ――――どうにも、調子がよろしくない

 

 自分で自分が制御できないという感覚を、ミホノブルボンは今まで味わってこなかった。

 

 走る相手が気になる。隣を駆けられると気が散る。ただひたすらに前を見つめる『いつも』ができない。

 

 隣を走るウマ娘が気になる。ペースを維持できない。燃え上がるような闘志が、彼女の身体を灼いている。

 

 ミホノブルボンは、絶不調に喘いでいた。

 ぜぇぜぇと苦しげな息こそ漏らさないものの、明らかに苦しんでいる。自分の戦い方を見失っている。

 

 それが闘争心――――本来ならばウマ娘にとっては生まれたときからの隣人であり良き友であり、味方になってくれるはずの感情――――によるものだということを、殆どのウマ娘は知らない。

 知らないが、知っているべき人間は完璧に把握し切っていた。

 

 ――――これは難しいだろうな

 

 たぶん掛かるし、最悪出遅れる。

 

 坂路でキョーエイボーガンとミホノブルボンが抜きつ抜かれつ走っている様を見て、参謀は冷静にそう思った。

 

 ミホノブルボンが抜かされればキョーエイボーガンを抜かし返し、抜かし返されたキョーエイボーガンはスタミナが尽きる前までまたもや抜かし返す。

 結局スタミナに勝るミホノブルボンが抜かし合いを制したものの非常に疲弊したようで、息が荒い。

 

 ツインターボと、ライスシャワーと、キョーエイボーガンと。

 3人分の坂路練習をこなしていたとはいえ、ミホノブルボンにしては疲労の色が濃い。

 

「マスター。坂路併走、完了しました」

 

「ああ、見ていたからわかる。キョーエイボーガンもな」

 

「は、はいっ!」

 

 疲労で尻尾を下げながらもギッコギッコと帰っていくキョーエイボーガンとそのトレーナーに練習レポートを持たせて見送り、ミホノブルボンにはいつも通りにクールダウンさせてマッサージを施す。

 

 明らかにおかしいミホノブルボンに対して、参謀は何も言わない。

 ミホノブルボンも、何も言わない。

 

 そんな二人を見かねて、とある男が参謀を呼び出した。

 場所は、行きつけのバー。落ち着いた雰囲気のそこは、トレセン学園関係者に好んでよく使われている。

 

「お前さ。大丈夫なわけ?」

 

 将軍はあまりにも不動を貫く男に――――釈迦に説法するようなもんだと思いつつも、問うた。

 

「シンボリルドルフの頼みを聞くのもいい。トウカイテイオーのために東奔西走するのもいい。だが一番大事なのは、担当ウマ娘のことだろ」

 

 別に責めてるわけではない。ただ単純に、この男には抱え込みすぎる悪癖がある。

 

 少年的万能感、とでもいうのか。自分の限界を決めず、やればできると考えている。

 実際、そうだ。この男がやる気になれば大抵のことはできるだろうし、時間さえあれば皇帝の補佐とトレーナー業の二足のわらじを履けるだろう。

 

 だが時間、如何な超人であっても一日として与えられる時間は24時間、1440分である。

 ミホノブルボンのために使う時間を削る、ということはしないはずだから、必然的に睡眠時間を皇帝の補佐のために捧げていることになる。

 

「お前はそんなに身体は強くない。ある程度優先順位をつけて動いても、誰も責めやしないさ」

 

 これが平常時ならば、こんなことは言わない。ただ、ジャパンカップの前である。

 至極当たり前なことだが、ジャパンカップとはGⅠなのだ。しかも国際GⅠ――――国際的にそのレベルと価値が認められた最高峰のレース。

 

 そんな一大決戦を前にして、トレーナーが倒れでもしたらミホノブルボンの無敗伝説はそれまでである。

 

「お前は何でも一人でやろうとするが、そんなことではなんにもできずに消耗するばかりだぞ」

 

 少年的万能感の最たるものが、サイレンススズカの一件だろう。

 

 あれは、完璧に事故だった。

 

 東条ハナ、スピカのトレーナーも、カノープスのトレーナー。トレセン学園でチームを率いる一流どころが、この男の管理体制に間違いなかったと太鼓判を押したし、だからこそあまり気負いすぎるなと助言したりもした。

 

 だが、参謀はそうは考えなかった。自分のせいだと思った。

 無論それは、悪いことではない。担当ウマ娘が怪我をすれば――――交通事故とか自分ではどうにもならないところで怪我をしない限りは――――重みの多寡の差こそあれ責任を感じる。トレーナーとはそういうものだ。

 

 だが、それにしても度が過ぎている。

 連闘させた、身体が弱いのに無理をさせた、練習をさせ過ぎた、調子が悪いのに走らせた。そういうことならば、自分を責めるのもわかる。

 

 だが、そうではない。レースに耐えうる身体を作って、連闘など無論させていない。練習も適切なものだったし、調子は限りなく最上と言ってよかった。

 

 それでも自分に責任を求めるところに、将軍としては危うさを感じる。自分で何でもできてきた男の、そして何でもできかねない男の危うさを。

 

「別に手を抜いているわけではないぞ」

 

「知ってるよ、それは」

 

「それに、何でもできるとは思っていない。できる範囲に、やれることが多くある。だからやっている。それだけだ」

 

「それを言われると返す言葉もないな」

 

「そういうお前は、どうなんだ」

 

 菊花賞で無理をしたツケがきてるんじゃないか。

 

 近頃併走を早めに切り上げていたからか、それとも単純に洞察したのか。

 そのあたりはわからないが、参謀の見る通りにライスシャワーがやや調子を落としているのは確かである。

 

「ライスはちょっと実戦はお休みだ。菊花で全力を出し過ぎた」

 

「まあ……ジャパンカップは無理だろうな」

 

 後先を擲った決意の直滑降。

 小さく可憐で愛くるしい見た目とは裏腹の勝負への情熱、勝利への執念、最後まで競り合って名勝負を生み出した――――彼女は勝つためにやっていたわけで、実に上から目線の評価だが――――ことへの評価も相まって、ライスシャワーの人気はかなり高くなっていた。

 

 まあブルボンとの兼任ファンというのが多い形になるが、街で声をかけられることも増えて、ライスシャワーは少し喜んでいる。

 

「だが、有馬はどうだ」

 

「ファン投票で出られそうなところ悪いけど、出ない」

 

「余程か」

 

「……無理させたくないんだよ。なんかミョーに落ち着いてるし、色々と足りないところもわかったから、今年いっぱいは休み。次はたぶん、目黒記念かな」

 

 11月8日の菊花賞から、2月21日の目黒記念まで休み。

 結構思い切った判断に、参謀は思わず言いかけた。

 

 ――――休むのはいいが、久々の実戦で脚を掬われるなよ、と。

 

(釈迦に説法だな……)

 

 久々の酒で、東条隼瀬は喉を潤す。

 寝れないとき、酔わない程度に程々に飲むくらいだったが、最近寝れないことは少なくなった。

 

「で、ブルボンはどうなんだ」

 

「ああ……見たらわかるか。お前なら」

 

「当たり前だ。ラップ走法、最近できてないだろ」

 

 いつでもできないというわけではない。ひとりで走っているときは、相変わらず正確な時を刻んで走れている。相変わらずどころか、正確さは増していると言っていい。

 

 だがそれはあくまでも単走だとの話。併走になると、乱れる。

 恐ろしく当たり前なことだが、レースとは単走というよりも併走に近いわけで、このままでは実戦でラップ走法を使用できない、ということになる。

 

「そうだろうが」

 

「まあ、そうなるだろうな」

 

 別にしなくてもいいじゃん。

 何も知らない人間ならば、こう言うだろう。

 

 東京芝2400メートルのレコードを保持しているのはミホノブルボン(ダービーのすがた)なのだから、ラップ走法に拘らずとも先頭を走らせてガンガンいけば勝てるだろ、と。

 

 だが、そうではない。

 ミホノブルボンがいつもはスタミナ上限値『100』の内『5』を使ってスピードの上限値『100』の内、『80』を出しているとする。

 

 では彼女は、スタミナを『10』使えば『160』出せるのか。

 答えはノー。『100』すら出せない。『100』とはつまり上限の上限であり、『100』を出すには『20』くらいのスタミナを必要とするのだ。

 

 ミホノブルボンは、効率厨である。というかミホノブルボンのトレーナーが効率厨である。だから彼女は常に、勝てるであろうタイムを導き出し、逆算して最も燃費のいい速度で走る。故に結果的にタイムがある程度一定になり、これを人はラップ走法と呼ぶ。

 

 だが今は、その最効率を維持できない。

 追いつかれそうになればスタミナを湯水の如く注ぎ込んで逃げ、注ぎ込んでは逃げる。

 併走でのミホノブルボンは、それを繰り返していた。

 

「あんな走り方してると、2400メートルでもスタミナが尽きるぞ」

 

「まあ、そうだろうな」

 

「そうだろうなってお前……負ける気か?」

 

 別にこの男は、負けを忌避するわけではない。負けが糧となるなら、負けるかもしれないレースにも出す。

 それが東条隼瀬という男ではあるが、そう一筋縄ではいかないやつでもある。

 

「負けね。まあ、負ける可能性が高いのは確かだ。だが勝てないわけではない」

 

 くいっと、実に上品に小さなグラスに満たされた酒を飲み干す。

 

「なんでラップ走法ができなくなったか。そのあたりもわかるし、解決策もある。というか、俺はあいつの体内時計を信じているが、絶対視はしていない。人間だから不調もあるし、掛かる時もある。好調ならまず狂わないし、信頼できる。その程度さ」

 

「最強の走法だとか言われてるけどな。世間では」

 

「フフ」

 

 笑うのは、珍しい。酔っているのか、そうでないのか。

 病理的な肌の白さを持つこの男は、酔っても肌に赤みが差さない。

 

「最強など存在しない。長所が反転すれば短所になるように、短所も反転させれば長所になる」

 

 ラップ走法の弱点は、格上に対応できないことである。

 事前に設定したタイムを達成すべく逆算して1ハロンごとにかかる時間を割り出す。割り出し、ひたすらにそれを遂行する。

 

 それは、自己完結した走りだと言える。ライバルを見ない、他者を必要としない走り。

 ミホノブルボンは、立て続けにレコードを出した。それは無論彼女の傑出した実力によるものだが、決してそれだけではない。

 

 ――――安定感。それによるものだ。

 

 日々の調子。ライバルの調子。心持ち。闘争心。ミホノブルボンはそういったものに左右されない。いつどこで誰と走っても、似たようなタイムを出す。出せるように、この男がした。

 

 本来ならばそういったもので、ウマ娘たちは実力以上の力を発揮することがある。直近の例では菊花賞のライスシャワーなど、明らかに実力を逸脱した力を発揮していた。

 

 これは、不安定だと言える。ライスシャワーの場合、ライバル認定した相手が不調だと自分もそれに合わせて不調になり、共にズルズルと沈んでいく。

 だがライバルが絶好調であった場合、ライスシャワーは自分の身の丈を超えて飛翔できる。

 

 つまりライスシャワーには、相手次第なところがあるのだ。

 安定感に欠け、負けるときには信じられないくらいコロッと負ける。だが、格上には実力以上の力を発揮して立ち向かう。

 圧倒的な格上キラーというべきか、それとも主人公タイプというべきか。

 

 一方で、ミホノブルボンにそれはない。彼女は絶対に格下相手のレースを取りこぼさないが、自分の実力以上のものは出せない。自分より強い相手には勝てない。

 

 ――――自分の実力を超えない。無理をしない。

 

 それが、今までのミホノブルボンの――――ラップ走法の弱点。

 この弱点を、参謀は力技で解決した。自分より弱い相手に確実に勝てるならば、ミホノブルボンを一番強いウマ娘にすればいいのである。

 

 その単純極まりない理論に、ライスシャワーは敗れた。

 

「あいつは今、自分の中で生まれた闘争心に戸惑っている。俺が与えたラップ走法という武器を信じていても、闘争心が影響を及ぼす自己の体内時計、時間感覚を信じられていない。これらは無論、ラップ走法の根幹となるものだ。だから、めちゃめちゃな走りをしている」

 

 追加の酒を一口飲み、参謀は半ば笑ったようなため息をつく。

 

「ラップ走法は結果から逆算する走り方だ。故に出遅れたり掛かったりすると計算が狂い、タイムが狂い、負けに直結する。そして今のあいつは掛かりやすい。ま、ラップ走法の使用は難しいだろうな」

 

「じゃあどうすんだ」

 

「お前ならわかるよ」

 

「俺はレースに際してじゃないと頭が回んな――――」

 

 先を話せと急かしかけ、黙る。

 これまでの、ミホノブルボンの走り。不自然な片鱗。

 アレは、自分を惑わすためだと思っていた。勝つために最善を傾けるこの男が自分の心を揺らがせるために、かつてのトラウマを想起させるためだけに仕込んだ牽制だと。

 

「……向き合うのか、お前」

 

 ダービーで、ミホノブルボンはその予兆を見せていた。しかしあれは、ブラフだろうと思った。現に、菊花賞では使ってこなかったことから、ほぼ忘れかけていた。

 

「あの走法自体は、間違っていない。謹慎期間中に見返して、そう思った」

 

 問題はそれを、如何に運用するか。ウマ娘自身の負荷を減らせるか。

 確かに、ミホノブルボンは今調子を崩している。長所たるラップ走法が使い物にならない。短所が剥き出しになっている。

 

 だが、だからこそできることもある。

 

 傍らに置かれたブックケースから無垢なホワイトスノーの色が、ちらりと顔を覗かせていた。




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