ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート 作:ルルマンド
今回のあらすじ:ヒクツテイオー
123G兄貴、白河仁兄貴、さんまたべたい兄貴、ナカカズ兄貴、大迫傑がんばれ兄貴、ガンバスター兄貴、にじ好き兄貴、ホルムズ海峡兄貴、yumeinu兄貴、佐伯 裕一兄貴、べー太兄貴、済まない兄貴、夏野彩兄貴、レイヴン兄貴、ほっか飯倉兄貴、ラプソディ兄貴、ユーギ兄貴、hnzr兄貴、にゃるが兄貴、ポニー級兄貴、かぶと兄貴、ブブゼラ兄貴、夕莉兄貴、七夜兄貴、ワットJJ兄貴、レンタカー兄貴、なのてく兄貴、光に目を灼かれたペニーワイズ兄貴、必勝刃鬼兄貴、はやみんみん兄貴、ライセン兄貴、fumo666兄貴、A-10 thunderbolt Ⅱ兄貴、卵掛けられたご飯兄貴、zenra兄貴、ニキータの店兄貴、クランプ兄貴、すらららん兄貴、ころに兄貴、torin兄貴、終焉齎す王兄貴姉貴、バナナバー兄貴、蒸気帝龍兄貴、Eddie_Sumile兄貴、ガトリングゴードン兄貴、修羅場になりそう兄貴、初見兄貴、くぅらる兄貴、レオニ兄貴、ピノキオ兄貴、mtys1104兄貴、障子から見ているメアリー兄貴、大蛇丸兄貴、ハガネ黒鉄兄貴、サガリギミー兄貴、ESAS兄貴、主犯兄貴、ザコーネ兄貴、ラース兄貴、葵い兄貴、迫る影兄貴、KAIKI兄貴、ながもー兄貴、はせがわわわわ兄貴、星ノ瀬竜牙兄貴、ウツロイド兄貴、志玖兄貴、noxlight兄貴、感想ありがとナス!
cot兄貴、Gr0ssu1ar兄貴、ばんとけん兄貴、カシナートの剣兄貴、かめいまる兄貴、rakun兄貴、サージ兄貴、カールセーガン兄貴、紋白兄貴、きょーらく兄貴、tyofez兄貴、炭田兄貴、ナーバス兄貴、評価ありがとナス!
トウカイテイオーは、毀誉褒貶が激しいウマ娘である。
なにせ、実力が評価しにくい。
シニア級1年目でそう判断するのも早計というものだが、彼女の世代がどうやら弱いらしいというのは、なんとなく観客たちにもわかってきた。
もっともこれは現在の環境が地獄以外の何物でもない(そして地獄を統べる皇帝もご帰還あそばされている)ことから、仕方ないと言う意見も多い。
そして、トウカイテイオーは世代の中で間違いなく傑出した存在である。彼女の実力は、シニアに蔓延る化け物共と比較しても遅れを取らない。
現にトウカイテイオーは、復帰戦で大阪杯を勝っているのだ。
その後は最強のステイヤーと名高いメジロマックイーンに春の天皇賞で負けて怪我をし、怪我明けには皇帝ことシンボリルドルフに秋の天皇賞で負けた。
これは、相手が悪いとしか言いようがない。だが、真に一流のウマ娘は相手を選ばないというのもまた確か。
よってトウカイテイオーは、過大評価と過小評価しかされていない。
しかし1つだけ、過大評価する者も過小評価する者も、口を揃えて言うことがある。
それは彼女が、人気者だということ。
そして、ミホノブルボンと――――菊花賞まではテイオー以来の無敗の二冠、と持て囃されていた後輩と、否が応でも比べられるということだった。
TM対決。
それは春の天皇賞前、トウカイテイオーとメジロマックイーンの対決を――――無敗のウマ娘と天皇賞連覇のかかるウマ娘の対決を劇的なものとするためにつけられた呼称。
MTではなくTMなところに、トウカイテイオーへの期待が感じられる。
では今回のジャパンカップは、なんと呼ばれていたのか。
猛者揃いの外国勢が来たが、その強さは一般人たちには伝わり難い。宣伝には使いづらい。故に、MT対決。
Mの中身が変わったが故か、それともトウカイテイオーへの世間の評価が変わったが故か、或いはアルファベット順という規則に則ったのか。
トウカイテイオーとミホノブルボンの対決は、ひっくり返してそう呼ばれていた。
「俺はお前を信頼しているし信用している」
国際GⅠとなって初。
いろいろなお題目が掲げられているが、ミホノブルボンとしてはやることはいつもと変わらない。
ただ、走る。それだけのことである。
「だが、盲信はしていない」
掌を教杖でリズム良く叩きながら、参謀は言い切った。
本日行われるレースはジャパンカップ。ここはその控え室である。
「ブルボン」
「はい、マスター」
闘争心を御しきれていない。そんな不安はありつつも、ミホノブルボンはこのレースの先行きをあまり不安視していなかった。
「お前は今、ラップ走法を使えない」
「はい。現在の私には体内時計の狂い及び、闘争心の増大による冷静さの欠如が確認されています」
「その通り。しかし、闘争心が無駄なものであると思うか?」
闘争心。
ミホノブルボンにとっては、邪魔ではある。信頼するマスターと二人三脚で作り上げたラップ走法を阻害するバグデータ。
「過剰な闘争心は邪魔だと感じています。しかしライスを見るに、無駄なものであるとは思いません。マスターが仰っていたように、削減が必要になるにしてもいずれ必要になるものだと信じます」
「過剰、邪魔か」
「はい。マスターは、そうは思われないのですか?」
「ああ。むしろこれは、天恵だと考えている」
コンコンと控え室に設置されたホワイトボードを教杖で叩き、参謀は常と変わらないミホノブルボンを見下ろした。
「君は格下には負けない。だが、格上には絶対に勝てない。それはなぜか。それは、俺が君の身体にあった限界を規定し、その範囲で走らせているからだ」
ウマ娘に限らずアスリートは、ライバルを目の前にすると今までの自分を超えられる。
調子、モチベーション、対抗心。加えて、天候や運。それらをすべて兼ね備えてスタートラインに立ち、走る中で自分を超えて、やっと出せるのがレコードというものである。
それを、ミホノブルボンは地力をひたすら伸ばすことによって獲得した。
――――1ハロン何秒。全体で何秒。
ミホノブルボンは参謀からのその指示を、工作機械のように守ってここまで走ってきた。
その理由はたった一つ。レコードを叩き出せば負けないから。歴代で1番速く走れば、負けないから。
だが、その想像をライスシャワーは超えてきた。菊花賞でのライスシャワーのタイムは、ミホノブルボンに僅かに及ばない。及ばないが、それまで刻み込まれてきたどのレコードより速かった。
というか最後まで自分のペースを守り、自身の戦法に殉じた――――そしてゴールと同時にぶっ倒れる程に駆けた3位のマチカネタンホイザですら、菊花賞の旧レコードより速かった。
つまり、今年の菊花賞での3位はイコール、日本トゥインクルシリーズ史における3000メートル歴代3位の記録でもあったのである。
GⅠで2位に終わったチャレンジャーを指して、去年なら勝ってるとファンが言うのはよくある。
去年の菊花賞がトウカイテイオーという主役不在のレースだった、ということもあるだろうが、3位を指して、去年ならぶっちぎりで勝ってたと言われるのも珍しい。それくらい、レベルが高いレースだったのだ。
「身体が出来上がっていなかった。リスクを踏む必要を感じなかった。怪我をしてほしくなかった。だがウマ娘にとってなによりも大事なことは、勝利だ」
走り、戦って勝つ。
不屈の精神、闘走本能。走って勝つことを、ウマ娘たちは何よりも至上のものと捉えている。
それはミホノブルボンという感情が希薄なウマ娘にとっても変わらない、絶対不変の原則だ。
「菊花賞で、レコードを出せば勝てるという戦法は根底から崩れた。そしてこれからシニアクラスに進めば、自分の走りをさせてくれない、できないという場合も出てくる」
「秋天でルドルフ会長がやっていたようなことが横行している、ということでしょうか」
両隣を意図的に掛からせてファンネルミサイルのように逃げウマ娘の前に飛ばし、開幕のスタートダッシュを封じて中盤からレースを支配する。
「あんな世紀末を現出できるのはあいつだけだ。だがまあ、それに近いことをできるやつもいるし、単純な実力で焦らせてくる相手もいる」
「あれはシニアにおける日常ではなかったのですね。少し安心しました」
「まあ、シンボリルドルフの日常ではある」
ルドルフの本質が支配であることは、なんとなくわかる。無意識な君臨者。天然の絶対者。
その本質を自覚しながら、併せ持って生まれたであろう鋼鉄の理性で他者のために献身する姿を美しいと思った。
勝利し、支配する。幼い頃に見た、理性の欠片も感じられず本能のままに走る姿と同じくらいに。
ともあれ、彼女は存在自体が世紀末なウマ娘である。
そんなやつがいるシニアクラスに挑む以上、これからはラップ走法一本槍では勝てない。誤算無しで突っ走れたクラシッククラスとは違い、これからは海千山千のシニアクラス。誤算でも出てくるだろうし、そのための対処法を確保しておかなければならない。
「話が逸れたので戻すが、君に必要なのは二の矢だ。これから長く走るにあたって出遅れることもあるし、掛かることもある。ペースを守れなくなるような状況に陥ることもある。或いは、ペースを守っても勝てないこともある」
「私は誂え向きに、得るべきときに得るべき武器を手にした、ということでしょうか」
「ああ」
実のところ、今でなくとも良かった。
だが彼女が闘争本能をいやなものとして見ている以上、まずは肯定してやらなければならない。
拒否している限り、忌避している限り、闘争本能を従えることなどできはしない。
「君に芽生えた闘争本能……いや、闘走本能、かな。これを利用した、作戦を説明する」
闘走本能への忌避感。嫌悪感。拒否感。
この世界で一番信頼するひとから肯定されたことに、それらの異物を押し出すような悪感情が消えていく。
天性の単純さで、ミホノブルボンはまっしろな心で作戦を聴いた。
■■■
ジャパンカップ。
シンボリルドルフがかつて制覇し、日本のトゥインクルシリーズが世界に通用するものだと証明したそのレースに際しても、トウカイテイオーの心は浮かなかった。
無敗の三冠。ジャパンカップ、有馬。
かつて皇帝が歩んだ道を駆ける、寒門出身のシンデレラ。
皇帝のトレーナー、リギルの総帥、東条ハナ。彼女の甥に導かれて、同じような道を歩む。その姿には、民衆の好むストーリーがある。
ひとりで、パドックに続く暗い通路を進む。
(あ……)
暗さの中で、青い瞳が瞬いた。
通路を抜けた先に居るのは、ミホノブルボン。
「おはようございます、トウカイテイオーさん。本日の天気【快晴】。芝の状態【良好】。やや肌寒いですが、走るには快適な環境かと」
「う、うん」
律儀に先輩――――学年ではなくメイクデビューした順、という意味で――――に頭を下げて挨拶するミホノブルボンの眼には、闘志がある。誰にも負けないという意地がある。
夢を叶えたからかな、と。トウカイテイオーはそんなことを思った。
今の自分にはない闘志は、夢を叶えたからこそのものだろうか、と。
「……あのさ」
パドックまでの道程。観客の大歓声を受けながら芝を踏み、歩く。
そんな最中で、トウカイテイオーはおずおずと口を開いた。
「三冠ウマ娘になって、どういう気分?」
「【達成感】を得られました」
「うん……そりゃまあそうだろうけどさ……」
話すのは、これが初めてになる。
質問の内容がよろしくなかったとはいえ、トウカイテイオーとしては三冠ウマ娘になって変わったこと、見える景色の変化を聴きたかったのだ。
達成感を感じた。それは全くそのとおり。夢を叶えていない自分にだって想像がつく。
だが、それ以外になにかあるのではないかと、トウカイテイオーは思っていた。
「夢をさ。叶えたじゃん」
「はい」
「ブルボンも、小さい頃からの夢だったんでしょ?」
「はい」
「じゃあ、なんで走るの?」
言っておいてなんだが、これはまずいんじゃないか。トウカイテイオーの常識的な部分が、そう諭す。
夢を叶えたのになんで走ってるの?という風にも聴こえるし、なによりも言葉に棘がある。コミュニケーション強者の彼女からすれば、その機微は当然感じられるものだった。
「夢があるからです」
「……叶えたでしょ。クラシック三冠」
「夢は形を変えていきます。トウカイテイオーさんも、そうだったのでは?」
去年のだいたい今頃、表彰式のとき。
――――私は春の天皇賞、連覇を目指しますわ!
そう言ったマックイーンの方を見て、自分は言った。
――――僕も目標は無敗でーす
確かに、変わった。そう言えるかもしれない。だがそれは、変わったというより変えざるを得なかったのである。
翼の生えた夢が片翼だけになり、よちよちと歩くだけの存在に成り果てた。だから、それでもできる夢を語った。
それが変化ではなく劣化であることを、他でもないトウカイテイオーが一番よく知っている。
「夢って、なに?」
「私は然程恵まれた血統ではありません。それは生まれる以前に積み上げられたものがないということです。そして、才能にも然程恵まれていません」
――――お前には才能がない。
一途に夢へとがんばっている人間が聴いたら割と心にダメージを喰らうようなことを、ミホノブルボンは8日に1回は聴いている。
ミホノブルボンには、スプリンターとしての才能しかない。故に中・長距離ウマ娘としての才能は皆無、絶無であるというのは全く以て事実ではあるのだが、真実は時に人を傷つけるものである。
反発とか、悔しさとか、怒りとか。
そういったものとミホノブルボンは無縁だった。
そうだろうなと思うし、持って生まれなかったものを残念だとは思いつつも、悔しいとは思わない。それは自分にはどうしようもないことだから。
そして、怒りもしない。なぜならそれは誹謗でも中傷でもなく、事実だから。
たとえ良家に生まれ直していいと言われても、ミホノブルボンは『別にいいです』と言うだろう。
彼女はとても、父のことが好きだった。全く以て不可能な夢を全力で応援してくれる、世界一のお父さんだと思っていた。
才能は全くない。血統もどうしようもない。
だがどうしようもないところ以外の全てで、ミホノブルボンは恵まれている。
「ですが私は、クラシック三冠を獲得しました。そして、ジャパンカップにも勝つでしょう」
「…………言うね」
「マスターが勝てるとおっしゃいました。つまりこれは私が普通に走れば勝てる、ということです」
ライスシャワーじみた――――走れば勝てるけど、勝ってもブーイング喰らうから嫌だ、とナチュラルに口にする――――自信。
無論それは事実であり、実力相応の自信なわけだが。
「私は有馬記念にも出ます。私ほど環境に恵まれているウマ娘はそうはいませんが、私ほど才能に恵まれないウマ娘もそうはいません。そんな私が勝つことで、寒門のウマ娘も夢が見られるようになる。夢を追えるようになる。私はそのために走ります」
マスター。自分のトレーナーのことを、ミホノブルボンは世界一のトレーナーだと思っている。とても好きだし、割と理不尽な命令を受けても忠実に、黙って従う。
「でもさ。君のあとに続くウマ娘が全員、環境に恵まれることなんてあり得ない。君ががんばっても、だめかもしれないって、そうは思わないの?」
「環境に関してはマスターとルドルフ会長がなんとかします。なので私がすべきことは、私なりの最善を尽くすこと。切り開く道をより長く、より快適なものとすることです」
するでしょうではなく、します。
2人への絶対的な信頼が窺えて、トウカイテイオーは俯いた。
「私はひとりでは何もできません。お父さんと、マスターと、ライス、ルドルフ会長。多くの方に支えられ、やっと夢を叶えられた。故にこれからも、それが続くと思います。トウカイテイオーさんは、そうは思われませんか?」
「……ボクがカイチョーを疑うわけないでしょ」
「……? はい」
――――では、いいレースにしましょう
拭いきれない敗北感。それよりも更に強い、なにか。
それらを振り切れずに、トウカイテイオーはミホノブルボンに続いてパドックに向かった。
感想・評価いただければ幸いです。