ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート   作:ルルマンド

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サイドストーリー:燃え尽きればこそ

 東京レース場。地名からとって単に府中とも呼ばれるここは、ミホノブルボンにとっての得意コースである。

 というより、ミホノブルボンは参謀に『坂が多いからお前はここが得意だ』と言われた。だから得意だと思いこんでいる。そして、結果的に得意になった。

 

 今回のジャパンカップ。日本勢の出走メンバーは、割と微妙なメンツである。

 今年の春には双璧として日本総大将を務めるだろうと思われていたトウカイテイオーとメジロマックイーンだが、トウカイテイオーは春の天皇賞でまた怪我をして怪我明けの秋の天皇賞で惨敗。メジロマックイーンは宝塚前に怪我して辞退。

 

 今年がはじまった頃には頭角を現していなかったミホノブルボン・ライスシャワーのコンビも、ライスシャワーは疲労で辞退。

 

 メジロパーマーとダイタクヘリオスのバカ逃げコンビも有馬記念への調整のために不在。

 秋の天皇賞で素晴らしい走りを見せ、シンボリルドルフについで2位となった――――レッツゴーなんたらという威勢のいい名前のウマ娘が3番目に強いであろう日本勢という始末。別にレッツゴーなんたらが弱いわけではないが、辞退組――――メジロマックイーン、ライスシャワーに比べると見劣りする。

 

 それに比べて、外国勢は人材豊富だった。

 主軸となるイギリス勢に、オーストラリアの二冠ウマ娘など隙のない陣備え。

 

 だがそれでも、1番人気はミホノブルボンだった。

 

《世界のウマ娘が栄光を求め、ジャパンカップの府中に集う! 日本勢は対抗できるのか!》

 

 2番人気も3番人気も、外国勢。

 なによりも強さが尊ばれるトゥインクルシリーズらしい、実力重視の人気。

 

「ここがあいつの……」

 

 8枠14番に位置された、トウカイテイオーの隣。尾花栗毛を靡かせた外国のウマ娘が、興味深げに周囲を見回し、ある一点を見た。

 

 ――――あれ、カイチョーの……

 

 そして、ブルボンのトレーナー。

 薄色の芦毛をしたトレーナーは、テイオーの隣のウマ娘からジロリと冷たい視線を向けられている。

 

 奴はむやみやたらに因縁を買うタイプだろうと、そういう確信がトウカイテイオーにはある。然程関わっていないが、愛想のなさが彼女にそういう印象を抱かせていた。

 

 ――――ラップ走法って、どうやったら勝てるんだろ

 

 機械のような正確さで、時を刻む。誰も必要としない、だからこそハイレベルに安定した強さを誇る単純な戦法。

 

 付け入る隙がない。

 ビデオで見た結果、そのことがわかった。だから何をしたというわけでもなく、普通の練習をしていただけだが。

 

(単純な強さは、単純だからこそ強い。だけど、単純だからこそ罠にハマりやすいってのもあるし……)

 

 波乱が起きること。

 例えば、スタートが遅れる。かかってスタミナが削れる。そういった自滅によってのみ、ミホノブルボンは敗れるだろうという確信がある。

 

(ま、なるようになるよね)

 

 春の天皇賞の前ならばひっくり返っても思わないであろうそんなことを、トウカイテイオーは思った。

 ある種の諦観。それに伴って得られるのは競りの弱さと、冷静さ。

 

 この冷静さが、このレースのトウカイテイオーを救うことになる。

 

《さあ、我が国の国際GⅠ初戦、ジャパンカップ!》

 

 周囲のスタート姿勢に従って、或いは釣られて。トウカイテイオーは不死鳥のような勝負服を揺らしてスタート姿勢をとった。

 

(1ハロン11秒中盤。ミホノブルボンの速度はそのあたり……今のボクじゃたぶん、そんな速さは出せない)

 

 でも勝つ。ボクは無敵のトウカイテイオーだから。

 現在の彼女はそうやって自分を鼓舞することもできなければ、自分を信じ切ることもできない。

 

《今、スタートしました!》

 

 ゲートが開く。

 スタート。総毛立つような戦慄も、高揚も、なにもない。ただ走る。それだけのために、トウカイテイオーはスタートを切った。

 

 彼女はスタートが得意な方である。というかトウカイテイオーは、レースにおける全ての技術で得意でないものの方が少ない。

 

 だがそれよりも、そしてこの府中に集まった世界の強豪の中でも、ミホノブルボンが最速のスタートを切った。

 ゲートが開くと同時、大地を踏み固めているかのような瞬間加速。かかっているのかというほどの、気の急いたスタート。

 

 それを走りながら眺めていたトウカイテイオーの隣で、闘気とも言うべき威圧感が膨れ上がる。

 アメリカのウマ娘。尾花栗毛。というか、単純な金髪か。彼女の目が、明らかに変わった。

 

《ミホノブルボン、素晴らしいスタート。一息で先頭に立ちました!》

 

 ミホノブルボンは、スタート時に一気に速度を上げる。これは長距離ウマ娘や中距離ウマ娘にはできない、スプリンターとしての天稟を活かし切ったスタート。

 府中芝2400メートル。長距離寄りの中距離コース、左回り。

 ここに集まった強豪の中で、スプリンターから中距離ウマ娘に成り上がったものはいない。なりたかった者もいない。自分の才能に忠実に、ひたむきに向き合った者ばかり。

 

 フィールド駆け抜ける世界一のスプリンター。

 ウッキウキでマックイーンが鼻歌交じりに言っていた謎の歌が、ふとトウカイテイオーの中で鳴った。

 

(こうやって、活かしてるんだ)

 

 自分の才能を。

 スプリンターとしては同期のサクラバクシンオーに遥か劣り、一流半くらい。だがスプリンターとしては一流半の才能は、中距離ウマ娘が持っていい物ではない。

 

「ニホンの逃げは……」

 

 やや片言な呟きが、左から聴こえた。

 

 闘走心。今の自分にはないもの。それをなんの因縁もないであろうミホノブルボンに見つけて、駆ける。

 そんな外国のウマ娘に、何故か眼が惹かれた。

 

(……なんでだろ)

 

 視線を戻す。左右に振る。

 トウカイテイオーがついたのは前から5番目。好位といっていい位置。ミホノブルボンの頭のおかしいスタートに動揺したウマ娘は、ほとんどいなかった。いないが、慣れているかといえばそうではない。

 

 芝。環境。空気。

 レースに付随する要素の全てが、外国勢にとっては未知である。ミホノブルボンの2番手にはイクノディクタスが追従。ミホノブルボンを風除けにするために駆ける彼女は、たぶんこの中の誰よりもミホノブルボンを知っている。

 

 マチカネタンホイザ。疲弊し切って現在お休み中の、GⅠに勝てそうで勝てなそうなミホノブルボンの同期。菊花賞3着。

 マチカネタンホイザもイクノディクタスも、学園ナンバー3のチーム、カノープスに所属している。

 

 同じチームの好で彼女の応援にも来ていたし、その走りを何回も何回も見てきた。だからこそ、置いていかれたら二度と追いつけないことを知っている。

 

 マチカネタンホイザは、自分を貫いた。貫くことによって勝とうとして、そして自分の実力以上の強さを発揮してもなお負けた。その反省を踏まえての戦術であろうことは想像がつく。

 

(追いつくことは、たぶんできるけど)

 

 一度追いつくのでは、いけない。追いつき続かなければならない。そのスタミナが続くのかどうか。

 ミホノブルボンがレースで見せる最高速は、追いつけないほどではない。頑張れば追いつく。

 だが一流の中距離ウマ娘が頑張れば追いつく程度の速度を涼しい顔で常に維持するからこそ恐ろしいのである。

 

 トウカイテイオーがイクノディクタスならば追いつけるだろうと判断したその時を同じくして。

 一方、イクノディクタス当人は違和感を覚えた。

 

(追いつかない……?)

 

 カノープスのトレーナーと、最近寝てばっかいるマチカネタンホイザ――――比喩表現でなく、彼女は死ぬほど疲れていた――――を叩き起こして行った、分析は完璧だった。

 今年の5月、日本ダービーでのタイムにこれまでの成長を掛け算してラップ走法を紐解く。

 

 ラップ走法とは、逆算の走法だ。勝つまでのタイムを逆算して履行する、一度走り出せば二度と計算を修正することはできない数学的な走法。

 つまり、絶対に勝てるか絶対に勝てないかの二択。接戦はない。意地もない。冷徹の計算通しの戦いになる。

 

 菊花賞は、激しいレースだった。

 ライスシャワーもマチカネタンホイザも、疲弊し切ってお休み期間に入っている。

 ならばミホノブルボンも疲れているであろう。そういう予想は容易に立つし、立ててもなんらおかしいものではない。だがイクノディクタスは、自分に都合のいい仮定を極力排除した。

 

 彼女自身が尋常ならざるタフさを持っているから、というのもある。

 タフなウマ娘は寝ればケロッと体力が回復していたり、疲労が抜けきっていたりする。ミホノブルボンもそうであろうと、イクノディクタスは自分に都合の良くない予測をした。

 

 彼女は本質的にマイラーであるから、2400メートルもの間ミホノブルボンに追従できるかと問われれば、難しいかもしれない。

 だが、追いつけるとは判断していた。そしてその判断は正しかった。ミホノブルボンが時を刻む機械だったならば、彼女は追いつけていただろう。

 

 だが、ミホノブルボンは加速していた。イクノディクタスよりも速く。前に傾き、重心を低く保つスタートダッシュの姿勢が、いつもより長い。

 その違和感はあったが、ラップ走法は最強の方法である。

 

 ――――ラップ走法に弱点はない

 

 そう、誰かが言っていた。

 それは必ずしも正しくはないが、弱点は少ないのは確かなことなのだ。

 

《ミホノブルボン! グングンと飛ばしていきます! このハイペース、果たして最後まで保つのでしょうか!?》

 

 とは言いつつ、保つだろう。誰もがそう思っていた。

 何故なら、ミホノブルボンは今まで完璧に保たしてきたから。出遅れたことはあったが、かかったことはない。

 その安定感こそ、彼女がサイボーグと呼ばれる所以でもある。

 

(いや、走り方を変えてきた!)

 

 イクノディクタスは、即座に気づいた。

 ミホノブルボン陣営は、これまで彼女を導いてきた無敵の戦法を擦り切れた洋服のように棄てた。

 その思い切りの良さ――――思い切りではなく強いられただけだが――――に感嘆しながらも、あまり感嘆してばかりもいられない。イクノディクタスがマイラーだとすれば、ミホノブルボンはスプリンターである。速度の上限値は当然、ミホノブルボンの方が高い。

 

 つまり加速し続ける現状、追いつけない。

 どうしようかと悩んでいる暇もない。イクノディクタスはミホノブルボンに追いつき、防風壁にし、無理矢理付いて行って最後に差す。そういう戦法を採択したわけで、他に今更選べるものもないのだ。

 

(あれ、イクノ……)

 

 追いついていない。

 俯瞰するのと後ろから見るのでは、得られる情報の質が大きく異なってくる。観客が即座に気づいたそんな事象を、トウカイテイオーはやや遅れて――――それでも走っているウマ娘の中では1、2を争う程早く気づいた。

 

(てことは、走り方を変えてきたってことだよね)

 

 寧ろそれならありがたい。試してもいない戦法をぶっつけ本番でやられた方が、挑む側としては楽なのだ。

 強者は挑まれる姿勢を崩さないから強者なのだということを、トウカイテイオーは知っている。完成された強さを誇るシンボリルドルフを見て、知っている。

 

《さあ、先頭はひとり、ミホノブルボン! 続くイクノディクタス、》

 

 チッ、と。

 やるじゃないかと言わんばかりの嬉しそうな、悔しそうな舌打ちが隣で鳴った。

 脚に翼が生えたかの如く速度が出る日本の芝に少し走りにくそうにしていた序盤から、現在。慣れたように、その金髪のウマ娘は走っている。

 

 レース中盤。疲れてきたであろうイクノディクタスは、それでもある程度の距離を一定に保ちながら駆けている。流石はタフネスの化身、鉄の女。

 そんなことを思っているトウカイテイオーの視界の端で、金髪が靡いた。

 

 仕掛けた。なぜだか見るべきだと思った、アメリカのウマ娘が。

 

 ――――続くべきだ

 

 眠りかけていた本能に弾かれるように、トウカイテイオーはそのウマ娘に追従した。驚いたような顔で振り向かれ、やるなと笑いかけられて、ちょっと視線を逸らす。

 

(でもたぶん、追いつけない……)

 

 イクノディクタスの全力でも追いつけなかった。それどころか中盤に入って疲れ、垂れつつある今も一定の距離を保ち続けている。

 戦法の変更があったとしても、相手に影すら踏ませない完璧な速度管理は失われていない。それを示すような現状を、トウカイテイオーは後ろから見ていた。

 

 だから自分たちがスパートをかけても、たぶんその分加速するだけ。

 ラップ走法が速度を一定に保つ走法なら、今回のは距離を一定に保つ走法だろう。

 

 セーフティリード走法。

 それにしては全く振り返る素振りを見せないが、そんなところだろうとトウカイテイオーは考えていた。

 

 距離が詰まる。ミホノブルボン、イクノディクタス、金髪のウマ娘、トウカイテイオー。

 ミホノブルボンとイクノディクタスとの間が徐々に開いていく以上に、スパートに入った二人の方が距離を詰めていく。

 

(安全圏は――――)

 

 どれくらいか。シンボリルドルフならばわかっていたと、トウカイテイオーは確信していた。

 

 だが、トウカイテイオーにはわからない。そして、シンボリルドルフにもわからなかっただろう。

 

 

 なにせセーフティ距離とか安全圏とかというものは、最初から存在しないのだから。

 

 

 ミホノブルボンとの付かず離れずの距離。イクノディクタスが近づき過ぎて突き放されたのならば、その微妙な距離を推し量って、府中の顔と言うべき500メートルの長くて広い最終直線で差し切る。このアメリカのウマ娘はそうするつもりだ。

 トウカイテイオーは、そう予測していた。

 

 如何にスタミナが豊富であっても、出せる速度には上限がある。

 付かず離れずの距離でミホノブルボンのスタミナを余らせつつ、最後の直線で速度で勝り差し切る。

 

 今仕掛ければ、一気にスパートに入られかねない。トウカイテイオーは、そう見ていた。

 

 しかし、彼女の予測ではしばらく控えることを決めたはずの、隣の名も知らないウマ娘の気配が膨れ上がる。

 

 

 閉ざされた扉が開かれかける、そんな感覚。

 

 

 ――――領域。何かが広がる感覚。ミホノブルボンが振り向き、金髪のウマ娘と目があった。

 

 瞬間、金髪のウマ娘は加速した。トウカイテイオーの前を走って、風除けとなってくれていたそのウマ娘は、一気に、飛ぶように駆けていく。

 

(詰めたら広げられるじゃん!)

 

 せっかく勝てそうだったじゃん!

 若干昔のトウカイテイオーが顔を出して、叫ぶ。

 

 愚かなりー、と。

 なにやってんのこの金髪、と。

 

 だが、ミホノブルボンは加速しなかった。ぐんぐんと、距離が更に詰まる。詰まっていく。

 金髪のウマ娘と、ミホノブルボンの距離が。そして、トウカイテイオーとミホノブルボンの距離が。

 

(……なんで?)

 

 第3コーナー、直線の前。がくんと、ミホノブルボンの速度が落ちた。胸が空気を孕んで大きく膨らみ、元に戻る。

 

 ――――チャージしてたんだ! 今まで!

 

 序盤を全力で走り、中盤に力を抜き、第3コーナーで息を入れる。やけに手慣れた――――同じ場所、同じレース場でやったことがあるようなスムーズな動き。

 

 それを、金髪のウマ娘はわかっていた。見抜いたのだ。まるで、どこかで似たようなウマ娘を見たことがあるような判断の速さで、正確に。

 

 第3コーナーを回って、トウカイテイオーと金髪のウマ娘は猛追していた。手を伸ばせば届くところに、ミホノブルボンはいた。

 明らかに、減速している。スパートの準備に入っている。それがわかる。近いからこそ、距離を詰めたからこそ、わかる。

 

 あと少しで届く。

 

(――――あ、なにかまずいかも)

 

 その刹那、がくんと金髪のウマ娘の速度が落ちた。

 

 この年のジャパンカップは、強烈な加速の波を受けていた。いつぞやのオグリキャップがとあるウマ娘と一騎打ちを行ったジャパンカップのような超高速の世界に突っ込んでいた。

 

 強力なウマ娘の存在は、レースを加速させる。

 そのことを、金髪のウマ娘はわかっていた。身を以て知っていた。

 

 迂闊についていけばぺしゃんこに潰される。実体験と強烈な対抗心が、強力な逃げウマ娘への対策を練らせた。

 そしてその計算は完璧だった。中盤、逃げウマ娘が息を入れるタイミングで一気に最高速に達するように調整し、距離を詰めて差し切る。おそらくここがアメリカならば、成功したであろうその策は、日本で行われたジャパンカップだったからこそ失敗した。

 

 それこそ自分の限界に気づかないほどに、加速し過ぎたのだ。上がり過ぎる制御に気が取られ、彼女はスタミナの浪費を強いられた。

 

 そんな内情を皮膚感で察知したトウカイテイオーは瞬時に横に避け、スパートをかける。

 

 それと同時に、ミホノブルボンは加速した。例のハンドリングの巧さで加速しつつコーナーを曲がり切り、一気に突き放しにかかる。

 

(直線500メートル! 直線500メートルは――――)

 

 長い。日本国内でも最大の直線だ。逃げウマ娘にとってダービーが不利と言われる最大の理由が、これだ。

 終盤に長くて広い直線が広がる故の、好位抜け出し型ウマ娘の仕掛けやすさ。スパートのかけやすさ。

 

(短すぎる。500メートルは短すぎる……!)

 

 あと1000メートル欲しい。

 そう考えた瞬間、思わず笑った。

 

(バカだな、ボク。勝ちたいんだ)

 

 勝ちたい。夢をかけて戦うことすらできなくても。敗けても、敗けても。

 自分とは違って夢に挑めた、敗れざるウマ娘に勝ちたい。ミホノブルボンに勝てる自分でありたい。

 

(勝ちたい……)

 

 勝ちたい。勝ちたい。勝ちたい。

 何回も、今まで忘れていた感情を噛み締める。

 

 追い縋ってくるオーストラリアの4冠ウマ娘、今年と一昨年のイギリスダービーウマ娘。

 振り向いて、睨みをきかせて、加速する。

 

 ――――ブルボン!!

 

 走りながら、叫ぶ。感情を剥き出しにして、加速する。

 トウカイテイオーは、直線500メートルでミホノブルボンとの距離を詰めた。

 

 自分より1秒速くゴール板を駆け抜けようとする、無敗の三冠ウマ娘。自分の後輩。目指すべき目標でもなく、超えるべき壁でもない、超えたい壁。

 

 青い瞳が、ちらりと向いた。

 

《ミホノブルボン、一着でゴール! 並み居る刺客に影すら踏ませず、我が国初の国際GⅠの栄冠を齎しました! 2着、トウカイテイオー! 3着は――――》

 

 ミホノブルボンに降りかかるのは祝福の拍手。大歓声。

 

 トウカイテイオーにとって初めての2着。

 春の天皇賞のように上に何人かいるのでなく、秋の天皇賞のように上に沢山いるわけでもない。上に、たった一人がいる。

 

 ――――勝ちたい

 

 上に居る存在に、勝てる自分になりたい。勝てる自分でありたい。

 トウカイテイオーは、心からそう思った。




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