ウマ娘 ワールドダービー 凱旋門レギュ『4:25:00』 ミホノブルボンチャート 作:ルルマンド
お気に入り10000件はガチで選ばれし者だと思うので完結までに達成できるよう、目指していきます。
有馬記念というレースは、前半後半ではわかれない。序盤中盤終盤という3つにわかれる。
序盤。スタートして直後のコーナーがある。ここでメジロパーマーは内枠の利点を活かしてハナに立った。
有馬記念の鉄則として、序盤は高速で進む。即座にコーナーが待っていて、それを超えてもまた近くにコーナー。
直線を走るならばともかく、曲がるならば位置取りは大切になる。故に皆が皆効率のいい立ち位置に立とうとしてペースを上げ、相乗効果でペースがぐんぐんと上がる。
その立ち回りを研究していたからこそ、ナイスネイチャはものの見事に大半のウマ娘を掛からせ、実質的にこのレースから脱落させた。
この時点で勝ち目のあるウマ娘は絞られた。
メジロパーマー、ミホノブルボン、ダイタクヘリオス、ナイスネイチャ、そしてトウカイテイオー。
しかし明らかにスタミナが続きそうにないダイタクヘリオスが遠からず脱落するだろう。
そしてメジロパーマーとミホノブルボンのどちらかが残る。
トウカイテイオーは、そう考えていた。
レースがはじまる前の彼女であれば、メジロパーマーとミホノブルボンのどちらか、ではなくミホノブルボンが残ると断言していただろう。
だが断言できないようにさせたのは、他ならぬミホノブルボンだった。
(ブルボンはなにしてんだろ……)
まだ大外にいる。もう中盤なのに、一番不利な場所から動かない。
大外でひたすら走り続ける理由が、何かあるのか。
ラップ走法というには速すぎるし、逃げ差しにしては遅過ぎる。これまでの付け入る隙がない、なんの迷いもないミホノブルボンとは思えない中途半端な走り。
――――あいつが何を考えてるかは、俺にもわからん!
目の下に作った隈に似合わず、スピカのトレーナーは力強く言い切った。
――――だから、勝つことしか考えない。勝てる状況しか、考えないことにした! それ以外は全部負け筋だ!
どういう状況ならば勝てるのか。どういう状況ならば仕掛けるべきなのか。仕掛けないで、我慢するべきなのか。
ラップ走法をしていれば、勝ち目は1つ。本来ならば到底仕掛ける場所ではない場所でロングスパートを仕掛ける。
あのときのミホノブルボンは、何回も何回もライスシャワーを振り向いていた。逃げウマ娘であれば後続を確認するのは本能ともいえる動作だが、ミホノブルボンに限ってはそうではない。そうではなかった。少なくとも、日本ダービーまでは。
そうではないのに、菊花賞ではやった。つまり、同じロングスパートをかけてくるウマ娘を見たら、迫られたら。
今のミホノブルボンであれば、おそらく掛かる。掛かってしまって電池切れした精密機械を、最後の直線で抜き去る。
そして、逃げ差しならば。
後方に控える――――というよりも、影に潜航するかのごとくピッタリと付いてきているナイスネイチャが起こした雪崩は、収まりつつある。
集団心理によって動いているものは、個人ではどうにもならない。川と同じで、凪いでいる時はある程度制御することはできるが、一度氾濫が起きるとどうにもならない。ただ、収まるのを待つしかない。
その収まる時が、今だった。掛かって雪崩と化した彼女たちが本来持っていた『自分のペース』というものは木っ端微塵に吹き飛ばされ、もはや立て直しが効かない。
『自分のペース』とはつまり、それまでの経験から導き出した最適解である。その最適解がわかっていても、できない。掛かった11人のウマ娘たちは、もはや敵ではない。
それでもペースを戻そうと足掻き、必死に急く気持ちを抑えて好位に――――現在トウカイテイオーが付いている、差し切り圏内ギリギリまで下がって脚を溜めようとする。
(その気持ちはわかるよ。でも、固執してもいいことない気がするけどな……)
その努力は称賛に値するが、もう11人の雪崩軍団は無駄にスタミナを消費してしまった。ならばそれはそれだと受け入れて、腹をくくって追いつくために更に加速するべきではないのか。
今彼女たちがやっているのは、投資で言うところの損切りだ。間違ってしまったから、その被害を最小限に留める。そんな思考。
確かにそれは、マイナスが引き継がれるものに対してならば正しいと言える。だがレースは一回きり。どんなに負けても、次走で不利になるといったことはない。
だったら、博打を打つべきだ。99%負けるとしても――――しかも5着とかそういう話ではなく、11着とかいう無様を晒しても、勝つための一手を打つべきだ。
この場合、ミホノブルボン、メジロパーマー、ダイタクヘリオスが逃げ、その他が追う。このレースの基本形はそう決まっている。
そう決まったレースという枠を壊さずに、ナイスネイチャは11人を掛からせてライバルのプランを破壊した。
だったら私たちは、私達の思惑を破壊したナイスネイチャの思惑をこそ、破壊してやる。破壊して、勝ってやる。それくらいの気概と覚悟があって、ミホノブルボンやメジロパーマーを追いかけ続ける。そうするべきではないのか。
(まぁこれは他人事だから言えるのかも、だけどさ)
――――ボクだったらそうしてた
あのときの、キョーエイボーガンのように。ライスシャワーのように。
すべてを擲たなければ、勝てないのだから。
あのとき。
あのときシンボリルドルフが、敬愛するカイチョーが菊花賞を見せた理由。
それを、トウカイテイオーは理解した。言葉を聴いたあのときではなく、立ち上がると決めたジャパンカップが終わって、耳ではなく心で理解した。
(逃げ差しでくる)
トウカイテイオーは、確信していた。
あの何を考えているかよくわからないやつは、策士だ。だけど、奇術の種には限りがある。
作戦の幅が広く器用なカイチョーとなら奇策を無限に繰り出せただろうが、ブルボンはそこまで器用じゃない。故に、とれる戦術は多くない。
その多くない戦術を、本領発揮できない外国のウマ娘たちに、ヘタれてしおれてた自分に切った。
初見で対応するのは不可能に近い。そんな戦法を、ラップ走法さえできれば楽に勝てる場面でわざわざ解禁した。
それはつまり、掛かるからラップ走法が難しいとかではなく、掛かるからラップ走法ができない。そう考えるべきだろう。
(じゃなんで大外を走ってるのかは……わかんないけど)
腕の振りも脚の回り方も乱れが無い。疲れていない。
掛かることがメリットになる逃げ差しをするつもりなのに、何故掛かることを恐れるのか。
――――何も考えてない、とか
いや、流石にそれはない。
トウカイテイオーは、自分の才能が感覚的に察知したその閃きを否定した。
カイチョーが言っていたのだ。勝てるだけの地歩を固めてから、参謀くんは勝負に臨むと。
(それが、まさか無策なはずはないでしょ)
無策である。
(……ダイタクヘリオスさんとの距離、2バ身に到達)
ところかわって、思いつきと無策で何もしていないのにこの場を掻き回しているサイボーグは、勝負に出た。
最速で最短を走るために、内を走る。
内を走るために、斜行する。
これらは、1→2といった感じの踏むべき手順である。
斜行時に失格をとられないために、距離を空ける。
掛からないために、近づかない。
これらが、ミホノブルボンにとっての注意事項。
ふたつもある注意事項をどうクリアするか。そのことを考えていたわけだが、彼女は気づいた。このふたつは競合しないし、何なら同じことを言っているのだと。
つまり、斜行しつつ高速で走り、斜行が終わる頃までにメジロパーマーの2バ身先に付くように走る。そしてその後は付かず離れずのペースを保って内につく。
そして最終コーナー前で息を入れる。ここでメジロパーマーに追いつかれてもいい。追いつかれれば掛かるだろうが、ここなら掛かってもなんの問題もない。
掛かるに至るほどの焦燥と闘走心。それらを逆用して、着火剤にする。
――――完璧な作戦。どこにもなんの穴もない。
(出力87%。ミホノブルボン、加速開始)
やや身をかがめて、動く。思っきり斜めに、そして高速で。
(きたー!)
心の中で悲鳴を漏らすメジロパーマーだが、これ以上の加速はできない。
メジロ家のウマ娘であればこその、ステイヤーとしての天稟。長く良い脚を使い、トップスピードを持続できる。そういう才能を、彼女は確かに受け継いだ。
だが、メジロ家のウマ娘は一瞬の切れ味に欠ける傾向があった。長距離で長く持続する脚を使って差し切る様はまさに横綱相撲であり、どすこいですわ!と長く力強いロングスパートで押し切る。
ミホノブルボンの本質はスプリンターである。
といってもスプリンター並の速度を出せるわけではない。彼女が走っている距離が、それを許さない。スプリンターの速度を出すには、スタミナの全てを燃やし尽くす必要がある。
だからこれまでも、ミホノブルボンはスプリンターとしての天稟を活かして中距離ウマ娘の中で上位クラスの速度を出すに留まっていた。
しかし今回、ある意味で吹っ切れているミホノブルボンは中距離ウマ娘でも最上位の――――シンボリルドルフ・トウカイテイオークラスの速度を見せた。
差は、縮まる。縦の差、横の差。徐々に徐々に、標的を設定されたミサイルのように迫ってくる。
ミホノブルボンがメジロパーマーの2.1バ身前に着弾した、3秒前。
その加速を見て、動き出しかけたウマ娘がいた。トウカイテイオーである。
――――仕掛けた!? でも早い!
追従しかける。トウカイテイオーの前はウマ娘たちがずらりと並んで垂れている。彼女たちはもういよいよ疲弊してきて、もはやどう転んでも脅威にはならない。
そんな中で、トウカイテイオーは大外を見ていた。前に向けた視線を左に向けて、ミホノブルボンを見ていた。だから、気づいた。その加速に。
だが、わからないことがある。それはつまり、ミホノブルボンはどうやって勝とうとしているのか、である。
彼女には豊富なスタミナがある。だがそれでも、あの速度を維持することはできない。
――――まだ、まだだ! まだ我慢する!
トウカイテイオーは、脚を溜め続けている。距離は離れているし、ミホノブルボンの速度にはこのままゴールしてしまうのではないかと思わせるほどの速さがある。
――――限界、ギリギリまで待つ
待つ。待つ。待つ。ミホノブルボンが下り坂に差し掛かって、降り始めた、瞬間。
スパイラルカーブを曲がり切り、緩い下り坂。
この緩い下り坂であれば、脚が保つ。ライスシャワーのように、淀の坂を駆け下ることはできないがこの中山の内周り、緩い坂であれば。
「――――さぁ、いくぞぉ!」
自分を鼓舞するように呟いて、トウカイテイオーは大外に出た。
次回、決着。
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